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白寿堂~アルバイト先にはつくもがみがいる!?~  作者: exa(疋田あたる)
灰の章

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6、大事なことはメモメモ

「このように少々個性的ではありますが、この白寿堂があり続けられるのは、健太郎さんの尽力によるところがおおきいのですよ」


 健太郎をフォローするように珠串が言えば、健太郎はうなだれていた頭を持ち上げた。

 

「よつはさんにお渡ししているお給金も、健太郎さんが買い求めてきた古道具を売ることで得ていますから」


 珠串の説明で、よつはは健太郎の認識を改めた。変なお兄ちゃんから縁の下の力持ちに、彼のイメージがころりと変わった。

 しかしそこで、よつはは首をかしげる。


「それにしては、扱いが……」


 雑、と言ってしまっていいものか、と口をにごしたよつはに健太郎はうれしそうに近寄って、肩に腕をまわしてくる。腕のなかの灰色のかたまりはよつはの腹に鼻先を押し付けて、ちいさくなって震えている。


「よつはちゃんもそう思うだろー? おれ、ここの家のためにめちゃめちゃ頑張ってるんだよ。なのに肝心のつくもがみはおれに優しくしてくれなくてさあ。ひどいよねー」


 健太郎の腕に囲われたよつはは身動きが取れず、どこかでがったん! と音がしてもそちらを見ることができない。

 そんなよつはを見かねてか、珠串がカップを片手にふたりの真後ろへとやってきた。いつのまに用意したのだろう。健太郎に差し出したそのカップからは、湯気が上がっている。


「その遠慮のなさがいけないのだと、何度も申し上げているでしょう」


 ため息をつきつつ差し出されたカップに、健太郎が目を輝かせて手を伸ばす。おかげで解放されたよつはは、こっそり健太郎から距離を取った。


「うわあ、これおれの? まじで? じいちゃんがいなくなってから、はじめてのおもてなし~!」


 珠串の諫言を聞いているのかいないのか、嬉々としてカップに口をつけた健太郎が熱い、うまいとひとりで騒ぐ。

 それを横目に珠串は困ったように笑い、よつはの腕の間から半分だけ顔をのぞかせるシバイヌに目をやった。


「この調子でここの主に接したものだから、初対面以降、会ってもらえないのですよ。よつはさんくらい思慮深くあっていただければそのような心配もないので、こちらも警戒せずにすむのですが」


 なるほど、はじめの辛辣な態度はそのためか、とよつはは納得しかけて、ひっかかりを覚える。

 健太郎を警戒するということは、店主が近々帰ってくる予定があるのだろうか。それとも、すでにこの店のどこかにいるのだろうか。

 けれどよつはが浮かんだ疑問を口にするより前に、健太郎が口を開く。


「そうなんだよ。おれ、初めて会えたときにうれしくて抱き着いちゃったんだけどさ。それ以来、姿も見せてくれなくなっちゃって。次に会えたらあのときのこと謝って、あらためて友だちになりたいんだけどなあ」


 カップ片手にぼやいた健太郎は、言ってからはっとした顔でよつはに向き直り、ずいっと近寄ってくる。その勢いに驚いたのか、よつはの腕のなかのシバイヌがさっと顔をかくす。


「そうだ! よつはちゃんにも謝らなきゃいけないんだ」


 突然の大きな声にびくりと震える灰色の毛皮をなでながら、よつはは首をかしげる。

 なんのことだろうか、と考える間もなく健太郎の謝罪がはじまる。

 

「ごめん、おれ、よつはちゃんにわざと嫌な言い方いっぱいした。言い訳になるけど、つくもがみに成ったほどの道具だと知ると、とたんに何が何でも自分のものにしようとする業突く張りがいてね。そういうやつほど道具を大切にしないから、きみのこともちょっと警戒してた」


「業突く張り……。それは、お仕事の関係で?」


 申し訳なさそうに言う健太郎だが、よつはが食いついたのは違うところだった。


「え? うん、そうだよ」


「詳しく、お願いします」


 すちゃっ、と愛用のペンを取り出し、メモ帳を構えるよつはに健太郎は戸惑いを見せたが、じっと待っているよつはを見て、語りだす。


「古物商として師匠について回ってるときにね、たまにいるんだよ。とにかく珍しい物好きで、いくらでも出すから、つくもがみの憑いてる物を自分のものにしよう、ってやつが」


 そのときのことを思い出しているのだろう、健太郎が吐き捨てるように言う。


「そういうやつは、だいたい品物をちゃんと見ない。見ても物自体に興味がないから扱いが雑だったり、手に入れたら満足してそれっきり見向きもせず仕舞い込んでる、なんてやつがいるんだ」


 そこまで言って、健太郎は表情をゆるめる。 


「もちろん、そんなやつばかりじゃないよ。珍しい物好きだけど、手に入れた物を大切にしてくれるひとだってちゃんといるからね」


 ふむふむ、とメモを取っていたよつはは、健太郎の話がひと段落したところではい、と手をあげた。


「物を大切にしてくれるひとと、そうでないひとの見分け方は、ありますか」


「はい、あります」


 うなずく健太郎に、よつははさっとペンを構える。


「その道具の経歴を話してみるんだ。だれが作ったとか、偉い人が使ったとかじゃないよ。前の持ち主はこんなふうに大切にしていた、とか。窓辺に置かれるのが好きだけど、週に一回は飲み物をそそがないと機嫌を損ねる、だとか」


 ふむう、とメモを取る手をとめて考えるよつはに、健太郎はにっこり笑う。 


「要は、友だちをひとに紹介するみたいなもんだね。それを真剣に聞いてくれるひとは、道具にもやさしかったよ」


 ほほう、とうなずいたよつはがせっせと手を動かす間にも健太郎は続ける。


「でも、これはおれのやり方だから。参考程度にして、よつはちゃんはよつはちゃんのやり方を探してみて。つくもがみのこと大切にしてくれるきみなら、きっとできるから」


 まっすぐに目を見て言われたことばに、よつはは手を止めた。できるだろうか。わからない。自信はないけれど、そうなりたい。

 健太郎の目を見返して、よつははこっくりうなずいた。

 よつはに体を預けてくれているイヌの姿をとったつくもがみの背をそっとなでながら、がんばろう、と思いを強くする。


 そんなふたりを珠串がおだやかに見守っていた、そのとき。

 がたーん! と大きな物音がして、何者かがよつはたちの前に駆けこんできた。

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