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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第5章 終わらぬ悲劇の中で
152/162

0-24 時空の狭間へ

ーー前回のあらすじーー


 森に一人で住んでいた青年の正体はヤムチャの甥にあたる人間だった。

彼は三年ほど前からこの場所に数人の子供たちと共に隔離され、自分たちの家族を探しつつ生活を続けていた。

だが一か月ほど前、今度は彼以外の子供たちも忽然と姿を消してしまったそうだ……。


 彼はどうやら姿を消したのは他の住人たちではなく自分たちであると感づいていたようだった。

チッダールタは我慢ならず他にも100エーカーの森のような廃村を見つけたと彼に伝えた。


 その話を聞いた彼は外の世界を探せば故郷に帰れるのではないかと思い、本物の100エーカーの森を探すことを決意する!

そしてその決意を感じたチッダールタも何とかして彼を故郷を帰そうと協力するのであった。


 地道な探索を続けて12年……彼らは簡易拠点で寝泊まりしているところ、近くを通りかかった人間に発見された。

彼らは100エーカーの森の住人で森はすぐ近くにあるのだとか。

こうして遂に二人は長年探し求めていた100エーカーの森に辿り着いたのだった……。



 数年間見つからなかった失くし物がある日突然出てきたら感動しませんか?

作者の実家では昔、たまにしか出現しない万歩計がありました。

いつもはどこにあるか分からないのにふとした時に突然どこからか沸いてくるのです……。


 数か月に一回は見かけてましたかね、あれから20年近くが経って今ではもうどこにあるかも分かりません……(そもそも家族に捨てられてるのでは?)。

またいつか突然家の隅から出てくることはあるのでしょうか……?

本物の100エーカーの森は私が想像していたよりもずっと開拓されていた。



 畑はヤムチャ一人が管理していたときよりゆうに百倍を超える広さがあって、もはや森全体の大きさからも『100エーカー』の森という名前も正しくはなかっただろう。




環状線をトラクターが走り、ポケベルではない不思議な機械で通話をしている……。



そんな世界が30年後には広がっていた。




私たちはまず民家に通されて風呂に入り、新しく用意された服に着替えて集会所へとやって来た。


 お菓子と干し肉が大量に置かれた長テーブルの前にある椅子に座らされ、自由に食べていいと言われると遠慮など一切せず目の前のご馳走にかぶりついたよ。




「もうここへ来てるんだな、入るぞ……。」



しばらくすると集会所のドアが開いて誰かが入って来た。


 ガタイの良い初老の男性と初老と言うには年を取りすぎた女性の二人、長テーブルを挟んで私たちの向かいに座った。




「急なことで村長の私だけじゃなくみんな驚いてる……だが、どれだけ時間が過ぎようとも私にはお前が誰だか分かるぞ。……本当によく帰ってきてくれたな、我が息子よ。」



男性の方が口を開いた。


どうやらヤムチャの弟がこの時代では村長になっていたようだな。



「一体どこへ行ってたんだい?12年間は相当だよ……それに消えた他の子供たちは一緒にいたんじゃないのかい?」



女性の方からそう聞かれたので彼は今までの経緯を長々と話した。



「お前以外の子供はみんな一斉に消えてしまったのか……。そしてそんな地道な方法でここまで帰ってきたんだな。」


「それも偶然出会ったこの人のお陰ね。私からもお礼を言わせて。」



女性の方は終始笑顔で私に話しかけていたのに、ものすごい憎悪のオーラが伝わってきた……。




「まだまだ話したいことはあるが、今はゆっくりと休むがいい。さあ息子よ、家に帰ろう。」


「あなたにもまだまだ聞きたいことがあるわ。私に付いてきて欲しいの。」



 女性の方は腰を丸めて椅子から立ち上がるとゆっくり建物の出口の方へ歩き、こちらへ手招きしてきた。



「それじゃあ、また後で。」



私は二人にそう告げてから集会所から出た。




これが……彼との永遠の別れだった。






ゆっくりと歩く女性についていくと森の門から出てしばらく歩いたところまで連れて来られた。



「ここら辺まで来ればいいでしょう……さてと、お前はスタークだね?」



彼女の身体から滲み出ていた憎悪のオーラが一気に噴き出した!!


そして突然自分の名前を呼ばれたものだから心底驚いたな。




「どうして俺の名前を……?」


「密林でずっと彷徨ってる可能性があったのなんてお前くらいなものだからだよ。1995年に初代試験場へ連れて来られ、計画は失敗に終わった後も身元を回収されることなく放置された……。あれから30年、とっくに死んでいるものだと思ってたよ!」



初代実験場とは恐らく私が最初に住んでいた森のことだったのだろう。



「コルクはお前に計画の全容を話したとそう言っていた。だとしたら、お前は死ぬか組織の目が届く場所にいなければならないはず……あの子もとんだ大誤算をしたもんだよ!」



それだけまくし立てられても私には言われたことに対しての実感が湧かなかった。


そして何より疑問に思っていることが聞きたかった。




「なあ……どうしてヤムチャの甥は森の……実験場で一人きりになっていたんだ?」



「ここまで言われてそんなことが気になるのかい!?……あれはね、実験場で一緒に住んでいた組織の仲間……私の孫がうっかり計画の一部を他の住人にバラしてしまったのさ!だからさっきは知らないふりをしたけど、彼……最強戦士候補以外の住人は組織の基地へ移送して秘密が彼の耳に入らないようにしておいたんだよ!!」



「彼は一人で生活していて気が狂いそうになっていた。もちろん俺も、計画のことを話したら彼が壊れてしまうと思って話せなかった。だが、本当にそれが正しいと思ってやったのか?」



「あれはもう仕方がなかったんだよ。それに……いや、じゃあ言わせてもらうね!私はお前のことがとても恨めしいんだよ!!一つは、二代目の計画を滅茶苦茶にされたことさ。本当はヤムチャの甥を一人にしてからそう遠くないうちに組織へ迎え入れるつもりだった。でもこちらが準備をしている間にお前が実験場の外へ連れ出したせいで彼は死んだと……みんな勘違いをしていたんだよ!!」



もちろん、そんなことを言われても私にはどうしようもなかった。


さらに彼女は続けた。



「この森に住み込みで計画に加担している組織の人間は人生をかけて最強戦士を誕生させようとしているんだ!今度は上手くいく……そう思ってたのにお前が全てを台無しに……先人たちの人生も無駄になったよ!」



でもまさか人生を賭けてまでそんなことをしているとは思わなかった。


少しだけ、申し訳ない気持ちになったのも事実だ……。




「それはそれとしてね、私がお前を恨む一番の理由は……ここへ何食わぬ顔でやって来たことさ!」



彼女は憎悪のオーラを更に強くした!



「ここへ来たことが……?」



「お前も知ってるはずだ!いや、忘れたとは言わせない!30年前に駄菓子屋で店主をしていたキヌタニを……うちの息子のことを!!」



彼女はキヌタニの母親だったんだ……。



「30年前、一度目の計画が失敗に終わった時……あの子は組織の人間しか知らない秘密のルートを使ってここまで帰ってきた。でもそれは……一度ここから消えたはずの人間が戻ってくることは決して許されないこと。だから……私はこの手で自分の息子を殺めたんだよ……!!」




彼女は涙を流しながら膝から崩れ落ちた。


まさか彼の辿った末路がそんなものだとは思いもしなかった。



「本当にそんなことまでしなきゃならなかったのか?」



「うちの息子だって……私に刃物で全身を刺されながらこう言ったよ。『組織の計画と家族、母さんにとって大事なのはどっちなの……?』ってね……!もちろん私は計画のほうが大事だと答えたよ!『今までどれだけの仲間が人生を捧げてこの計画を進めてきたと思ってるんだ。あんたもその一人になるんだよ!』……そう言って私は我が子の息の根を止めた……。」




私は彼女の姿を過去に仲間として連れ添ってきた鹿たちの群れと思い出して比較していた。


 彼女たちは肉食動物から逃げる際には我が子を庇い、時として自らを犠牲にしつつも子供たちを逃がそうとしていた。



目の前にいる老婆は本当に子供の母親だったのだろうか?


何故か不思議と怒りが湧いてきた……。



「計画がどれほど重大なものか、俺には分からないんだろうな。だがよ、密林に住む動物たちだって自分を犠牲にしても自分の子供を守ろうとしている。あんたにだって息子を匿う選択肢くらいあったはずなんじゃないのか?」



「私だって最初から殺そうとしたわけじゃないよ……。でもここに帰ってくることだけは無理だと……何度も説得して組織の基地へ異動することを勧めたさ!それでもあの子は『僕はここへ帰ってくるためだけにこの六年間ずっと耐えてきたんだ!』って聞く耳を持たなかったよ。そんでもって他の住人たちへ会いに行こうとまでしたんだ……。」



キヌタニは本当に最後まで変なところで頑固だったんだろう。



そして同じく頑固な母親に歯向かってその命を終えた……。



「私は一回目の計画で息子を失い、二回目の計画では自分の孫を実験場へ送り出した……。孫の方は遠方にある組織の基地で健在にしているけどもう二度と会うことは出来ない……。そんなところへ同じように実験場で生活していたお前がのこのことやって来た!本来は森の住人でもないお前が当たり前のようにこの森へ入ってきて……許せるわけもないだろ!?お前さえいなければ……まだ計画だけは成功したかもしれないのに!!!」




 もしかしたら計画が上手く行ってこの森が用済みになり、住人たちが解放されることで全ては今よりも良い結末を迎えたのかもしれない……。


本当かどうかなんて誰にも分からない。



それでもそう思わずにはいられなかった。



「……もうお前に用はない。彼に計画のことを話さなかったせめてもの情けだ。命だけは助けてやる!その代わり、次にこの森へ足を踏み入れたら確実に息の根を止めてやるよ!!」



彼女はそう怒鳴ると私の背中を森から遠ざける方向に押し出した。





その時、こう感じたよ。



私はきっと他人との関わり方を間違えた。


でもどうすればよかったのかなんて全く分かったものではなかった。



もう、終わりにしよう。


他人と関わっても私は害悪でしかないんだ。


その想いが……私を歩かせた。



私はたった数時間で100エーカーの森を去り、この密林で二度と人間と出会うことはなかった……。






それからはずっと密林の中を彷徨い続けた。



だが、神通力のお陰でもう何にも困らなかった。


そして神通力の研究と瞑想は怠らなかった。



それすら使えなくなった私は……存在そのものが消えてしまう気がしたからな。



私は一箇所に留まることなく絶えず移動を続けた。


自分がこの世界における異物だと感じていたんだ。


だから同じ場所にずっといてはいけないと……どこかでそう思っていた。




時折、動物たちと会話をすることはあったな。


木の実の在り処を聞いたり、自分を襲わないよう肉食動物を説得していたりした。


それでも以前のように動物の群れと行動を共にすることは無かった。


それすらももう……拒絶される気がして怖かったんだ。




ずっと彷徨っていてもヤムチャの甥と二人で作った道標を見つけることはなかった。


きっと、全く違う方向に歩いて来ていたのだろう。




孤独と戦う日々で私は一日の食事や瞑想をただ淡々とこなすばかりだった。


それ以上のことを求めてしまったらきっと精神が壊れてしまっていただろうな……。


季節が巡るごとに私も次第に老いていき、髪は白くなり体力も落ちていった。


自分の足で歩くことも難しくなり、神通力で浮遊して移動するようになった。




誰とも会わないから、もしかしたら世界には私以外の人間がもう存在しないのかもと思った。


それは事実かもしれないし、人類はまだまだ健在だったかもしれない。


いずれにせよ、それを確かめる術はもうない。




そして……そんな放浪生活を初めて33回目の秋だった。


私はいつもと同じように浮遊し、移動をしていた。



ふと、代わり映えしない景色の中で異様な物が視界に飛び込んできたんだ。


草木が生い茂り、苔に覆われていたそれは明らかに自然界で生成されるものではなかった。



遠い昔に見たことあると思ったそれは……間違いなく私が住んでいたヤムチャの家だった……!


そこを棄てて45年の月日が流れていたがまだ家としての形を保っていた。



私は一目散に崩れそうな家の中に入って様子を窺った。


家の中も植物の王国と化していて人間の付け入る隙などどこにもなかった。


 だが私が残していった食器や農具は時間の流れには飲まれず、確かにそこで朽ちることなく変わらずに佇んでいた。




「帰ってきたんだな……始まりの場所に。」



自然と言葉が漏れてきて、私は密林で過ごした63年の時間に思いを馳せた。


だが……思いを馳せてとても虚しくなった。




私の人生は悲しい別れの連続だった。



 他人と関わる喜びや他人を思いやる気持ちを教わってそれを感じることは出来たが、結局最後は一人になる……。


幸せとは程遠いものだったと感じたよ。




私はその場に寝転んで目を閉じた。


ふと、私は時間の流れるエネルギーを感じ取ったんだ。


紫色で霧状に世界を一定方向に変わらぬ速さで漂うエネルギー……。



 それはどれだけ強いエネルギーでも流れをせき止められず、どんなエネルギーでも流れに逆らうことは出来なかった。



私という存在もまた、そのエネルギーの流れには逆らえずただ漂っている感覚になった。




とうとうこの時の私は時間の流れさえもエネルギーとして感じ取れるようになったんだ。


そしてそのエネルギーからはどうやっても解放されないことも悟ったよ。



 このまま私はもうすぐこの時間というエネルギーに押し流されて寿命を迎え、命を散らすものだと思っていた。


 川に流された落とし物を追いかけるように、私は過去に流されていった記憶をエネルギー伝いに追いかけた。


 もちろん自分自身が過去に戻ることは出来なかったが、そのエネルギーに沿うことで昔の出来事を鮮明に思い出すことが出来た。


そして、私は偶然にも見つけてしまったんだ。



過去に流れていったエネルギーの量にはムラがあり、何点もエネルギーの『空白』があった。



ここから先の出来事はまさしく奇跡だった。



その空白に意識の中で手を伸ばすとその中に吸い寄せられる感覚がした。


明らかに自分の意識がどこか別の世界へ飛ばされそうな予感を感じ取ったんだ。




もしかしたらと思った。


 時間を巻き戻すことは出来なくても、その空白に飛び込めば特定の時代を狙って過去へ飛ぶことは可能ではないかと。



人生をやり直すことは出来なくても、せめてもう一度みんなに会いたい……。



もしそれが出来るのなら……今度はもう間違えない。


他人と上手く付き合っていくんだとそう決意した。



 この孤独なチッダールタの人生という小説のラストページは華やかに飾るんだと意気込んで、私は1995年の3月にある時間エネルギーの空白に飛び込んだ!






そして気がつくと私は森の北西にある洞窟の中で倒れていた。



どうやら本当に、そして随分と呆気なく過去へ戻ってくることに成功してしまったんだ……。




 私は起きあがると近くでピカピカと光る何かが側に落ちていることに気が付いたので、そちらの方に視線を移した。




するとどうしたことだろうか……?


イルミネーションが付いたきらびやかな服に身を包んだ私が虫の息で倒れていたではないか!



まさか……幽体離脱か、とも思った。


だが、そういうことではなかったとすぐに私は理解した。


もう一人の私がこちらに気が付くとすぐに掠れ声で喋り出したからだ。




「よく……来たな……もう一人の……私……。今から……私の……記憶を……お前に……。」



そして彼は震える腕を何とか伸ばすと指先を私の額にくっつけた。


すると次の瞬間、大量の記憶が私の脳に流れ込んできた。




「お前に……私『たち』の……人生を……託す……。」



そうしてもう一人の私は役目を終えたかのように息を引き取った……。



……彼が遺した記憶は悲しく、衝撃的なものだった。



ここからは……私も知らなかった二つ目の世界のお話だ。

 キヌタニの母親は末っ子である彼を実験場の管理者として送り出し(5-26話)、この過去編の世界では計画のためと容赦なく殺し、本編の世界では彼が死んだと聞いた時に少し悲しそうにしながらも一度顔を見たきりでそれ以上は何もしませんでした(5-3話)。


 彼が何人兄弟なのかは分かりませんがきっと母親としては『一番いらない子』を生贄として捧げたのでしょう。

親として我が子の死を悲しみながらも、本当のところは『まあ最悪死んでもいいか……。』程度の気持ちで実験場へ送り出していたのかもしれません。


 末っ子は甘えん坊と言われますが、実際どうなんでしょう?

そういう傾向はありそうですが、大家族とかだと下の子が放置されそうなイメージがあります。


 甘えん坊は悪いことではないと思うのですが、何だかあまり良くないイメージがありますよね。

甘え上手な読者の皆さんは世の中の甘えん坊のイメージを改善すべく頑張ってください!!

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