1.5-9 経験値稼ぎ
ーー前回のあらすじーー
RPGの冒険者一行に置いてかれたシンタローは駄菓子屋に潜伏していたスタークによる奇襲を受けてしまった!
彼は爆竹、トイレの水、ライター……あらゆる物をシンタローに投げつけて逃亡した。
物理的に炎上してしまったシンタローは暴れてしまった結果、ナイフの海にダイブした。
その後、彼の声を聞いたものはいなかったのだとか……。
ナイフの海ではないですが針山地獄って実際のところ、針が刺さらないように渡れたりとかしないんでしょうか?
読者の中に地獄で針山を渡った経験がある方いたら教えてください!
「ん?今何か駄菓子屋の方から悲鳴が聞こえたような……?」
ボールが耳を澄ませた。
「まさかシンタロー……もうロープ切れちゃったのかしら?」
ミーシャは駄菓子屋の方に向き直って首をかしげた。
「まあ、シンタローなら平気だろ。」
ヤムチャは特に考えることもなく、そして何の根拠もなく適当に流した。
「気にせず行こう、シンタローなら平気だ。」
よしだくんも全然気にしていなかった。
「あ、ここも一応寄っとくか。」
ヤムチャが環状線の北西の外れの辺りで立ち止まったので四人もそれに習った。
「これは、洞窟?この中に何かあるの?」
エリスは中を覗きこんだ。
「いや、何かあるわけじゃねえけどよ。ダンジョン探検として入っとくか?」
「え?ダンジョン?」
「どういうことよ?」
エリスとミーシャは意味が分からないという風に聞き返した。
「あ、えと、な、何でもねえ!コウモリとかがいるから襲われちまうかもな!倒して経験値稼ぎでもするか!」
「じゃあ、退治しましょ!!」
エリスは装備している(手に持っている)鞭をしならせ、洞窟に入る気満々になった。
「えぇ……入るの?そもそも経験値って何??」
ボールはスコップを持った手をガタガタと震わせながら怯えた声で言った。
「う、うるせえ!とにかく!!誰が一番倒せるか競争だ!!」
「よっしゃあ!勝負よ!!」
エリスは地面をバシバシと鞭打っていた。
「何のことかは分からないけど……ま、まあ、平気よ。みんなで入るし…………死ぬことはないはずだから!!」
経験値とは無関係にミーシャも機関銃を構えたらスイッチが入り、殺る気MAX状態になった。
「はあ、やるしかないのか……。」
よしだくんはため息をつき、スタンロッドを両手に持った。
「準備はいいか?3、2、1……スタート!!」
ヤムチャの掛け声とともにミーシャが爆速で洞窟の中へと突っ込んでいった。
「ぜーんぶ、私の獲物よー!!」
彼女は銃声とともに洞窟の闇へと消えていった……。
「えー!待ってー!私も私もー!!」
エリスがその後をウエットスーツとセットになっていた足ヒレをペタペタさせながら一生懸命追いかけていった。
しかしミーシャの足が速すぎるのでどんどん二人の間の距離が広がっていった。
一方残る三人はのんびりと歩いて洞窟の奥へと進んだ。
「競争とは言ったが……ミーシャの前に出たら命がいくつあっても足りねえから、うかつには突っ込んでいけねえんだよなあ……。」
ヤムチャは頬を指でポリポリと掻いた。
洞窟の奥からは銃声がずっと鳴り響き続けていた。
「いや、何でそもそもこんな場所に来たんだ?はぁ、はぁ…………森を案内するだけなら別にコウモリ退治なんて必要ないだろ?…………重い。」
よしだくんは装備が重いので大汗をかきつつも、周囲をキョロキョロと見渡していつでも敵の襲撃に備えられるようにスタンロッドを構えていた。
「ギャーッ!!!何で吸血コウモリの大群なんているのー!?てか、これは数が多すぎるわよー!?!?聞いてないわー!!」
突然、ミーシャの悲鳴が三人の耳を貫いた。
「え!?なになに?!どうしたらいいのー!?」
ボールはパニックになりスコップを振り回した。
「お、落ち着けボール!あのミーシャならコウモリのごときに遅れはとらねえよ!」
ヤムチャはボールの肩をがっしりと掴んで落ち着かせた。
「そ、そうだね、平気だよね!」
そう言うボールの腕は未だにガクガクと震えていた。
「いやあーっ!!何か黒くて気持ち悪いものがたくさんこっちに来るー!!?」
と、今度はエリスが悲鳴とともに三人の方に向かってよちよち歩きで戻ってきた。
「こっちに来ないで……あうっ!」
エリスは戻ってくる途中で地面の窪みに気づかず、すっ転んでしまった。
彼女の姿はコウモリの大群によって遮られ見えなくなった。
「死にたくなければ手を止めるなー!!!」
ヤムチャはそう叫び、両手に持ったノコギリを素早く振り回して自らの周囲のコウモリを一匹残らず切り刻んでいった。
「うわあー!!来ないでよー!!」
ボールはスコップを全力で振り、コウモリを風圧で薙ぎ払った。
風圧と言ってもボールのスコップから放たれるそれは威力が半端無く、風圧で吹っ飛ばされたコウモリは地面に転がり動かなくなってしまった。
「ひぃぃぃ!!やめろ!来るんじゃない!!」
よしだくんもスタンロッドを振り回して何とかコウモリを撃退した。
ただ、足の方まではスタンロッドも届かず、コウモリが彼の足に少しずつ群がってきた。
「よしだくんから離れろー!!」
ヤムチャは目にも留まらぬ速さでよしだくんのそばを駆け抜けた!
すると、彼の足にいたコウモリは血を吹き出して力無く地に落ちていた……。
「あ、あんな一瞬で……!コウモリが全部やられた!?」
「すごい速さだよね……!」
よしだくんとボールはスコップとスタンロッドを振り回す手も止めて唖然としていたが、もうその頃にはコウモリの襲撃も過ぎ去っていた。
ボールとヤムチャは何ともないし、頑丈な装備のおかげでよしだくんもコウモリに傷一つつけられることなく大群をやり過ごすことができた。
「よし、二人とも無事みてえだな……おい、エリスはどこだ?」
構えていたノコギリを腰に収め、一息ついたヤムチャは辺りを見回した。
「あ、あそこ……。」
ボールが震える手で指差した先には、暗い洞窟よりさらに暗い空間ができていた。
この洞窟にいたコウモリはもう全て討伐されたか、外に飛び立ったものだと三人は思っていた。
「コウモリが、群がってるな……。」
よしだくんはそこに近づきスタンロッドをコウモリに近づけて追い払った。
コウモリは洞窟の外へと新天地を求めて飛び去っていった。
そしてコウモリの内側から出てきたものを見て三人とも仰天した。
「え、エリス………。」
「こ、これはひどいよ……。」
ウエットスーツはビリビリに破れ、全身におびただしい数の咬み傷があり血まみれになっているエリスらしき人物は白目を剥いて動かなくなっていた。
「全く……コウモリがあんな数で襲ってくるなら先に言ってよね!!……あれ?エリス……一体何が……??もしかして、三人で乱暴を……!?」
洞窟の奥からミーシャが戻ってきたと思ったら、いつも通りの変な勘違いをして機関銃を三人の方に構えた。
彼女も手足を七、八箇所ほど咬まれたようだがその程度エリスの比ではなかった。
「むしろこの流れで何をどう見たらコウモリにリンチされた以外の答えになるんだよ……。」
よしだくんはスタンロッドをしまい、肩をすくめた。
「……え、何よ?まさかあんなのにやられたの?ほんっっとーに、エリスは情けないわねー!!」
ミーシャはため息をついてエリスの体をブンブンと揺さぶった。
「あぁ……こ、こう、コウモリ……。」
エリスは白目を剥いたままうなされていた。
「まあ、ウエットスーツを装備したことはともかく、あれほどの大群は急なことだったんだ、仕方ねえだろ。」
ヤムチャはエリスを肩に担いだ。
「北三叉路のそばのボールの家なら何か回復アイテムがあるかもしれねえ。そこでこいつを手当てするか。」
「回復アイテムって……なに?」
ヤムチャの言葉に対してミーシャが怪訝な顔をした。
「い、いや、気にするな、とにかく早く向かうぞ。」
ヤムチャはさっさと洞窟の外へと早足で歩いていってしまった。
「……本当に何なんだ??」
よしだくんもヤムチャを観て不思議な顔をしていた。
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ボール Lv.5 HP 160/160
ミーシャ Lv.9 HP 170/200
よしだくん Lv.6 HP 100/100
エリス Lv.1 HP 1/35 瀕死
ヤムチャ Lv.100 HP 3013/3013 無敵
シンタロー Lv.7 HP 0/120 死亡
ボールのスコップは敵を殴打するためのものではなく風圧でミンチにする武器だったようです。
スコップにそんな用途があったんですね!
夏場はうちわでパタパタと仰ぐよりもスコップを振り回した方が涼しいようです。
(ただし、周囲をミンチにしないよう気を付けて)
よしだくんは今までこんな重い装備を身に着けて後悔していたかもしれませんが結果として命拾いしたようです。
(偶然でしょうが)備えあれば憂いなしとはまさにこのことなのでしょうね。
反対にエリスは装備した防具により自滅しました。
どうしてウェットスーツなんて……防御力低くて動きにくいだけじゃん。
水の中に入ることがあったら強いのかもしれないけど!
……もしかしたらこの先で水中バトルイベントが発生するのかもしれません。
その際はエリスの活躍に期待しましょう!!