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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第5章 終わらぬ悲劇の中で
149/162

0-21 神通力の始まり

ーー前回のあらすじーー


 二人仲良く生活をしていたフジモンとチッダールタ、平和な日々も長くは続かなかった。

ある時フジモンは怪我がもとで感染症に罹り、高熱を出して治療方法もない状況だった。

少しずつ彼は衰弱し、『ちっとも悔しくない』と最期に言い残して彼は息を引き取った……。


そこからチッダールタは自然へと還っていく森を見届けながら孤独に十年もの日々を過ごした。


 そしてある時、彼の心の声は動物へ届くようになったらしい。

鹿たちに心の悲鳴をキャッチされたのだった。


 独りぼっちが辛いなら自分たちの仲間に入れてあげてもいい。

そんな交換条件で彼は鹿たちを襲う狼の群れを撃退することにした。


 さすがはライフル、命中すれば一発で仕留められるもの何頭も同時に相手するのは厳しくチッダールタは狼たちに全身を嚙まれた!


 ……かと思えば次の瞬間には狼たちが自分から離れた遠い所で絶命していた。

何が起きたのか分からないまま彼も、襲われたダメージで気を失ってしまうのであった。



 気が付いたら周囲が死屍累々になっていると言うのはどこかで聞いたことがありますねえ。

きっとそんなことをするような奴の彼女は「月に代わってお仕置きよ!」が口癖でしょう(?)


 読者の皆さんは月に代わってお仕置きをしたことがありますか?

そもそも月ってどんなお仕置きをするんでしょうか??


 むしろされてみたい方は作者がしてあげます。

ちなみに月は全くの無関係ですのでご容赦ください。

次に意識が戻ると私は家の床に横たわっていた。



『起きた!特に痛みが強いところはない?大丈夫!?』



そう言われると、突然全身が痛みだした!!



「いたたたっ!!し、滲みるっ!!」


『それは我慢して!薬草を傷口に塗っていたの。』



気がつけば私は何頭もの鹿に取り囲まれていたよ。


そしてどういうわけかみんな口をモグモグさせていた。



するといきなり一頭の鹿が口の中で反芻させていたものを私の膝に吐きかけた!


そして自分の顎でそれを傷口にすり込んでいった。



どうりであれは滲みる訳だった……。



『これは私たちが肉食動物に襲われて怪我をした時に食べたり、傷口に塗ったりする薬草だよ。人間にどれくらい効果があるかは試したことないけど……きっとすぐに良くなるよ!』



どうやら私が倒れている間にかなりの量をかき集めてくれたらしい。




『それにしてもあれだけの狼をたった一人で撃退するなんて……しかもあの武器だけのおかげじゃなさそうだったしね。』


「あの時一体何が起きたのか……自分でも分からないんだ。」



ついうっかり普通に喋っていたが、それでも鹿からの返事は返ってきた。




『人間って自分のことでもその辺りは随分と鈍感だよね。自分では分かっていなかったようだけど、あなたの中に溜まっていたエネルギーが突然外の世界へ爆発的に放出されたの。あれは意図的にやったわけじゃないんだ?』



「必死に抵抗してただけで気がついたらああなってた。と言うか、どうしてお前たちとこうやって意思疎通が取れているのかもよく分かってないんだが……。」



『恐らくあなたは他の人間よりも自分の体内に存在するエネルギーの流し方が上手いんだろうね。私たち人間以外の動物は世界にあるエネルギーの流れを何となく感知できるの。それは気配や感情だったりするけど……さっきのようなエネルギーの爆発は初めて見たよ。』



 つまり、私には本来よりテレパシーのような能力に対して適性があり、気配を隠したり攻撃的なオーラを相手に誇張して見せつけることが得意なようなんだ。



「だがあんなことがまた突然起きたら大変だぞ……。」



『精神統一の上手い個体ほど気配を隠すのが得意だったりする。だから、自分の意志でエネルギーを操れるようになったほうが良いかもね。試しに今ここで、自分の身体の中にあるエネルギーの巡りを感じてみて?』



 唐突にそんな抽象的なことを言われても、具体的にどうすれば良いのか分からなかった私は試しに瞑想をしてみた。




「……………。」




『……………。』




「いや……何も分からねえ。」




『そっか……今のエネルギーの流れ方は体の中心から手足の先まで隅々に万遍なく行き渡っていて良かったのにね。』



 他の鹿にも同意を求めていたようで、一度みんな口を動かすのを止めて同意するかのような目をしていた。



『今とそれ以外の時じゃ全然違う流れ方をしてるのにむしろどうして分からないんだろう……。』



「そんな事を言われても困るんだが……。」



『とりあえずしばらくは安静にしていたほうが良さそうだし、時間を持て余すくらいならエネルギーを感じる訓練をしてもいいと思うよ。』



 結局具体的には何のアドバイスも貰えないまま、それからの日々は一日のうち、それなりの時間を瞑想に費やした。


 傷の治りが早いのは元々だったので鹿たちの薬草がどれほど効果があったのかは分からないが、とりあえず二日もあれば傷は完治した。






『今は首のあたりにエネルギーが溜まってるね、意識を集中させてみて?』



 瞑想しているところで鹿たちに私の中のエネルギーの流れを見てもらいながら日々鍛錬していると、三ヶ月くらいで少しずつだが自分の体に滞留しているエネルギーの存在を感知出来るようになってきた。



そして、次はエネルギーを意図的に身体の別の場所へ移動させられるかというステップに移った。




『もうちょっと、もう少し右だね!……心臓の方に戻ってるよ!』



これがなかなか上手く行かなかった……。


 移動はさせられるのだが、どういうわけか動かしたエネルギーが元あった臓器へと戻っていってしまうのだった。




『うーん……少し手荒だけど、こうしてみよう!』



 鍛錬の成果が数カ月間は全く出なかった中、痺れを切らしたのか一頭の鹿がそう言うと突然私の右腕を噛んできた!!



「痛っ!?な、何しやがる!?」


『今噛んだところは痛みが出て感覚も敏感になっているはず。その箇所へ意識を集中させてみて!』



そう言われて私は噛まれた右腕に意識を集中させた。




『今回はちゃんと出来てるよ!そのまま続けてみて!!』



私は体力の続く限り右腕にエネルギーを溜め続けた……。





「くっ……もう限界だぞ!?」



15分程度はそうしていただろうか?


大量の汗をかいていた私は精神の集中を解いた。



「今回はちゃんと出来てたか?待て、腕が……!?」



私はふと自分の右腕を見た。


するとさっきまであった噛み傷が綺麗さっぱり無くなっていたじゃないか!



『やれば出来るじゃん!これならエネルギーの移動もバッチリだね!それから腕の傷だけど……それはあなたが自分で治したんだよ?』


「俺が自分で……?ただ意識を集中させていただけだぞ?」




『まだこの話はしてなかったね。エネルギーっていうのは常に形を変えているの。今のあなたはエネルギーによって腕にある傷ついた組織がすごい勢いで再生されていた。ちなみに以前、あなたが猪たちにぶつけたのは単純なエネルギーの固まりだよ。あの形じゃあ、傷を癒やすことは出来ない。』


「エネルギーの形って言われてもピンと来ないぞ?」



『それなら次はその練習をしようか。エネルギーの形を自由自在に変えられた方が良いと思う。』



この頃から、どうして私はこんな訓練をしているのか目的が分からなくなりつつあった。


だが、私は時間を十分に持て余しすぎていた。


だから、これが仮に無駄なことだとしても気に留めなかったんだ。





そして……この訓練も相当難航した。



『そもそもエネルギーの形を意図的に変えるなんて出来るかも分からないから……もしかしたらどれだけ訓練しても難しいのかな?』



 鹿たちも出来るようになるという根拠が何もないまま、私にこんなことをさせるものだから困ったものだった。



「そもそもエネルギーの形を変えたところで、どの形がどんな作用のエネルギーかなんて絶対に分からないぞ?」



『正直なところ、私もエネルギーの流れは読めたところで形まではそんなに分からないんだよね。いつも当たり前の存在として私たちはこういうエネルギーを捉えていたけど……こうなったら一緒にやってみようかな?』




 あまりに分からないことが多すぎたので遂には鹿たちも自分たちのエネルギーについて研究を始め出す始末だった。





だが、そのおかげで分かったこともあった。


 どうやらエネルギーの形はいくつかの種類に分かれるというよりも、自由自在にその特性が変化して一つとして全く同じ形のエネルギーは存在しないようだった。




そして、エネルギーの形を同じままで維持すること。


これはかなり体力が要るようで、鹿たちはそうそうに諦めていた。



 だが、私はエネルギーを集める際に自然とそれが出来ていたようだからこの問題は特に気にすることもなかったな。




それより困ったのは欲しい作用とエネルギーの形が一致しないことだった。



『体の中のエネルギーが欲しい形になったタイミングで精神統一すればその作用が勝手に起きるとは思うんだけど……。』



なんて鹿たちは言っていたが、欲しい形が分からないからどうにもならなかった。





そんなある日、事件は起きた。


私は犬の肉を焼こうと、火を起こしていたんだ。



そしてフライパンを鍋にかけようとした瞬間、つまずいて焚き火の中にダイブしてしまった!!



「ぎゃああ!あちちちっ!!!」



私は肉を焼くつもりが自分が焼かれながら焚き火の炎から転がり出た。




『これは大変……!!あっ、火傷の方「も」大丈夫??』


「ああ、すぐに離れたから思ったよりは熱くなかった。」



『それより大変なの!!炎に突っ込んだ時、あなたの体内でエネルギーが突然形を変えて外の世界へ放たれてた!!』



そんなことを突然言われたものだから私はあまりまともな反応が出来なかった。



「それは……具体的にどういう?」


『えっとね、まずあなたが炎の中に突っ込んだ瞬間は一部のエネルギーが形を変えて、そのすぐ後に別のエネルギーがまた全然違う形になって前のエネルギーを相殺していた。さらに、余ったエネルギーはあなたが火傷しそうな場所に飛んでいったよ。』



「火傷した場所……そう言われれば熱いというよりかは冷たい気がするな。」



『これは私の予想なんだけど、最初に変化したエネルギーが「熱」だとしたら、それを相殺したエネルギーは「冷」ってことになる。つまりね、あなた自身が何か感じたものを相殺するエネルギーをイメージできればこの力を操れるヒントになるんじゃないかなって思う。』



「でもエネルギーのイメージって何が正解なんだ?」



『それは分からないけど……試しにやってみよう!!とりあえず、地面に寝転んでみて?』




「……こう、でいいのか?」



言われた通り私は適当に寝転がってみた。



『寝転ぶこと自体は適当で大丈夫。でもここからが重要だよ、今あなたはこの地球と重力によって引き合っている。全身に受けている重力エネルギーを身体の中でイメージしてみて?』



重力エネルギー……目には見えないが確かに存在している何かだ。


私は重力を具現化しようとした。



すると否応なく全てを押しつぶす黒色の平べったい何かがイメージとして浮かんできた。


これが重力エネルギーなのだろうかと思ったな。



『見える、見えるよ!特定のエネルギーが溜まっていってる!じゃあそのまま重力を相殺するエネルギーを思い浮かべて!!』



 これを相殺するエネルギー……私は黒い重力へ取り留めもなく浮かんでくる様々なエネルギーをぶつけてみた。



そして私は見つけたんだ。



真っ白でマシュマロのような丸くて柔らかそうなエネルギー……。


重力を中に取り囲んで自身も消えていくそんなイメージが浮かんできたんだ!



『すごい……!エネルギーがちゃんと相殺されてるよ!!って、ええっ!?』



鹿たちが驚いていたようなので一度目を開けた瞬間、私は突然地面に叩きつけられた感覚になった。



「今のは何だ……?」



『ね、ねえ……今ね、あなたの身体が宙に浮いてたんだけど気が付いてなかった……?』



「宙に浮いてた……だと!?」



さすがに信じられなかった。



『もう一度やってみて!今度は出来るだけ目を開けて。』



 そう言われたので私は目を開けたまま先程の白いエネルギーで黒いエネルギーを相殺するイメージを再現してみた。


すると、本当に身体が宙に浮いたではないか!



「ど、どうなってやがる!?」


『さっきは集中しすぎてて気が付かなかったんだね。あなたの体内にあるエネルギーが変化した、反重力エネルギーとでも呼ぼうかな?それが常に受けている重力エネルギーにぶつかって消えたことであなたはこの星の重力から解放されているってこと……だと思う。』




鹿たちにも本当のところは分かっていないみたいだった。



「でもエネルギーを相殺する感覚は掴めた。でも結局、外にエネルギーを開放する方法が分からないままだな。」


『それほど自由にエネルギーを操れてそれが出来ないことはないと思うんだけどな。試しにさ、手先に何でもいいからエネルギーを集中させてみてよ。』



「……??分かった。」



とりあえずは起き上がって言われた通りに、目を閉じて体内のエネルギーを右手に集中させた。



『その状態からボールを握ったような感覚を作れるかな?』



そのまま右手をボールが握られているような形にした。




『今だよ、投げてみて!!』



そして野球ボールを投げるように腕を振った!





ドーン!!


そんなけたたましい音が家の中で響いた!



「な、何だよ!?」



私は驚いて目を開いた。



『す、すごいよ!!エネルギーの球が家の中を飛んでいくのが見えた!!ほら、そこの壁を見て!』



私は家の壁の一点に視線を動かした。



……そこだけ何故か壁がひしゃげていた。



『そこに君が投げたエネルギーがぶつかったの!これはかなりの威力だよ!?』



「これ……俺がやったのかよ。」



あの時は本当に信じられなかったな。


まさかこんな力が使えるようになったなんて。




『変に力を暴発させないために始めた特訓だったけど、一旦はこれで終わりにしても良いんじゃないかな?……本当にお疲れさま!!』



そんな特訓を始めて二年近くが経とうとしていた。


これが神通力使いとして、私の人生が始まった瞬間だった。

 鹿たちも重力の存在を知っていたのですね。

どこで学んだのでしょうか??


 もしかしたら木からリンゴが落ちるところを目撃して『こ、これは……リンゴと地球が互いに引き合っている!宇宙の神秘だ!この力を重力と名付けよう!』……などと思ったのかもしれませんね。


 そして密林には犬がいたようでチッダールタもよく食べていたようです。

いくら何でも鹿の肉は食べていなかった……そう思いたいですね。


 鹿の目の前で鹿肉を食べる……とてもじゃないですが心が痛みそうです。

読者の皆さんもジビエ料理を食べる時は気をつけましょう!!

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