1.5-5 トラップまみれの探索
ーー前回のあらすじーー
ヤムチャは悩んでいた。このツアーにふさわしいタイトルとは何か?
そもそもこのツアーの主題とは何であるべきか??
彼の苦悩はどうやらまだまだ続くようだ……。
一方、ボールは俗に靴と呼ばれるものの存在を知ってか知らずか、砂利道を裸足で歩くという恐ろしいセルフ拷問をしていた。
見かねたよしだくんから安全靴をはじめとして様々な装備を支給されたが、もはやコロッセオで猛獣と戦えるレベルの防御力になってしまった。
果たしてボールは襲い掛かる敵の群れを駆逐できるのか!?
ジビエというものがありますね、100エーカーの森の食卓に並ぶ肉は基本全部そうです。
読者の皆さんはボールが狩猟した肉とボールの肉だったらどちらを食べてみたいですか?
ちなみに作者の肉は腐ってて美味しくないのであしからず。
入り口から30°程環状線を歩くと少し大きい建物が見えてきた。
「さて、ここがシンタローの家だな。この森の個人の家は全部シンタローが主体となって作ったんだ。まあ、他の家は平屋であいつのこの家だけが二階建てなんだけどな……。」
ヤムチャが説明する先には何やらいびつな形をした家が建っていた。
「前に見た時も思ったけど……何だか住みづらそうな家ね。」
エリスが思ったことをそのまま口にした。
「一応この家にはテーマがあるらしくてよ……『銀河創成』とか言ってたな。」
「……全く、あいつの考えてることはよく分からん。」
ヤムチャとよしだくんは揃ってため息をついた。
実際この家は少し距離を置いて見れば銀河のように渦を巻いているように見えなくも……
いや、それも大分無理があっただろう、何も説明されなければ家どころかただのぐちゃぐちゃな塊にしか見えなかった。
どうして崩落せずにあの形を保っていられたのかみんな不思議に思っていたが、シンタローは企業秘密だと言って決して他人には教えようとしなかった。
「と、とりあえず入ってみる?中は見てみると意外と面白かったりするわよ。」
とか言いつつミーシャは既に家のドアを開けていた。
そして家の中ではいつもの通りクラシックが流れていた。
「それじゃお邪魔しまーす♪」
エリスも躊躇なくシンタローの家にずかずかと踏み入った。
「……まあ、あいつなら怒ったりしねえだろ。」
「そうだな……ふぅ。」
二人も顔を見合わせて後に続こうとした。
だが次の瞬間、ガーン!という大きな音がエリスの方から聞こえてきて四人とも彼女の方を見た。
彼らの前方ではタライと、頭を抱えて倒れこんでいるエリスが転がっていた。
「だ、大丈夫!?それにしてもタライって……」
ミーシャが駆け寄った。
と、そのミーシャの頭にもタライが降り注いでガツーン!という音が鳴り響いた。
「い、痛いーー……。」
「な、なんで、私まで……。」
「シンタローらしいトラップだよな……。あいつ、防犯装置とか言ってよく家に罠を仕掛けてやがるからな……。そしてミーシャとエリス、それぞれ15ダメージ、と。」
ヤムチャは頭をポリポリと掻いて、一言変なことを付け加えて言った。
「な……なんで、それを……先に、言わないのよ……というか、15ダメージってなに……?」
エリスは頭を押さえて口から言葉をひねり出していた。
「ヘイヘーイ!!誰だ俺の渾身の作品を泥棒するやつは!!www」
そんな状況の中、シンタローが爆速でこっちに向かって走ってきた。
「うわっ!シンタローいつの間に!?」
ボールは誰が来たのだろうと振り向いた瞬間、びっくりして前方にひっくり返った。
「……って何だよwwwww引っ掛かったのはエリスとミーシャだったかwwwww」
シンタローはこっちに着くや否や、息も切らさずに爆笑していた。
「ちょっと、待って、シンタロー……、何であんた、トラップが動いたって、分かったのよ?」
ミーシャが引き気味に、そして苦しそうに聞いた。
「そんな簡単なことわざわざ聞くなよww、タライにワイヤーがくくりつけてあるだろ?それが落ちると予備のポケベルから持ってるポケベルに発信されるようになってるんだよなーwwwww」
床には切れた透明なワイヤーが落ちていて、その予備のポケベルにもワイヤーがくくりつけられていた。
きっとドアが空くと時間差でこのワイヤーが切れるようになっていたのだろう。
では彼自身はどうやって自宅に入っていたのか、それは彼以外にとって永遠の謎だ。
「前に予備のポケベルが欲しいって言ってたが、こんなことに使ってたのか……。」
よしだくんは呆れ果ててシンタローの作ったトラップを見た。
「あ!創作活動の途中なんだよ!!wまだ家の中にはトラップがあるから死にたくなかったらこれ以上長居しない方がいいぜ、じゃーな♪」
シンタローはそれだけ言い残すとさっさとどこかに消えてしまった。
「嵐みたいに現れて嵐みたいに去っていったね……。」
ボールは唖然とした。
「……えっーとね、私が以前家に入った時には一階にたくさんの絵が飾ってあって、二階には彫刻や家具が置いてあったわ。癪だけど……全部名作だと思うわよ。」
「……ふーん、そうだ!!駄菓子屋にしても集会所にしても住むには家具が少ないと思ってたのよ!名作ならシンタローの家具を使いたいわ!!」
エリスはタライ落としの痛みも忘れて叫んだ。
「別にいいんじゃねえのか?オブジェとして飾っておくだけでも勿体ねえしな。晩飯の時に俺からもシンタローに頼むとしよう。……そんじゃ、そろそろ行くか。」
ーーー移動中ーーー……now loading……
ボール Lv.1 HP 90/90
ミーシャ Lv.5 HP 115/130
よしだくん Lv.2 HP 50/50
エリス Lv.1 HP 20/35
ヤムチャ Lv.90 HP 2045/2045
「ん?これは何かしら?」
シンタローの家から歩いて程なくすると随分とボロそうな建物が見えてきた。
「これは廃寺だ、……まあ、面白いものは何もねえけどな。」
そうヤムチャが言うと四人は神妙な顔つきになった。
「あら?みんなどうしたの??あ、それより中はどうなってるのかしら?」
四人の様子をエリスは一瞬気にしたが、すぐにこの廃寺の方に意識が集中し中を覗きこんだ。
「ゲホッゲホ!薄暗くてほこりっぽいわね!……でもひょっとしてスタークが隠れてるんじゃないかしら?よーし!出てきなさーい❤」
エリスは咳き込みながらも負けじと廃寺の中へ、愛しのスタークを求めて足を踏み入れた。
廃寺の中は灯籠が十個くらいあったが明かりは灯っておらず、ろうそくの燃え残りが灯籠の中に残っていた。
最奥には何かよく分からない建物が描かれている縦が3m程もある巨大な掛け軸と、祭壇、賽銭箱のみがあるという家二軒分以上の広さがあるにしては少し殺風景な感じのする建物だった。
「もう、隠れてないで出てきなさいよぉ~❤」
エリスは賽銭箱の中や掛け軸の裏までスタークがいないかどうか確認した。
「あわわ、この掛け軸とれちゃった!!」
エリスは掛け軸の裏側を見る時に留め具を外してしまった。
びっくりして後ろにひっくり返り、掛け軸の下敷きになった。
「おいおい、大丈夫か!?」
よしだくんが外から駆けつけ、ボールもそれに続いた。
そして下敷きになったエリスを救出した。
「うぅ……痛い……二人ともありがとう。」
「やれやれ、気を付けてくれよ。この掛け軸も貴重なものかもしれないだろ。あーと……エリスは10ダメージ、よしだくんとボールはレベルアップだな……。」
ヤムチャも廃寺の中に入ってきて掛け軸を元に戻すと、エリスに注意するとともにまたしてもわけの分からないことを言った。
「え、10ダメージ?」
「レベルアップ?何の話だ?」
ボールもよしだくんも話が掴めずきょとんとしていた。
「あ、いやいや、こ、こっちの話だ、気にするな。」
ヤムチャは慌ててごまかした。
「それにしてもスタークは見つからないわね……どこにいるのー??」
エリスはまだスタークを探す気で、廃寺の中を駆けずり回っていた。
「いや、それだけ探して見つからないってことはここに居ないんだろう、先に進もう。」
よしだくんがエリスに声をかけた。
「ぶぅー、私は諦めないからね!」
エリスは仕方なく走り回るのをやめた。
「はぁ……あんなののどこがいいのかしらね?」
外からずっと様子を見ていたミーシャはため息をつきながら中から出てくる四人を出迎えた。
ボール Lv.2 HP 110/110
ミーシャ Lv.5 HP 115/130
よしだくん Lv.3 HP 65/65
エリス Lv.1 HP 10/35
ヤムチャ Lv.90 HP 2045/2045
何でヤムチャは自分だけそんなにレベル高いんだよ!!
いくら彼が無敵と言えどさすがにそれはチートですよね……。
逆にエリスはもう死にかかっていて、ミーシャに機関銃で殴られたら終わりそうですね。
さて次回、エリスは死んでしまうのか??
誰が死のうとまだまだツアーは続きます!!