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1、募集要項「おとなしくもの静かなひと」


「明るく元気なかた……和気あいあいとした職場……ひとと話すのが得意なかた……ひと付きあいの好きなかた……はあ」


 掲示板に貼られた紙を端から見ていた目を止めて、ため息をついた。

 接客、レジ打ち、電話応対に家庭教師。さまざまな職種のアルバイト募集チラシが並ぶけれど、そのどれもに書かれている募集要項は、似たような文言ばかり。


 なるほど、接客業ならば明るいひとのほうが向いているだろう。ギスギスした職場で働きたいひとはいないのも理解できる。電話口に立つのに喋らないわけにはいかないし、家庭教師が生徒に気後れしていてはしごとにならない。

 それはわかる。

 わかるけれど、困る。


 仕事を探しているひとすべてが明るいわけではないし、おしゃべりが好きだったりひと付きあいが得意なわけではない。はずだ。

 現にわたしはそれらの募集要項にそぐわない、友人が気を使って評するところによれば、おとなしくてもの静かな人間で。

 けれど仕送りと奨学金に頼りきるのはためらわれるから、仕事を求めているわけで。

 短期のバイトならば人間性もそこまで問われないだろうが、

金銭がいただけるのは一時的なものだから望ましくない。

 力仕事は得意ではないし、アルバイトで精根尽き果ててしまっては、学業がおろそかになってしまうから避けたいところ。

 求めているのは長期雇用で力仕事ではなく、なおかつ朗らかさや話術を求められないアルバイト。

 

 こんなわがままな要望を叶える仕事はないものか、と大学の構内に設置された掲示板を隅から隅までじっくりと読んでいく。

 いつもは行動を共にする級友たちがいるため、じっくりと見ることができなかったものすべてに目を通していく。


 左上から読みはじめて、もうほとんど右下のはしっこ近くまで読んでしまった、そのとき。

 風もないのに、紙がぺらりと浮きあがった。ちょうど読んでいた紙が浮いたその下に、ちらりとなにかが見えた気がした。


「あれ、この紙……」


 なんとなく気になって貼られた紙に手を伸ばしたのは、たまたまあたりにひとっ子ひとりいなかったからだ。

 見るひとがいれば、掲示物を剥がそうとしていたなどと思われて余計な騒動になりかねない。それは望むところではない。

 けれど、いつもは行き交う学生でにぎわう構内の通路は、新学期最初の長期休暇であるゴールデンウィークを迎えた今日、掃き清められた参道のように静まりかえっている。

 だから、誰も見ていないからと、ついつい指を伸ばしたのだ。そしてめくった紙のしたに、その文字を見つけてしまったのだった。


『募集要項、おとなしくてもの静かなひと。連絡は白寿堂まで』

 

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