3-6 住人たちの生活調査 前編
ーー前回のあらすじーー
この森に来てから一週間、フジモンは日記を書き続けていた。
そしてこの森にまつわる謎について考え続けてもいた。
この森は一体どういう場所なのか?
住人たちはどういういきさつでここにいるのか?
駄菓子屋はどうやって商品を仕入れているのか?
宇宙一の名医と称する彼にこれらの謎を解き明かすことは出来るのか?
名探偵フジモンの秘密捜査が今ここに幕を開けたのであった……!!
とりあえず、キヌタニとエリスの関係を『痴情のもつれ』などと言っている時点で期待は出来なさそうですよね!!
読者の皆さんもフジモンと一緒に100エーカーの森の謎を紐解いてみてください!!
模範解答は配りませんのでご了承ください。
12:30
シンタロー君がお昼ご飯を食べにやって来た。
「いやーーやっぱこの時間になっちゃうと腹が減るなwwww」
「やあ、シンタロー君!自宅の修復は捗ってるかい?」
「そうだなーw後一時間もあれば終わるだろwwて言うかもう外壁の装飾とか家の中のレイアウトくらいしかやることないから実質終わったようなもんだぜww」
そう言ってシンタロー君が床に落ちている売り物の中から手に取ったのはサイダーで、アイス売り場から取り出したのは徳用のバニラアイスだ。
「やっぱ昼飯はこの組み合わせだなーwww……ガツガツガツ!!」
そう言って彼は背中の水鉄砲……?からいちごジャムを発射してアイスにかけるとがっつき始めた!
えっ???
これが……いつものお昼ご飯なのかい!?
「し、シンタロー君……?もしかして毎日こんな食生活をしているのかい??栄養が偏ると体調にも影響が出てしまうよ!?」
僕は医者として彼にアドバイスさせてもらった。
これじゃあ30歳を前にして糖尿病待ったなしだよ!?
「んなこと言ってもなーww料理はミーシャしか出来ねえし、もう六年くらい朝と昼は駄菓子屋でお菓子食う生活してるから慣れっこだぜ?www」
「ろ、ろくねん↑かー→ん!?ど、どうしてそんな健康体でいられるんだい!?」
しょ、衝撃的すぎる……衝撃が強すぎて変な声が出てしまったね……。
普通ならばとっくに体がボロボロになっててもおかしくないよ!
「料理が出来なくてもここのお総菜とかを食べていた方が体に良いと思うよ!」
僕は体に良さそうな売り物はないのかと売り場を見て回った。
だけど……。
「どうしてここの駄菓子屋はこれだけ豊富な種類のお菓子が揃っているのにちゃんとした食べ物が売ってないんだい??」
この疑問を店主にぶつけてみた。
本当に不思議なんだよね。
薬とか文房具、お菓子やお酒はハイクオリティな品揃えなのに食事のおかずとなりそうなものは一切ないんだ。
「そんなこと言われても……仕入れられないからだよ。」
えーと名前、なんだったっけ?
まあいいや!
店主は小さな声でそれだけ返事をしてきた。
「そんなに心配するなってフジモン!w俺たちの体はもうとっくにこの食生活に慣れてんだwwさーて、腹ごなしに散歩と行くか!じゃーなー♪www」
シンタロー君はいつの間にかアイスを食べ終わっていたみたいで、それだけ言い残すと店主には一言も声をかけずに去っていってしまったよ……。
しかし、また疑問が一つ増えたね……。
彼らの無茶苦茶な食生活でどうしてあれだけ健康でいられるのか……医者としても考えがいがありそうだ!
もしかしたら論文を書くいい材料にもなるかもしれないしね!!
13:00
さっき浮かんだ疑問は一旦置いといて、僕は駄菓子屋に売られている食べ物を確認し、それからどのような栄養素が不足するのか分析を始めたんだ。
……と言っても脱出ポッドが落ちてきた影響で商品棚が滅茶苦茶になったままだから、床に散乱した売り物をいちいち拾って確認していかなきゃならない。
「うーん、売り物のバリエーション自体はすごく良いから気を付けて食事をしていれば駄菓子屋に売られているものだけでも栄養は偏らないのか……?」
意外だったけど……だからって彼らの健康が保証されるわけじゃない。
「ねえ、……えーっと、店主!各商品ごとの売り上げデータとかってあるかな?」
売り物のバリエーションがいいからと言って、彼らがいつも同じものばっかり食べてるんじゃ意味がないからね。
「売り上げデータって……フジモン、さっきの報告会でも言ったよね?みんなお金を払わないから売り上げは合計で0円だよ……。」
ん?お金は払わないってどういうことだい?
あ……。
そう言われればシンタロー君、さっきのサイダーとアイスをタダ食いしてたね……。
でもそれは店主がちゃんと請求しなきゃダメなんじゃないのかな?
「でも大体みんなアイスとお酒とおつまみばっかり食べてるかな……?たまにケーキとかお団子を食べてることもあるけど……。それから……もう忘れてるみたいだけど、僕の名前はキヌタニだよ。いい加減覚えて欲しいなあ……。」
あ、そうそう!キヌタニ君だ!
って、それは別にいいんだよ。
売り物としてはあるけど食べてはいないのか……。
「そうだな……だとしたらサプリメントの類を飲んでもらった方がいいかもね……。キヌカス君、仕入れてもらうことは出来るかな?」
「サプリメントくらいなら別にいいけど、みんなめんどくさがって飲まないと思うなあ……。それから名前のこと……もう突っ込まなくていい?」
名前……何のことだい?
そんなことよりもサプリメントですらダメだとしたらどうしたものか……また別の機会に考えるとしよう。
13:30
今度はくじらん君とミーシャ君がお昼ご飯を食べにやって来た。
「あ~~~じゅがれたあ~~。もう帰って寝たいわ~。」
ミーシャ君はアイス売り場のワゴンの上で仰向けに寝転がって丸10棒を咥えている。
お行儀が悪いけど……指摘したら怒られそうだからやめておこうかな?
「そんなに力仕事ってわけじゃないのに正直しんどいよね……フジモンとよしだくん、よく何日もこの作業を続けられたよ……。」
くじらん君もハイパーカップ(抹茶味)を齧りながらそんなことを言う。
もうそこまで猛暑という気候でもないけど二人とも汗びっしょりだ。
「まあこの森が大変な目に遭ったのは僕のせいだし……僕が一番頑張らないといけないからね。……それはそうと君たちもお昼ご飯はいつもアイスなのかい?」
「ふぇ……?私は基本そうだけど、それがどうかしたの??」
「俺はポテチを食べることもそこそこあるよ、アイスも好きだけどね。」
うーん、やっぱりこの二人もか……。
別に目立って体調が悪そうとかいうことはなさそうだけど一応聞いておこうかな。
「二人とも食生活があまり良くないようだけど体調が悪くなったりすることはないかい?」
「私はないわねー。」
「うーん……俺はいかがわしいことを考えるとすぐに鼻血が出ちゃうんだ。これは食生活が偏ってるせいなのかな?」
い、いかがわしいことで鼻血……?
それは何だか違う気もするけど、本当にそうなのかは調べてみないと分からないな。
「じゃあくじらん君、ちょっと診察するから時間をくれないかい?」
「あっ、診てくれるんだ?じゃあフジモンの診察を受けてみようかな。ミーシャは先に戻っててよ、後から行くからさ。」
「え~……私ももうちょっと休んでたいんだけどー……。」
ミーシャ君はワゴンの上から動こうとしない。
よっぽど疲れているんだろうか?
「せっかくだからミーシャ君も健康診断ってわけじゃないけど僕の診察を受けるかい?」
「いや、別にいいわよ。治療とか言ってそれこそフジモンにいかがわしいことされそうだし。」
なっ!?僕にいかがわしいことを……!?!?
真顔でそんなことを言われるとさすがにショックだよ……!?!?
「な、何を言うんだい!僕は名医だからそんなことするわけないだろう!?」
「いや、名医なの関係ないでしょ。どっちかって言うと診察を受けるよりもどんな診察をするのか気になるから見ていたいわ。」
そうか……授業参観ならぬ診断参観か。
じゃあ張り切ってやらないとね!!
それで、色々調べてみたんだけど……。
「体質……のような気がするけど念のために詳しく検査した方が良いかもしれないね。また別の日に色々診察させてもらってもいいかな?」
「もっと色々調べるんだ……。お医者さんにこうやってかかるの初めてだからドキドキしたよ。今度の診察が楽しみだなあ……。」
くじらん君……僕の診察を楽しみにしてくれるなんて!!
ここに来る前は『病院なんて嫌だ!お前の診察なんて受けない!!』なんて散々患者に言われてきたからすごく感動するものがあるよ!!
「ふーーん、名医とか言う割にはやってることが普通でショボいじゃない。瞼の裏を見たり背中トントン叩いたりって誰にも出来そうなことばっかだし。」
「そんな!医者と素人じゃやってることの見た目は一緒かもしれないけど本当は全然違うのさ!!」
「へーーー、じゃあそういうことにしておいてあげるわ。まーー、名医が自分で名医だなんて言うことはないと思うんだけどねーー。」
ミーシャ君は辛口だなあ……。
「でもスタークが生き返っちゃったのは普通に凄かったよね!」
「確かにそうなのよ。まさかスタークをあの状態から復活させちゃうなんてね……。その功績は素直に認めてあげないといけない、か。……さてと、もう十分に休憩したしそろそろ仕事に戻るとしますかねー。」
「随分と時間が経っちゃったなあ。それじゃフジモン、また晩御飯の時にね。」
「ああ、後でね!」
さてと、僕も自分の仕事をしないとね。
……と言ってもキヌタニ君を見張るだけなんだけどさ。
14:00
そして次のお客はチッダールタだった。
「チッダールタ、小腹でも減ったのかい?……って、スターク君!?まだ出歩いちゃダメじゃないか!!早く廃寺に戻って安静にしてるんだ!」
どうしてスターク君まで……!?
随分と元気そうなのはいいことだけど、そんな勝手なことしてもらっちゃ困るよ!
「あっ……スターク……お前、アイス代800万……。」
って、キヌカス……じゃなくて……?
えっーと……店主、も小さな声でスターク君に呼び掛けた。
ん、ちょっと待ちたまえ!?
800万……!?アイス代だけでそんなに請求するなんてそんなの横暴じゃないか!!
「うるせえんだよ!躾のなってねえペットだな!!代わりに俺様がしつけてやる!ワンワン吠えてねえで黙ってお座りしてやがれ!!」
「ひいっ……!?ゆ、許して……!!」
スターク君にそんなことを言い返されて店主はその場で頭を抱えてしゃがみこんだ。
そりゃアイスのツケだけで800万って怒るのも当たり前だよね。
確かにペットみたいな扱いにも見えるような……。
だけど……それでもスターク君の怒りは収まらない。
「おい、このデブ医者!!……いや、ヤブ医者!!……違う、デブヤブ医者!!お前、俺に何をしやがった!?おかげで変な幻覚が見えるようになっちまったじゃねえかよ!!今もあそこで穴空きラムネをピーピーさせて、イルミネーションをギラギラ光らせた自己顕示欲にまみれてる頭のおかしいジジイの姿が見えてんだ!!この責任、どう取ってくれるんだよ!?」
ぐっ!?い、いきなり掴みかかってくるなんて!?
って、デブヤブ医者……?
名医に向かってなんてことを言うんだい!?
「ちょっ!そ、そんな乱暴な真似は止めるんだ……!!と、と言うかそもそも幻覚って何のことだい……!?君の言う、ラムネをピーピーさせているチッダールタなら確かに僕らの前に存在しているよ?ほら、あそこに……。」
「ああ!?!?あんなイルミネーションでギラギラな服なんて着てるジジイ、現実に居てたまるかよ!!つかいつまで寝ぼけてんだ、そんなに眠いなら俺が永眠させてやろうか!?!?」
そ、そんな縁起でもないことを言うんじゃないよ!!
って……何か違和感があるけども、まさかスターク君とチッダールタって面識がないのかい……?
「ピーピー……フジモンも言っているだろう。私は実在するおじいちゃんだ。さて、ラムネも手に入ったことだし私はそろそろおいとまするとしよう。」
ちょっ……チッダールタ……?
話をする暇もなく駄菓子屋から出ていっちゃった……。
「おい、待てよ!!……待ちやがれー!!」
あっ!!スターク君も追いかけて……一体何だったんだろう……?
まだ怪我も完治してるわけもないだろうから安静にしていて欲しいんだけどな……。
しかし本当に元気そうでよかった。
「スターク君、本当に回復力が凄まじいね。あんなに生活状況が良くないのに……いや、それだからこそ生き残れるように体が適応したのかな?き……き……店主、どう思う?」
「そんなの……知らないよ。スタークのことはみんな嫌いだから……。」
「えっ?スターク君嫌われてるのかい!?確かに人を寄せ付けない感じはするけどね……。」
うーん、でもさあ……どっちかって言うと誰からも売り物のお代を払ってもらえない店主の方が嫌われてる感じもするんだけどなあ?
作者もケーキが好きでカントリーマ〇ムも一日十個くらい食べてます……。
一人暮らしを始めてから生活費を計算してみたら食費の三割がお菓子代でした……!!
次の健康診断が怖いです、皆さんも極力医者の世話にはかからないようにしましょう……。
それにしてもフジモン……二章では外科の医者だと思わせて今度は栄養士だの、内科医だの、色々できるようですよ。
宇宙飛行士にもなっていますが、次は何になるんでしょうか?
読者の皆さんも掛け持ちしたい職業はありますか?
今の時代は経済が不安定ですからね、出来る仕事が多いに越したことはないですよ!
ちなみに作者はニートと地底探検家を掛け持ちしたいです!
小説家は……別にいいかな。(小声)