即堕ちワード
長時間にわたり話をしていたせいか神社を出るともう日が暮れかけていた。
マコちゃんと並んで家路への道を歩く。しばし無言だった彼女が口を開く。
「ワンコちゃんと何を話してたんですか」
正直に話してもいいが、また信用されないだろうし親族中に頭がおかしくなったと吹聴されても困る。
「大した話はしてないよ。世間話ってやつぅ。」
我ながら嘘が下手くそだが仕方ない。
「ふーん」
これっぽっちも信用してないといった視線を感じる。
「おじさんって小さい子が好きなんですか」
は?何をどうしたらそういう発想に至るんだ。突拍子がないのはソンナさんへのビンタだけにしてほしい。
「なんか出てきたら仲良さそうにしてるし…」
あれが仲良く見えるのか。新興宗教の教祖様と縋るしかない信者のような関係だ。教祖というか巫女だけど。
幼児性愛好者と思われるのも不快なので一応誤解は解いとくか。
「いや別にロリコンじゃないし!大きいの好きだし!」
なんかこれはこれで不味い言い方になったような。
マコちゃんは少し前に出てこちらを振り返る。錆を含んだトタンのように赫い逆光が目に入り、その表情はハッキリとわからない。
「やっぱりおじさんは相変わらず変態ですね。」
少し笑顔に見えたのは気のせいだろうか。
朝目覚めた家に着く。こんな家だったかな。落ち着いて見てなかったので覚えていない。マコちゃんも自分の家に帰るらしい。
「じゃあ帰りますね。おじさんバイバイ。」
そのおじさんって言うのやめてくんないかなあ。JCの心が抉られる二人称に対して文句がつい口をついてしまった。慌てて、従兄だし。と取り繕う。
「急にどうしたんですか。じゃあ昔みたいにジュリヤさんて呼びましょうか。」
ニヤニヤしながら言うマコちゃん。
ジュリヤ?偶然にも私の元の名前に似ている響きだ。
「樹 利也を音読みしてジュリヤです。忘れたんですか。頭の外側だけじゃなくも内側も心配になる薄さですね。」
隙を見せると煽ってくるなこいつ。
ここまできたならと発音しにくいだろうからジュリアと呼んでくれと頼む。
「発音しにくいですか?まあ何でもいいですよ。」
本名を呼ばれる嬉しさを感じながら別れを告げる。
家に入り二階へ上がる。今日は余りにも色々なことがありすぎた。頭の中身を整理する時間が必要だ。
一刻も早くあのゲームを調べたい気持ちもあったが、まずは部屋の中をよく探索して樹 利也の情報を得なければならない。しばらくこのおっさんになり切らなければならないのだ。
3時間ほど部屋を探し回り、ある程度の個人情報を得ることができた。仕事が在宅ワークなのは助かったが明日からどうしたものか。まあなるようになるか。
そういえば夜になったらソンナさんのゲーム仲間に連絡しろと言っていたな。
ベッドの上に無造作に置かれたスマホを開く。指紋認証で開くことができた。助かった。
連絡先のメモに書かれた番号に電話を掛ける。3コールほどしたのち相手が出た。
「もしもし。誰ですかー。」
やたらとでかい声だな。ソンナさんからの紹介だと伝える。
「あーなるほど。しかし私になにをしろってんですかね。戦争で忙しいんですよ。」
ごもっともだがゲームに詳しい彼女は貴重な情報源だ。
「もういいですか。切りますよー。」
取り付く島もない。だが私はこう言えと教えられた言葉がある。
「鰻食べたくないですか。おごりますよ。」
「あ、行きます。ありがとうございます。」
こいつちょろいな。明日会う約束を取り付けることができた。