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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第4章 悲劇の寸法線
96/162

0-13 もう一つの世界

ーー前回のあらすじーー


 銃撃の神様に見捨てられたのではないかというレベルで、弾丸を明後日の方向にぶっ飛ばしてしまうミーシャは、他の住人たちの助けを借りてまで射撃の練習をしていたのだが、ここぞとばかりに事故でジョージの腹を撃ち抜いてしまった……。


 彼女は泣く子も空を飛んでしまうようなヤムチャの怖い説教を受け……暴走してしまった。

バズーカ砲を撃ちまくり、全てを破壊しようとしたのだ。


だがそれも結局、ベッドから抜け出してきたジョージによって止められてしまうのであった……。



 お説教ってどうして受けると嫌なんでしょうね?

もっと言ってしまえば怒られて不快になるのはどうしてなんでしょう??


 相手の話を聞いてるだけと思えば、どうってことは無いと思うのですが不思議ですよね。

あまり相手の感情を受け止め過ぎないのが、不快にならないコツなのかもしれません。


もちろん相手にそれを悟られてしまうと、大変なことになるので適度に流していきましょう。

結局、ミーシャはヤムチャの手によってあっさりと無力化された。



 力ずくで彼の肩に担がれてからもしばらくは暴れていたらしいが、五分くらい経つと突然意識を失ってしまったらしい。




その日の夕食は準備が面倒だったがミーシャが寝ていたヤムチャの家で食べた。


 ミーシャのことだからいい匂いにつられて起きてくるんじゃないかとみんな期待していたんだが、残念ながらそんなことはなかった。






「まさか暴れまわった挙げ句に意識を失うなんてな……。」



 みんなが風呂に入っていた間もよしだくんは一向にミーシャの傍から離れようとしなかった。

お姉ちゃん代わりだったミーシャがよっぽど心配だったんだろう。



「今までもムキになって暴れ回ったことはあったが……まさか気絶しちまうとは。」



 風呂上がりのヤムチャもミーシャが目を覚まさないのを見て、ため息をつきながらどっしりとソファーに腰を預けた。



「……とりあえず、今夜は俺が様子を見よう。毎度毎度こういう時はヤムチャに任せきりっていうのも悪いしな。」


「ああ、そうか?なら……頼んだぜ。だが、何かあれば構わず俺を起こすんだぞ。」


「よしだくんだけでは心許ないだろう、我もついているとしよう!!」


「いや、うるせえからてめえは帰れや。」



 風呂にも入ってもうここには用無しだろうと判断された俺は、ヤムチャに首を掴まれて真っ暗な夜道に放り出された。




「なっ……ヤムチャめ、我は戦力外だというのか!?」


「まあ、今夜はよしだくんに任せておこうぜ。……それからシンタロー、今夜はお前の家に泊まってもいいか?」


「えっ?と、突然どうしたというのだ!?とうとう我に粛清される気にでもなったか??」



今までにジョージからこんなことを頼まれたのは初めてだったから本当に驚いたな……。



「ま、まあ……構わんが……寝相が悪ければ容赦なくベッドなら蹴り落とすぞ!!」


「いや、俺は床で寝るからそこは心配するなよ。……さすがに同じベッドで寝るのは狭いだろうし……な?」


「???どういうことだ???」



家に帰ってからしばらくは下らない雑談をして、脳内を「?」で満たしたまま俺は眠りについた。







「ン……ロ……シンタロー……!」



次の日、俺はジョージに体を揺さぶられて起こされた。



「……ん、ど……どうしたというのだ……?貴様の亡命の手伝いならせぬぞ……えっ!?!?」



まだまだ寝ぼけモードだった俺は周囲の異様な光景を見て一気に目が覚めた。





 緑色の空に10個の太陽と12個の月が浮かんでおり、絨毯やら箒やらが空を翔び回って、時空の裂け目的なよく分からない空間まで存在している世界で俺は倒れていた。




「な、な……何なのだこれはーーー!?!?」


「何だよ、そんなに驚くことでもないだろ?おはよう、……いや、おはようじゃないけど、元気だな。」



ジョージは平然とそんな返答をしてきた。




「こ、これを驚かずにいろと!?き、貴様!我が寝ている間にどんな場所まで拉致したというのだ!!も、もしかして、ここがかの有名な悪魔界、すなわち貴様の故郷というわけか!?」



俺は起き上がってジョージに詰め寄った!



だがジョージは相変わらず冷静だったな。



「シンタロー、その言い分はあまりに見当違いだぜ?」


「何が違うというのだ!間違ってるのは悪に手を染めた貴様の人生だ!!」



「そりゃ俺も悪いことくらいしたことあるけどな……。ま、まず、俺はシンタローを拉致したわけじゃない。むしろ、俺がお前のもとにやって来たと言った方が正確だな。」



「世迷い言を!!我がこんな狂った空間に元々いたとでもほざくつもりか!!我の生きてる世界が貴様にはどう見えているというのだ!!」




「……えーと、だな……。」



俺が怒ってそう言うと何故かジョージは突然黙って考え込んでしまった。




「何だ、やはり嘘か!!」




「い、いや……全部本当だけども……じゃあ、正直に言うぞ?あのな、さっきお前は寝ている間に拉致されたって言ってたが、まだお前は寝ているんだ。それでだな……その……。」


「つまりあれか、ここは我の夢の中ということか!だとしたらこれは全部我の夢であって現実ではないと言うことか、ようやく納得がいったぞ!」



俺はそう言うと夢の中の空間を堪能しようと時空の裂け目に走っていこうとした。




「あ、いや……夢の中って言うのは少し違うんだよ、実はな……お前が寝ている間に魔術を使ってお前の精神面に入り込んだとでも言えばいいのか……。」



背後からそんな言葉が飛んできて俺は動きをピタリと止めた。





「我の精神面……?と言うと……どういうことなのだ??」


「つまりだな……ここはシンタローの人格を具現化したような場所ってわけで……。」




「この……狂った空間が……我の人格……??」



 何と言うか……知りたくない自分の裏側の顔に気がついてしまった気分だったな。

今思えばむしろ俺自身の人格をよく表していた空間だったと思えるさ。




「い、いやいや!お、俺はこういうの好きだぞ??別に現実とかけ離れてたっていいじゃないか!!ちょ、ちょっと空間の歪んだあの辺りまで行ってみようぜ??」



 ジョージは身体中から汗を撒き散らしながら俺を追い越して、時空の裂け目があるのとは真逆の方向に走っていった。



そして俺はと言うと、どうにもそんなジョージに腹が立ってしまった。



「いーや!我はここで貴様を粛清するぞ!こんな絨毯が空を舞うような狂った空間なら我にだって魔術が使えるはずだ!!……くらえ、我の怒り!!!」



俺は右手を正面に突き出して破壊光線を繰り出した!!




「……えっ、えっ???いや、ちょっ、ああああーー!!!」



破壊光線はジョージの姿を包み込み、そして光線が消えた頃には彼の姿は霧散していた。




「ハハハハ!!現実世界でないと言えども、遂にジョージを駆逐してやったぞ!!」




そして俺はその狂った世界で一人、無限に飽きることなく踊り続けていた……。









「おい。いつまで一人でこんなバカ騒ぎしてやがるんだ?」




どれくらいそうしていたかは分からない。


いきなり背後からそんな聞き覚えのある声とともに首を掴まれた。



「ひっ、だ、誰だ!?我の背後をとるとは中々やるではないか!……あっ。」



俺は首を掴まれたまま視線を後ろに動かした。




「よおシンタロー、詳しい話は後だ。まずは起きろや。」



ヤムチャがそう言うと何やらどこかに体が吸い込まれていく感覚を覚えた。



「な、何だ……!?こ、これは……わ、我にどんな魔術をかけたというのだ!!」


「暴れるんじゃねえ、元の世界に帰るだけだぞ!!」


「や、やめろー!これは何なんだあああああーー!?!?」



 俺の視界は徐々に揺らぎ出して平衡感覚も失われていき、遂には明るさも分からなくなって目の前が真っ暗になってしまった。







「ぶはあっ!?!?……あ、ああ……。」



 次の瞬間にはもう、俺は見慣れた自宅の寝室で寝ていた。

時刻は昼の11時半を過ぎていて我ながら随分寝過ごしたと思ったな。




「おっ、シンタローおはよう……いや、お帰りって言った方がいいのか?」



横を見れば少し疲れた顔をしているジョージと……、



「や、ヤムチャ!?ど、どうしたのだ!?おい貴様!こいつに何をしたというのだ!?」



床でうつ伏せにぶっ倒れているヤムチャがいた。





「ぐぅ……うっ……ああ……。」


「ヤムチャもおかえり……二回目の実験も無事上手くいったようだ……。」




「そ、そうだな……ジョージの声もしっかり聞こえてたぞ。……それにしたってよ、不思議なもんだぜ……。」



「……や、ヤムチャ……無事なのか?……それで二人は何の話を……!?や、ヤムチャお前!悪魔と契約……あいでっ!☆」



余計なことを口走ってしまったせいでいつものごとくヤムチャからゲンコツを食らってしまった。



「まだ寝ぼけてやがんのか?とりあえず今までの流れをてめえにも説明してやるから、まずは俺の家に来いや。」



「ちょ、ちょっと待ってくれ!まだパジャマなんだぞ!」



乱暴なことに俺は着替えどころか顔も洗わせてもらえないまま、ヤムチャに引きずられていった。








「ミーシャ……いつまで寝ているのだ!お前は確かにいつも昼まで寝てるがここまで寝続けたらさすがにオネショをしてしまうぞ!!」



 ヤムチャの家に連行された俺はベッドに横たわっていた眠り姫(ミーシャ)の体を揺さぶったが、彼女は全く反応しなかった。





「それでジョージ……ミーシャを起こす秘策があるって言ってたがそれは本当なのか?」



目元にクマを浮かべたよしだくんはジョージに詰め寄った。



「ああ、たった今『シンタロー』とヤムチャに協力してもらって、これなら上手く行きそうだってことも分かったぞ。」




唐突に自分の名前が出てきて俺はとてもとても困惑した。



「ちょ、ちょっと待て!わ、我は協力した覚えなどないぞ!?」


「ま、まあそうだろうな……。でも昨晩見た夢のことは覚えているだろ?」




「昨日の……?」



俺は夢の中の記憶を辿っていく。



「そういえば、ジョージを破壊光線で粛清したが……何か言ってたな。あの夢は我の性格を具現化していると……。」


「ま、まあそれもそうなんだが、もう少し前のことを思い出せるか?」



「お前はまだ寝ている、とかも言ってたような?」


「いや、そのもう少し後だぞ。」



「我の精神面に潜り込んだ?」


「そういうことだ。」




「??……それがどうかしたのか?」


「まあ、つまりは眠ってる相手に直接話しかけることが出来るってことだ。」


「ひでえ言い方をすりゃ、てめえは実験台としてジョージに利用されたってわけだな。」




「全く……あの時お前の破壊光線をモロに食らってたら、俺の意識が元の体に戻れなくなってかなり危なかったんだぜ?」



ジョージはやれやれというような表情を浮かべた。



「な、何だと!他人の精神面……?に、潜り込んでおいてなんだその言い草は!我はこの世界で唯一魔王に対抗する力を持つ者なのだ!もし手違いが起きて我が大変な目に遭ってたらどうするつもりだったのだ……ガブガブ!!」



俺はジョージの頭に噛みついた!



「いたた……!そ、そんな大事に捉えなくてもいいだろ?現にこれでミーシャちゃんを起こす方法が見つかったんだからな!」




「えっ!?……あ、当たり前だ!我を実験台にしたのだからな!そのくらいの成果は出してくれないと困るぞ!!」



本当にジョージって奴は……自由気ままだったよ。



 勝手に他人の精神面へズカズカと乗り込んできたんだからな。

相当神経が図太くないと出来たもんじゃない。






「えっとだな……何の話だかさっぱりなんだが。俺にも分かるように説明してくれないか?」



眠そうなよしだくんは半分ボケーっとしながら俺たちの方を見ていた。



「そうか、よしだくんには何も言ってなかったな。俺は以前、動物の体に自分の精神を憑依させちゃったことがあってよ……襲ってくる鹿に『俺の話を聞け!』って叫んでたらいつの間にかその鹿の体内に乗り移ってたようでな……。」




「つまり、人間相手にも同じことが出来ないかって考えたわけか……。」


「まあ、結果として成功したわけだが……どうにも寝ている相手にしか効かねえようでな……。」


「……だが、今ならミーシャの精神面に潜り込むのには問題なし、ってことか。」



 よしだくんは最初こそ『魔術なんて非科学的な……。』なんて言ってたが、この頃には既にジョージの摩訶不思議な魔術にすっかり順応していて、頭もいいからすぐに話の内容を理解したらしい。


だが、俺にはまだ疑問が残っていた。



「待て待て!だが、さっき我の精神面とやらにヤムチャが潜り込んできたではないか!あれはどういうことなのだ!?」


「まだその説明が残ってやがったな。結局起きてる人間相手にジョージは乗り移ることは出来ねえってことだったが……何やら感覚を共有する?状態になるらしいぞ……?」



 ヤムチャはジョージに説明されたことをそっくりそのまま俺に言ったのだろうか、『俺にも分かんねえぞ!』って顔をしていた。




「つまりは……感覚を共有している人間が見ているものや聞いているものはジョージにも見えるし聞こえるってことか?」


「きっとそういうことなんだろうぜ。シンタローの精神面に入り込んだ時もジョージの声が頭の中に響いてきて的確な指示を出してきたからな。」



ヤムチャの話を聞いただけでやっぱりよしだくんは内容を理解してしまった。



「つ、つまり……貴様とその、感覚を共有する……ことでミーシャの精神面に人間を送り込めるということか!それで、ミーシャをこの起きている世界に連れ戻してくるということだな!……いや待てよ?ジョージ!誰かを送り込まずとも直接貴様が行けば良いではないか!!」



俺は気がついてしまった。


何故そんな回りくどいことをするのかと。



だが、ジョージの返答は俺たちが予想もしなかったものだった。



「まあ、そうだけどな。ミーシャちゃんを見てて思ったよ。俺じゃあこの子を連れ戻すことは出来ないってな。」



諦めの混じった表情でミーシャの顔を眺めながらジョージは続けた。



「ミーシャちゃんを起こすには彼女の精神……魂というべきかもな、それを説得しなきゃならない。でも相手の敵対心が強すぎるとそれが出来ないばかりか、俺自身の意識も彼女の精神から出してもらえなくなるかもしれない、ってわけだ。」



「んー分かるような分からんような……あ、我の破壊光線を食らっていたら危なかったというのはどういうことだ?」



「その説明もしてなかったな……。他人の精神面に入り込んでもその中に自分の肉体が存在するわけじゃないから何をされても身体的なダメージはない。でも自分の意識……魂は普通に影響を受けるから攻撃を受け続ければ魂が消滅する可能性もあるかもしれないな……。」




「そ、それって……、」


「ああ、死ぬってことだよ。どうする?そういうリスクを承知の上でミーシャちゃんの精神に飛び込みたい奴はいるか?……いなけりゃ仕方ないから俺が一人で行くけども。」



ジョージは絶対に行きたくなさそうな表情をしてそう言った。



「おいおい!分かった!!お前に一人で行かせる真似なんてしねえよ!!……だが、そもそも待ってりゃミーシャが勝手に起きてくる可能性だってあんだろ?俺はもう一日くらい待ってもいいんじゃねえかと思うんだが……。」



ヤムチャもあまり行きたくないって感じでそう答えた。



「ヤムチャ、基本的に人間は水がないと三日間しか生きられない。寝込む前も家に籠りきりだったならしばらく前から何も口にしてないことになる……。駄菓子屋でバズーカ砲を盗んだ時に何か飲み食いしてればいいが……。」



よしだくんはあまり待つのは得策じゃないと思っていたようだ。



「じゃあ、日没まで待って動きがなきゃ作戦決行だ。」



「問題は誰が俺と行くかだが……。キヌタニは頼りにならそうだから除外するとしてどうする?」


「一番適任なのはよしだくんじゃねえか?よしだくんならミーシャでも心を開きやすいと思うんだが……。」




「お、俺か……?……わ、分かった、ミーシャのためだもんな……。」



 よしだくんは少し震えた声で了承の返事をした。

きっと、死ぬリスクがあるって聞いて怖かったんだろうな。



だが実際、よしだくんはミーシャから可愛がられていたし一番成功確率は高かっただろう。



それでも……ここは俺も譲れなかったんだ。



「待て!我が行くぞ!銀河一の勇者と、その勇者をてこずらせる悪魔が手を組めば不可能など存在しないからな!!」



俺は手を挙げて、椅子から立ち上がってそう叫んだ。




「シンタロー!これは遊びじゃねえ……ああ。」



 本気モードな俺の顔を見てヤムチャは一度黙ってしまった。

そして少し考えてから再び口を開いた。



「なあ、ジョージ……。お前はよしだくんとシンタロー、どっちが適任だと思うよ?」


「ん、ヤムチャ?それは俺が決めることじゃない。俺なんかよりミーシャちゃんと長い時間を過ごしてきたお前たちの方が最適解を知ってるはすだぞ?」



ジョージは俺たち三人の顔を代わる代わる見つめてそう言った。





「おい、シンタロー。」



それからヤムチャは俺の方を向いて話しかけた。



「てめえは……悔しいが、俺よりもミーシャのことを知ってるはずだ。よしだくんだってお前と比べりゃミーシャと過ごした時間は全然長くねえ。」


「ヤムチャよりも、なのか?」



よしだくんは意外そうに聞いてきた。




「ああ、こいつは小さい時からミーシャとよく遊んでたからな。俺は兄弟の面倒を見るのに忙しくて二人とはあんまり遊ばなかったんだ。それに……、」



ヤムチャはさらに続けた。



「シンタローときたら昔からよくミーシャを怒らせたり拗ねさせたりしてやがったからな。むしろそういう時の対処はお前にしか出来ねえはずだ。……シンタロー、行ってこい!!」



ヤムチャは俺の背中をバシッと痛いくらい強く叩いた。



「任せたぞ、シンタロー!!!」



さらによしだくんにも背中を叩かれた。



「フハハ、任されたからには必ずミーシャを連れて帰ろうではないか!まあ、気楽に昼寝でもして待っていろ!!さあ、行くぞジョージ!!!」



俺はいざ行かんとばかりに身構えた。



「……いや、日没まで待つって話だったろ?それに俺も二回の実験でかなり体力を使っちゃったし少し休ませてくれ。」



この発言に俺は拍子抜けしてしまった。




「……えっ??な、何だと!い、今のは完全に今から行く流れだっただろう!?」


「やかましい奴だな!てめえもその時に備えて体力を温存しとけや!!」



俺はヤムチャに引きずられていった。



「おい!!今度はどこへ連れて行くつもりだ!!」


「朝飯がまだだろ?駄菓子屋にでも行くとしようぜ?」



「あ、何だ……って!そうじゃない!我はまだパジャマだと言ってるだろう!いつになったら身支度をさせてもらえるのd……、」









 結局、俺はパジャマ姿のまま駄菓子屋に拉致されて、店番をしていたキヌタニから変な目で見られる羽目になってしまった。




「えっと……ここはシンタローの家じゃないんだけど……寝るなら自分の家にしてよ。」


「何を寝ぼけているのだ!我はこの服装でここに無理矢理連れて来られただけだっ!!貴様みたいに一日中店番をしながらうたた寝しているような奴にだけは言われたくないぞ!」



「ぼ、僕は昼間に店番をして夜は仕出しをするから一日中働いているんだよ!ちょっとくらい休んだっていいじゃないか……。」



キヌタニはカウンターのそばにある椅子に座ったままそう言って目を閉じた。



「……ったく、キヌタニは後で俺が代わりにしばいといてやるからよ。てめえは大人しく何か食ってろや。」



『何か』と言いながらヤムチャはハーゲンドック(銀杏味)を投げつけてきた。




「待てよ……よしだくんは徹夜でミーシャのことを診てたようだし、ジョージも随分体力使っちまってるからな。……シンタロー、俺はミーシャのとこに戻るからあんまり暴れるんじゃねえぞ?」



ヤムチャはそれだけ言い残すとバリバリ君(炭酸コーヒー味)を持って早々に退散した。




「……なっ!?我をパジャマのままここまで引きずり出しておいて何て様だ!?……この怒りを我はどこにぶつければいい??」



 俺は昨日の夜からヤムチャとジョージに振り回されて少し苛立っていた。

そしてうたた寝をしていたキヌタニに向かって、俺はもはや当然のごとく飛び膝蹴りをかました!



「ぐびゃあ!?な、何をするのー!?」


「おい下僕!我の前で寝るとはいい度胸だな!!そんな貴様に仕事を与えてやろう!」



椅子から落とされてパニックになり、藻掻いているキヌタニを俺は上から見下ろした。



「えっ……!ぼ、僕は今も店番の仕事が……。」


「そんなことをほざいて結局寝てるだけではないか!」



俺はキヌタニの顔面をこれでもかというほど踏みつけた!



「ぐぇぽぎゅがっ……!!」


「よく聞け下僕!!この駄菓子屋の商品は配置がバラバラなのだ!」



当時の駄菓子屋では商品が武器や薬、食料品といったカテゴリーごとに分けられていた。


 だが、同じ商品でも商品棚の別の段にあったり、洋菓子と和菓子がカゴの中にごちゃ混ぜに入っていて欲しいものを探すのが割と大変だった。



「貴様には今から商品の整理をやってもらうぞ!!我の指示した通りに動くのだ!」




「……えっ??今のままでも十分整理されていると思うけど……。」


「バカを言うな!今の配置では欲しい物がどこにあるか一目で分からんのだ!!」


「いや、それくらい自分で探してよ。」


「やかましい!!下僕のくせして我に楯突く気か!?」



俺はやはり奴をキヌタニが座っていた椅子で殴り付けた。



「ぎゃあっ!!やめて!やめてよぉ!!」



 これ以上暴力を振るとキヌタニが気絶してしまいそうだと思った俺は、殴るのを止めてその椅子にふんぞり返った。



「ふん!命が惜しければ大人しく我に従え!!いい加減にしないと魔王の餌にするぞ!!」



「ひっ!?わ、分かったから……!も、もう殴らないでー!!」



観念したキヌタニはそれから延々と俺の言われた通りに商品を並べかえ続けた。







「ハハハ!!これで我が好物を見つけやすくなったぞ!」


 戦闘グッズの弾薬は大きさごとに仕分けされ、薬も飲み薬や貼り薬など種類ごとに置き場所がまとまるようになった。



 事実、商品の配置は分かりやすくなっていたが、甘味に関しては俺の好物ばかりが手に取りやすい位置に来るようになっていた。



……そしてよしだくんには悪いが、リコリスは商品棚の一番奥にまで追いやられていた。




「ううっ……も、もう疲れたよ……!!」



キヌタニはその場にへたれこんだ。



「おい下僕、まだ終わりではないぞ!!こうやって整理すればまだ追加で商品を置けそうではないか?商品棚がスカスカなのはどこか貧しいと思うだろ??魔界の駄菓子屋でももう少しマシな品揃えだと思うのだがな!!」




「えっ……!?そ、それは、今から僕に仕出しをしろと……!?」


「そんな下らないことをいちいち聞くんじゃない!死にたくなければさっさと働くのだ!」



俺は売り物のチェーンソーを手に取ると、電源を入れて振り回した。



「ひいぃーっ!?わ、わ、分かったから!!それを置いてよぉ!!」



キヌタニは壁にへばりついてガタガタと震えていた。



「叫んでないでとっとと手を動かすのだ!」



俺はチェーンソーを持ったままキヌタニに近づいた!!



「いやぁぁー!!だからチェーンソーを置いてよぉー!!」


「だから手を動かs……はぐぅっ!!?」



チェーンソーを振り回す俺の側頭部に何かが飛んできた。



「ったく……大人しくしとけっつーのが聞こえなかったのか??……にしてもこの駄菓子屋、何だか雰囲気変わったか?」



いつの間にか現れたヤムチャは駄菓子屋に入ってくると辺りを見回した。



「さすがは我が同胞よ!分かるか?我がこの駄菓子屋(中継基地)を魔改造してやったぞ!!」


「ほう、商品の並び替えをしやがったのか?……いいじゃねえか。シンタロー、てめえもたまには人の役に立つもんだな!!」


「何を言うか!我は生きてるだけで役に……ん?……!!!き、貴様!こ、これは呪いの石ではないか!!」



俺の視界はふと、ヤムチャが投げつけてきたものを捉えた。



「の、のろ……いや、ただの砥石な。」


「貴様、この石の正体を分かっていないな!?この石はかの……、」


「あーー分かった分かった(棒)。後で聞いてやるからとりあえず今は俺の家に来い、作戦決行だ。」



俺はそのままヤムチャにこの日三回目となる強制連行を受けた。



「今すぐこの石を封印しなければ手遅れになるぞ!世界がどうなってもいいのk……、」






「いや、商品棚の整理をしたのは僕なんだけど……!?あれ、そういえば今日はもう閉店だけど、ミーシャもよしだくんもジョージも来なかったよね?何かあったのかな……?」

 欲しい物が見える位置にあると言うのは整理整頓の理想ですよね。

物を探している時間は本当に無駄ですから!


 作者がクローゼット無しのワンルームから2DK(くらい?)の部屋に引っ越した時は広いからと調子に乗って物を増やし過ぎたので、何故か引っ越し前より物が見つかりにくくなりました……。


 読者の皆さんも物の買い過ぎには本当に気を付けて下さい……。

空間だけじゃなくて家計も圧迫します!!


 では次回を読むまでに読者の皆さんは部屋を整頓してください。

別に次回の内容とは関係ありません...( = =) トオイメ

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