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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第5章 終わらぬ悲劇の中で
151/162

0-23 100エーカーの森は何処に

ーー前回のあらすじーー


 神通力も無事に取得して鹿たちと平和な日々を送っていたチッダールタはある日、一頭の鹿からこんな話を聞かされる。

ここから少し離れた所に突然現れた人間の集落がある、と。


 もしかしたら第二の100エーカーの森を模倣して作られた集落があるのかもしれないと思い、それまで住んでいた環境を捨ててその場所に行くことを彼は決意した。


 集落へ到着して一通り様子を観察すると、集会所や駄菓子屋は変わらずあったものの、ヤムチャが住んでいた家から出て来た青年が一人いるだけでそれ以外に住人は見当たらなかった。


 自分の素性をある程度喋ってから彼に森の様子について話を聞いてみると、ついこの前まで他にも住人たちはいたのだとか。

裏を返せば今はいないと言うことだが、一体何があったのだろうか……?



 一人でいることが好きかどうかは人によるかと思います。

読者の皆さんは一人の時間、好きですか?


 例の青年と言い、チッダールタと言い、一人でいることが好きでないと周囲に誰も居ない環境でずっと過ごしていくのは耐えられないでしょう。


 もし世界でたった一人の人間になってしまったら……読者の皆さんは何をして時間を潰すのか、考えながら読んでみてください。

ーーーーーーーーーー


俺が住んでいるここは100エーカーの森って名前の集落だ。


元々は人口70人ほどで小さいながらも賑わっていた。




そんな森に突然の異変が起きたのは丁度三年ほど前のことだ。



俺がある朝、目を覚ますと……家にいたはずの家族が誰も居なくなっていた。


早い時間からどこかに出掛けたのかと思って俺も家の外へ出たんだ。



すると、昨日まで当たり前のようにあったはずの民家が殆ど消えていたんだ!!



こんなことがあるわけない……そう思って俺は残っていた家に駆け込んだ。




すると、最初に入った建物の中には俺と同い年くらい、その家の次男坊だけが爆睡していた。




「おい、起きろ!!」



俺は無我夢中で彼の身体を揺さぶった。



「うぁ……な、何だ朝から……て言うかお前、どうやって家の中に……?」


「いいから早く起きろ!そして家の外の景色を見てみろ!!」



俺はそれだけ言い残すと他の家へと走った。





 そうして全部の家を回ったが家一軒につき居たのは俺と同じ年くらい、12歳位の子供が一人だけだった。




全員を集めて一人ずつ話を聞いたが、特に他の家の家族も昨晩まで変わったことはなかったらしい。


 理由は分からないがこの森は一夜にして人口がたったの五人になってしまい、残りの住人たちは消えてしまった……。



いつか自分たちの家族を見つけ出そうと、俺たちはそう誓って今まで生活してきた。


だが、どれだけ森の近くを探し回ろうとも人っ子一人いなかったよ。





そして家族探しが何の進展もなく、みんな諦めかけていた一ヶ月前のこと。


朝に目を覚ますと、今度は俺以外の住人が一人残らず消えてしまったんだ!!



本当に何の前触れもなかったし、どこを探しても誰もいなかった……。


そうしてもう一ヶ月だ。



ずっと一人でいるのは気が狂いそうになるよ……。


だからお前が来てくれてとても助かったと思ったんだ。


ーーーーーーーーーー




彼はそこまで言うと一度口を閉ざした。


私は彼の話を聞きながらひたすらに考えていた。



 三年前に起きたという住人の大半が消えた事件……それは昔ドーベル将軍が私やよしだくんに説明したように、そして昔のヤムチャたちと同じようにこの作られた『偽物の森』へ連れて来られたのだろう。



 だが、一ヶ月ほど前に彼以外の住人が全員いなくなってしまったのはどういうことなのかさっぱり分からなかった……。




「何か事件の起きそうな前触れとか、何かおかしなことはなかったのか?」



「おかしなことか……そういえば、駄菓子屋……この森には駄菓子屋とかいう名前の店があるんだが、そこの店を切り盛りしていた奴が数日前から『用事があるからしばらく店を閉める』なんて言い出してたな。今までそんなことは一度だってなかった。」




駄菓子屋の人間ならきっと組織とも関係があったのだろう。


 もしかしたら他の住人を全員どこかへ連れて行く、もしくは……彼をここに連れて来る、そのどちらかの準備をしていたのかもしれないと予想した。



とにかく、まだ組織の計画は断念されていないのだろうなとそれは確信出来た。


と、私にはまだ気になっていることがあった。




「随分と広い家に住んでいるが元々は大家族だったのか?」



ヤムチャが住んでいた家がある……つまり彼と関係のある人物なのではと思った。



「俺の父親が大家族でな、六人兄妹だったそうだ。その家を次男だった父親が受け継いだんだ。この家は大家族だった頃の名残だな。」


「家を継いだのは長男じゃなかったんだな。」



「そうだな、普通はそう思うよな……。」



そして彼は少し怯えたような表情になった。




「その昔、俺が生まれる数年前くらいの頃だ。森の子供たちが突然数名姿を消す事件があってずっと行方不明のままになった事件があった。その子供の中にその長男、だから俺の伯父にあたる人も含まれていた……。」




つまり、彼はヤムチャの甥に当たる人間だったのだろう。


だとしたら彼が最強戦士の候補なのだろうとは思った。



だが、彼は良くも悪くも普通の人間……そう見えた。




「そして何年も経ってから今度は大多数の住人が姿を消した……。どうしてこんな恐ろしい事件が起きるんだろうと、この森は呪われているんじゃないかとも思うよ。それでさ……最近思ってたんだ。本当に消えたのは他の住人じゃなく俺たちの方なんじゃないかって……俺たちの伯父みたいにこうやっておかしな空間に来て……。」




彼はほぼ核心に近い推理をしていた。



そうは言っても最強戦士の計画など知り得ないわけで……そのことは伝えられるわけもなかった。




「だとしたら、どうにかして元の場所に帰るしかないだろ。」



本当のことを知っていた私はつい軽率にそんなことを口走ってしまったんだ。



「そんな簡単に……いや、お前は長い事密林の中を彷徨ってたんだったか。ここ以外に集落を見かけたことはないのか?」



藁にも縋るような口調でそう言われた。




「……実はここと道の配置や地形がよく似た集落の跡を見かけたことがある。確かに駄菓子屋の看板が掛けられていた建物もあった。」



 森に住んでいたとまでは言わなかったが、確かに100エーカーの森を模倣した場所があることだけは我慢ならずに伝えた。




「集落の『跡』か……お前が見かけた時にはもう誰もいなかったのか?」



「……ああ、もぬけの殻だったよ。」



「でも本当に消えたのは俺たちなのかもしれないのか……どうして俺以外の子供たちまで消えたのかは全く持って謎だが……。」



「俺が見つけた集落の跡ももうどこにあるのか分からないし相当距離もあるだろうな……。だからもし『本当の』100エーカーの森がどこかにあるとしても見つけられるとは限らないだろうよ。」




「それでも……存在するのなら俺は諦めたくない。……集落の跡にいたのはきっと伯父たちだろうな。彼らもきっと故郷を目指して……もしかしたら今も密林を彷徨っているのかもな。」


「そうなるかもしれないが……それでも行きたいか?」


「死ぬまで一人ぼっちでここにいるなんて拷問だ。だったら道中で死んだって構わねえ!」



彼の強い意志と覚悟が伝わってきた。


それを聞いたら私も手助けをせずにはいられなかったんだ。




ヤムチャたちのようにはなって欲しくない。


どうにかして故郷へ帰って欲しい。


そう心の底から思えた。



「なら俺も手伝うとしよう……だが、どうか命を粗末にするような真似はしないでくれ。必ずここには帰ってくれるように慎重に探索を進めていかないか?」


「確かに、むやみやたらに探して見つかるとは思えない。誰かが一緒にいてくれるならそれだけでとても気が楽だ。」





こうして私たちの本当の100エーカーの森を探す長い長い冒険の日々が始まった。



私たちのいた集落を中心にして東西南北へ500mおきに、碁盤状の道を張り巡らせていった。


木々をロープで結び付けて辿ってきた道が分かるようにした。


1kmおきにはテントを持っていき、簡易的な拠点も作った。



 もちろん、駄菓子屋にあったテントはすぐに在庫がなくなってしまったので、有り合わせの葉っぱや木材で作ることになった。




碁盤状に道を作っていったんだ、20km四方を探索するだけでも半年かかった。



 30km四方で二年、そのくらい遠くの探索となると一日では帰ってくることが出来ず、より探索にかかる時間が増えた。




ちなみに探索を続けるうちに、彼が最強戦士候補である理由が分かった気がした。


 彼は300kgはあるだろう大荷物を抱えて密林の中を平気で移動していたし、猪と素手で戦って牙をへし折っていた……。


無茶をして木の枝が体に突き刺さっても自力で引き抜いて、いつの間にか傷も完治していた。



そんな彼の姿はヤムチャと重なるところがあったよ。






どれだけ成果が出なくても私たちは決して諦めなかった。


彼は絶対に故郷を目指そうという強い意志があった。


私も彼を絶対に故郷へ返すんだという気持ちで手伝っていた。




そして探索を始めて12年が経った夏……。



南へ65km、東へ38km進んだ簡易拠点で二人で眠っていた日のことだ。


明け方に物音がして葉っぱで作っていたテントの壁をかき分けて外の様子を伺った。




「!!!お前は……人間か……?」



 銃を持った三人の男が不自然に存在していたテントを気にしていたのか、こちらの様子を窺いながら近づいてきていた。




「これは……おい、起きろ!!」



私は隣でまだ寝ていた彼を起こした。



「どうした……猪の奇襲か……!?ん?……嘘だろ!?」



私たち以外の人間を見て、彼は自分の視界に写っているものが信じられないようだった。




「お前たちは一体……?」



私たちは長年の探索によって服もボロボロになり、いつしか風呂に入ることも忘れていた。


そんな人間たちを見て彼らは随分と訝しんだことだろう。




「はっ……!なあ、近くに100エーカーの森があるのか!?」



彼は恐らく自分でも気がつくことなくテントから飛び出していた。



「うおっ!?……も、森ならここからすぐ近くだが、それより俺たちの森を知っているのか!?」


「知ってるも何も……!なあ、連れて行ってくれ!!」



彼はもうパニックで周りが何も見えていないようだった。


そんな彼を見て当然ながら男たちは困惑していた。




「急で済まないが今はとりあえず森へ案内してくれないか?彼が落ち着いたら我々の素性も説明出来るだろう。」


「ああ、それは構わない。二人とも随分と疲弊しているようだし、まずは休んでもらったほうが良さそうだ。」



私たちの様子を見て男たちは手を差し伸べてきた。


その手を私はがっしりと掴んだ。


とても頼もしくて暖かい手だったよ。



「さあ、案内しよう。」





2025年……密林で生活を始めて30年が経っていた。


とうとう私たちは本物の100エーカーの森へと辿り着いたんだ。

 彼らは万が一にも迷子にならないよう、とても慎重に探索範囲を広げているようでした。

ちなみに500mおきという狭い間隔で道を作ったのは道と道の間に100エーカーの森があった時に見逃さないためでしょう。


 そして簡易とは言っても彼らは拠点を一体いくつ作ったのでしょうか……?

20km四方でも400個……南には65km進んでいますからその二乗……4225個!?

どの方角から探索していったのかは不明ですが間違いなくポケ〇ンの種類よりは多いでしょう……。


 遂に次回は本物の100エーカーの森の様子が明らかになります。

森の住人たちは一体どんな生活をしているのでしょうか?

もしかしたらヤムチャのような超人ばかりでカオスなことになっているかも……?

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