extra2-2 電波塔修理記録2
ーー前回のあらすじーー
エリスは集会所で寝ていたところ、よしだくんにスパナで殴られて叩き起こされた。
エリスは電波塔を修理するにあたって給料の話を持ち出したためによしだくんの怒りを買ってスパナを投げつけられた。
エリスは仕事前にワインを飲もうとしてよしだくんに咎められ、ワインの瓶を粉々にされた。
エリスは脆くなっていた足場の上に乗って足場ごと転落した。
エリスは仕事をサボろうとしてよしだくんに瓶ラムネを後頭部に投げつけられた。
以上。
とても雑な書き方ですが番外編なのでこのクオリティで十分でしょう。
……まだまだエリスは解放されそうにありません。
彼女の体はどこまで耐えるのでしょうか?
よしだくんは今回彼女に何を投げつけるのでしょうか??
一時間後……
もう外は真っ暗だ……いや、建物の中もどうせ真っ暗なんだが。
これからしばらく夜には懐中電灯が手放せなくなりそうだな。
さて、集会所からいい匂いがするぞ!
これはミーシャが料理をしているってことだ!!
俺は建物のドアの前でガッツポーズをした。
これだけ働いて夕飯がないのは辛いからな!
エリスに少し悪いとは思いながらも俺は風呂に入って汗を流してから集会所にやって来た。
風呂に入れる水をいつもポンプで汲んでるんだが、電気がないから井戸から手で汲む羽目になった。
沸かすのはいつも通り焼き石でやったんだが、やっぱり井戸と風呂場を何往復もするのは骨が折れるな。
以前ヤムチャと風呂に入っていた時が懐かしいよ。
「すまない、少し遅くなった。」
そう言いながら俺は集会所に入った。
テーブルの上には蝋燭が何本か立てられており、他に光を発しているものはかまどの火ぐらいだった。
だから部屋の中もそれなりに薄暗いな。
「よしだくんおそぉーい……。」
俺の足元から声がしたと思ったら、エリスが床でうつ伏せになって倒れていた。
「よしだくん……昨晩はいきなり倒れちゃったからビックリしたよ。俺が一応家まで運んだんだけど……今日は元気そうだね。」
「そうだったのか、それは迷惑をかけたな。」
確かに俺は電波塔の下で気を失ったはずだが、今朝は家で寝ていた理由はそう言うことだったのか。
「もうすぐ晩飯が出来るぜ、ミーシャが作ってくれてるぞ。」
台所ではちゃんと服を着ているヤムチャが火の番をしている。
「ヤムチャお前……いや、何でもない。」
俺は今朝駄菓子屋で見たこいつのおぞましい姿について聞こうと思ったがやっぱり止めた。
この話題に触れたら何となく聞いた全員が不幸になりそうな気がするからな。
「それよりそのミーシャは姿が見えないが?」
と、トイレから物音が聞こえた。
「ううっ……いつまでこの腹痛、続くのかしら?」
お腹を押さえたミーシャが猫背におぼつかない足取りでトイレから台所へ向かった。
……ちゃんと手は洗ったんだろうな?
「カマンベールチーズが本当に良くなかったんだね……よしだくん、ミーシャがお腹壊しちゃったみたいなんだ。」
「全く、さっきからトイレと台所を行ったり来たりよ……!!」
そんな奴に料理などさせて衛生的に大丈夫かと言いたいところだが、何せ彼女しか料理が出来ないのだから仕方ない。
「そういえばエリスがよしだくんに虐められたって……実際、手足も傷だらけだし。本当なの?」
ボールがそんなことを聞いてきたが、俺としては大いに異議ありだな。
「いいか?エリスもよーく聞け。電波塔が破壊されたのはこのバカのせいだ。ミーシャとボールからは異論無しでいいな?」
二人は俺の言葉に頷いた。
「ちょっとお〜!私は異論ありよ……!?」
エリスはうつ伏せのまま顔だけをあげてこちらに反論してきた。
お前……まだ言うか?
「黙るのと殴られるの、好きな方を選ばせてやるぞ?」
「うえっ……だ、黙りマス。」
凍りついた彼女はそのまま顔まで床に再び突っ伏した。
「その責任を取らせるために俺は電波塔の修理を手伝わせた。そして傷だらけなのはその過程で起きた事故によるものだ。よって俺が虐めたなんて言うのは事実無根な嘘である、以上。」
それだけ早口で言って、俺は様子が気になっている台所の方に近づいた。
「よしだくんが言うと説得力があるわね。……作っておいておかしいけど今日は私、ちょっとご飯食べられそうにないわ。一人だけ食べられないのも寂しいからエリスも道連れでご飯抜きにしようかしら?」
ミーシャがそう言うと素早くエリスの顔が持ち上がった。
「ご飯抜き!?そんなの嫌よ!!朝ご飯も食べてないからもうお腹がペコペコなの!!」
「さすがにそれは許してやってくれないか?」
「よしだくん……!!」
エリスのご飯抜きに反対すると彼女は仏を崇めるような目つきで俺のことを見てきた。
悪い気はしないが……生憎俺は仏じゃないんだ。
「こいつには電波塔が復旧するまでとにかく働き続けてもらう予定なんだ。腹が減ったなんて言うどうしようもない理由でサボられたらたまったもんじゃないからな。……沢山食べて沢山働け?」
「な、何ですって……!?あ、悪魔なの!?」
まあ、今の俺は悪魔みたいな顔をしているのかもな。
「よしだくんってさ……俺にドリル突き刺して空に飛ばしたりするし何だかんだで隠れSだよね。」
「初対面の俺を平然と死ぬほどこき使ったんだ……あれがSじゃなくて何なんだって話だぜ……。」
ボールとヤムチャはこう言うが……まあ、否定はしないな。
「あれ……?あっ、焦げてるー!!」
異臭を感じたミーシャが慌ててフライパンに向き直った!
「おいおい!!俺たちの晩飯が!!」
「えー!?俺たちまで晩ご飯抜きってことー!?」
やれやれ……電気が無くても騒がしいのはいつも通りってわけだな。
さらに数十分後……
「ふう……少しくらい焦げててもやっぱりミーシャの料理は安定の美味しさだね。」
「そのミーシャは作ってすぐに帰ってしまったけど、本当に大丈夫だろうか?」
「ボールに後で薬でも持ってってもらうか。エリスはこんなんだし、後片付けは俺がやっとくぞ。」
今日は質素に野菜炒めをこんもりと作ってくれたが、それでも不思議と腹に溜まるんだよな。
ちなみに今更なんだが、シンタローの姿が見えないしみんなも特に気にしていないことについて……今日は晩飯を食べなくていいのだろうか?
あいつは気まぐれなところがあるから気にするだけ無駄なんだけどな。
「皿洗い……頼んだわよ。それじゃあ私は寝るから……。」
エリスは食べ終わって椅子から転げ落ちると床を這ってベッドに潜り込んだ。
放っておけばこいつはすぐに寝付くだろうが……そんな安息を与えるような真似はさせないぞ?
「おいエリス、いつ俺が『労働は昼間だけだ』なんて言ったんだ?まだまだやらなきゃいけないことは沢山ある。今からまた仕事だぞ?」
「うーーん……!?あ、安眠妨害よ……!!」
俺はそう言って彼女をベッドから引きずり出した。
「えっ?まだ仕事するの??もう夜だよ?」
これにはボールも驚いたようだが、この森には労働基準法なんて存在しないんだから問題ないよな?
「エリスが休めばその分だけ電気の復旧も遅れるんだ、みんながそれでいいと言うならこのまま寝かせてやるが……。」
「えっ、電気がないとテレビが使えないけどつまり……アニメが見れないってこと!?」
そしてボールは何かに取り憑かれたかのようにエリスの頬を何回も突然往復ビンタした!!
「エリス!早く電波塔を直してきてよ!!アニメの続きが気になるよー!!」
「痛い……!!それならボールが代わりに行けばいいでしょ!」
「いや、今日はもう疲れたしミーシャの様子を見てから家で休むよ。」
「だが、電気がねえのは実際困るしよ。明日から俺たちも手伝いに行くぞ。」
「ううっ……じゃあ今夜で私はお役御免ってことね……!」
そんな訳がないんだがな……またサボるようならスパナで叩くだけだ。
「じゃあ明日から頼んだぞ。エリス……自分で歩いてくれないか?」
エリスは相当眠いようで半分寝ているような状態で俺に引きずられていった。
……それほど重くはないが、外は真っ暗で片手が懐中電灯で塞がるからこいつのことをもう片方の手だけで引きずらないといけない。
いい歳をした大人がやれやれ……自分で歩いてほしいものだ。
これだけ暗いと星や月の明かりが恋しくなるが、どうやら今夜は月が出てないみたいだ。
「エリス……お前はここに来てから夜空をちゃんと眺めたことがあるか?今日も星が綺麗だぞ。」
俺がこの森に来たばかりの時は今までと違った見事な夜空に感動していたが、いつの間にかこの光景に心が動かされることも無くなっていた。
今の彼女の目にはこの空がどう映っているんだろうな?
「うん、そうね……これだけ綺麗な空見てたら、寝ちゃいそう……?」
……どう映るか以前にこいつの目はほとんど閉じていたな。
「それじゃあ作業再開といきたいが、さすがに真っ暗な中で足場の上に登るのは危険だからな。昼間に撤去した足場をさらに分解しようと思う。」
俺は懐中電灯に照らされた足場の残骸の山を指し示した。
「えぇ……そんなのいつでも出来るじゃない……zzz。」
床に座り込んでいるエリスの目は完全に閉じてしまっている。
「明日から新しく足場を組み直さないといけないんだ。そのために使えそうな鉄骨なんかは今のうちに確保しておきたくてな、と言うわけで……起きろ!!」
俺は彼女の背中にスタンロッドを叩きつけて弱い電流を流した!
……ヤムチャのリアルRPGが終わってから用済みだと思っていたが、まさかこんなところで役に立つとはな。
「ああああ!!!な、何よ今のは!?」
彼女は背中を反らして全身を痙攣させる!
「眠そうにしていたからな。今までよりも少し強めの刺激が欲しかったんだろ?」
「一番欲しいのは睡眠なんだけど……?」
だがこれでひとまず眠気は覚めたみたいだな。
「早く寝たいなら手を動かせ。そうしないといつまで経っても安息は訪れないぞ?」
充電式のランプをいくつか周囲において俺たちは作業を始めた。
昼間ほど危険ではないからかエリスも渋々とドライバーを持って作業をしてくれた。
だが一時間後……
まずい、今度は俺が睡魔に襲われている……!!
「うぅ……単調作業だから余計に眠くなるわ。もうかなり遅い時間なんじゃないの?」
そしてそれはエリスも同じようだ。
今寝たら明日の足場に使う鉄骨が不足するかもしれない!
だから寝るわけにはいかないんだ!!
だが、夜風がとても心地いい……。
目を閉じればこのまま外で寝てしまいそうだ。
こうなったら最終手段だ!
俺はスタンロッドを最大出力で自分の胸元に突きつけた!!
「ああああー!!!」
目の前で火花がバチバチと飛び散っている!!
最大出力は……やりすぎだったか……。
……あれ?
「……よしだくん、おい!!大丈夫か!?」
ゼロ距離でヤムチャの声がするぞ。
目を開けると心配そうなヤムチャの顔が視界に入ってきた。
「おお、良かったぞ……。エリスと二人して倒れてたから何か事故でもあったんじゃないかと思って焦ったぞ。」
気がつけばもう空には太陽が昇っている。
どうやら気を失ってそのまま朝になってしまったらしい。
「んにゃぁ……zzz」
エリスは隣で気持ち良さそうに眠っていた。
「いや、作業中に寝落ちしてしまったみたいだ。」
……ということにしておこう。
いくら何でも自分に突きつけたスタンロッドで気絶したなんて恥ずかしすぎるからな。
そんなことを思っていると全身が痒くなってきた……。
手足を見てみると蚊に刺された跡が無数に残っていたじゃないか……!
「これは痒いわけだ……!!」
「あ?……こりゃあ見事なまでに喰われたもんだな!!」
ヤムチャは笑いながら言うがこれは我慢し難いぞ!
「エリス起きろ!」
俺は同様に虫刺されの跡が大量にある彼女を叩き起こした。
「んえぇ……?もー朝じゃない……。知らないうちに寝てたのかしらあ??って……!何か痒いっ!!」
「お前も蚊に刺されまくったみたいだな。駄菓子屋に痒み止めがあるだろうから朝ご飯ついでに取りに行こう……!!」
「普通の痒さじゃないわよー!!何でこんなに刺されてるのー!?」
エリスは俺たちを待つことなく一目散に駄菓子屋へ突っ走っていった……。
「……自分のこととなると途端に素早くなりやがる。ああ、今日は俺も手伝うぞ!!」
ヤムチャは呆れて姿の小さくなるエリスを目で追っていた。
俺も全身を掻きむしりながらヤムチャと一緒にエリスを追うと、何故か彼女は建物の入口で尻込みをしていた。
「何だエリスのやつ、駄菓子屋なんてもう気にせずズカズカ入って行くはずだろうに。」
ヤムチャはそんな彼女のことを不思議がっていた。
そして俺たちも駄菓子屋に近づくと、どこか不快になるような異臭が周囲に漂っていることに気がついた。
「何だこの臭いは……?」
「あっ、二人ともー!!駄菓子屋に入りたいのに中からすごくやばい臭いがするのー!!」
エリスは鼻を摘みながらそう喋った。
「確かに……あまり経験したことのない臭いだが……なら、ガスマスクの出番だな!!」
俺は背負っていたリュックからガスマスクを三つ取り出して二人にも配った。
「何だかなあ……もうそのリュックから何が出てきても驚かねえ自信しかねえよ……スーハー……。」
「でも……スーハー……マスクつけたままじゃあ、何も食べられないわよ?」
そもそも駄菓子屋の中に危険物があるかもしれないのに朝ご飯を食べようなんてエリスは呑気なものだ。
「とりあえず異臭の原因を突き止めよう。そうしないと駄菓子屋の中が安全かどうかも分からない。」
俺たちは慎重に駄菓子屋の中へと歩を進めた……のだが。
「うわっ!?アイス売り場の中が真っ黒よ!?」
入口のそばにあるアイス売り場に異変はあったようだ。
エリスに言われて俺とヤムチャもアイスの入っていたワゴンの中を覗くと確かに中が黒く変色していた……!
これはまた随分と酷く腐敗したものだ。
……と、思っていたのだがどうやらそれだけではなかったようだ。
「この黒いの……動いてないか?」
そう、黒く変色していたように見えたのは無数のハエだったんだ!!
「うぇーっ!?き、気持ち悪すぎるんだけどー!!」
エリスはすぐさま建物の外へ飛び出した。
「さすがにこんなの店の中に置いておけねえ!!入口はすぐそばだし外に出しちまおう!!」
「りょ、了解だ……!!」
俺たちは気持ち悪いのを我慢してどうにかワゴンを持ち上げて運び出した。
……まあ、ほとんどヤムチャの馬鹿力のおかげなんだが。
「やれやれ……キヌタニもこういう時はいねえと困るんだよな。」
「全く……いてもいなくても人様に迷惑かけるなんてどこまで役立たずなのよ!」
エリスはガスマスクを外して店内に入ろうとした。
「オエッ!!ねえ、全然異臭無くなってないわよ!?」
「他にも異臭の原因があるのかもな……スーハー……気は乗らないが、もう少し店内を探ってみるか。」
俺とヤムチャは仕方なくもう一度店内を探索した。
すると、次は洋菓子が沢山置いてある商品棚に異変を見つけた。
「おい!!このショートケーキから変な汁が出てるぞ!!」
「このエクレアも色がおかしい!つまり……ありとあらゆる生物が腐ってるんだ!!」
駄菓子屋の食べ物が腐りまくってる光景なんてトラウマだぞ!?
一気に食欲も失せてしまった……。
「これを全部片付けろってか……そりゃごめんだぜ……スーハー……。」
「こんな物を見てからじゃあ朝飯も要らないな……。痒み止めの薬だけ貰って退散だ……スーハー……!!」
俺は医薬品の棚から虫刺されの痒み止めだけ素早く探して懐に放り込むと店から脱出し、そのまま喚いていたエリスを引きずってヤムチャと一緒に電波塔の方まで戻ることにした。
「はぁ……生き返るわぁ。」
染みるのを我慢して俺とエリスは虫刺されの薬を全身に塗りたくると、程なくして痒みを忘れることが出来た。
「でも何か食べたぁーい……ゴクゴク。」
冷やしてなかったから30℃はありそうな缶コーラを喉に流し込んでエリスは愚痴をこぼす。
「本当なら今から足場を組み直す予定だったんだが、先にあれをどうにかしないといけないようだな……。」
俺は電波塔の頂上に君臨しているキヌタニを見上げた。
「つーかよ、キヌタニは何であんな場所にいやがるんだ?登れる身体能力もねえだろうに……。」
「いずれにせよ、アンテナも交換する予定だったんだ。先にキヌタニを回収してしまうか。」
「そうよ!!さっさと働かせないとね!!」
エリスはそう言ってさっさと足場を登って……おい!そこは昨日足場を撤去した場所だぞ!!
「あれーーぇ???」
彼女は足を踏み外すと宙を舞って下の階層に落下した……。
「いったーい……!!(´;ω;`)何で穴が空いてるのよ……!?」
いや、昨日もお前はそこで落下してるんだよ……。
「だが、これだけ足場が穴だらけなのにこんな重いアンテナを頂上まで運ぶのはさすがに不可能か……。」
一昨日四人で俺の家からここまで運び出したアンテナは軽く見積もって100kgほどあるだろう。
「んまあ、さすがにこのアンテナを抱えてはしごを登ったりするのは無茶だがよ、ロープで縛って上から持ち上げるんだったら出来ると思うぞ?」
ちょっと手荒だが、新しいアンテナをずっと地面に置いておくのも何だか落ち着かない。
「じゃあ俺とエリスで今のアンテナを解体しよう。行くぞエリス。」
「ううっ……どうしてまた私がこんな目に……!!」
そして電波塔の頂上にて、今までで一番至近距離でキヌタニの様子を観察したがやっぱり気を失っているようだ。
一体いつからここでノビているのかは知ったことじゃないが、いい加減起きようとは思わないのだろうか??
だがまあズボンの裾が引っかかったこの状態のまま意識が戻ったとして、じたばたと暴れてかなり下の足場に落ちたりでもしたら……とてもじゃないが無事じゃ済まなかっただろうし、これはこれで良かったのかもな。
「とりあえずキヌタニを足場に下ろそう。」
俺はズボンを脱がしてキヌタニを足場に横たわらせた。
「ほら!!さっさと起きなさい!!」
すると横からエリスが割り込んできてキヌタニの顔にグーパンチをお見舞いした!
「ぐはっ……!?う、うーん、あれ……??エリスとよしだくん?僕は……何で外にいるの?」
キヌタニは俺たちの顔を見て、そして太陽が視界に入ってるのを不思議がってそんなことを聞いてきた。
酒でも飲んでいて記憶が飛んでいたのだろうか???
いや、それは置いておいて、だ!
「どうやってここまで登ったのかも気になるが、用もないのに立ち入るんじゃない!」
「ひえっ!?そ、そんなあ……僕はヤムチャに蹴り飛ばされて、気がついたらここにいたのに……って、どうして僕こんな高い場所にいるのー!?」
どうやら彼は電波塔の上層部にいると、体を起こした今の今まで分かっていなかったらしいな。
そしてどうせキヌタニのことだから高いところも苦手なのだろう。
「言い訳垂れてんじゃないわよ!!あんたのせいで森中が停電した上に駄菓子屋の売り物が腐って異臭騒ぎになってんの!!」
「て、停電!?ぼ、僕は何もしてないのに……。」
「ごちゃごちゃ言わずに早く腐った売り物を片付けてきなさい!!」
エリスはキヌタニの顔をビンタしまくる……。
「ぶおっ!?そ、そんな事言われても……こんな高いところから降りられないよ……。」
「うるさい!!早くして!!」
はしごの前で尻込みしているキヌタニをエリスの後ろから蹴り飛ばして突き落とした!!
「ひいっ……ぎゃあっ!!」
キヌタニは幸いにも一回層下の足場に転落しただけで何ともないみたいだ。
「エリス……足場の場所によっては下手したら地上まで転落する危険もあるんだぞ。今みたいな真似はよしてくれ。」
「地上まで落ちたって死ななきゃいーのよ!!」
ここから地上まで何十mあると思ってるんだ……?
ヤムチャならともかくキヌタニなんて落ちたら最後、木っ端微塵になるだろうな。
「おいおい、何かが降ってきたと思ったらキヌタニじゃねえか。」
俺たちがモタモタしている間にヤムチャはもう頂上間近まで来ていた。
「どうやらキヌタニが高いところから降りられないらしくてな。何か安全下ろす方法はないか?」
「あーー……そうだな、このアンテナみたいに運べばいいんじゃねえか?」
なるほど、その手があったか。
そんなわけでキヌタニはエリスの手によってロープできつく、ぐるぐる巻に縛られたと思ったら上の階層から吊るされて、ゆっくりと下の階層へと降ろされる……こんな光景がしばらく続いた。
そして地上に彼が降ろされるとエリスが一目散に彼のもとへと駆け寄った。
「本当に手のかかるゴミね!!さっさと駄菓子屋の掃除でもしてきなさい!!」
そう言って彼の顔を蹴飛ばしたが……また気絶したらどうするつもりなんだ???
「ごぶっ!!で、でも……このロープ、自分じゃ解けないよ……。」
「本当にうるさいわね!!仕方ないから私がぶっちぎってあげる!!」
するとエリスはどこからかノコギリを取り出してキヌタニに振りかぶった!!
「ひいっ……いやあああーーっ!!」
……だが、そんなエリスの腕は振り下ろす前にヤムチャが掴んで動けなくしてしまった。
「エリス、そりゃノコギリの構え方と違げえな。俺が正しい使い方を見せてやらあ!!」
そしてエリスからノコギリを奪い取るとキヌタニに向かって片手で軽く一振りした!!
するとロープだけが綺麗に切れた……いや、遠目でも分かるくらい服もまあまあ破けている気がするけど見なかったことにしよう。
……これは本当に余計なお世話かもしれないが、エリスもヤムチャもノコギリの使い方を間違えているからな?
本来は斬りたい物に刃の面を添えて手前と奥へ交互に引くんだぞ!!
良い子のみんなは刃物を振り回しちゃダメだからな!!
「あああー!!!……あれ?ロープが切れてる!いつの間に……?」
「動けるようになったならさっさと駄菓子屋に行きなさいよ!!」
「ひいいっー!!誰か助けてー!!!」
ロープが切られたことにも気がついていなかったキヌタニにエリスが拳を振りかざすと、彼は悲鳴を上げながらノロノロと駄菓子屋の方に向かって走り出した。
「やれやれ、これで一件落着か……ん?」
電波塔の上層部から様子を見ていた俺はアンテナの近くに一枚の布が落ちていることに気がついた。
「これは……キヌタニのスボンだな……。まあ、キヌタニのことだ、気がつかないかもしれないし、気がついたとしたらまた取りに来るだろ。」
そう思って俺は知らないふりをした。
見返して気がついたのですが、今回はよしだくんがエリスに何も投げつけていませんでしたね。
キヌタニを前にしたエリスは戦闘力が爆上がりするということでしょうか……??
作者は昔、どういうわけか洗ったフライパンと料理して余った鶏肉を逆の場所に片づけてしまったことがあります……。
つまりは綺麗なフライパンを冷蔵庫の中に、鶏肉を流しの下に……。
文章に起こしても意味不明なのですが、一体どうして間違えてしまったのか……。
その時季節は初夏、その日は丁度燃えるごみを出した日、数日間は腐った鶏肉と同居する羽目になりました……。
もう五年ほど前の話でそれ以来間違えたこともないですが、また腐らせてしまわないか心配です。
暖かくなってきましたので皆さんも食中毒にはお気を付けください!