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第十二話

今日は二作投稿

だがその原因は、一話が長くなって三つに分かれただけだったりする


 第十二話



私がとりだした木彫りの聖印を見るなり、ノーテ司祭は顔色を変えて問いただした。

「こ、これをどこで?」

「王子と旅をしている時に、魔王軍に襲われた村々を助けて回る、遍歴の癒し手と出会いました。彼は無償で多くの人を癒して回っていましたが、魔王軍に襲われた村を見て、逃げ遅れた民衆を守るために立ち向かい、あえなく……」

彼の行動は、まさに聖人にふさわしいものだった。

あの人ほど素晴らしい人に、私はあったことがない。


「お知合いですか?」

「そ、その者は、私の弟子です。ああ、なんということだ。やはり手元から離すべきではなかった。私のようなおいぼれが生き残り、若鳥が命を散らせてしまうなど」

ノーテ司祭は嗚咽とともに涙をこぼした。二人がどれほど深い結びつきであったのか、泣き声を聞いただけで胸が締め付けられる思いだった。


「彼とは旅の最中に出会い、少し一緒に旅をしました」

ノーテ司祭が落ち着くのを待って、私は彼との出会いを話した。

その時にはもうエリザベート達が仲間になっており、癒しの技は不要であったが、行く先が同じだったため、行動を共にした。


「その時に、彼はいろんな話をしてくれました。尊敬する貴方のことも」

旅の最中に聞かせてくれる話や知識は興味深く、私はすぐに彼のことが好きになった。

ほかの皆は退屈して聞いていなかったが、彼の話は斬新で野心に満ち、可能性の輝きを帯びていた。


「旅をしている間、彼は多くの人を助け、そして私も助けてくれました」

ある街に寄った時のことだ。エリザベートにお使いを頼まれ、仕方なく言われたものを購入して宿に戻ると、王子たちはすでに旅立った後だった。

エリザベートたちの画策で、疎ましい私を置き去りにしようとしたのだろう。


途方に暮れていると、事情を知った彼は私と一緒に王子たちを追いかけてくれた。

王子に追いつくまで、彼と旅をした数日間は、私の人生にとって重要な数日となった。

もしこの時の期間がもう少し長ければ、あるいは王子に追いつけなければ、私たちの未来は今とはもっと違ったものになっているはずだった。


当時すでに私と王子の間には距離ができていたし、理想を語り人々を助ける彼に私は魅かれていた。

だが置き去りにした私に後ろ髪をひかれていたのか、それとも単に冒険がうまく進まなかったのか、王子たちには数日で追いついてしまい、彼との旅はそこで終わってしまった。


「彼は素晴らしい人でした。私の生き方を変えてしまうほどに」

彼と別れるときは本当に心揺れた。このまま王子と別れ、彼についていこうかと考えたが、魔王を倒すことの重大さを話し、説得したのも彼だ。


別れの夜、彼は私にだけ胸の内を語り、師から教えられた思想を口にした。

彼が語った言葉は私の固定観念を大きく揺さぶり、新たなひらめきを与えてくれた。

私たちは互いの胸に思いを秘めながらも、それぞれの旅をつづけようと別れた。


だがこの時、私たちは別れるべきではなかった。


「私たちと別れた矢先に、彼の向かった先で魔王軍による大規模な戦闘が起きました。急いで救援に向かったのですが……」

渋る王子たちを説得し、救援に向かった先にあったのは、滅ぼされた町や村。そして積み上げられ、なぶられた死体。その中に彼の遺体を見つけた時、私は半身をもがれたような痛みと喪失を覚えた。

今なおその光景は目に焼き付き、思い出すだけで痛みと悲しみがこみあげてくる。


「私は死んだ彼の遺志を受け継ぐつもりです。彼の代わりに人々を救いたい。ノーテ様。私にどうかお力をお貸しください」

「……わかりました、あの者が信じたあなたになら、協力を惜しみません」

ノーテ司祭はうなずいてくれた。


「まずは癒し手をお貸しください。私は手始めにカシュー地方から、魔物と魔王軍を追い出すつもりです。そのためには強力な軍隊と、負傷者を治療する癒し手がどうしても必要なのです」

戦争に負傷者はつきもの。強力な癒し手は何人いても足りない。


「ですが、ここもあちこちから集まる怪我人で手が一杯です」

「わかっています。全員とは申しません。現段階では一人二人で構いません。ただし、今後、多くの癒し手が必要になります。ノーテ司祭には癒し手の育成に努めていただきたい」

 ノーテ司祭はすでに癒し手の育成の手法を確立しており。数か月から半年の訓練で結果を出している。

もちろん一人前となるにはまだまだ時間がかかるだろうが、それは回数を重ねればいいだけのこと。

そして戦闘が起きれば、練習相手には事欠かない。


「わかりました、しかし、教会に対してはどうするつもりですか? あまり派手にやると、それこそ教会を敵に回してしまいますよ」

「わかっています。しかし教会に対して、苦々しい思いをしているのは、何も私たちだけではありませんよ」

王都にいる貴族や司教たちはわからないだろうが、地方や辺境に行けば教会に批判的な人物は多い。


癒し手は地方に飛ばされることを恥と考え、腕がいい癒し手ほどいつかない。必然辺境では癒し手の数が足りず困っているが、教会はそれでも当然のように寄付金を要求してくる。

商人たちも、何かと寄付を要求してくる教会をよく思ってはいない。


さらに教会を支える信者や民衆も、教会には疑念を抱いている。

魔物や魔王軍の被害を食い止めるため、国中で若い男が兵役に駆り出されていた。

だが国のために戦い、重傷を負った者たちにすら教会は金を要求してくる。


教会から独立して新派を作る、などと言えば問題になるが、現状の在り方を少し変えるべきだという主張なら、彼らの支持を得られるはずだ。

そのためにはまず行動することが大事。行動し結果を残す。

強力な軍隊を作り上げ、魔物や魔王軍を一掃し、人々を救って回る。それが出来て初めて国民はついてきてくれるだろう。


「あと……じつはもう一つお願いがあるのですが……」

私はここに来た本当の目的を切り出すことにした。これを言うのは少し恥ずかしいのだが、どうしても聞いておきたい。

「改まって聞かれるとなんだか怖いですね、いったい何ですか? 私にできることでしたら、援助は惜しみませんが」

「その……彼のことを、ここでどんな風に過ごしていたのか、少し教えてもらえませんか?」

私が視線をそらしながら尋ねると、ノーテ司祭は破顔した。

「ええ、いいですよ。ただし、私にもあの者の話を教えてください」

「もちろん。いくらでも」

そうして夜遅くまで、私と司祭は語り明かし、話題が尽きることはなかった。



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