0-6 ようこそ!!
ーー前回のあらすじーー
送電塔を電波塔へと改造したヤムチャとよしだくん、彼らはポケベルでメッセージを送り合いつつ、駄菓子屋へと向かった。
駄菓子屋でよしだくんは偶然にも手に取ったリコリスにはまってしまったようで……ミーシャの料理を食べた時と言い、実はバカ舌なのではと思わせるような行動が目についた。
そしてヤムチャは駄菓子屋の18禁コーナーで好奇心が暴走し、よしだくんにトラウマを植え付けてしまった……どんなトラウマか、そんなものは読者諸君の想像に委ねるしかあるまい。
まあ、いつもと違う環境に置かれるとどこか暴走してしまう人っていますよね。
普段は大人しいのに研修旅行とかに行くと、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃう人とか……。
自らを抑えすぎるのは良くないってことです。
読者の皆さんももっと自分をさらけ出していきましょー!!(作者はもうちょっと抑えよう?)
「バカバカバカバカー!!この変態!アホ!!死んじゃえーーっ!!!」
宵の口、集会所で殺意に満ち溢れたミーシャはヤムチャに向かって中華包丁を振り回していた。
「い、いやいや!!ほ、ほんの出来心だったんだ!!悪気なんてないぞ!!!!」
ヤムチャは弁解をしながら包丁の連撃を必死にかわしていた。
何のことかと言えば、昼間ヤムチャが俺に18禁コーナーで行ったやりすぎな悪戯の話だ。
そして被害者の俺は……恐怖こそ感じてはいたが、何をされたのかもいまいちよく分からなくて呆然とただただ椅子に座っているだけだった。
と、突然バカーン!という破壊音がしたと思ったら入り口のドアが勢いよく開いて、ガチャリと閉まった。
「ハハハハー!!我が来たぞー!貴様ら頭が高ーい……ん?ヨシダ??貴様何やら生気を損なってるようだな……あっ!!つまりこれは粛清するチャンスか!?」
そちらを見ると昨日と同じ中二病をこじらせた格好でシンタローが右手を眼帯に、左手を自分の目先に伸ばした決めポーズをとっていた。
「え……えーーっと……。」
「言い訳など聞かんぞ!悪魔の手先に情けなど無用だ!!いざ、勝b……がはっ!!」
と、再び彼の背後のドアが勢いよく開いてシンタローの後頭部を強襲した。
「あっ……シンタロー、ごめん……またここで決めポーズとってたの……?」
「ぐっ……我が……下僕め!このシンタローに逆らうつもりかっ……!!」
言わずもがなこの犯人は残りの住人であるキヌタニだ。
そして当時、キヌタニはシンタローに下僕扱いされていたらしいな。
シンタローは頭を押さえて地面をのたうち回った。
「バカ!クズ!ゴミ!セクハラっ!!……ああっ!!包丁が飛んでっちゃったー!!!」
一方、ミーシャの振り回していた包丁は手からすっぽ抜けたらしく空中を舞っていた。
その包丁は俺の頭上を越え……、
床を転がっていたシンタローを越え……、
「ぐぎゃあっ!!!きゅうぅぅぅぅ……。」
入り口で棒立ちになっていたキヌタニの脳天に柄の部分がヒットした……。
そんな奇襲を受けたキヌタニはそのまま白目を剥いて後ろにひっくり返ってしまった。
「ホッ……変な所に刺さらなくてよかったー!キヌタニは……まあキヌタニだからいっか!」
「そうだな、キヌタニだからな。」
ミーシャとヤムチャはさっきとうって変わって平和的な顔をしていた。
もう言う必要もないだろうが、キヌタニはこの時からこんな感じの扱いだった。
……さすがにエリスが来る前よりはマシだったけどな。
「はいっ、今日は夏野菜の鍋とシマリスの串焼きよ!!」
「おおっ、今日はすごく旨そうだぞ!!」
「なんと豪華な晩餐!!これで血の渇きが癒せるぞ……!!」
本日の食卓が出てくるとヤムチャは目を輝かせ、シンタローも言っていることはよく分からないが上機嫌のようだった。
ちなみにキヌタニは……集会所の隅っこで寝かされていたはずだ、今と何にも変わらないな。
「おーい……だ、大丈夫なのかしら??やっぱりヤムチャに酷いことをされたから、ショックが大きすぎて……!?」
「いい、いやいや、あれは本当に軽いスキンシップで……そそ、それよりヨシダ!みんなにポケベルの使い方を教えてやってくれやしねえか??」
ミーシャは心配そうに俺の顔を覗きこんでいたが、その『ポケベル』という単語に反応して死にかけていた俺は息を吹き返した。
「はっ!!!は、はい!ポケベルですね!!」
俺はポケットから取り出したポケベルを二人にも配った。
「んー?これがこの前言ってたポケベルなの?随分と小さいのね。本当にこんなんでメッセージのやりとりが出来るの?」
ミーシャは疑わしそうにポケベルを手に持って見ていた。
まあ、機械に触れたことのなかった彼女なら無理もない反応だったと思う。
「ほう?これは互いにやりとりをするカラクリなのか……はっ!!ま、まさか貴様!これで魔界と通信をしているのか!?そそ、そしてこれを我らに配ったということはこの森ごと我らを魔王の仲間として取り込むつもりか!?そんな稚拙な策には引っかからんぞ!!!!」
シンタローは興味ありげにポケベルを眺めていたが、また突然よく分からない妄想に取り込まれたのかポケベルを俺に投げ返してきた。
俺はそれを慌ててキャッチした。
「シンタローは何バカなこと言ってるの?……えっと、これどうやって使うのか教えてくれない?」
と言うわけで食事をしながらミーシャにはポケベルの使い方を一から教えたが……やっぱりヤムチャと同じで機械に慣れてないせいか随分と時間がかかった。
「えっと……これを……こうして……えいっ!!」
ピロピロピロとヤムチャのポケベルが鳴った。
「おっ、ミーシャもメッセージを送ることが出来るようになったみてえだな。……ん?何だよ!このメッセージは!?」
ヤムチャがそう吠えたので俺は彼のポケベルを覗きこんだ。
すると画面には『ヤムチャノヘンタイ!!』と映し出されていた。
「こうなったらこっちも送り返してやらあ!こう……こうで……おらあっ!!」
今度はピロピロピロと鳴ったミーシャのポケベルがメッセージを受信したようだ。
俺はミーシャのポケベルの画面を覗きこんだ。
そこには『ミーシャノバカヤロウ!!』とあった。
「な、何よぉー!!負けないんだからー!」
二人は負けじとメッセージを送り合っていた。
『ヤムチャノゴミカス!!』
『ミーシャノポンコツ!!』
『ヤムチャノヒトデナシ!!』
『ミーシャノアホンダラ!!』
半ば楽しそうにそんなやりとりをしている二人を、少し離れたところから羨ましそうに見ている者があった。
「ぐぬぬぬぬ……よ、ヨシダ!我にもそれの使い方を教えるのだ!我の力を持ってすれば魔王などに取り込まれることもあるまい!残念だったな、ハハハハハ!!!」
シンタローは笑いながら俺の持っているポケベルを指差した。
「えっと……ポケベル、使ってみたいんですか?」
「なっ!?ななな、なな、何を言うか!わ、我は敵がどのような道具を使ってるのか調査するだけで……て、敵情視察だっ!!」
子供ながらにもシンタローは実のところ興味津々なんだろうということは何となく分かった。
「そ、そうですか……じゃあ存分に視察してください。」
「な、何だと!?この程度知られてもまだ余裕だというのか……!お、おのれ!あまりバカにするでないっ!!」
で、そのシンタローだが随分と飲み込みが早くて、15分もすると完全に使いこなせるまでになっていた……やっぱりあいつは昔から色々と器用だったよ。
「ちょっと、シンタロー……『ワレハサイキョウダゾ!!!』って本当にイタイんだから……。」
「なっ、ヤムチャめ!我に『シンタローノチュウニビョウ!』などというメッセージを送るとは……生きてこの建物から出れると思うな!!!」
そんな楽しそうな三人を見て俺はこんなことを考えていた。
まだ、何か足りない……。
メッセージを送り合うだけではまだ不十分だと。
他にまだ俺に出来ることがある気がしたんだ。
彼らがポケベルに夢中になっているのを見ていたら……、
改良をして新しい機能をつけたら、また今のように楽しそうにしてくれるだろうか?
……なんて思ったりして開発欲がとてもとてもくすぐられたよ。
そう、これがポケベルに通話機能をつけようと思ったきっかけだ。
……いや、もっと言えば……この森で今まで行ってきた全ての研究の原動力と言ってもいい、大げさなんかじゃないさ。
チャットができるパソコンも、モーターを利用した洗濯機も、井戸とみんなの家や集会所の蛇口を繋げた給水ポンプも、今、開発中の試作品も全部そうだ。
研究所では俺が研究をすることを良く思わない連中ばっかりだった。
でもここでは違った。
俺がこうやって電波塔を修理してポケベルを使えるようにしただけで人を笑顔に出来た。
開発欲をくすぐられただけじゃない、俺自身がとても幸せだということに気がつき始めたんだ。
「なあ、ヨシダ?」
と、突然ヤムチャがポケベルを操作する手を止めて俺に話しかけてきた。
ミーシャとシンタローも何故かこちらを見ていた。
「はい、何でしょう?まだポケベルの操作で分からないことがありましたか?」
「いや、ポケベルの話じゃねえんだ。ちょっと一つ言い忘れていたことがあってな……この森じゃあ敬語は禁止にしてんだ、堅っ苦しいからな。」
「でもちょっと呼び捨てで敬語も使わないのは私としては何か嫌なのよ。だからね、これからは『よしだくん』って呼ばせてもらうわ!」
「『よしだくん』とはフレンドリーな印象があってなかなかにいい響きだろ?我も貴様の粛清を躊躇ってしまいそうだ!」
……どうやらこの三人、俺にこの会話を聞かれたくなくて、そのことについてずっとポケベルで話し合っていたらしいな。
「よしだくん……いい呼び名ですね……だな!気に入りました……じゃなくて、気に入った!!」
俺は慣れないタメ口を頑張って使った。
「決まりだな!!よしだくん……改めて、今更過ぎるが……お前すげえよ!電波塔も綺麗になっちまったし……ポケベルもありがたく使わせてもらうぞ。それから……これからもこの森に住んで有益な物を作ってくれねえか?」
「あ……!はい!もちろんです!いや……もちろん……!!」
俺がこの森に定住することをみんなが認めてくれたことが分かって俺は肩の荷が下りた気がした。
「ふふっ、これからよろしくね!!それじゃあ……せーのっ!!」
「「「ようこそ、100エーカーの森へ!!」」」
1990年7月のことだった……。
これが俺、100エーカーの森のよしだくんが誕生した瞬間だ。
過去編第1話
過去を失くした子供たち END
これでよしだくんの過去編は終わりです!
100エーカーの森がどういった場所なのか少しだけ明らかになりました。
何故これほど住人が少ないのか……と言う質問は今後受け付けないのでご了承ください。
意外かもしれませんがこの物語は割と昔のことなんです。
1990年なんて作者も生まれてないです(5年後(本編)でもまだ生まれてねえ!!)……。
1995年にポケベルで通話ができたって冷静によしだくんすごい……。
ガラケーもまだ発売されてなかったらしいので( ゜Д゜)
もう機関銃を背負ってないミーシャは当分登場しません……。
癒し成分を求めている読者の方はお手数ですが他をあたってください……。
次回はモン〇ン回です!!
読者の皆さんも一狩りしてから次回を読んでね!!
さもないと作者が皆さんを狩ります。
剥ぎ取ってその生肉を肉焼きセットで焼いて食べられたくなければ……分かりますね?