3. 17年間
大悟は王都から南西に150km程行ったところにあるナント村、そこの村長の子供に転生していた。
ナント村は100人ほどの小さな集落で、狩りと農業で生計を立てている普通の村であった。
(ふむ、喋れないな。)
大悟はベビーベッドの中にいた。
喋ることもできなければ、移動することもできない。
だが、考えることはできる。
(とりあえず、この世界の事を知る必要があるな。
それと戦闘方法。魔法、体術、剣術あたりを調べたいところなんだが……これはさすがに無理だな。
喋ることも移動することもできないんだから。
仕方ない、当分は人間観察でもして情報を集めるか。)
大悟は、ひたすらと大人達の話を揺籠の中で聞いていた。
そうして1年が経過する。
結局、この世界の情報を得る事はできなかった。
(まぁー幼児の前で世界情勢とか喋るわけないか。
けど、いい情報もあった。
どうやらこの家には沢山の本が置いてある部屋があるらしい。
とりあえず夜にでも忍び込んで色々と調べさせてもらうとしよう。
やっと立って歩けるようになったし。)
皆が寝静まった夜、大悟は一人書庫にいた。
(さて、どうするか……いいや、上から適当に読んでいこう)
この異世界は日本とは違う言語や文字が使われている。
しかし、何も問題はない。
大悟には転生する時に貰った能力――全適応能力――がある。これによって、この世界の言語や文字を理解することが出来た。
(この棚にある本は、概ね読み終わったな。)
大悟は深夜、毎日のようにこの部屋に忍び込んで本を読み漁っていた。
そのかわりに昼は熟睡を。
自分が幼児だったこともあり、日中ずっと寝てても誰1人として疑う者はいなかった。
幼児バンザイ!
とりあえず今やる事は決まった。
それは、5歳までに魔力量を上げまくること。
この世界の魔力の量や威力の上限値は、5歳までに決まるらしい。
そして、0歳〜5歳までの間には成長期ボーナスと呼ばれる経験値を10倍にするものが存在する。
(ゲームでもあったな。
経験値2倍期間とか。)
しかし、この異世界ではその成長期ボーナスはあってないようなものであった。
なぜなら、魔力を高める特訓は0~5歳児に出来るわけもなく、基本的には生まれ持った魔力の量や強さを5歳の時に測っているだけだった。
だが、当然俺には出来る。イェイ!
(え? 俺には『無限上昇』があるから上限値とか関係ないだろうって?
確かに、上限値は無限に上がるから気にしなくてもいいと思う。
だが、10倍ボーナスは無視できない。
元ゲーマーとしてこのイベントを無視する事はできないのだ。
それに俺にはリリスから貰った『経験値100~1000倍』がある。
ということは取得経験値が10ptだった場合、10×100=1000pt(Lv1時、経験値UPは100倍)になり、そこからさらに成長期ボーナス10倍、1000×10=10000pt。取得経験値10000pt
つまり今現在、Lv1の俺には1000倍の倍率が掛かっていることになる。
笑いが止まらんな。)
(とりあえず計画としては3歳までに魔法系を極め、そこから剣術、体術の特訓ができていれば申し分ない。
ぶっ飛んだことを言っているかも知れないが、こういうのは高く設定した方がいいだろう。時間は限られてるんだし。)
ちなみに、大悟のいた国では10歳になると学校に通う権利を持つことができ(通う義務は発生しない)、15歳で冒険者ギルド、商業ギルドに登録することができた。
登録カードがあれば他の町や国に入る時に、身分証として提示することができる。
つまり、魔王討伐の旅をすることが出来るのは早くても15歳から。
(マジかよ。俺の予定では5歳ぐらいで冒険者になって、なんやかんやで10歳ぐらいで魔王討伐だったのに。
しゃーない、それまで適当に鍛えまくるか。)
……そうして月日が経ち、俺は15歳になっていた。
結局、魔法系統の特訓は極めるまではいかず、4歳の時に一区切り付け、剣術の特訓を始めた。
剣術の特訓はスムーズに進んだ。
魔法系を鍛えていたことにより、身体強化や回復魔法を上手く使い、夜間にバレないように外に出て鍛えまくった。
その時、利用させて貰ったのが魔物だ。
コイツらは良い練習相手になった。
レベルも経験値100倍と成長期ボーナス10倍のお陰で恐ろしいほど上がっていった。
ちなみに5歳になると教会で魔力量をチェックされるが、隠蔽系の魔法を上手く使い騙し切った。
騒がれても面倒だ。
そして15歳になる時には魔法系統、剣術、体術は、かなりのモノになっていた。
そう、魔王を討伐しちゃうぐらいには……。
学校はどうしたかって? もちろん行った。
召喚術や錬金術など、色々なことを学べたし楽しかった。
この辺のことはその内話すとしよう。
15歳になった俺はついに冒険者になった。
その後は、まぁー魔王討伐の旅に出るわけだが特にこれと言って何もなかった……わけではないが、これも追々話していこうと思う。
とにかく俺は冒険者になって2年後の17歳の時に魔王と対峙し、見事魔王討伐を成し遂げ最初の場面に戻るのだった。
くそぉ、結局17年もかかってしまった。