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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第4章 悲劇の寸法線
98/162

0-15 出会い、そして別れ

ーー前回のあらすじーー


 ミーシャを救うべく彼女の意識へ飛び込んだシンタローは、ジョージと一緒にミーシャの魂を探すものの、なかなか見つからなかった。


 そこでシンタローがかくれんぼの鬼として降参を告げると、そこに現れたのは懐かしい100エーカーの森の風景と、幼いミーシャであった。


どうやら彼女は現実世界に戻ることが怖かったのか、幼い頃の自分の殻を被って隠れていたらしい。


 『一緒に戻ろう』とどうにかミーシャを連れ出そうとするが、そこで彼女の口から告げられたのは彼がミーシャをいつも置き去りにしてしまうという、シンタローが全く気がついていなかった事実であった。


 深く後悔をしたシンタローは……もう二度とスカートめくりはしないと誓うのであった。

そして現実世界に戻って来たミーシャは、懲りずに機関銃をぶっ放していた……。



 弾薬の消費は機関銃の方が激しいですからキヌタニとしては困ったものでしょう。

弾薬の値段っていくら??と調べてみましたが、普通の弾であれば一発百円もしないそうです。


 ですがそれを何十発と撃っていくと……アイス何個分?となるので、やはりキヌタニとしては頭が痛いでしょう。


 読者の皆さんは物の値段を想像する時に○○が何個分という数え方をするなら『○○』に何を当てはめますか?


 野菜とか日用品を答える方がいらっしゃるでしょうが、最近何でもかんでも値上がりしているので、もっと価格の安定したもので例える方が多いですかね?


 間違ってもチ〇ルチョコで換算するのは止めた方がいいです。

何十個、何百個換算になって逆に想像がつかなくなりますから……。

ーーーーーーーーーー


「それからしばらく、楽しそうに機関銃を撃つミーシャを見て俺も使いたくなったんだよな……。」



シンタローはもう一度ミーシャの機関銃を持ち上げた。



「そんなことがあったなんてな……。お前たちの過去には驚かされるばかりだ。」


 チッダールタですら今晩は予想できなかった事実を次々に聞かされたようで、シンタローが喋っている間は口も挟まずにずっと黙りこんでいた。



「さっき言っていたね、『俺にはもうこれ(機関銃)を撃つ資格なんてない。』……あれはどういう意味なんだい?」



頃合いだと思ったのかフジモンがシンタローに疑問を投げかけた。



「うん、にーちゃんはどうして機関銃をつかうのをやめちゃったの?」



くーちゃんもシンタローの顔を見上げる。




「……やっぱ気になるよな。だったら……ジョージと別れた日の話まできっちりするか。」



出来れば思い出したくない。



でも、忘れることなんて絶対にできない。



絶対に、だ。



それはみんなだって同じはずだ。



「シンタロー……いや、お前だけじゃない。よしだくん、くじらん……私たちに話してくれ。そして、痛みを分かち合わせてくれないか?」



今まで聞いた中で一番優しいチッダールタの声だった。



「ありがとう、そう言ってくれるなら……すぅー……はぁー……じゃあ、最後まで話すとしよう。」



 シンタローは一度深呼吸をしてから再びジョージの話を始めた。

これは俺たちの仲間、ジョージにまつわる最後の話…………。




ーーーーーーーーーー


 ちょうど2年前くらいだったか……俺とヤムチャが駄菓子屋で朝飯を食べていた時のことだ。

突然、俺のポケベルに着信が来た。




「なんだ、我の助けが必要か?」


『いや、助けはいらないわ。おはようシンタロー、時間があるなら今日の昼頃に駄菓子屋まで来てくれないかな?』



 電話の主はジョージだった。

あいつときたら、この頃には突然に俺から中二病発言を振られてもひらりとかわせるようになっていた。



「ん?どうして我がそんなことをしなければならんのだ??」


『ちょっと大事な話があるんだ……。出来ればみんなにも集まって欲しい。だから俺と手分けしてみんなにも駄菓子屋に来るように電話してくれないかな?』



この時のジョージの声は何やら深刻そうだった。



「大事な話か……?ま、まあ……よく分からんが後でお礼をしろよ?」



俺はそれだけ言うと誰に電話をするかも言わず、一方的に通話を切った。





「おいヤムチャ!貴様は昼間ここで待機してるのだ!分かったな??」


「んあ??き、急にどうした??」



突然のことに奇声を上げてしまったヤムチャのポケベルが鳴った。



「コホン……もしもし?……ああ、ジョージか。おお……うん?大事な話か?分かった。……あ?シンタローか?奴ならここにいるぞ。……ああ、了解だ。じゃあ、後でな。」



ヤムチャは通話を切った。



「おいシンタロー。」



ヤムチャは俺の肩をポンと叩いた。



「な、なんだ??」


「人の話は最後まで聞きやがれー!!」


「いぎゃああああーーっ!!!」



 ヤムチャはその肩を叩いた手で乱暴にも俺の鎖骨を握りつぶした。

あれは………痛かったな。






 俺の肩が回復する頃には太陽は空のてっぺんまで昇りきっていた。

全員が駄菓子屋にやって来てアイスが行き渡ったところでジョージが切り出した。



「こんな昼間からわざわざ集めたりしてすまない。電話でも言ったけどみんなに大事な話があるんだ。」


「そんなに大事なの?別に晩ご飯の時でもいい気がするんだけど……?」



ミーシャは何やらいつもと違うジョージのことを怪しんでいた。



「夜まで待ってたらちょっと決心が揺らぎそうだったんだ。それに……、」



ジョージは振り向いた。



「キヌタニー、ポテチのおかわりちょうだい!」


「まだ駄菓子屋に来て20分しか経ってないのにもう3袋も食べたの!?もうこれ以上はダメだよ!」


「えぇー、まだ腹ペコだよー!」




「これはボールにも聞いて欲しい話なんだ。だからここで話そうと思ってね。」



ジョージは兄のような目付きでキヌタニとボールのやり取りを見ていた。



「それで、その大事な話っていうのは何だ?」


「悪魔軍に寝返らぬか、という話ならお断りだぞ!」



よしだくんと俺にそう言われると彼は俺のことを無視して一度深呼吸をした。



「みんなにはさ、家族がいないよね。……まあ、ここにいるみんなが家族みたいなものだけどさ。」



 ジョージは悲しそうな顔をしながらそう言った。

その表情は同情、というわけでは無さそうだった。



「っ??ま、まあ……そうだが……?」



ヤムチャは少し動揺しながら相づちを打った。



「そうだな……何て言えばいいのか。君たち……いでっ!!」



喋っている最中だったジョージの顔をポテチの袋が直撃した。




「あっ、ごめん!そっちにポテチが飛んでいっちゃった。」



キヌタニがノロノロとポテチ(ボールの主食)の袋を回収しに来た。



「大事な話の最中なんだよ、邪魔しないでくれないか?」



ジョージは珍しく少し怒ったようにポテチの袋をキヌタニに投げ返した。



「ご、ごめん、気を付けるよ。」



キヌタニは少しビビった様子で袋を受け取った。



「えーと、何だったっけ?そうそう、君たちの……ぐはっ!?」



今度はジョージの頭を何かが襲撃した。



「あわわ……売り物の鉄パイプが倒れちゃった!!み、みんなもとに戻すの手伝ってー!!」


「おいキヌタニ……てめえは何でいつもみんなの足を引っ張りやがるんだ……!?」



ヤムチャはキヌタニを泣く子もエアートラックスをしてしまいそうな形相で睨み付けた。



「ひっ!!!わ、わざとじゃないのに……。」



 キヌタニは怯えながらも頑張って倒れたパイプを元の位置に戻そうとしていた。

まあ、あいつ一人の力じゃ全く微動だにしなかったけどな。



「いってて……何だってこんなときに限って鉄パイプが降ってくるんだ……。駄菓子屋で話そうとしたのは失敗だったか?」


「違うわよ、キヌタニのいる場所で話そうとしたのが失敗だったんじゃない?」


「ま、まあ……仕方ないか。じゃ、じゃあ気を取り直して……。」



鉄パイプを持ち上げようとしているキヌタニを無視して全員ジョージの方に向き直った。





「おーい、そこに誰かいるのか?」



だが今度は建物の外から人の声がした。



「!?……聞き慣れねえ声だな。話の途中ですまねえがちょっと待っててくれや。」



ヤムチャは立ち上がると外の様子を見に行った。



「ヤムチャだけでは心許ないな、我も行くぞ!」



ついでに俺もヤムチャについていったな。






声の主は見知らぬ男だった。



「ああ、どうも。大人の人はいないかな?」



外にいたのは探検家のような3人組で、テントやら何やらと野営の道具をたくさん背負っていた。



「大人は……まあいるが、用件なら俺が……」


「いやヤムチャ、用件など聞くまでもあるまい!どうせ悪魔の……あがっ!?」



俺はヤムチャに駄菓子屋の中へと投げ返された。



「てめえは中で大人しくアイスでも食ってろや!……見苦しいとこをお見せしたな。……改めて用件なら俺が聞こうじゃねえか。」



ヤムチャは少し強めの口調で3人にそう言った。



「急に尋ねて申し訳ないね。我々は旅の途中なのだが思ったよりも森の中を進むのに時間がかかってしまってね……。」


「この辺りを歩いてきたってのか!?……そりゃなかなかやるじゃねえか!」


「しかしね、ちょっと食料がかなり少なくなってきてこの先足りなくなってしまいそうなんだ。……そこでだよ、ここのお店にある食料を分けて欲しいんだ。もちろんタダでとは言わないよ、お金は結構あるからそれなりの額をお支払しようじゃないか。」



3人のうちの1人はポケットから札束を取り出してこちらに見せびらかしてきた。



「別に俺たちゃお金なんざいらねえn……、」


「えっ?すごいたくさんお金持ってるんだね!それだけあれば店の品物もたくさん買えるよ!」



 ヤムチャが渋っていたところに『お金』という単語に反応したらしいキヌタニがのそのそ(・・・・)と店の外へ出て行った。



「さっきから会話が聞こえてきてたけど……ヤムチャ、別にいいじゃないか。困ってるなら分けてあげろって、ここらへんでのサバイバルはかなり大変なんだぞ??」



続いてジョージも店の外へ出て行った。



「んまあ……ジョージが言うんなら構わねえか。いいぜ、好きなだけ買ってけよ、……あまり日持ちしねえ物が多いかも知れねえけどな。」


「本当かい!?ありがとう!!ではありがたく買わせていただくとしよう!」



3人組は店の中へと入ってきた。




「えっ、お客さん!?……珍しいわね。」



ミーシャは珍獣を見る目で3人を見ていた。



「俺がここに来たときもかなり不審者扱いされたしな……。やっぱり来客なんて稀だよな……。」



よしだくんは自分がこの森に来たときのことを思い出していたようだ。



「ムムム……あ、怪しい奴らめ!我があいつらを見張っておくとしよう!!」



俺は駄菓子屋の中で3人の後ろをつけていった。



「まあ、シンタローはほっとくとしてだ……。ジョージ、話の続きを頼むぞ。」


「ああ、それなんだが……。何か邪魔が入りすぎて今日は話すべきじゃないと言われてる気がしてな……。悪いけど後日にするよ。」


「えーっ!せっかく集まったのに!!無駄足だったじゃない!」



ミーシャは少し怒り気味に駄菓子屋から去っていった。



「俺も見たいアニメがあったのにー!後でポテチ持ってきてよね!」



続いてボールもヤムチャに押されて自分の家の方に転がっていった。



「やれやれ……なあヤムチャ、せっかくなら一晩泊まってってもらわないか?」



よしだくんは突然そう提案した。



「よしだくん?まだ昼過ぎだし、ここで足止めするのも逆に迷惑かも知れねえぞ?」


「いや、ジョージがサバイバルするのも大変だと言ってたからな。1日くらいゆっくり休んでもらうのもいいかと思ったんだが……。」


「迷惑なものか、泊めてもらえるならば有り難い限りだ!……実際のところ、毎晩のように野生動物が我々のテントを襲ってくるからしっかり休息がとれてなくてね。」


「俺も経験があるから分かるぞ?何なら3日くらい休んでいったらどうだ?ここの住人たちはみんなユニークで面白いぞ??」


「いや、1日で十分だ。それなら二人とも、荷物を降ろして整理するぞ。」


「「了解。」」



3人は店の入り口に荷物を置いて、食料以外で足りないもののチェックを始めた。



「行動が早いっつーか……まあいいか。ジョージ、今夜の飯は多めに頼むぞ。」


「ああ、たくさん作った方が良さそうだな。彼らの相手は俺に任せとけって。」


「よし、じゃあ……シンタロー、俺たちはミーシャと今夜の食材を狩りに行くぞ。」


「ふむ……やはり怪しいものを持って……はっ!!な、なんだと?か、狩りなら行くぞ!」


「今の絶対に聞いてなかったよな……?」




俺たちは3人は猪を狩りまくり、ジョージが腕を奮って料理をして……みんなで晩飯を食べた。





俺たちは旅人の3人から色々な国の話を聞いた。



彼らの話から見たこともない場所の風景を想像していたらこんなことを言われたんだ。




『我々からしたらここはある意味一番珍しい村かもしれないね。他の集落との関わりもないようだし、みんなその年で一人暮らし、それで集落が出来ているっていうのは初めて見たよ。』



 恐らく、最初はフジモンも似たようなことを思ったんじゃないのか?

俺は、俺たちはずっとここで生きてきたから分からなかった。



 まあ、みんな家族が一斉に失踪するなんて異常だとは分かっていたし、一人暮らしには慣れ始めていた時期だった……彼らにとっては一段と物珍しかったんだろうな。



そしてジョージは彼らにこう言ったんだ。




『確かに彼らは君たちからすれば特殊なのかもしれないな。でも、みんな笑って怒って、喧嘩して助け合って生きているんだ。特別なことなんて何もないと俺は思うぞ?だからどうか……優しく見守っててくれないかな??』



それでジョージは3人に頭を下げたんだ。



 会話が噛み合ってない気がしたのは俺だけじゃないだろうが、ただ分かっていたのは……ジョージはこの時にはもう何かを悟っていたのかもしれない、ってことだ。




ーーーーーーーーーー


「その……ジョージがその日の昼間に何を言おうとしてたのか分かってるのかい?」



我慢ならなくなったのか、フジモンが話の途中で口を挟んできた。



「正直……さっぱりなんだ。俺たちに家族がいないことを前置きに何を言おうとしてたのか……。」


「そもそもジョージの素性もあまり分かってないんだよね……。この近くをさまよう前は何をしてたのかとか……結局俺たちが知ることは無かったんだ。」



シンタローとくじらんはそれぞれ答えた。


俺にも……全然わからない。でも……、



「最後までジョージは俺たちに何かを隠してるような感じはした。それが何に関することなのかまでは見当がつかないけどな。」


「そう……なのか。」



フジモンはそこまで聞くと黙ってしまった。



「それじゃあ……話の続きをするぞ。」




ーーーーーーーーーーーーーーーーー


あの夜は雨音が激しくて何だか目が覚めてしまったんだ。


 窓の方を見れば……何やら外が赤く光っていてな。

不審に思って明るくなっていた方向へ歩いたんだ。




そうしたら……寺の中が燃えていたんだ。



「ジョージ!?貴様、中にいるのか!?」



俺は炎の壁に阻まれながらも寺の中へと乗り込んだ。





その時の光景は俺の脳裏に焼き付いてずっと離れないんだ。





 ジョージは……磔にされて、今にも焼かれようとしていたんだ。

燃えないはずの石造りの寺だから、灯油でも撒いて火を放ったんだろう。

そして例の3人組は彼に鞭を振っていた。




「さっさと吐け!!我々の手を患わせるな!!」


「ぐあっ!?お、俺は……口を、割らねえぞ……!!」


「下らん意地を張るのはよせ!!早く吐いて楽になるんだ!!」


「うがああっ!!!ふ、ふざけやがって……!!」




虫の息になっているジョージを見て俺は一瞬硬直してしまった。



「!!……おい、そこにいる奴、大人しく手を挙げろ!!」



 4人の目の前で棒立ちになってしまい、俺は簡単に見つかってしまった。

状況が飲み込めないまま、衝撃と恐怖だけが襲ってきて俺はその場で立ちすくむことしか出来なかった。



「はぁ……はぁ……し、シンタロー……何で、何で……来ちゃったんだ……。」



ジョージは何とか俺のことを視界に捉えて呟いた。



「ぐっ!!ジョージ!?平気……なっ!?!?」



呆然としてる俺をよそに異変に気がついたヤムチャが寺の中へと飛び込んできた。



「ヤム、チャ……お前まで……。」


「お、おい……一体これは……!?」



ヤムチャは信じられないという表情でこの惨状を見つめていた。



「お前もそこから一歩も動くなよ!?動いたら……分かってるな?」



自分達も火に巻かれそうになりながら3人組の1人はそう叫んだ。



「ジョージ……なぜだ?魔術を使えばこんな奴らすぐにでも……!!」


「ま、魔術だと!?」



ヤムチャがそう言いかけると3人組は酷く動揺してピストルを彼の方に一斉に構えた。



「ジョ、ジョージ!?……えっ。どういう、こと……?」



さらに機関銃を持ったミーシャも駆けつけてきてこの光景を目の当たりにした。



「ミーシャ……ちゃん、こんなとこ……見られたく、なかったな……。」


「貴様……本当に魔術が使えるのか!?……やはり殺す前に色々吐いてもらう必要がありそうだな!!」



そう怒鳴った男はジョージの足をピストルで撃ち抜いた。



「がああっー!!……俺は……何一つ、喋らねえ……。」



ジョージは痛みに耐えながら必死に声を絞り出した。



「ジョージ……いやだ、いやだ……!」




「こんなの絶対やだーー!!!」




見ている現実を受け入れられなかったミーシャは4人に向かって機関銃を乱射した!!



「ああっーー!?な、何をするんだ!?や、やめないか!!!ぎゃあっ……!?」


「ミーシャ!!やめろっ!やめてくれ!!!」



 俺はミーシャから無理矢理機関銃を奪った!

気がつけば3人組の1人は頭を撃ち抜かれて絶命していた。



「これは……何なの……?何で……??」



ミーシャは腕を震わせながら前を見据えて一人呟き続けていた。



「な、何てことを……貴様らの仲間も殺しかねなかったというのに……!?」


「くそっ、今しかねえ!!」



 相手が動揺して動けないと読んだのか、足を撃たれてしゃがみこんでいた相手にヤムチャが一瞬で詰め寄り、ノコギリで首をはねた!



「動くなっ!少しでも動こうものなら……!」



仲間を2人殺された割には相当冷静な男はヤムチャにピストルの銃口を向けた。



「貴様が俺に詰め寄るのが早いか、俺が引き金を引くのが早いか……考えなくても分かるな?」



火の勢いは増してきて、ヤムチャたちの姿も俺からは見えなくなっていた。



「分かったらこの建物から出ていけ!!……命を大事にするんだ。」



男の言葉は、後半だけ気味が悪いくらい優しい口調だった。



「絶対……許さねえ!!」



ヤムチャが炎の壁を突き破って火の手が上がってない俺たちの方へ戻ってきた。



「卑怯な奴め……!!」



俺がそう言うと男も炎の壁を掻い潜り、こちら側に飛び込んできた。



「その機関銃を置け。お前たちの命まで奪うつもりはないんだ。」


「くっ……!!!」



 男はピストルをこちらに構えたまま、とても冷たい声で俺たちに告げた。

俺は……機関銃を強く握りしめたまま、構えることも、置くこともできなかった。




「シンタロー……、お前らしく、ない顔だな……。」



 火に巻かれながら磔にされていたはずのジョージがフラフラと歩いてきた。

服は焦げ、全身が鞭打ちにより腫れ上がり、背中には何本もナイフが刺さっていた。



「!?!?……き、きき、貴様……なぜ!どうやって拘束を……!!」



男のピストルを構える手はガタガタと震えていた。




「な、なっ……!?……す、す、すぐに俺をこいつと二人きりにしろっ!!き、機関銃は置いてけっ!!」



 男はピストルを構えたまま俺たちに怒鳴り散らした。

対するジョージは気味が悪いほど穏やかな表情で男の顔を見つめてこう言ったんだ。



「……ったく……心配せずとも……俺は、何も言わねえ……。あーあ……もう魔力を……使う、元気も……ねえよ。」



ジョージはそのまま前に倒れこんだ。



「ジョージ!!しっかりしろ!!!……こんな男一人に……!!」



ヤムチャは後ずさりをした。



「……なあ、シンタロー……俺の、最後の願い……聞いて、くれないか……?」



ジョージはうつ伏せになったままそう呟いた。



「最後って……、そんなこと言うんじゃない!!」


「シンタロー……どうせ、俺はこいつに……殺される。だがな……敵の手に、かかるのは……ごめんだ。だから……その機関銃で……俺の、頭を……はぁ……。」



俺はジョージが何を言っているのか一瞬分からなかった。



「ジョージ……!!しっかりしろ!!!」



ヤムチャはもう半泣きになりながら叫んだ。



「……そうか、分かった。」



 俺は自分でも怖いほど冷静に……機関銃をジョージの頭目掛けて構えた。

俺がそうしたくてやったのかは分からない。



腕が……勝手に動いたんだ。



「!?……おい……嘘だろ!?バカな真似はよせ!!」



男は俺にピストルの銃口を向けた。



「シンタロー……笑え。どれだけ……辛くても、泣きたくても、お前は……笑って、生きろ。」




それがジョージの最後の言葉だった。



俺は、引き金を引いた。



少しだけ、腕に返り血を浴びた。







「……あ、あ……な、何てことを……!!ああああーーーっ!!!!」



男は絶叫してピストルを投げ捨て、寺から飛び出し闇夜に消えていった……。



 それからどれほどの時間が経っていたのか……俺はフラフラとジョージのそばに近寄ってしゃがみこんだ。



「ジョージ……貴様は……俺と出会って幸せだったか?」



真っ赤に染まった彼の顔は……満面の笑みを浮かべていた。





「シンタロー……お前は……お前は、何も悪くねえよ!!」



ヤムチャは俺の後ろから抱き締めてきた。



「だからよ……ジョージの言う通り、笑え!……笑って生きろ!!」



俺の首元に水滴が垂れてきた。



「そうだよな……ハハハ、俺は……笑って生きるぞーー!!」




笑いと涙が止まらなかった。



「シンタロー……私も……私も笑う!!」



呆然としていたミーシャも俺たちのそばに寄ってきた。



「そうか……俺だって負けねえぞ!!……ガハハハハ!!」



ヤムチャも俺に負けまいとわざとらしく、そして大声で笑い飛ばした。




雨の降りしきる空が白んでくるまで、俺たちは涙を流して笑い続けた……。






 夜が明けて、俺たちは少し正気を取り戻した。

撒かれた灯油も全て燃え尽きたんだろう、猛威を奮っていた炎もとっくに鎮まっていた。



「……さて、それじゃあ……お別れだな。よしだくんとキヌタニを呼ぶぞ。」



ヤムチャはポケベルでよしだくんに電話をかけた。



キヌタニ(下僕)はポケベルを持ってないよな……。仕方ない、直接呼びに行くか。」



俺は立ち上がって駄菓子屋に向かった。




 時刻は朝の6時くらいだったが、珍しくキヌタニは既に起きていて、カウンター前の椅子に座りアイスを食べていた。



「シンタロー、おはよう。……って、目が真っ赤だよ!?何かあったの!?」



鈍いキヌタニでも気づくほどに俺の目は腫れていたのだろう。



「下僕……いや、キヌタニ……よく聞け。ジョージが……ジョージが死んだ。」




あまりに突然だったからだろうな、キヌタニは口を開けたまま俺の言った言葉の意味を考えていた。




「ジョージが……死んだ?えっと……シンタロー……何だか様子が変だよ?今日は家で休んでた方が……、」


「嘘じゃないぞ!!お前も来るんだ!!」


「えっ、ちょっ!?な、何をするの!?」



俺はキヌタニを抱えて寺へと戻った。






寺に戻ると床に崩れ落ちているよしだくんがいた。



「ジョージ……そんな……。」


「キヌタニ、目を逸らすな。これが……今のジョージの姿だ。」



俺はキヌタニよりも自分に言い聞かせるように言った。



「えっ……ひいっ!?!?こ、これ……ジョージ、だよね……。」



キヌタニの体の震えが伝わってきたが意外にもあいつが気絶することはなかった。



「ボール以外は揃ったな。みんな……墓地まで行くぞ。」



ヤムチャはジョージの遺体を抱えて歩き出し、みんなもそれに続いた。







それから共同墓地で穴を掘りそこでジョージを埋葬した。



「ジョージ……私は今度こそ、みんなを守ってみせる。あなたが私に向いてるって教えてくれたこの機関銃に誓うわ。」



「まだ信じられないな……こんな突然にお前との別れが来るなんて……でもみんな、お前のことを忘れたりはしないからな。」



「てめえは……最後までよく分かんねえ奴だったよ……。もしかしたら俺たちに隠し事でもしてたんじゃねえのか?だが仮にそうだとしても、そうじゃなかったとしても……お前は俺たちの仲間だ、ずっとだぞ!!」



みんな最後にジョージにお別れをして墓地から去ろうとしていた。



「シンタロー、気持ちはみんな同じだ……。でもずっと立ち止まってちゃジョージにも笑われちまうぞ?」



そこから離れたくなかったが、ヤムチャに言われて俺は心が決まった。



まずは右手の包帯と眼帯を外した。



そしてジョージを埋めた土の上に置いた。




「俺も、中二病とはお別れだ。ジョージ、俺の形見だと思って持っていくといい。……じゃあ、またいつか会えるといいなwww」



 俺は無理に笑って、その場を去った。

100エーカーの森の中二病、シンタローが笑い上戸に生まれ変わった瞬間だった。









          過去編第2話

              100エーカーの森の魔術師     END

 彼が笑っていても心は泣いているかもしれません、そして笑い続けることが幸せなのかも……。

今の彼から本心を聞き出すのは容易ではなさそうです。


 いつも笑っていて愛想を振りまいている人は、いつか心から笑えなくなるんじゃないかと少しだけ心配になります。


 自分の本心は定期的に吐き出した方がいいですよね。

そうしないと自分が今どんな感情を抱いているのか分からなくなってしまいますから……。



突然ですがここで読者の皆さんが疑問に思いそうなことを少し解説しようと思います。



Q1:キヌタニって一体いつになったらポケベル持たせてもらえるの……?


A:あーー……もう少し先ですかね、その時のエピソードはいずれ出てくるかもしれません。




Q2:持ち上げようとしても微動だにしない鉄パイプをキヌタニはどうやって店頭に並べているの?


A:作者に聞かないでください、むしろこっちが聞きたいです!!




Q3:シンタローの鎖骨は不死身なの??


A:そういう体質なんでしょう、一章では機関銃で30発被弾しても全治二日だったので……。



(全然解説になってないですね……お許しください。)



 ようやく過去編も終わり今の時代にストーリーが戻ってきます。

森の住人たちは襲撃という恐怖に耐えられるのか……?


 そしてキヌタニは服を着ることが出来るのか!?

↑ストーリー上では11月ですからね、さすがに全裸は寒いでしょう……。

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