0-20 異種族の仲間
ーー前回のあらすじーー
意図せず100エーカーの森へやって来てしまったフジモンは常に攻撃的なチッダールタの様子を見て、これは医者として介入が必要だと思ったのかストーカーレベルで連日のように話しかけ続ける。
殴られようが罵倒されようが……彼は諦めなかった。
そんな日々が続く中でチッダールタは風邪を引いてしまう。
彼の様子を見たフジモンは医者ならばこれは見逃せないとばかりに治療しようとするのだが、嫌な予感を察したチッダールタは瞬時に逃亡する!
家まで帰ってくれば安心と寝ていた彼であったが、次に起きた時には何と彼がベッドの脇に立っていた!
どうやら随分と前から家の場所を把握されていたらしい。
手荒ながらもフジモンはチッダールタの風邪を治癒させ、チッダールタはそんなフジモンを……殴り飛ばしたのだった。
そして同時に疑問が浮かんだ、どうしてそんなしつこいのかと。
そんな他人に対する疑問がきっかけでチッダールタは徐々に心を開き始める。
少しずつ自分のことを話し始め、いつしか他人との会話も成立するようになっていた。
チッダールタの中身はスタークだし、見た目もまだスタークだし、誰からもスタークと呼ばれているから前書きも『スターク』でいいやと一時は思ったのですが、そうなると今いる世界のスタークとチッダールタの区別がつかなくなって……えーっと、なので『チッダールタ』で今後は統一します!
↑自分でも何を言っているのかよく分かっていない有様です。
閉ざされた空間にずっと同じ二人でいたらいつかは喧嘩も起きそうなものです。
その時はフジモンが一方的に暴力を振るわれることで解決していたんでしょうか……?
単純な疑問なのですが喧嘩って、一方がもう一方を反論出来なくなるまでボコボコにしたらそれで終わり(=解決)になるものなのでしょうか?
いつか報復されそうで怖いですよね。
ボコボコにするならもう二度と逆らえなくなるくらい抜かりなくやりましょう!!
それから一ヶ月ほど後のこと……。
「うーん、僕としたことが情けない……。まさか名医が体調を崩すだなんてね……。」
フジモンは高熱を出して駄菓子屋の生活スペースで寝込んでいた。
それも風邪薬を飲んだくらいじゃ全然良くならなかったんだ。
「病人は大人しく寝てろ、って言いたいところだが俺には病気を治すことが出来ねえ。原因も分からないのか?」
「数日前に密林で派手に転んで怪我をして、その時に傷口から細菌に感染したのかもしれないね……。それが原因だとしたら生憎だけど治療が出来る薬は持ち合わせがないんだ……。」
つまり、いくら有能な医者であっても薬が無ければ打つ手なしということだったようだ。
それから二週間経っても熱は下がらず、私は出来る限りの看病をして彼も頑張って食事はしていたものの、それでもフジモンは少しずつ弱っていった。
そしてとうとう起き上がることすらままならなくなり、ある日こんなことを突然言い出したんだ。
「まさか……こんなところで人生を終えることになるなんてね。でも、本来なら僕の命は宇宙へ行った時に散っていたはず……。それが数カ月間寿命は伸びて、隣には誰かが居てくれる。最期を迎えるにしては十分すぎるね……。」
治療法も無く、医者として自分の容態がかなり厳しい状態であることは分かっていたようだった。
「最期って……諦めるなよ!!てめえは医者だろ!!自分の病気をも治せねえのに何が名医だ!!」
「たかが細菌程度に負けてしまうだなんてさ……。本当に……笑い話だよね。それでもね、僕は今ちっとも悔しくないんだ……。この森に来て君という人間を救うことが出来たのだから。こんな密林の奥地に不時着して……君以外の人間がいない場所で生き永らえても何の意味もないだろうと思っていた……。でも、まだこんな僕にも救える人がいたんだ……。だからあの時、宇宙の藻屑とならずにここへ辿り着けたことに感謝している……。人生の最後まで僕は医者としての使命を果たし続けられて、とても満ち足りた気分だよ……。」
そこまで言うと彼は目を閉じた。
それっきり彼は目を開けることなく昏睡状態に陥り、ショックを起こしてその日の夜遅くに息を引き取った……。
彼の心臓の鼓動が止まった時、自分でもどうしてだか分からぬまま自然と涙が出てきた。
他人の死を前にして泣くなんて少し前までの私には考えられなかったことなのに。
彼との出会いは私という人間を大きく変えたんだ。
他人と関わる喜びを知り、他人を慈しむ気持ちを覚えた。
他人の心配をするようになり、他人の死を悲しんだ。
せっかく誰かと生きることが出来るようになったのに、私はこの時から本当の一人ぼっちになってしまったんだ。
そこからはとても長い孤独との戦いの日々だった。
気を紛らわすために最初のうちはテレビを見ていたが、それも数ヶ月しか続かなかった。
画面越しの相手に話しかけてみても返事は返ってこなかったのだから。
次第に駄菓子屋の食料も尽きてきて、自分で食べ物の調達をしなければならなくなった。
幸いにもキヌタニは武器売り場の商品をそのままにしていたらしい。
ライフルも弾薬も残されたままにされていたからそれを使って私は狩りを試みた。
だが、使い慣れてない武器でそうも簡単に上手くいくわけもなかった。
弾が明後日の方向に飛んでいくものだからとてもじゃないが狙った獲物に命中することはなかった。
とは言え、動物たちの群れに発砲していればいずれはまぐれで当たったというもの。
だから私はそうやって食料を調達していた。
ヤムチャが使っていた農具入れの倉庫には野菜の種が何種類か残されていた。
次の春を待って私は畑に種を植えて農作業もした。
そうやって何年も食い繋いでいくことになったんだ。
私が住んでいる間にも100エーカーの森はみるみるうちに朽ちていった。
誰も住んでいない建物は、いつしか室内にカビとシダが生い茂り、そしてある日突然に崩落した。
環状線も私以外に歩く人間がいないから、脇道から草が伝播して敷かれている砂利は見えなくなるほど草が伸びていった。
誰にもメンテナンスされない電波塔は錆びついて、遂には電気の供給も止まってしまった。
夜になると真っ暗、冷房も暖房もない……そんな世界で私はたった一人、ひっそりと生きていた。
捨てられた集落が自然に還っていく、その過程で開拓されていた場所とそうでない場所の境界も曖昧になっていった。
家を出たら目の前には野生の鹿がいる……十年も経つ頃にはそんな事になっていた。
そしてある日のこと、私は急にとてつもない寂しさに襲われたんだ。
私が何と叫ぼうと誰一人として言葉を返してくれる者はいない。
どれだけ悪事を働こうともそれを咎められることすらない。
もし今ここで息絶えたとしても誰もその事実を知ることはない……。
そう思うと、とても怖くなった……。
どうしよう、どうすればいい!?
怖い、怖くてたまらない……誰か、助けてくれ!!
そう心の中で願った。
『あなたは一体何を恐れているの?』
すると頭の中に声が流れ込んできた!!
普通じゃ考えられない現象に私は唖然としていた。
『突然驚いてどうしたの?助けて欲しかったみたいだから声をかけたんだけど……。』
私は周囲を見渡したが、もちろん誰もいなかった。
真っ昼間だったが、薄暗い家の中にいることが何となく怖くなった私は家の外に飛び出した。
すると、15匹ほどの鹿の群れが私を待ち構えていた。
みんな、私のことを見ていた。
『出てきてくれたね。とても辛そうな心の悲鳴が聞こえたからみんな心配していたんだよ?』
……どうやら私は動物の心を読めるようになっていたようだ。
恐らく、私に話しかけていたのは一番先頭にいた好奇心旺盛な鹿だったのだろう。
試しに私は鹿たちに念を送ってみた。
「(お前たちには仲間がいて羨ましいよ。俺はもう何年も他人に会っていない。)」
『この辺りからいつも寂しそうなオーラが漂ってくるのを私たちは感じていた。建造物があったから恐らく人間だろうとは思ったけど、何年間もずっと一人でいたとは知らなくて……どうしてあなたは仲間と一緒にいないの?』
すると、ちゃんと答えが返ってきたではないか!
「(そばにいたくても俺にはそれが出来なかった。だからお前たちは仲間を大切にするんだ。)」
『仲間っていうのは同じ種族の中だけに限定されるものなのかな?』
しかも今度は随分と難しい質問が飛んできた。
仲間とは何か……そんなこと、今まで一度たりとも気に留めなかったことにこの時気がついた。
「(俺には分からないな。お前たちは何をもってして、仲間という関係が成立するのだと思う?)」
『同じ目的を共有して共に生きていく……そういうことでも十分じゃない?私たちの種は一頭で生きることが困難、だからこうやって群れを成して「生き延びる」という同じ目的を共有しているの。』
「(つまりそれ以外のことは関係ないと?)」
『私たちは生き延びるために協力出来ると思ったら何者も拒まない。時には狐たちと寝食を共にしたり、狼の群れを相手に猪と共闘することもあったよ。』
どうやら彼らは私のことも拒むもうとはしないようだった。
「(なら、その仲間の輪に俺が入る余地もあると?)」
『人間というのは私たちを狩る怖い存在。だけど、もしあなたが私たちに提供出来るメリットがあるとしたらもちろん、その時は仲間として迎え入れてあげる。……ここ最近、狼の群れが凶暴化して仲間も何頭か犠牲になっているの。恐ろしい武器を持っているあなたなら撃退出来るんじゃない?』
恐ろしい武器というのはライフルのことだったのだろう。
キヌタニが駄菓子屋に大量の弾薬を置いていたおかげで、まだ飽きるほどに撃てそうだった。
この頃にはいい加減、銃の扱いにも慣れてきてしっかりと狙いがつけられるようになった。
「(それなら任せておけ。それからこの家は広いから身の危険を感じた時は群れごと逃げ込んできていいぞ。)」
『取引成立、だね。早速だけど……私たちはどうやら既に狼の群れから包囲されているみたい。十匹ほどの気配を至る所から感じる。』
「(分かった、後は任せろ。)」
私はライフルを持つと鹿たちに家の中へ入るように促して、玄関のドアを閉めた。
そして壁を背にして、狼たちの動きを待った。
『逃げ道のない場所に逃げ込んで、馬鹿な奴らだな。』
程なくしてまた頭に声が流れてきた。
『そしてお前も……本当に馬鹿だよ。』
一匹の狼がゆっくりと私の正面に現れた。
きっと群れのリーダー格にあたる個体だったのだろう。
『人間のくせに他の動物たちと群れるなんてどういうことだ?何よりもそいつらを守って何になる?食用にした方が得じゃねえか?』
「(仲間とはどういうものなのか、彼らは俺に教えてくれた。そして俺のことを決して拒まない。理由なんてそれだけで十分だ。)」
私はライフルを構えた。
『なら、俺たちにとっての仲間っていうのもどういうものか教えてやろう。仲間っていうのは、狩りをするために協力する群れのことだ!』
正面の狼が私に飛びかかってきた!
冷静に狙いをつけてその狼の額を撃ち抜いた!!
すると間髪入れず、左右から別の狼が同時に飛び掛かってきた!
左にいた狼は撃ち落としたが、右からの狼に飛びかかられて、肩に噛みつかれた!!
「くそっ!?」
銃で殴りつけて何とか振りほどいたが、もう銃は撃てそうになかった。
考える間もなくその後も次々に飛びかかられ、至るところに噛みつかれた!!
「があああっ!!やめろーっ!!」
そう叫んで銃を振り回すと……突然狼たちはどこかへ消えてしまった。
『大丈夫!?今の衝撃……何があったの!?』
今度は鹿の声が響いてきた。
一度冷静になって周囲を見渡すと、狼たちはあちこちで木の幹にめり込んで絶命していた……。
自分でも全く何が起きたのか分からなかったな……。
私はただその場に立ち尽くし呆然とするばかりだった。
すると、さっきの鹿がドアノブを咥えてドアを開け外に出てきた。
『って、酷い怪我!!痛くないの!?』
「えっ……?」
そう言われると突然視界が揺らぎ出しそのまま私は倒れてしまった……。
この時もフジモンを探しに来るはずだった捜索隊は現れず、結果として彼はこの森で呆気なく命を落としてしまったのでした。
チッダールタにとっての恩人はこれほどにあっけなく死んでしまったのです。
そして彼が次に出会ったのは鹿の群れ……?
さらに動物と会話が出来るようになった彼の能力の正体は一体何なのか?
時々、自分が超常現象のような能力を持っていると錯覚することがありませんか?
(↑人はそれを中二病と呼ぶそうですね。)
作者は自らの不幸を他人に飛ばす力を持っています(確信)。
例えば、便秘になりそうだなって心配していると必ず周囲で腹痛を訴える人が出てきます。
駅の階段で転ばないか心配とふとした時に思うと近くで誰かが転びます……。
風邪を引きそうな予感がすれば明日には自分以外の誰かが引いています……。
読者の皆さんは心配性モードの作者には近寄らないことをお勧めします!!