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第十六話

今日は早めに投稿

第十六話


大軍勢の横に現れたたった一騎の騎兵。

普段なら気づくはずもない小さな動きだが、その姿はなぜかその場にいた全員の視線を集めた。


白馬の上には、白い甲冑を着込んだ兵士がまたがり、同じく純白の旗を振り、戦場を駆け抜けていく。

その後ろに赤いマントを身につけた十騎ばかりの騎馬が続き、さらに数百の兵士が戦場に現れた。


「なんだあれは!」

旗を振る純白の騎士に続いて突如あらわれた軍勢が、魔王軍を横撃。布を切り裂くように蹴散らしていく。

あれほど強力な魔王軍が、自らよけるように切り裂かれていく様は、とても信じられない光景だった。


「隊長、あの旗は!」

先頭の騎士が持つ純白の旗、そこには金の刺繍が施された鈴蘭の花弁が煌めく。

その旗印を掲げる部隊は、たった一つしかない。

「戦場を駆ける戦乙女。救国の聖女ロメリアが率いる。ロメリア騎士団か!」

安堵と感動に涙が流れた。


「来て、来てくれたのか!」

盗賊化した魔王軍に、辺境の地は好き放題食い散らかされていた。

その中にあって、カシュー地方のロメリア嬢率いるロメリア騎士団だけは、魔王軍の敗残兵を打ち破り、一歩も寄せ付けなかった。


しかもロメリア騎士団は自領にとどまることなく、魔王軍の脅威におびえる辺境を転戦し、連勝に継ぐ連勝。辺境を魔王軍の脅威から解放して回った。

その戦場を駆ける勇ましき姿から、戦乙女、救国の聖女と呼ばれ、崇められている。


初め聞いたときはいささか誇大すぎると思っていたが、純白の鎧を身にまとい、旗を持ち戦場を駆けるその姿は、まさに戦乙女。荒れ果てたこの国を救う聖女の姿に他ならなかった。

その証拠に、黒い魔王軍の軍勢が、潮が引いていくかのように切り裂かれていくではないか。


まるで神話の頁をめくっているかのような光景に、胸がうちふるえたが、同時にあまりにも危うすぎた。

指揮官が最前線で旗を振るうなど、危険すぎる。これではいい的だ。後ろを走っている騎士は一体何をしている! 今すぐ聖女を守れ!


「危ない」

兵の一人が思わず声を上げた。指を示す方向には魔王軍の弓兵部隊。百近い部隊が矢をつがえ弓を引き絞り、空に向けて構えている。狙うはあまりにも美しく無防備な戦乙女。


百本の矢が放たれ、黒い雨となって聖女に降り注ぐ。

無数の矢に打ち抜かれ、無惨な聖女の姿が脳裏に見えた。


「ああっ」

誰もが絶望しかけたそのとき、奇跡が起きた。

降り注いだ矢が突然方向を変え、まるで聖女を避ける様に別れていく。

百本に及ぶ矢は一本も当たることはなく、聖女には傷一つ無い。


「奇跡だ。本物の聖女だ」

感涙に前が見えなかった。

この光景を見ていた者全てが同じ思いに満たされた。


聖女の後方を走っていた騎士達がようやく聖女に追いつき、周囲を守るように取り囲む。

それぞれが槍を持ち、魔王軍を切り裂いていくが、その先には防御陣形を整えた重装歩兵が待ちかまえていた。

さらに別の場所では騎馬の一群が後方に回り込もうとしていた。


「いけない!」

重装歩兵で足を止め、騎馬部隊が後方の部隊との道を裁ち切り、殲滅する構えだ。

腐っても魔王軍は歴戦の軍隊。突然の混乱にも即座に対応して反撃を繰り出してくる。

このままでは包囲されて殲滅されてしまう。

通常ならば歩兵部隊との衝突を避け、方向を変えるべきだが、聖女を守る騎士達はそのまま直進していく。


「周りが見えていないのか?」

もちろん上から戦場を俯瞰している私たちと違い、戦地のただ中にいる彼らに、戦場全体の動きを把握しろなど無理な話だ。しかし防御を固めた重装歩兵に、たった十数騎で突撃するなど無謀に過ぎる。


包囲され、すりつぶされる騎士達の姿が目に浮かんだが、突撃する騎士達の槍が振るわれた瞬間、隙間なく盾を並べていた魔王軍の重装歩兵の隊列が一撃で粉砕され、敵兵が枯れ木のように吹き飛ばされていった。


「な、何だ。あの騎士たちは」

魔王軍の重装歩兵と言えば、幾多の敵の攻撃を跳ね返し鉄壁の防御力を誇る精鋭部隊だ。だが十人ほどの騎士が槍を振るうたびに、紙のように倒されていく。


特に先頭を走る二人の騎士の働きがすさまじい。

槍に赤い飾り布をつける騎士はどれほどの剛力の持ち主なのか、一度槍を振り抜くと、数人の敵兵をなぎ倒している。その隣で戦う蒼い飾り布をつけた騎士の槍捌きは、まさに神速。一呼吸で一体何度槍を繰り出しているのか、精鋭で知られる重装歩兵が何も出来ずに倒されていく。

続く他の騎士達もほぼ一撃で敵を屠り、完全防御を強いた歩兵部隊をあっという間に殲滅していく。


「そうか、あれが噂に聞く、ロメリア二十騎士か」

ロメリア騎士団が、まだ小さな一部隊でしかなかった頃、聖女ロメリアが自ら率いて戦った最初の二十人。

ロメリアに絶対の忠誠を誓い、その力は一騎当千。あらゆる戦局を打ち破り、戦乙女ロメリアを守り抜く最強の騎士達。


「するとあの二人が炎の騎士アルビオンと風の騎士レイヴァンか」

ロメリア二十騎士の中にあって、最強の名を分け合う二人だ。

過剰な評価だと思っていたが、敵を薙ぎ倒すその姿は、神話の英雄のごとく神々しい。


瞬く間に重装歩兵を壊滅させたが、背後を狙う騎馬隊は健在。背後をつき、後方とのつながりを断とうとしている。

このままでは孤立してつぶされてしまう。

そのとき、炎の騎士アルビオンの槍から極大の火炎がほとばしった。

アルビオンはその通り名の通り、炎の魔法をよく使う。一瞬にして巨大な炎を生み出し、魔王軍を焼き殺していく。

その隣で風の騎士レイヴァンが、槍を頭上で大きく旋回させる。

旋回する槍にあわせて、風が渦を巻き巨大なうねりとなり、突如戦場につむじ風が、いや小さな竜巻が発生した。


竜巻と猛火が引き寄せられるように近づき、互いを飲み込むと、天をも焦がす巨大な火柱と変貌した。

突如膨大な熱量が戦場に生まれ、巨大な熱波は遠く離れたポルヴィックの城壁さえにも届き、熱気が我々の頬を撫でる。


「なんて炎だ」

まるで竜のごとき炎の竜巻は、戦場を我が物顔で暴れまわり、後方を断とうとしていた騎馬部隊を飲み込みなお前進を止めない。

あれほど恐ろしかった魔王軍が、一気に半壊していく。


普通これだけやられれば、兵達は勝手に壊走を始めるものだが、歴戦の魔王軍は崩れない。それぞれの部隊が持ち直し、内部に入り込んできたロメリア騎士団を包囲し、押しつぶそうとする。


「いかん」

ロメリア騎士団は千にも満たない規模だという。アルビオンとレイヴァンの二人であっても、あれほどの大魔法は連発できるものではない。

いくら二十騎士が強くとも、数には勝てない。


「我々も出るぞ。彼らを死なせてはならない」

「しかし隊長」

兵は止めようとするが、例え百人でも出来ることはあるはずだ。少なくとも城門を開け、彼らを中に引き入れなければならない。救援を求めた我々が、助けに来てくれたものを見捨ててはいけない。


とにかく打って出ようとすると、森からさらに新たな兵が現れた。

その数千。だが装備が皆違う兵士ばかりだった。旗持ちがそれぞれ違う旗を振る。どれも見覚えのあるものばかりだ。


「あれは交易都市ザパン。あっちは海上都市パルマ。北の辺境ノルトモアの旗もあるぞ」

どれも辺境の、魔王軍の脅威に脅かされていたところばかりだった。

「ロメリア騎士団はこの全てを救ってきたのか」

一つ一つは少ないが、ロメリア騎士団に助けられた各地の辺境の兵が集まっている。

 まるで辺境の軍のすべてが集まる、見本市のような光景だった。


 はたと気づく。

「そうだ、こうしてはおれん、我々も出るぞ! 者ども、続け!」

武器を持ち、兵を叱咤した。

「で、ですが」

「馬鹿者、これだけの領地の兵が、我々を助けるために来てくれているんだ。例え少数でも打って出なければ、ポルヴィックの名を汚すことになる」

気づいて兵士たちが頷く。

「数名でも構わん。我々もあの戦列に加わるのだ。出るぞ」

武器を持ち、急いで城壁を降りた。


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