1.5-21 夜の電波塔
ーーRPGの後日談ーー
冒険を終えたミーシャ、エリス、ボールはある日のこと、パーティーメンバーであるよしだくんの家を訪れていた。
そして彼らは完全に忘れていた……ダンジョンはどこに潜んでいるか分からないということを!
油断していた冒険者たちは悪意無きよしだくんの発明品の前に、為す術なくただ膝をつくことしかできなかった……。
全滅した彼らはよしだくんの手によってアンテナの取り付け作業をさせられる奴隷となり下がってしまったのだった……。
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ダンジョンがどこに潜んでいるか分からないのは何も小説の世界だけの話ではありません。
例えば……新宿駅!
何の下調べもなしに行くと恐らく一生出ることが出来ず、余生をそこで過ごす羽目になるでしょう。
(このくだり、以前にもやりましたね……。)
なので、読者の皆さんは間違ってダンジョンに足を踏み入れないようにしっかり前を見て歩きましょう!
あ、今映っている画面(PC or スマホ)の向こう側の世界(本編)はれっきとしたダンジョンですよ!!
「さあ、ついたついた!!」
「「「ついたーあ……。」」」
よしだくん以外は元気がまるでなく干からびたミミズのようになっていた。
「あーもう疲れた…………、これが電波塔なんだぁ。よく見えないけど…………。」
エリスは月明りを反射して薄暗くも何とか見える電波塔のシルエットに頑張って目を凝らした。
「それにしても私だって電波塔なんて来るの久しぶりだわー……。」
ミーシャも暗い中に寝転んで電波塔を見上げた。
「まあ、普段は用事の無い場所だろうからな。だが、この電波塔からみんなが使っている電気も供給されているから、この森にとってものすごく大切な場所なんだぞ?どういう仕組みで発電しているのかいまいち俺にも分からないが……。」
よしだくんは神妙な顔つきで言った。
「でもこの鉄塔はすごく昔からあるよね?俺でも知ってるよ。」
「そうよねー、まあ、一昔前までは電波塔としての役割なんて果たしてなかったけど……。ほんとーに、誰が何のために建てたんだか。」
ミーシャは寝返りを打ち、ボールもそれに倣って地面に寝転がった。
「だが、建てられた当初からその機能は備わってたみたいなんだ。もしかしたら、ずっと前に電波と電気の供給をしていたが電波を使うことがなくなって、発電所としての役割だけが残ったのかもな。」
「へえー、ただの鉄の塊だと思ったらこの鉄塔、結構すごいのね!……よく見えないけど。」
エリスは電波塔を見上げたまま微妙な表情をしていた。
「電気がないとみんな生活できないだろ?だからこの電波塔は森にとって、無くてはならないものなんだ!!……そうそう、こういう時じゃないと見せられないものがあったんだった!!」
よしだくんはそう言って胸を張った。
「どうしたの?急に??」
「実はこの電波塔、少し前から夜にライトアップできるようになったんだ!駄菓子屋からイルミネーションをたくさん貰って(買ってない)飾り付けてみたのさ!!じゃあ今からスイッチを入れるぞ!!」
よしだくんは電波塔の真下に向かうと、そこにある制御盤のようなものを操作した。
すると…………バッ、と目の前が明るくなった!
それまでぼんやりとシルエットしか見えなかった電波塔が七色に輝き出したではないか!!
「これは……すごいや!!」
「わーー……きれいきれい!!」
「何だかクリスマスみたーい!!すごいすごーい!!」
三人とも鋼鉄のクリスマスツリーを見上げて歓喜した。
「どうだ?夜にしかこんなことできないし、電波塔なんて見せる機会も無いと思ってたが、やっぱりこういうこともやってみるもんだな。」
よしだくんも三人の元に戻って来た。
「できれば、スタークと一緒に見たかったな……………って、ああああああーーー!!!???」
エリスはいきなり絶叫して電波塔のてっぺんを指差した。
「あっ。。。」
「えー……。。」
「何でだよ。。。」
他の三人も指差された方向に視線を向けると、全員が複雑な顔になった。
「「「「き、き、キヌタニーー…………。」」」」
そう、電波塔の頂点にズボンの裾が引っ掛かり、全く持って需要のないパンチラを晒した状態で逆さ吊りになり、白目を剥いてびくとも動かないキヌタニがそこに君臨していた。
「あ、あのキヌタニが……一体どうやってあんな所まで一人で登ったって言うんだ!?!?」
恐らくは昨晩の寝床盗り合戦のせいだろうが、誰一人として原因を分かっている者は居なかった。
「と、とりあえずは奴をあそこから下ろさないとな、アンテナが付け替えられないぞ!!」
よしだくんは電波塔の足場を登ろうとしていた。
「よしだくん、待つのよ!……これはゴミ店主を始末するいいチャンスじゃない??顔を見てたら無性にムカついてきたのよ!!」
エリスはテンションを爆上げさせながら立ち上がった!
「ミーシャ、機関銃借りるわね!!」
そしてその言葉通り、エリスはミーシャの寝転んでいる背中から機関銃を引ったくり……
「ちょちょちょーっ、とーー!!!???」
「死ねぇーー!!ゴミ店主ーー!!!!」
むやみやたらに弾丸をぶっ放した!!
輝くクリスマスツリーの根元で爆音が鳴り響き、電波塔はみるみるうちに被弾していった!!
「おいおい!!多少は平気だろうがあんまり撃つと電波塔が破損してしまうぞ!!」
「そ、そうだよ!!せっかくのイルミネーションも壊れちゃうし!」
「いや!まずは私の機関銃返しなさーいっ!!!」
可哀想……でもないが誰もキヌタニの心配をしてくれなかった。
と、200発くらい撃ったところで、よしだくんがボールに刺していた例のドリルを撃ち抜いたらしい。
すると、その部分からバシュー!!と音を立てて特大の火花が噴き出した!!
そこから間髪入れずに火花が電波塔の至る地点から飛び散って、さらには電波塔から伸びている電線の至る箇所からバチバチと雷のように電気が漏れてきた!!
今度はイルミネーションの明かりが落ちたかと思うと、続いてよしだくんの家の中や遠くに辛うじて見える駄菓子屋の明かりが消えてしまった!!
「こここ、これは、ま、さ、か……。」
「え、え??き、キヌタニの呪いとか!?」
怯えるよしだくんに慌てたボールが聞き返した。
「そ、そんな雑魚いものじゃない!!電波塔の内部で回路が焼き切れて電波と電気の供給が止まったらしい!!!こりゃ、隅から隅まで直さなきゃならないぞ!!!」
「えっ!?それって直すのにどの位かかるのよ!!??」
顔色がとっくに青色を通り越して緑色にまで変わったよしだくんに、ミーシャが腕をブンブンと振り回しながら尋ねた!
「どれだけ頑張っても完全復旧までは二週間……に、二週間ーーー!?!?……お、おしまいだあーーー!!!!!」
よしだくんは自分の言ったことに自分でショックを受けて口から泡を吹き、後ろにひっくり返ってしまった!!!
「もーー!!!この状況、どうする気よ!?二週間も電気無しで過ごせっていうの!?」
ミーシャは機関銃をエリスから取り戻してギャンギャンと喚いた。
「そ、そんなあ!?だってこれはキヌタニが悪いんじゃ……。」
「問答無用!!」
ミーシャは機関銃をぶっ放……そうとしたのだが、
「た、弾切れ!?……そういえば今日一日でかなり撃った気が……じゃないわ!!どうしてくれるのよー!?」
ミーシャのすさまじい殺気をエリスは本能的に感じ取ったのか、大急ぎで林道を駆け抜けて逃走した!!
「このーっ!!ヤムチャみたいに銃口、その減らず口に突っ込んでやろうかーー!?」
「やだぁーー!!!ヤムチャに突っ込んだ銃口でしょ!!それ!!!!!そんなもの絶対に嫌ぁー!!!てっ、言うかっ、ミーシャ足速いー!!!」
「あんたが遅いのよ!!……つーかーまーえーたー!!!♪」
「えっ!ちょっ!!許してっ!!……いやああああーーー!!!!!!!」
遠くからエリスの悲鳴が聞こえきた。
そんな悲鳴を聞きながら……ボールは気絶したよしだくんを肩に担ぎ、そして真っ暗な林道を歩きながらこう呟いた。
「この二日間……ものすごーく刺激的だったな……きっと家に引きこもってたらこんな経験できなかったんだろうなあ……。」
ボールはよしだくんのめちゃくちゃに散らかった家の中で真っ暗な中、ベッドを手探りで探してそこに彼を寝かせておいた。
そして家の外で座り込んだ。
「事故とはいえよしだくんには感謝しかないよ……。ニート……辞めてよかった……。」
森の住人たちの騒ぎを聞きつけて昼だと勘違いした蝉たちが少し困惑気味に鳴いていた。
第1.5章 ツアーガイド(我が真名はゲームマスター!!)の極意
NOT END!
電線に凧が絡まって大変なことになったという事例もありますが、間違っても送電塔に機銃掃射などしてはいけません。
大停電なんて起こしたら何億払う羽目になることか……!!
エリスのせいで完全に壊れてしまった電波塔……よしだくんは無事に直せるんでしょうか??
その結末が分かるのはもう少し先のお話になりそうです。
さて、エリスはミーシャに捕まってしまった後、どうなってしまったのか……?
機関銃の銃口を嫌がっていましたが……続きはご想像にお任せします。
これでツアーは終了ですがまだボールにはやらなければならないことがあります。
それから駄菓子屋でゴミ袋に突っ込まれてしまった二人組もこのままで終わるわけもなく……。
次回がようやく1.5章の最終回となります!
広がりまくったお話の風呂敷を畳まなきゃいけない、作者にとっては罰ゲーム回です(´;ω;`)
ちゃんと物語のお片付け全部終わるかな…………?
終わらなければ続くだけなので……ハイ、嘘です、終わらせます。