1.5-13 寝相が悪いので罰ゲームです
ーー前回のあらすじーー
森の住人たちは晩御飯を食べようと集会所にやって来たが、この日は先客がいた。
何とレアキャラであるキヌタニが待ち構えていたのだ。
だが彼はただそこにいることすら否定され、RPGに参加することも認めてもらえなかった。
さらにはクイーンサイズのベッドを住人たちが取り合っている中で、ただ一人ヤムチャに、それも無意識に場外へ蹴り飛ばされて夜の闇に消えていった……。
アン〇ンマンやポケ〇ンで悪役が空に吹き飛ばされるシーンがお約束でありますよね。
あんな感じで一瞬にして移動出来たら便利だと思ってしまいます。
殴られるだけで目的地にひとっ飛び出来たら交通革命が起きることは間違いなし!
ヤムチャに殴られてみたい方は本編で殴られてきてください!
※そんなシーンは今回ありません。
翌朝……
「いたた……もう身体中が筋肉痛よぉ……。」
エリスは背中を押さえながらカップアイスの容器を覗きこんだ。
だが、どれだけ見つめ続けても中身は空っぽのままだった。
「本当よ!あのまま四人とも寝ちゃうんだもの、呆れたもんだわ……。」
ミーシャも棒アイスを咥えながら肩を回した。
四人はいつも通り駄菓子屋でアイスを食していた。
昨日のうちにキヌタニが品出しをしていたのだろう、商品はちゃんと棚に補充されていた。
朝、最初にシンタローが目を覚ますと、全員ベッドの下に転げ落ちていた。
誰の寝相が悪くて、誰が誰を蹴落としたかは全くもって謎に包まれていた……。
「でもみんなで寝るのも楽しかったなww……あんま寝れなかったけどww」
シンタローは首をバキバキと鳴らしながらトルコアイスをネバネバさせた。
「なんだなんだ?お前らそんなに寝られなかったのか?」
ヤムチャはいつも通りシャキッとしていて、筋肉痛なんて言葉は全く似合わなかった。
「むしろどうしてあんたはあの環境でグッスリ寝れるかねえ……。」
ミーシャはアイスの棒でヤムチャの額をつついた。
「別にベッドから落ちることなんて珍しくもねえからな……………………あー……。」
ヤムチャは口を開けたまま硬直した。
「…………ん?ちょっと……それどういうことよ?一体どれくらいの頻度で落ちてるわけ!?」
ミーシャがその無防備な口にアイスの棒を突き刺した!
「うごっ!!……ゲホッ!……い、いやww五日に一日くらいは落ちてない日だってあるぞwwガハハハハハ!!!」
ヤムチャはむせつつも慌ててシンタローの口調を真似て否定した。
「うん、何か言い残すことはある?」
いつの間にかミーシャの両手には、昨日シンタローに突き刺さっていたナイフが五本ずつ構えられていた。
「ちょっとこれは制裁が必要だな!!wwww」
シンタローも両手に七本ずつナイフを構えた。
「よぉーし!私もやるぞー!(σ*´∀`)」
エリスも三本ずつナイフを持った。
「いやいや!別に俺が蹴落とした証拠なんて……おいおい!いきなりナイフを投げるな!!こら!話を聞k……中華包丁は反則だー!!話せばわか……やめろぉーー!!!!」
機関銃の弾は避けられても、三方向からの殺意に溢れたナイフはさすがのヤムチャでも避けることができなかったようだ……。
「ハイ、と言うわけでだな……今日はボールの家の跡からツアーを再開するわけだが……。」
「ククククク……」
「フフフフフ……」
「wwwwwwww」
「や、やばすぎるって……!」
ようやく目覚めたボールとよしだくんも加わり、身体中にナイフの刺さったヤムチャが一同を取りまとめているが、彼が話していると至る所から笑い声が聞こえてきた。
それは彼が先程罰として無理矢理着せられた、サイズの合わない売り物のメイド服のせいであった。
「静粛に!……な、なぜ潔白な俺がこんな目に……。」
「何が潔白よー!……フフフ……早く……プッ!続けなさいよ。」
エリスは笑いを堪えながら喋った。
「すげえ惨めなんだが……とりあえずだな……ツアーを再開するわけだが……」
「ハハハハッ!何でヤムチャそんな格好してるの!??wwww」
ボールも我慢の限界が来たのか、爆笑して地面を転がり回った。
もちろん、以前のボールのような転がり方をしているわけではなかった。
「うるせえ!!これは自分で着たんじゃねえよ!着せられたんだ!!!!」
ヤムチャは全力で地面に踵落としを入れた。
すると一瞬にして地面に深さ70cmほどの空洞が生成された。
「ヤムチャ乱暴wwwムキになるなよwww」
シンタローが笑っていたのはいつものことだったので、ヤムチャの格好を見て笑っているのかそうでないのか、区別がつかなかった。
「と・に・か・く、だな!!!ここからツアーを再開するわけだが!!!!」
とヤムチャがビシッと彼の正面を指差した時、ビリッ!!という大きな音が聞こえた。
その正体は彼の着ていたメイド服の袖が勢いよく破れた音だった。
「ハハハハ!!!すごくいい音がしたな!」
よしだくんも珍しく声をあげて笑った。
「いやー、愉快愉快!!」
ミーシャもお腹を押さえて爆笑していた。
「こ、この……もうやってられるかぁーーー!!!」
ヤムチャはいきなりぶちギレて、着ているメイド服を力任せに引き裂いてしまった!!
「はぁ……やっと解放されたぜ……。もう今日は下着で歩き回ってやらあ、防御力は下がるがこんな目に遭うのはごめんだ!!!」
ヤムチャはメイド服の残骸を後ろに放り投げた。
「あーあ、面白かったのにぃ……。」
エリスは残念そうに唇を尖らせた。
そんなエリスを横目にヤムチャは深呼吸をした。
「……改めて、今日はここからツアーを再開するわけだg」
「何か昨日までここには無かったものがあるね。」
ボールがヤムチャの声に被せて喋った。
「てめえー!わざとか!?わざとだよなあ!?あ!?」
「え!??な、なに!???」
「お前お前ー!!俺がずっと言おうとしてたことをよくもサラッと言いやがってよ!!レベルダウンの罰を与えてやる!!」
ボールの軽率な発言にカッチンと来てしまったらしく、ヤムチャはボールの両肩を掴んで彼の体をグルングルンと振り回した!
「うわああ↓あああ↑!!レベルダウンって何の話ー!?」
ボールはヤムチャに宙に浮かされたまま絶叫した。
「おいおい、そんなことより「これ」の正体を確かめる方が先だろ。」
「ほんと、落ち着きがないわねー。」
よしだくんとミーシャは振り回されていたボールを捕まえてヤムチャを止めようとした。
よしだくんの言う通り、ボールの家があった場所には謎の物体が存在していた。
「何と言うかwww金属で出来たでっかいサイコロだなwww」
シンタローの例えは別に間違ってもいなかった。
もう少し詳しく言うなら1辺が1mくらいの光沢のある立方体だったろうか。
後はそれぞれの面に1から6の目を描けば、ちゃんとサイコロとして転がっていきそうなほど綺麗な形をしている本当に謎の物体だった。
「……実際、随分と丈夫そうだな。」
ヤムチャはボールを手から離すと、その場に落ちていた彼の手にしっかり収まる野球ボールよりも大きな石をそのサイコロに向けて全力(時速250km)で投げつけた。
するとガチーン!!という甲高い音と共に石は粉々に粉砕してしまった!
一方、サイコロはキズがついたものの全く壊れる気配がなかった。
「マジか!一体どういう構造をしているんだ???」
予想外の結果だったのかよしだくんは動揺した。
「ん?ねえ、あそこに何か書かれてない?」
エリスはサイコロの側面に小さな文字で記されている部分を見つけたらしい。
「いだだだだー!!!!!」
何と書かれているのか読むためにエリスはサイコロに近づいていたが、いきなり右足を押さえて悲鳴をあげた。
「ちょっと!?どうしたのよ!!??」
ミーシャがエリスに駆け寄り彼女の足を見ると、ビデオテープの破片が裏に刺さっていた。
「もう、瓦礫とかもまだ散らばってるんだからちゃんと足元見て歩……あら?……このサイコロの周り、ビデオテープの破片がやけに多くない??」
ミーシャは自分の足元を見渡して、サイコロの周りの地面の光り方が不自然なことに気づいた。
「と言うか、散らばっているというよりはむしろ意図的に地面に突き刺さっているっていう方が正しそうだな?」
既に安全靴を履いていたよしだくんも破片を観察してから、サイコロに近づいて書かれている文字を読んだ。
「いや、これは俺の見間違いだな。……はぁ。」
よしだくんはため息をつき、綺麗に回れ右をするとスタスタと歩いてみんなのもとに戻ってきた。
「おいおい、何て書いてあったんだよ??」
ヤムチャもよしだくんのリュックから安全靴を借りて履くとその文字を読んだ。
「……な、な……ふざげるなぁー!!!!」
ヤムチャは怒鳴ってサイコロの壁面を思いっきり蹴っ飛ばした!!
ガーン!!というさっきよりも数十倍大きな音が森中に鳴り響いた!
それでもサイコロは崩壊する素振りを見せなかった。
「う、うるせえー!wwww」
「あ、頭がグラグラするぅ……。」
「すごい音だね!!!」
その場にいた一同は揃って耳を押さえた。
「この……びくともしねえな!!」
それでもヤムチャは諦めずに何度も蹴りを入れた。
そしてその度に森中の地面を揺るがすほどの爆音が鳴り響いた。
「もう、やめてえ……。」
エリスは爆音にやられたのか、白目を剥いて死にかかっていた。
「や、や、…………やめなさーい!!!!」
耐えかねたミーシャがヤムチャに向かって機関銃をぶっ放した!
「もーーーーっとうるせえー!!!wwwww」
「ハイ、というわけでだな……また俺が理不尽な目にあったわけだが……」
「うん、どこが?(# ゜Д゜)」
「勘弁してくれ、鼓膜が粉砕するだろ(# ゜Д゜)」
「ヤムチャ本当に迷惑だなあ(# ゜Д゜)」
「もう無理ぃ……。」
「ヤムチャ、散々だなwwww」
不意打ちで十発ほど被弾したヤムチャに、シンタロー以外は全員敵意を向けた。
「で、結局何が書いてあったのよ?」
ミーシャがヤムチャの銃創を蹴りながら言った。
「ああ……それがだな、『ここより先はスターク王国、スターク以外は立ち入り禁止!スタークにあらずんば人にあらず!!』……だってよ。」
「えっ!?スターク!?ここにいるの!?!?」
エリスがスタークという単語に反応して息を吹き返した。
「スターク!!いるなら私を抱き……いだーーーーい!!!」
エリスはまたしてもスターク王国に近づこうとしてビデオテープの破片を踏んでしまったようだ。
右足を抱えて片足でピョンピョン飛び回っていた。
「あんたバカ?」
ミーシャはエリスの体を思いっきりひっくり返して、ビデオテープの破片を引き抜いてやった。
「しかし、これを撤去するにはどうしたものか……。ヤムチャがあれだけ攻撃して何ともないならダイナマイトでも使わないとしんどいぞ。」
よしだくんは考え込んだ。
彼の中でヤムチャの蹴りはダイナマイトの次に破壊力のある代物だったようだ。
「とりあえず今は放っておけ。それこそダイナマイトを使えば簡単に吹っ飛ばせるんだからな。」
「いや言うのは簡単だがダイナマイトは準備するのが大変なんだぞ……。」
「あーあ、いつになったらツアー始めるのよ、やらないなら私は帰るわよ!!」
ミーシャが一同から背を向けた。
「あーー!分かった!じゃあ先に進もう!!今日最初に案内するのは北東エリアだ!!」
ヤムチャはぶっきらぼうに言って先にドカドカと歩いて行ってしまった。
「えー!スタークは?どうするのよー!!??」
「うるさい!早く行くわよ!」
ミーシャがエリスの腕を引っ張った。
「ほんとwwエリスって変なやつwwwww」
さらにシンタローがもう片方の腕を引っ張った。
「あーー、私の未来の旦那さーーん!!」
エリスの恋は前途多難なものになると、森の住人たちは全員そう思っていた……。
ーーー移動中ーーー……now loading……
ヤムチャ Lv.100 HP1029/3013
ミーシャ Lv.9 HP 200/200
エリス Lv.1 HP 25/35
よしだくん Lv.6 HP 100/100
ボール Lv.4 HP 140/140
シンタロー Lv.7 HP 180/180
スタークが作ったサイコロ状の物体は一体何なのか?
そもそもどうやってこんなものを作ったのか??
それは彼にしか分かりません……(この小説そういうの多くない??)
きっと20XX年宇宙の旅に出てくるモノ〇スみたいな感じでしょう(通じる?)。
そうだとしたら最後まで正体が明かされないことになりますが……。
RPGなのにレベルが下がるなんて横暴が過ぎます。
ゲームマスターに逆らうのはやめた方がいいってことでしょう!
あくまでゲームに参加し続けるなら……の話ではあるけども。
ちなみに天下の東京大学では留年だけでなく「降年」と言うシステムがあるとかないとか……。
それが本当ならレベルダウン=降年、つまり100エーカーの森=東京大学……?
言い過ぎると怒られそうなので今回はこの辺りで終わっておきます……。