0-9 タダ食いは伝統芸能
ーーー前回のあらすじーー
再び吹雪の中から現れたジョージはミーシャの『シチューの見た目をした何か』を飲むと、突然、自分がシチューを作ると言い始めた!!
結果……キヌタニを除く全員がブレインジャック、いや胃袋を掴まれてしまいジョージは一躍森の人気者になったのだった。
シンタローは当初、本当にジョージがブレインジャックをしているのだろうと思っていたようだが、その真偽は別として、美味しいものの前にはどうしようもなかったようだ。
やっぱり美味しいものはすべてを解決するんですね!!
そう思うとフードデリバリーを最初に考えた方はとても偉大かもしれません。
読者の皆さんもスマホにUb〇r Eatsをインストールしているなら、何を食べようか考えながら本編を読んでみてください。
タイトル通り、今日は駄菓子屋の話なので読んでるとお腹が空くかもしれませんね!!
「フハハハハ!この前は意識がないからと情けをかけてやったが、今回はもう容赦せんぞ!いくz……ガボゴボッ……。」
俺はいつもと変わることなくヤムチャによって湯船に沈められていた。
「シンタロー……どうしてお前はこうも懲りないんだ?」
よしだくんは呆れた目で俺を見てきた。
「しかし随分と広い風呂だな!!こんな風呂に毎日入れるなんてみんな幸せじゃないか!!」
「ケホケホッ!ハアハア……ふっ、そんな平和ボケたことをいつまで抜かしてられるか?お前の命はあと……ブクボゴッ……。」
俺は再びヤムチャの手によって湯船に沈められた。
「お前こそいつまでそんな中二病じみたことを抜かしてやがるんだ?このまま一時間くらい沈めっぱなしにしてやってもいいんだぜ??」
「!?!?……ブグブグッ!?!?」
「風呂もいいが二人とも楽しそうだしな……あっ、そうそう!水中で呼吸が出来るようになる魔術があるんだが、ちょっとシンタロー君にかけてやろう!……そいっ!」
ジョージは溺れかけの俺に何かしたらしいな。
「カボカボッ……し、死ぬ!死ぬって!!……あれ?く、苦しくないぞ!?って、何で水の中で喋れるんだ!?こ、これは……我の潜在的な能力が開花したということか!?」
俺はやっぱりこれがジョージの仕業だということも知らず有頂天になっていた。
「!?!?どど、どういうことなんだ!?!?」
ジョージの魔術を初めて見たよしだくんはビックリ仰天だった。
「すごいだろ?だがこの魔術には欠点があってな……、」
「ハハハ!!この能力さえあればもうヤムチャなど怖くないぞ……あっ、がっ、ぐあ!?」
「この魔術がかけられている間は水中じゃないと呼吸が出来なくなるんだ……。」
俺はそのジョージの言葉を聞いてすぐさま湯船に戻った。
「な、な、何だと!?こ、これは貴様の魔術などではないぞ!!つ、つまりは我が自力で開花させた能力なのだっ!!」
「ほーー、じゃあ自力で陸上でも呼吸出来るようになるんだよな?さて、逆上せそうだしそろそろみんな湯船から上がるか。」
「そうだな。それじゃあ、シンタロー……元気でな?(な、何て非科学的な……しかしこの目で見てしまった以上は……。)」
「俺も出るか……そうそう、シンタロー君、そんな何時間も効果が続くような魔術じゃないから安心してくれ?」
薄情なことに俺は三人から見捨てられてしまった。
「おい!?貴様ら、我を助けずして何処へ行くというのだ!?!?返事をしろっー!!!」
「あら、何か風呂場の方が騒がしかったけど……それにシンタローは?」
三人がリビングに戻る頃には、既に自分の家で入浴を済ませていたミーシャがヤムチャの家でくつろいでいたらしい。
「ああ……シンタローなら暫しエラ呼吸の状態になっていて、湯船から出られないんだ。(一体どんなメカニズムなんだ……。)」
「え、エラ……?今度は一体どんな設定を考えついたのかしらね……。」
よしだくんの発言に対して本当に俺がエラ呼吸を強いられていたとは知らず、ミーシャは呆れていたそうだ。
「それで、どうして私をここに呼んだのよ?一緒にお風呂ならお断りよ。」
「そんな、ジョージじゃねーんだからよ……。」
「え?今のちょっと傷ついたぞ……。」
ジョージはちょっと悲しそうに笑ったらしい。
「ま、まあ……あれだ、真面目な話だからな?さっきからずっと考えていたことなんだがよ。ジョージ、この森で一緒に暮らさねえか?」
ヤムチャがこう提案したとき、ジョージの最初の反応はこんな感じだったらしい。
「うーん……あんまり気乗りしないな……。」
「ゴボゴボッ!!ゲホゲホ……!!ぐっ……い、幾星霜にも続いた苦しみを乗り越えて……やっと呪縛が解けたようだ……ならば我のやることはひとーつ!復讐だ!!!」
ジョージにかけられた魔術の効果が切れた俺は湯船から飛び出し、体を拭くのも服を着るのも忘れてみんなのいるリビングへと特攻してしまった。
「えっ、シンタ……この露出狂!死になさーい!!」
ミーシャは俺の姿を見るや否や、恐らく条件反射で立ち上がると自分が座っている椅子をこちらに投げ飛ばしてきた!
「あれ?ミーシャ、いつの間……うぎゃはっ!?!?」
そしてその椅子は言うまでもなく俺の脳天を直撃した……。
「ああ、シンタロー君……意外と早く魔術の効果が切れたようだね。痛そうなところ唐突で悪いが、もし俺が君たちと一緒に生活させてくれと頼んできたら……君ならどうする?」
俺は……椅子を投げつけられた衝撃のせいで頭が混乱し、言われた意味がよく分からなかった。
「え?あ??えっとだな……き、貴様が何をしようと我の勝利、そして貴様の敗北は揺らがんぞ!残念だったな!!」
……なんて適当に返事をしたんだ。
「つまりね、『勝手にしろ』って言われてるわよ。」
あの時……いつも通りの俺だったら何て反応していただろうな……?
やっぱり、
『貴様……それは我に粛清してくれと言っているようなものだぞ?まあ、貴様がそうほざくならお望み通り、居候させてやらんでもないがな!』
と答えたのだろうか……?
いやもしかしたら、
『き、貴様!?まさか我らの居場所を仲間に知らせて悪魔の大群を召喚するつもりか!?そうはさせんぞ!命が惜しければ今すぐこの森から去るんだな!!』
って答えていたかもな……。
もしあの時に俺がジョージを森から追い出していれば……あいつは死なずに違った未来を歩めたかもしれない……。
「お、おお??そうなのか……二人はどうなんだ?」
ジョージはミーシャとよしだくんにも聞いた。
「うーん……私からすると料理番の立ち位置が怪しくなるから困るんだけど、でも……美味しいご飯が食べられるなら……。」
ミーシャは自分の立場と日々の食事を天秤にかけて迷っていたのを覚えている。
「俺は……昔この森に、みんなに受け入れてもらったんだ。だから外部の人間をそう簡単に追い出すような真似はしたくない。」
よしだくんはジョージを過去の自分と少し照らし合わせていたところがあったのか、歓迎してあげたいという感じだったな。
「俺たちの中では反対意見は出てないが……お前はここで暮らしたくねえのか?」
ヤムチャは不可解な表情でジョージの方へ向き直った。
「そりゃ……一人で放浪するよりは誰かと定住している方が俺にとってもありがたいよ?しかしな……。」
ジョージはどういうわけか返答に困ったようで黙りこんでしまっていた。
本当のところ、どうしてジョージがそこまで食い下がってきたのかは分かってないんだよな。
「あーー何だかはっきりしねえな!!じゃあこうしろ!お前がここでの暮らしを気に食わねえって言うならいつでも出て行けばいい!だがひとまずは今夜から俺たちと住んでもらうぞ!!」
ヤムチャはもはや力押しでジョージの意見をねじ伏せた。
「ず、随分とグイグイ来るな……。ま、まあそれだけ言うならお試しで住んでみるか……だが一つ条件があるぞ。」
「あ?何だ、俺たちが出来ることなら聞き入れるぞ?」
「さっきシンタロー君の家に行く時に見かけたんだが、この近くに寺のような建物があったよな。住むならあそこがいいんだが……。」
ジョージはちょっと遠慮がちにそう言った。
まあ……これにはみんな驚いたよ。
「て、寺……?は確かにあるが……どうしてわざわざ??あそこには電気も通ってないし、暖房もないから不便だと思うぞ?」
「そうだな……でも寺っていうのは何だか気分が落ち着くんだよ、不思議なことにな。」
「まあ……別にいいんじゃねえか??あの寺はもう誰も出入りしてねえし不便でも構わねえなら自由に使ってくれや。」
ヤムチャは困惑しながらもさらに続けた。
「だがあんまり寺の中をリフォームしたりするんじゃねえぞ。そんなことをするくらいなら家の一つや二つくれえ建ててやるからよ。」
「分かったよ、言われたことはきっちり守るさ。……ところで、さっきご飯を食べていたときにトイレに閉じ籠ってた子がいないけど、彼の意見は聞かなくていいのか?」
「そ、そういえば!我の下僕はどこで油を売っておるのだ!!奴に夜食を調達させるのを忘れていたではないか!!」
「た、確かにキヌタニのことを忘れていたぞ……。だがキヌタニは自分から何かを主張するタイプじゃねえしな。情報共有のために家には来て欲しかったんだが……ミーシャ、キヌタニがどこにいるのか知らねえのか?」
「さあね?でも洗い物をキヌタニに全部押し付けてきたからまだお皿洗いしてるかも……。」
ミーシャは自分は悪くないぞという表情を浮かべながらもちょっと言いづらそうに答えた。
「でももう俺たちが集会所を出てから一時間以上経ってるぞ……さすがに遅すぎるんじゃ……。」
「だが、あのキヌタニだからな……もしかしたらってこともあるだろ……。んまあ、情報の共有は明日でも出来るしな、今日はこれで解散にすっか。」
ヤムチャがそう言うと何となくその場の空気が緩んだ。
「作戦会議は終了か!!早く自宅に帰還して休息をとりたいところだが、我はアイスが食べたいぞ!あの下僕め、不本意だが我から直々に駄菓子屋へ赴いてやろう!感謝して欲しいものだ!!」
「えっと……シンタローはこれから駄菓子屋に行くそうだけど……お寺も方向は同じだし折角なら寄ってみたら?」
「そうだな、キヌタニが戻ってるかもしれねえしよ。ジョージ、ちょっと寄り道になるが俺もついてくから来てくれねえか?」
「駄菓子屋なんてあるんだな……分かった。すごく久々に甘味が食べれるのか!って俺、お金持ってなかったわ……。」
ジョージは本当に残念そうに俯いた。
「それなら安心しろ、駄菓子屋はタダで色んなものが食べれるんだぜ?……ってこの話、よしだくんが森に来たときにもしたな……。」
「ああ、懐かしい……もう二年以上も前のことなんだよな……。」
ヤムチャとよしだくんは遠い目をしていた。
「そ、それじゃあ私は帰るわね。……あ、お外……吹雪なの忘れてた……。」
「これは……ちょっと帰るのが憂鬱になってしまうな……。」
ミーシャとよしだくんは溜め息をついた。
「こりゃすごく寒そうだ……そうだな、じゃあみんなに便利な魔術をかけてやるとするか。……はあっ!!!」
ジョージは両手を合わせて念を込めた。
すると俺たちの体が異様に熱くなってきたんだ!
「な、何だか体が熱いぞ!?」
「わ、私たちに何をしたのよ!?こ、これが……魔術なの……!?」
俺たちは……特に魔術を初見のミーシャが突然の現象に困惑していた。
「これは俺がいつも使ってる、体を暖める魔術でな。この吹雪の中でも全然寒く感じないんだ。」
「なるほどな!こりゃ有り難えや!!」
ヤムチャが外に出て行こうとした時、ジョージの腹が盛大に鳴り響いた。
「ああ、そうか……体力の消費がやべえんだったか。こりゃどの道、駄菓子屋で何か食った方がいいみてえだな。」
「まあ、この前もこれの使いすぎで餓死しそうになったからな……。まあ、体も暖まったことだしそろそろ行くとするか?」
「ふん!貴様と共闘するなど気が向かんが致し方ない……我の足を引っ張るなよ!?」
とまあ、そんな感じで全員がヤムチャの家を後にした。
駄菓子屋の入り口にはいつもとは違うのだが、普段から見ていた光景が広がっていた。
「ちょっとボール!?もう閉店してるからまた明日にしてよ!!」
「そんなあ、俺はお腹が減ったんだよー!ポテチを頂戴よー!!!」
「もう!どうしてボールはそんなにワガママなの!?」
引き戸を破壊して、駄菓子屋の入り口にすっぽりとはまっているボールがキヌタニにお菓子を要求しているという構図だ。
「あーー……駄菓子屋の引き戸、もう無くてもいいんじゃねえか?」
「あの下僕め、あんな油まみれなスライムごときに手こずるなど……。」
ヤムチャと俺がいつも通りな反応をしているのに対して、ジョージは驚きからか完全に思考も動作も硬直していた。
「……え、何か……俺には、相当ヤバイものが見えてるんだが……?」
ジョージはかなり不安そうに俺たちのことを見てきた。
「悪りぃ……俺らはもう慣れすぎて感覚が麻痺しちまってるみてえだ。それにお前の魔術に比べりゃなんてことはねえんだがな……。」
「この程度で動揺するとは……臆病者め!」
「俺は満腹になるまでここからどかないからね!?」
「いや、どかないんじゃなくて自力じゃどけないんだよね!?」
キヌタニは店の内側からボールのことを押し出そうとしていたようだが、あいつの力ではびくともしなかった。
「あっはっはっは!!くすぐったいー!やめてー!!!」
ボールはただただ小刻みに揺れながら笑うことしか出来なかった。
「おい、ボール!!またお前はこんな夜遅くに……いや、何でもねえ。」
きっとヤムチャは『こんな夜遅くにお菓子なんか食おうとしやがって!』って言いたかったんだろうが、これから俺たちがやろうとしていたことを思い出して止めたのだろう。
「あっ、もしかしてヤムチャもポテチを食べに来たの?丁度良かった!!この融通が利かないキヌタニに何とか言ってy……、」
「と、とにもかくにも毎度毎度、駄菓子屋の入り口を破壊するんじゃねえーー!!」
ヤムチャはボールの体……いや、皮??をひっ掴むと馬鹿力でボールを駄菓子屋から引き剥がして自らの真後ろにぶん投げ……ようとしたのだが、あいにくこの時のボールは重すぎてヤムチャでも持ち上げることが出来なかった。
「いたたたた!!!やめてー!!太股引っ張らないでー!?」
「はぁ?ここ太股なのかよ!?腹だと思ったぞ……。」
ヤムチャは驚きながらもボールの太股らしき部分を引っ張る力を緩めなかった。
「んーとだな……これは……人間、なのか??」
「ふん!人外には人間と人外の区別すらつかないのだな!まあいい、人外でも分かるように説明してやる!あれはだな、この森が誇る最終生物兵器だ!!」
「今の言い方だと人外みてぇに聞こえるぞ……。おらよっと!!……まあ、あれだ。俺からしたらこいつは完全にこの森のお荷物ニートだがな!!」
ボールを駄菓子屋の入り口から引き抜いたヤムチャはボールを彼自身の家がある方向へとゆっくり転がしていった。
「うん?お荷物って何のこと?え……、ちょっと……そっちは下り坂なんだけどー!?あーーーー!?!?!?」
ボールは傾斜に敗北し、そのまま転がって夜の闇へと消えていった。
「えっと……け、結局あれは何だったんだ……?」
ジョージは呆然とボールの転がっていった方向を見つめていた。
「ふう……助かったよヤムチャ。あれ?シンタローと、えっと……名前忘れちゃった。三人ともどうしたの?」
キヌタニは駄菓子屋から出てくると、俺たちのことにも気がついたらしくこっちを見てきた。
「ああ、ちょっと夜食をな……って、それよりキヌタニ、後で俺の家に来るように言ったじゃねえか。ここで何やってやがったんだよ?」
「えっ?ああごめん、忘れてたよ。」
キヌタニは悪びれる様子もなくただそう答えた。
まあ、キヌタニだしな。
「全くお前って奴はよ、まあそれはいい……ゴホン、森のリーダーとして命令する。駄菓子屋を今すぐ臨時開店しろ!」
「えっ……えーーー!?!?!?!?」
閉店後に力ずくで駄菓子屋に乗り込もうとしたボールを撃退してからの、ヤムチャの行動にキヌタニは絶叫した。
「そ、そんなあ!今は仕出しをしているところなのに……。」
「あん?別に構わねえよ??お前が仕出しをしてる横で俺らは何か勝手に食うからよ。」
ヤムチャはキヌタニにグイッと詰め寄った。
俺たちに背を向けていたからその時の表情は分からなかったが、きっと泣く子もバカ笑いするような世にも恐ろしい顔をしていたんだろうな。
「ひっ!わわ、わ、分かった、よ……。」
事実、そう答えたキヌタニは顔を真っ青にして白目を剥きながら店内へと戻っていったしな……。
「よし!!アイスだアイス!!!」
「何が食えるか楽しみだな!」
「俺はあれだな、ローストビーフが食いてえな!!」
「ヤムチャ君、この時間からローストビーフかよ……若いなあ。」
俺たちは駄菓子屋の中へと歩を進めた。
駄菓子屋の中はあちこちに品物が入っている段ボールが置かれていた。
余談になるがキヌタニが仕出しをしているのを見たのは今までにこの一回きりだな。
「一応」夜は駄菓子屋が閉まっているから普段はそんな時間に行かないんだよな。
だからどこから品物を取り寄せてるかは誰も知らないんだ。
「何か……俺が思ってたのと違うな。」
これが駄菓子屋の店内を見たジョージの第一声だ。
どうやらお菓子以外のものもたくさん売られていたことが予想外だったらしい。
「んまあ、どんな店を考えていたかは知らねえが……好きなものを食うといいぞ、食いもん以外でも欲しいもんがあったら持ってけや。」
そう言うヤムチャは既にローストビーフの塊を手に取っていた。
その横ではいそいそとキヌタニが品物を商品棚に並べていたのを覚えている。
「そうなのか……ん?何だあそこは……??」
ジョージはふと、『18歳未満立ち入り禁止!!』と書かれた暖簾のあるスペースに目をつけ、そのままその中へと入っていった。
「ほう……なるほど……色々あるしちょっと試してみるか……。」
そんな声が聞こえてきて、それからゴソゴソという物音がしばらく続いてたな。
「おい?まさか……奴は魔王召喚の儀式でもしているのではないのか!?これは早く止めなければ……!!」
と、ジョージを止めようとして暖簾の先へと特攻した俺は、暖簾の50cm手前でヤムチャに首根っこを掴まれて中を覗くことが出来なかった。
「そんな儀式やってねえだろうからお前は大人しくアイスでも食ってろや!!」
俺はそのままヤムチャによってアイス売り場へと投げ飛ばされた。
「ぐべっ!?……おお、これこそ我が求めていたものだ!ムシャムシャ……!!!」
前にも話した気がするが、駄菓子屋には暖房が無かったから吹雪の夜にアイスを食べると本当に寒かった。
それでも俺だけに限らず、みんな寒いと言いながら普通にアイスを食べていたけどな。
この時はジョージの魔術のおかげで寒さを感じずにアイスを食べることができた。
ちなみにそういうわけでキヌタニは駄菓子屋の中でも冬場はいつもコートを着込んでいた。
冬場の朝に奴を叩き起こしに行くと、相当厚着をしてて……いつも六枚は服を着ていたな。
とにもかくにも、ジョージがそこで何をやっていたのかは永遠の謎……ということにしておくか。
「……おーい、ジョージ?そこの品物もいいがとりあえずは何か食ったらどうだ??」
ヤムチャは暖簾の隙間から頭を突っ込んでジョージにそう言った。
「……ん!?あ、ああ、そ、そうだった!目的を忘れちまってた!!」
少ししてジョージは暖簾で囲まれたスペースから出てきた。
45分後……。
「ぷはぁー!我は満足だぞ!!」
「これで今夜はぐっすり眠れそうだな!!ああ、ジョージも腹が膨らんだか?」
「そりゃもう一生分の甘味を食ったぞ!て言うか、一つ思ったんだが……ここがあるならわざわざミーシャちゃんがご飯作る必要なんてないんじゃないか?」
ジョージはかなりごもっともな点を突いてきた。
「んまあな、俺は実際のところ毎食駄菓子屋でも構わねえんだが……。」
「ほ、本当ならこの駄菓子屋は昼間だけの営業なんだよ!?」
仕出し中のキヌタニがここぞとばかりに口を挟んできた。
「……てなわけで晩飯だけはミーシャが作っているぞ。」
ヤムチャはキヌタニの方を向いてため息をついた。
「ふん、本当にワガママで使えん下僕だっ!!」
俺はキヌタニに空っぽのアイスの容器を投げつけた。
「痛いっ!!僕だって休む時間が欲しいのに……みんなのせいで仕出しが全然終わらないよ……。」
別にキヌタニの仕事を邪魔してた訳じゃないのに、何故かあいつは自分が忙しいのを俺たちのせいにしてきた。
「あーそうなんだな(棒)。じゃあ、俺たちは帰るとしようぜ。」
「もうかなり遅いもんな、……あ!少しだけ待ってくれ!」
ジョージは何かを思い出したように18禁コーナーへと突っ込んでいった。
そして20秒ほどで飛び出してきた。
「いやあ、すまんすまん!ちょっと持ち帰りたいモノがあったのを忘れてた!!」
その『モノ』はズボンのポケットに格納されていて何だったのかは確認できなかった。
「全く、我を待たせるんじゃない!!」
「あれ?シンタロー君、俺と一緒に帰ってくれるのか?」
「なっ、違うぞ!我の家と寺が同じ方向にあるからだ!」
「なるほどなー、ありがとうよ。(゜ω゜)」
こうして俺たちは魔術が切れないうちに駄菓子屋を後にした。
「えっと……三人のお会計、5283円は……?それに……えっと、名前忘れちゃったけど……お持ち帰りって言うかそれ、万引きなんだけど……!?」
読者の皆さんは読んでいる最中にフードデリバリーでローストビーフを注文したでしょうか?
この小説を読んでいる時間帯は人それぞれでしょうが、夜中に飯テロなど本当に重罪です。
なので深夜にはSNSで積極的に食べ物の写真をアップしていきましょう!!(???)
キヌタニは昼に働いて夜にも働いているんですね!
重労働だと言おうと思ったのですが……、
学生さんって昼間は授業を受けて放課後は部活をして夜はアルバイトをすることもあるでしょう?
社会人よりよっぽど大変じゃないですか???
そう思うとキヌタニも別に大したことないなという結論になりました。
ちなみに作者は定時より早く帰っちゃいたい根っからのニートです。
だから昼も夜も頑張る人を見ると尊敬してしまいます。
今日も皆さんお疲れ様です!あまり無理はしないでね?