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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第5章 終わらぬ悲劇の中で
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0-19 二人ぼっちの森

ーー前回のあらすじーー


 チッダールタがスタークであった頃……その時に彼とエリスが見たものは森の住人たちが相次いで命を落とす悲しい結末であった。


 そしてドーベル将軍やコルクから最強戦士を生み出す計画や、100エーカーの森の正体を聞かされることになった。

コルクからしばらくは組織の基地で生活の面倒を見てやると言われたものの、チッダールタはここから離れることを拒んで一人、捨てられた森に置き去りにされてしまう。


 そんな中、今度は宇宙からフジモンがやって来てあれやこれやと関わって来るものだからチッダールタは一喝して彼のことを遠ざけようとしたのであった……。



 フジモンのようなタイプの人間が四六時中そばにいたら心が休まらないでしょうね。

読者の皆さんはどんな人の近くだと落ち着かないですか?


 会社の上司、鬱陶しい親、モラハラ彼氏……色々いるでしょう。

でも一番は常に何かをぺちゃくちゃと喋っている人ではないでしょうか?


ご同意頂ける場合は本編へ、ご同意頂けない場合は同意頂けるまで帰しません。

そして次の日、私が駄菓子屋に行くと店内は随分と綺麗になっていた。


ついでに店内にはモップを片手に満足そうな顔をしていたフジモンが立っていた。



「ああ!君かい!!店の売り物を貰う代わりに店内を掃除して商品を分かりやすく分類して並び替えてみたんだ!それで……君以外の人間を相変わらず見かけないけど、本当にこの村には住人が居ないのかい?」


「何度も言わせんな!俺以外はもう誰もいねえ!」



「……どうやら嘘ではなさそうだね。他の人たちはどこへ行ってしまったんだい?」



すごく説明するのが難しい質問をしてくるものだと思った。



「みんな死んだんだよ!そんなことどうでもいいだろ!?」



正確には違うが、面倒なので咄嗟にそう答えた。




「死んだ……そうだったのかい。こんなことを聞いて済まなかったね。それでも君は……ここに住み続けるんだね。一人で辛くないのかい?」



どうして皆『一人=辛い、寂しい、不幸』という理論を私に押し付けてくるのか理解出来なかった。


私にはここへ来るまで一人でいることしか選択肢がなかったし、何より他人は信用出来ない。


むしろ誰かといるほうが辛いまであったのに……。



「むしろ他の人間はどうして一緒にいるなんて面倒なことをするのか理解出来ねえな!!」


「それは人間が社会的な生き物だからだよ。人間は真に一人で生きていくことなんて出来ない。」


「なら俺は人間じゃねえって言うのか!?とんだ侮辱だぜ!!」



私は至近距離でフジモンを睨みつけた。


だが、彼はそれでも一切表情を変えなかったんだ。



「もし君が本当にずっと一人でいて、他人を避け続けることを苦しく思わないのだとしたら……それはそれで幸せなのかもしれない。でも僕にはずっと怒鳴り続けている君がとても辛そうに見えるよ。もし君がそうやって他人に怒鳴らなくても生きていけることを望むのなら……僕と話をしてみないかい?」



「俺が他人に怒鳴らなくなる方法……それはてめえが俺の前から消えることだ!!」



 とにかく彼のことが鬱陶しくてしょうがなかった私は手早く駄菓子屋の売り物をかき集めて店から足早に出ていった。



「気が変わったらいつでも声をかけてくれたまえ!!」



そんな声を背中に浴びながら私は家へと戻った。





そこから連日、彼は駄菓子屋に来る私に話しかけてきた。


鬱陶しいものだから思いっきりぶん殴った日もあった。


それでも彼は顔に痣を作りながらも懲りずに毎日話しかけてきたんだ。





そして季節は秋に変わり、日々の気温差が激しい中で私はある日風邪を引いてしまった。



鼻水をすすり咳をしながら駄菓子屋へ行くとフジモンは少し驚いたようだった。



「おや、体調が悪いのかい?どれ、僕が診てあげよう!」



「近づくなっ……ゴホゴホッ!!この程度でてめえの世話になるまでもねえ!こんなの風邪でも何でもねえからな!!」



強がって風邪じゃないと言い張っていたが、他人が見れば風邪なのは明らかだったな。



「風邪じゃなくても咳や鼻水だと思って甘く見ちゃだめだよ!!拗らせると大変なんだ!!」



そして彼はどこからか診察用の道具と駄菓子屋に売られていた薬を取ってきた。



「さあ、そこの椅子に座るんだ!」



彼は売り物の椅子に座るよう促したが、絶対に面倒だと確信した私は駄菓子屋から逃走した!




「ど、どこへ行くんだい!!今日ばかりは追いかけさせてもらうよ!!」



だが、この日はフジモンも駄菓子屋から出てきて私のことを追いかけてきた!


とは言っても……フジモンは追ってくるのが遅くてあっという間に撒くことが出来た。





家の中に入って一安心するとさっきまでより身体が怠くなってきた。


そんな私はベッドに寝転び休むことにした。




そして次に目が覚めると……フジモンがベッドの脇にいたじゃないか!!



「おや、目が覚めたかい?全く……体調が悪いのに全力疾走なんてしちゃダメじゃないか!!」



彼は私の額に乗っていた氷袋を取り替えた。


 私はどうやらフジモンに看病されている……その状況を理解した私は不快でたまらなくなり、家から逃げ出そうとした!



だが……どういうわけかベッドから起き上がることすら出来なかった。




「きっと君のことだから逃げ出すと思ったよ。悪いけど身体をロープでベッドに括り付けさせてもらった。結び目はベッドの下だから解くことは諦めたまえ?」


「ふざけんな!!トイレに行きたくなったらどうするつもりだよ!?」



私がそう言うと彼は枕元に何かを置いた。




「あの駄菓子屋には携帯トイレまで売っていたんだね。これでトイレの心配はしなくて大丈夫さ。」


「そうか、それなら……って、そもそもどうしてここが俺の家だって分かった!?」


「だって夜に電気が点いているのはこの家だけじゃないかい?」



 彼には自分の家の場所を教えていなかったはずなのに、こうも簡単に……それも恐らくかなり前からバレていたのだから困ったものだった。



「何だか知らねえが、ここは俺の家だ!とっとと出ていきやがれ!!」


「まあもう夜だし今日は帰るとしようかな。君も大人しくしていたまえ?そうそう、薬を飲んでもらわないとね。……この薬と水を枕元に用意しておくから寝るまでには飲むんだよ、いいね?」



フジモンは風邪薬と思しき錠剤と水の入ったペットボトルを枕元に置いて家から出ていった。



 家に押し入られて勝手な真似を散々にされたので、無性に腹が立った……と言うわけでその薬は飲まないことにした。



その結果、次の日も私は風邪に苦しめられることになったのだ。



「どうして薬を飲まなかったんだ!?その程度のことも自分で出来ないのかい!?」



「いちいち鬱陶しいんだよ……!!何もしないでとっととこの家から出てい……いや、この邪魔なロープを外してから出て行けっ……!!」



まだ私はベッドに縛られたままだった。



「悪いけど君が心配だから帰るわけにはいかないね。」


「ああ……!?てめえみたいな奴に、心配されるほど……俺はゴミじゃねえ……!!」


「君がゴミなのかどうかは知らないよ?でも何にせよ、君がこの薬を飲まない限り僕はここから動くつもりはないね。」



フジモンは腕を組んで私が薬を飲むのをいつまでも待っていたようだった。


 さすがにずっと傍にいられたんじゃこちらもたまったものじゃなかったから、私は彼の前で大人しく薬を飲むことにした。



「よし、それを飲んでくれたのならとりあえずは安心だ。それなら僕も今日は大人しく帰るとしようかな?もしお腹が空いたらここに栄養満点な食事を厳選してきたから食べてくれたまえ?」



そう言って彼はキャロットケーキ、チーズの塊、アップルパイを置いていった。



「君のことだからきっと、僕が帰った後に好き放題するつもりだろうけど、そうは行かないよ?ロープも解けてないし大人しくしていたまえ。」



彼はそれだけ言うと早々に家から退散した。


一人になった私はどうにか身体を縛るロープを解けないかと考えようとした。



だが、すぐに瞼が重くなった……。


どうやらフジモンは風邪薬と一緒に睡眠薬を混ぜていたらしいな……。


私は何をすることも出来ず、そのまま眠りに落ちてしまうのであった。





そして次の日だ。


腹が減っていたから素直に用意してくれた食事は食べていた。


で、不本意だが薬が効いたのかすっかり体調は良くなっていた。




「随分と顔色も良くなったね。やっぱり僕の治療は銀河一だ!!」




……フジモンの言っていることにはイライラしていたが。



「さてと、もう君をベッドに縛り付けておく必要もなくなったわけだし、このロープはちゃんと解いてあげようか。」



彼は私をベッドに括り付けていたロープを解いた。


 ようやく私はベッドから起き上がることが出来るようになり、まず最初にしたのは……フジモンを殴り飛ばすことだった。




「ふん!そんな構われなくてもこんな風邪とも呼べねえような症状くらいどうにでもなってたんだよ!余計な真似をしやがって!」



「ほ、本当に手加減がないなあ……。殴られる方はすごく痛いんだよ……!?」



 口ではこう言っていたが、どうして彼が毎日のように、殴られようが怒鳴られようが私に構ってくるのか疑問だった。


思えばこの時初めて、他人に関心を持ったような気がするよ。




「おい……どうしてそこまで俺に付き纏う?こちとらいい加減迷惑なんだぞ?」



「君は迷惑だと思ってるかもしれない。でもね、君は僕の助けを必要としている……そんな心叫びが感じ取れるからなんだよ。僕は医者、それも名医でね!どんな病気や怪我だって僕にかかればすぐに治るのさ!!」




……名医を自称するところは今と全く同じだな。



それはそうと、私には理解出来なかった。


確かに風邪であれば医者の助けを借りることもあるだろう。


だが、それ以前に私に構ってきたのはどういうことだったのだろうか?




「じゃあ何だ?てめえがこの森に来た時にはもうこの俺はてめえの助けが必要だと、その節穴な目ではそう見えてたんだな!?」



「医者は病気を治す。そして、病気と言うと素人は身体が悪くなるものだと思いがちさ。でもね病気になるのは身体だけじゃない。心だって時には病気になる……。」


「ああ!?心が病気って、それじゃあ俺は精神異常者みてえじゃねえか!!」




「別にそんな言い方をしたつもりはないんだけどね……。でも、人間生きていれば心に一つや二つくらいはわだかまりがあるものじゃないかい?それも全部ひっくるめて僕は『病気』と呼んでいる。そして僕はそのわだかまりを少しでも取り除いてあげる、そんなお手伝いができたらと思うよ。」


「どっちかって言うと他人の存在が俺にとっては心のわだかまりだと思うぜ?」


「君のその言葉は嘘じゃないだろう。じゃあ、どうして君は他人を邪険に思うんだい?」




「…………。」




それは考えたことがなかった。



だが私は昔からずっと一人で生きてきて、他人とはどう関わればいいか分からなかった。


その結果、ずっと他人を避け続けてきていつしか不快にまで思うようになっていた。




「その表情……自分の中では納得の行く答えが見つかったのかな?もしよければ、僕にもその答えを教えてくれないかな?」


「ああ!?何で俺のことをてめえに話さなきゃならねえんだ!?」



「医者の、僕の仕事は患者の心のわだかまりを減らしてあげることだ。君の話を僕が聞いて、それで何か力になれることがあるはずなんだ。君が本当に嫌ならこれ以上は何も聞かない。逆に少しでも喋りたいことがあるなら僕は何でも聞くさ。」



 その上から目線にはもちろん腹が立ったが、もし私が他人を避ける理由を話したらどんな返事が返ってくるのか?


それが気になる方が大きかった。



「いいか、一度しか言わねえからな!ありがたく聞けよ!?」





そこから私は自分の生い立ちを長々と話したよ。


彼は一度も私の話を否定せず、余計な同情をすることもなかった。


ずっとどこかの街の路地裏で生きていた時には、



「一番大変だったことは何だった?」



この森に来てから何度か盗みに入った時には、



「住人たちにバレないように気をつけていたことは?」



度々質問を挟んでは来たが、話の腰を折るようなことはしてこなかった。




そして私の話が終わると今度は彼も同じように自らの生い立ちからここへ来るまでの話をしてきた。



 働いていた病院では孤立して……似たような境遇だったから共感して、大人しく彼の話を聞くことが出来たよ。



信じられないかもしれないが、この時に初めて私たちはお互いの名前を知ったんだ。


初めて高圧的な態度を取らずに他人と会話が出来た。




 

それからは少しずつ私からもフジモンに話しかけるようになっていった。


 彼が根気強く話しかけ続けてくれたから私も誰かに心を開き、他人と関わることの幸せを知ることが出来たんだ。



彼はたくさんの話を私にしてくれたし、たくさんの話を聞いてくれた。



このまま彼と暮らしていれば私も真人間になれたのかもしれないな……。




でもそれは叶わぬ夢だった。

 ここまでしつこいとフジモンは医者であるがために生きていると言っても過言ではないですね。

延々と自分が名医だと自称していますが、その自信は伊達ではないようです。


 こうしてスターク……チッダールタは徐々に心を外の世界へ開いて人間らしい心を獲得したわけですが……本編の最後が何だか不穏ですね。


 次回、二人ぼっちの森で起こった悲劇とは一体……?

過去編も悲劇もまだまだ続いて行きます、どこまでも深く、どこまでも残酷に……。



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