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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第5章 終わらぬ悲劇の中で
150/162

0-22 新天地を求めて

ーー前回のあらすじーー


 狼たちに襲われて失神し、そして目が覚めたチッダールタは鹿たちに介抱されていた。

そして狼たちを吹っ飛ばしたのは他でもない彼の体から出て来たエネルギーであると鹿たちから説明された。


 先ほどのようにエネルギーが突然暴発しても困るからと、チッダールタは鹿たちの助けを借りて自身の体内にあるエネルギーを制御する訓練をすることになった。


 自身のエネルギーを感じるところから始まり、体内の中でエネルギーを移動させる力を取得した。

さらにエネルギーの形を変化させられるようになり、二年かけてとうとう自身の力を制御出来るようになったのだった!!



 ここまで一つのことをずっと続けられたなんてきっと彼は暇だったのでしょう(と、前回も彼は自分で言っていました)。

現代社会においてそんなことはなかなか出来ないでしょう、働いていたらまず無理です。


 当然ながらチッダールタも無職だったわけで……そこはスタークと何ら変わりませんね!

それで生活出来ているのだから羨ましい限りです!!


 もし100エーカーの森にハローワークが出来ても求められるのは仕事ではなく人の方でしょう。

「駄菓子屋の店主を交代してくれ」……そんな声が聞こえてきそうです。

 神通力が使えるようになるまでの二年間も、決して神通力を制御するための鍛錬だけをしていたわけではなかった。



 冬以外は鹿たちにも野菜を食べさせてあげようと思い、畑を大きくして農作業にもかなりの時間を費やした。



 他にも鹿たちを襲う肉食動物を追い払ったり、子鹿が生まれる初夏には生まれたばかりの鹿の世話を頼まれたこともあったな。



後は普通に鹿たちと雑談をしたり、日々の生活に役立つことを教えてもらったりもした。


 人の口にも合うような木の実がないか何種類も取ってきてもらったり、毒のないキノコの見分け方を教わったり、時には森から少し離れた所にある魚が沢山泳いでいた川まで案内してもらったこともあった。


おかげで食生活も最初の頃と比べたら随分と豊かになった。



そして神通力を操れるようになった私は何だかんだで瞑想を続けていた。


私は神通力にさらなる可能性を感じていたんだ。



もっと色んなことが出来るのではないかと……それで様々なエネルギーの形を模索していた。


そして使えるようになった力は沢山あるが、早期から使えたのは傷を癒やす神通力だな。


痛みを伴う赤いエネルギーをハチミツのような黄色くて粘土のあるエネルギーで中和するんだ。



それから透明になる神通力は意外と簡単に使うことが出来た。


 目に見えるものを認識するのは様々な光で構成された虹色のエネルギーで、それを相殺するのは実体も色すらも持たない、空虚とも取れるエネルギーだった。


虹色のエネルギーを空虚なエネルギーで取り囲むことで自分の姿から色を失わせるんだ。




 神通力を順番に挙げていくとキリがないから言わないが、そんな穏やかな生活をしていたある日のことだった。




『今日は新しい野草の群生地を探しに遠出をしてきたのだけれど、そこで他の群れと出会ったの。他愛もない話をしていたら人間の話題になってね。……この話聞きたい?』



何故かその鹿は突然真面目な口調になって私に尋ねてきた。



「その群れの鹿も人間を見たことがあったんだな、もしかして俺のことなのかよ?いずれにせよ、気になるから話してくれないか?」



きっと私のことを見かけて噂にしていたのだろうと思っていた。




『じゃあ話すね……その鹿が見たのはあなたじゃないの。そしてここからかなり離れた場所にだけど、人間の集落があるんだって。それも数年前、急に現れたらしい……。』



だがその予想は物の見事に外れていた。



私以外に密林で暮らしている人間がいる?



もしかしたら本物の100エーカーの森のことを言っているのかもと思った。


 だがドーベル将軍の話が正しければその場所は昔からずっとあるわけで、急に出現した集落なら違うだろうと自分の中ですぐに否定した。




『やっぱり気になる……?』


「ああ……急に出現したっていうのが特にな。」




もしかしたら、と嫌な予想が頭をよぎった。



 組織の手によってヤムチャたちのように100エーカーの森から引き離されて、隔離されている子供たちがいるのではないかと思った。


そうかもしれないと知ってなお、知らぬふりは出来なかった。




『その集落に行きたいんだね?そしてこれからは人間の群れの中で生きていく……。』


「ああ、この目で確かめたいことがある。」



心の内を完全に見透かされていた。



『あなたには本当に長い間お世話になった。最後の恩返しとしてその集落まで案内するよ。』





長年住んでいた家と畑にも愛着はあった。


それでも行かなくてはならないという気持ちのほうが強く、躊躇うことはなかった。


 私は密林で迷わないための道標と食料、弾薬が尽きかけのライフルだけを持ってこの森を発つことにした。




フジモンが亡くなってから18度目の秋だった。


この森は完全に自然へと還ったのだ……。






こまめな仮眠を挟みつつ、六日ほどは歩いただろうか。


途中で他の鹿の群れも合流して40頭ほどの大所帯になった。



『この辺りからなら集落の様子が見えるはず……どう?』



50km以上は歩いただろうな。


鹿たちは立ち止まって私に語りかけてきた。



そう聞かれたので私は手頃な木の上に登って遠くの様子を確認してみた。


すると確かに朝焼けで照らされた開拓されているような土地が見えた。



 住人がいるかどうかは確認出来なかったが鹿たちのこと言うことだ、きっと誰かしらはいるのだろうなと思った。



「ここが……その集落か。連れて来てくれてありがとう。」



私は木から降りた。




『どういたしまして。ついにお別れだね……私があなたと出会ったのはまだ二歳の時だった。一生の大半をあなたという不思議な人間と過ごせたこと、それも何かの縁だと思ってる。』



「俺もだよ。違う種とこれほど長く生活していたなんてそうそう他の人間には真似出来ないからな。だから、せいぜい自慢させてもらうよ。」




鹿たちの寿命はそれほど長くない。


彼女たちと過ごしている間にも何体もの鹿が寿命を迎えて、森の土へと還っていっていた。



 一番最初に話しかけてきて、その後もずっと私にたくさん話をしてくれた鹿ももう十歳になろうとしていた。 



きっともう彼女の命もそう長くはなかっただろう。




『ねえ一つだけ約束して?私たちは長い間ずっとあなたのそばにいて、種こそ違えど本当の仲間だと思ってる。だからこの八年間を決して一人ぼっちだったなんて思わないで欲しい。』



「お前が話しかけてくれたあの時から、気がつけば孤独を感じることなんてほとんどなくなっていた。言葉が通じたからかもしれないが、相手が人間かどうかなんて気にしたこともなかったよ。俺は一人なんかじゃなかった、約束しよう。」



彼女たちに出会えたこと、それで俺がどれだけ救われたか……感謝してもしきれない。



『ありがとう……人間の世界でもずっと、元気でね!!』


「お前たちもな。……本当にありがとう。」




もしこの集落があることを知らなければ私はずっと鹿たちと生きていただろう。



とても辛い別れだった。


けど、これが本来あるべき生き物たちの姿なのだろう。



そう言い聞かせて私は振り返ることなくその集落へ、人間の世界へ再び足を踏み入れた。







突然見知らぬ人間が集落の中にいたら驚いてしまうだろうから私はまず姿を消して偵察した。


確かに見覚えのある特徴的な環状線とその内側の土地を四分割している真っ直ぐな二本の道……。


間違いなくここは100エーカーの森を模倣して作られた集落だとすぐに確信した。




だが、随分と森の雰囲気は変わっているような気がして懐かしさは全く無かった。


確かに昔と同様、森の入口にあった門や集会所は変わらずに存在していた。


そしてもちろん駄菓子屋もあった。




森の住人たちは昔のヤムチャたちと似たような生活しているのか、そう予想していた。


と、目の前にあった家から偶然誰かが出てきたんだ。




「クソッ!また夢じゃなかったのか!!これが本当に現実だってのかよ!?」



その青年は拳で玄関のドアをぶっ叩いた。


そして私は自分の見ているものが信じられなかった。


彼が出てきた家は確かに私が住んでいた、昔のヤムチャの家だったのだ。


そして青年にもどこかヤムチャの面影があった……。




急に声をかけてもどうかと思い、一度私はその場から離れて彼とどうやって接触するかを考えた。




 電波塔の真下までやって来て、ここなら誰も来ないだろうと透明化の術を解いてから森の中で見たものを頭の中で整理していた。



森の中には集会所や駄菓子屋があった。


それ以外の建物は民家が五軒。


そのうち一軒は昔ヤムチャが住んでいた家だった。


つまりこの森の住人は五人で、以前私がいた森と同じような状況なのだろうと思った。



 だとすれば晩御飯は集会所か、もしくは心の広い店主なら駄菓子屋の売り物で三食賄っているかもと思い、民家の様子を窓から覗きながら駄菓子屋へ向かおうと私は再び透明化の術で姿を消した。




先程の青年は畑で野菜を収穫していて、それ以外の住人たちは家にも外にも姿が見えなかった。


 狩りにでも出掛けているのだろうかと思いながら、私は駄菓子屋の中から物音が聞こえないのを確認してゆっくりと引き戸を開けた。


そして、駄菓子屋の中は照明が点いてなかった。




留守なのだろうか?


それとも商品の補充に行ってて今は不在なのか?



 そもそもキヌタニが一日中駄菓子屋にいただけで、ずっと店を開けておかなければならない決まりはなかったはずだからな。


せっかくなのでここで何か食べようと売り物を物色した。





だがその時に、商品棚への違和感を覚えた。


食料品売り場の棚だけが随分とスカスカになっていた。




そしてこの状況は、18年前にこの森の住人が私だけになった時と同じ……。


そんな事を考えた私はすぐに駄菓子屋を飛び出してさっきの青年に会いに行った。





彼はまだ畑で収穫作業をしていた。



「これはなかなかに旨そうな野菜たちだな。」




「……!?いや、まさかな……気のせいか。」



 何の前触れもなく畑の外かつ背後から声をかけたので透明化の術など使ってなかったが、彼は空耳だと思っていたらしい。


そこで私は彼の目の前にあった収穫したての茄子を一つ浮かせてみた。




「ああ……??えっ……とな。まあ、気のせいだろ。」



 しかしそれで驚くわけでもなく淡々と作業を続けていたので、そのままその茄子を私の手元に引き寄せてみた。


さすがに彼も茄子からは視線を離せずこちらを振り向いた。




「……そうだな、やっぱりこれは夢なんだろう。」



だが、それでも彼は私が手に持っている茄子を凝視したままそんなことを呟いていた。



「どうしてそう思うのかは分からないが、今俺たちが見ている物は紛れもなく現実だぞ。少なくとも俺にとってはな。」



私がそう告げると、彼はこちらに歩み寄ってきた。




「……今のは明らかに超常現象だ。普通ならこんなこと起きるはずがない。だが、現に俺の周りじゃにわかには信じ難いことばかり起こっている。……これが現実だとしたら教えてくれ。お前は一体誰なんだ?」




とても真面目な口調で言われたのでこちらも中途半端なことを言うわけにはいかないなと思った。


いずれにしろ、彼が今置かれている状況も知っておいた方がいいと感じた。



「どうやら話が長くなりそうだ。どこか落ち着いて話が出来る場所に移動したほうが良さそうだと思うんだがどうだ?」


「それならいくらでも使えなそうな場所がある。そこまで案内しよう。」




私たちはその流れで集会所に移動してきた。



建物の中は昔とあまり変わっていなくてとても懐かしかった。



ただ変わっていたことはと言えば、炊事場のかまどが電気で動くコンロになっていたことだな。




「適当な椅子に座ってくれ、飲み物にはこだわりないか?」


「ああ、何でも良いぞ。」



 私が長テーブルの椅子に座ってそう答えると、彼は戸棚からコーヒーメーカーを取り出して豆を挽き始めた。


あの森の集会所には随分と便利なものが揃っていたよ。



時代は下って2013年になっていた……様々な機械があの場所にもあったんだ。




「久しぶりに誰かとこうやって会話をしたよ。正直、とても救われた気分だ。」



私に背を向けたまま彼はそう話しかけてきた。



「ここで他に住んでいる人間はいないのか?」




「……いたさ。つい最近まではな。」



そう答えた彼の声はとても暗いものだった。


どうやら何か事件でもあったような口調だった。




「私も……こうやって人間と会話をするのはとても久しぶりだよ。もう……最後に他人と会話をしてから18年か。」



「18……!?いや……とてもそんな風には見えないけどな。」


「『人間とは』本当に18年ぶりだ。まあ、このあたりも後でしっかりと話させてもらう。」




集会所の中にコーヒーの香ばしい匂いが漂い始めた。


 コーヒーなんてたまによしだくんが飲んでいたくらいなもので、それに便乗して私も数回しか飲んだことがなかった。


だが、個人的には好きな飲み物でまさかまた飲めるとは思ってなかったな。





「待たせたな、砂糖は使うか?」


「いや、ブラックで頂こう。」



目の前に置かれたコーヒーを見て、私は人間の世界に帰ってきたのだろうなと実感した。


そして一口飲んだ……。




「ただいま……。」



自然とそう言葉が出ていた。



「ただいま……?も、もしかしてお前はこの森の住人だったのか!?」




「えっ……あっ、いや違うんだ。だが、コーヒーを飲むのもすごく久しぶりで何だか昔に戻ってきたような気分になったからな。勘違いさせたのなら申し訳ない。」



「そういえばさっき18年ぶりに人と話したって言ってたな。茄子を浮かせたりして……普通の人間じゃないことくらいは分かる。」



「そうだよな……じゃあざっくりと俺の半生を話させてもらうとしよう。」




 私は彼に昔は街の路地裏で暮らしていたこと、そして18年間は密林で生きていたこと、直近の8年は鹿たちと共同生活をしてその間に神通力を身に着けたことを説明した。



100エーカーの森にいたということは話さなかった。


彼もここを100エーカーの森だと認識しているかもしれないと思ったからな。





「鹿たちと生活していて、神通力が使えるようになったのか……。にわかには信じられねえけど、この目で見たことだし信用するしかないよな。」


「まさかこんな能力が自分の中に眠っているだなんて思いもしなかったけどな。さて、さっきは他の住人がつい最近まではここにいたと言ってたよな。何があったんだ?」



「そうだな……。それを説明するにはまず話を三年前くらいまで遡らせないといけないな。」



彼は自分の身に起きた事実を教えてくれた。

 もちろん1995年の100エーカーの森にはコーヒーメーカーなど存在しませんでした。

2013年ともなればさすがにかまどは時代遅れが過ぎるでしょう……。


 駄菓子屋にもIHコンロが売っていたのかもしれませんね。

当然、それを買う人間がいるかどうかは別問題ですが……。


 コーヒーメーカーがあるならミキサーや食器洗浄機もありそうですよね。

そこまで色々と備え付けらえていたら暮らしぶりは全然悪くなさそうです。


 とうとう他の人間と出会えたチッダールタ、ですがこれで良かったねとも行かない様子……。

ヤムチャの家から出てきた青年は何者なのか?

そして最近起きたとある事件とは何なのか?


 次回はこの二人が共同でとある一大作戦を決行します!!

一体彼らは何をしでかすのでしょうか??


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