二日酔いの翌日
「あたまいたー…」
昨日も飲みすぎた。森口 尊奈は神主の装束に着替えながら二日酔いが要因であろう頭痛に顔をゆがめた。毎度のことながら集会があると飲みすぎてしまう。
少女と見まごう容姿ではあるが飲酒が法的に許される年齢になってから幾星霜である。
いい加減しっかりしなければならない。と思いながら記憶をなくしてしまうのだ。
今日はそれほど忙しくないはずだ、と逡巡しつつ錆びたギアのように回転が鈍い頭で予定を思い出す。
なにやら最近よく神社に訪れる悪戯娘が従兄を連れてくると言っていたな。彼女ときたらお酒の席で介抱してくれるのはいいのだが、いつも変なコスプレを強要してくる困った子だ。断れない私も私だが。
あの少女—四條 眞子ときたら本当に遠慮がない。
緩やかながら正常に動き出した脳に元気な声が届いてきた。
『ソンナさーん』
噂をすればマコちゃんの声だ。
拝殿から境内へと声のする方へ向かうと隣にいる声の主とは似ても似つかない中年男性が私を驚くような表情で見つめている。また変わった人を連れて来たな…と耽る間もなく彼は叫んで近寄ってきた。
「あーし!あんたあーしじゃん!」
こちらを指さしながら意味不明の言動を発しつつギャルのような一人称で叫ぶ中年男性に畏怖を覚える。
「あーしの身体返してよ!」
なにいってだこいつ。
一瞬警察を呼ぶか悩んだが逆上されても困る。ここは落ち着かせて話を聞こう。
「意味は分かりませんがここでは何ですので奥へどうぞ。」
マコちゃんに笑顔で静かにしろと脅された男性は渋々といった表情ながらも私の後ろを付いてきた。