0-18 孤独を選ぶ
ーー前回のあらすじーー
森の住人から尋問をされようとも名前以外は何も答えなかったスターク。
彼はしばらくの間、農具小屋で監禁された後に解放されて自由の身となった。
だがもう盗みを働くことは許されず、食料や寝床もままならない生活が続いて体力も日に日に削られていった……。
死を覚悟するほど衰弱していたある日のこと……よしだくんがやって来て声をかけてきたのだ。
彼について行くと何と大量の食べ物が用意されていて、スタークは片っ端から食べ尽くしていった。
そこへヤムチャもやって来て自分の家を明け渡してくれるとまで言ってきたのだ。
そして駄菓子屋の売り物は勝手に使っていいとも……。
だがその提案には何も返答せず、彼は逃げるように自分のねぐらへと戻るのであった。
他人と関わるのは面倒だから、駄菓子屋だけは活用して拠点はこのままでいいと思っていた。
そんな考えが変わったのは偶然駄菓子屋へ早朝に行った時のこと……。
店内にはシンタローとキヌタニがいたのだが、シンタローの方は彼に気を遣って店の外へと出て行ったのだ。
そんな配慮を見てきっとここの住人は自分が居づらくないようにしてくれているんだとそう感じられたのだ。(ただしキヌタニを除く)
そして今日から自分もヤムチャの家に住んでこの森の住人になると挨拶をしたのだが……その意図はキヌタニに伝わらないまま。
いつしか彼は他の住人たちが自分と距離を詰めて来てくれないことをむしろ不満に思ってしまう。
もともと他人との会話が出来なかった彼はこうして暴言を吐き続けた結果、森の中で腫れ者扱いされることなったのだった……。
初対面の人間から唐突に暴言を吐かれたら間違いなく驚きますよね……。
ですが向こうはそれを暴言だと認識していない可能性もあります。
相手にはそれが暴言であると分かってもらいたいところですよね!!
読者の皆さんもスタークのような口調は真似ないことをお勧めします(しないだろ)。
エリスがこの森にやって来てスタークのことを追いかけ回していたのはお前たちも周知の通りだ。
だが、それ以降に起きた出来事については私とお前たちが見たものはまるで違うものだった。
スタークはエリスから逃げるため、家の中に閉じこもった。
そしてその家には炎を纏ったボールが墜落してきた……。
それがお前たちの見たものだろう。
だが、私がスタークだった頃……そんなことは決して起こらなかった。
エリスから逃れて家に閉じ籠もり二週間くらい経った頃か?
空腹も限界に感じていた頃、突然チェーンソーで外から家のドアを切り刻まれたんだ!
「な……何だってんだ!?俺様の家を破壊する倫理観のねえ奴は魂までぶっ壊してやるぜ!」
私は釘バットを片手に家の外へ出た。
と、そこで待っていたのはエリスとよしだくんだった。
「手荒な真似をしてごめんなさい、もう追いかけないから私たちの話を聞いて欲しい。」
「スターク……この森はもう終わりだ。原因の一端は俺にあるが……。俺もお前をここに置き去りにするのは気がかりだ。」
「と、突然何の話をしてやがる……?エリス、てめえは頭がおかしくなった……いや、まともになったのか!?それからよしだくん、その上から目線な発言は俺に失礼だぞ!」
「失礼でも何でもいいさ。今この森に住んでいるのは俺たち三人とキヌタニだけだ……みんな、いなくなってしまった。」
言われたことがすぐには信じられなかった……。
「いなくなったって……そうか、俺様と同じ森に住むのは恐れ多いってことか!!あいつらもそこは分かってるんだな!」
「違うわよ……ねえ、よく聞いて。ボールは不慮の事故で……身体にドリルが刺さってそれが抜けた瞬間、身体に溜まっていた油を吹き出しながら飛び上がり、木の枝に身体が突き刺さってしまったの……!森から離れていて発見が遅れた上に、高い場所だったからすぐには助けられなくて……枝に刺さったまま亡くなってしまったわ。残りの三人は……一週間ほど前にお宝探しに出かけたの。それっきり帰って来なくて……さっき遺体がここから数km離れた洞窟にある滝壺で発見されたわ。」
「みんな死んでしまった……。そして、この森はとある組織が管理している場所のようでそこの人間が迎えに来ているんだ。詳しい話もしてくれるようだから駄菓子屋まで一緒に来てくれ。」
「てめえらの説明が下手すぎて状況がさっぱり分からねえ!だから、ついて行ってやるとしよう……って、その命令口調はどうにかならねえのか!」
先程は皆、エリスが嘘つきだと疑っていたようだが私からすれば全く持って本当の話だった。
何故なら彼女は……私と同じ世界から来ていたのだから。
私たち三人は駄菓子屋の前まで移動した。
店の前には10人くらい乗れそうなやや大きいヘリが止まっていた。
「最後の住人を連れて来てくれたんだね……はぁ、こんな結末はあんまりだよ……!」
「これは誰のせいでもなければ誰のことを責めてもいけない。悲しい事故でしたがまだチャンスは残されていますよ、お嬢。」
私たちを出迎えたのはコルクとドーベル将軍だった。
「ハァハァ……売り物の撤去が終わらないよ……!こんなの僕一人じゃ無理だってば……!!」
「そんなの私は知らないよ?頑張ってやって??」
キヌタニが息を切らしながら駄菓子屋から出てきた。
「えっ……そんなのあんまりだよ……!?」
「全く……ついでに君も居なくなれば良かったのに。どうせ君は故郷に戻ることなんて出来ない。いや、私がそんなことは許さない。だから君はどこかの基地に左遷してあげる。」
「嘘でしょ……!?家に帰ることすら許されないの!?」
「嫌ならここに残れば?この広い密林を歩き回ってたらいつかは帰れるかもね、どうせそれより先に野生動物の餌食になるだろうけど!!」
「博士……ここは一体どういう場所なんですか?」
よしだくんがドーベル将軍にそう尋ねると彼はこの森が存在する目的や、最強の戦士を生み出す計画について私たちに教えてくれた。
だが結局、私がここに連れて来られた理由については誰も教えてくれなかった。
「さてと……それじゃあこの森ともお別れね。よしだくんとスタークにはとりあえず組織の基地で生活してもらう。衣食住に困るようなことにはさせないから安心して?」
「君とまた一緒に研究が出来るようになるなんて嬉しい限りだよ!さあ、もう君に辛い思いなんてさせないからね!」
「博士……迎えに来てくれて本当にありがとうございます。こんな形でここを去るのは悲しいですが、前を向かないといけませんね。」
ドーベル将軍とよしだくんのやりとりはまるで親子のようで……見ていると何だか不思議と胸が苦しくなった。
「スターク、私たちも行きましょう!不安なことがあるなら私が面倒を見るわ!!」
エリスにはそう言われたが、私は彼らと一緒に行きたくなかった。
100エーカーの森の住人たちは適度な距離感で私に接してくれていた。
だからこそ不器用ながらも他人と関わることが出来た。
だが、彼らはきっとそんな配慮はしてくれないだろう。
そして、今さら別の環境に行くことが怖かった。
「誰がてめえらなんかと一緒に行くか!!俺は一人で生きていくぜ!!」
「……そ、そんな!!こんな何もない場所で生きるなんて絶対に無理よ!」
「俺様はな!昔からずっと一人で生きてきた!!誰かが近くにいる場所で生活していたこの数カ月間がむしろ異常だったんだよ!」
「来たくないなら無理に連れて行かなくてもいいんじゃないかな?ここで惨めに野垂れ死にさせてあげましょう?」
コルクは淡々とヘリに乗り込みながらそう言い放った。
「……本当に良いのね?」
エリスは悲しそうな目で私のことを見てきた。
「いいって言ってんだろ!!とっとと失せやがれ!」
「……分かったわ、キヌタニはそこの整理が一段落したら連絡をして。それじゃあ、行きましょうみんな。」
エリスも私に背を向けて機内に乗り込むとそのヘリはゆっくりと上空へ舞い上がり、空の彼方へと消えていった。
「……ねえ、スターク。コルクはあんな事を言っていたけど僕は歩いて自分の故郷、100エーカーの森を目指すよ。お前はどうするの?ここにいてももう駄菓子屋の売り物は買えないし……足手まといにならないなら付いてきてもいいよ?」
キヌタニは突然そんな提案を持ちかけてきた。
「はぁ!?誰がてめえなんかと行くかよ!?大体、誰か足手まといだって!?この世界の足手まといはてめえだ!!」
「ひいっ……!?だ、だって、ここに住み続けるってことは……また変なネズミとか草や毒キノコでも食べて生きていくってことだよね……!?」
このキヌタニの発言には心底腹が立った。
今までの自分の生き方を侮辱された気がしたからな。
「ふざけんな!!てめえからしたら変な生活かもしれねえが、俺にとってはそれが当たり前だったんだよ!!てめえのゴミみてえな物差しで他人に口出しするんじゃねえ!!」
私は彼に詰め寄って胸ぐらを掴んだ!!
「えっ……!?ご、ごめん……って言うべきなのかな?でも、それが当たり前って……やっぱりお前は価値観の壊れた人間なんだね。」
キヌタニは怯えよりも蔑みと驚きが先行したような口調で私にそう告げた。
我慢ならず、私は彼のことを殴り飛ばした!!
「ぶぐおっ……!!きゅぅぅぅ……。」
彼の身体は駄菓子屋の中まで吹き飛び、そのまま気を失った。
「価値観が壊れてようが知らねえよ……!どうせ俺のことなんて誰も理解しようとしねえ!!」
駄菓子屋で飲み食いをして、その日はもう家へと戻った。
次の日、もう一度駄菓子屋へ食事に行くとキヌタニはもういなくなっていた。
恐らくだが、地下倉庫から伸びている線路を伝って安全にこの森から出て行こうとしたのだろうな。
結局、彼とは二度と会うことがなかったからキヌタニがその後どうなったのかなんてこの時の私には知る由もなかった。
そして……その数日後、今度はフジモンの脱出ポッドが森に落ちてきた。
エリスから逃げるために家を要塞のごとく頑丈にしていたおかげで家は何とか吹き飛ばずに済んだ。
何が起きたのか全く持って分からなかった私は、ポッドが墜落した衝撃が収まってから外の様子を見に森の中を歩き回った。
今回と同じように森の中は酷い有様だった……。
そしてフジモンと出会ったのはミーシャの家の前だった。
「ああ、良かった!!どこの家にも人が居なかったから廃村なのかとも思ったよ!!君以外の住人はどこにいるんだい?こんな騒ぎを起こしてとても申し訳なく思っているよ、だからちゃんとこの村の人たちには事情を説明したいんだ。」
「……いねえよ、住人なんて。」
あれほど大きな衝撃の原因は気になっていたが、彼と話すのも面倒なことになりそうだと思った私はすぐにその場を離れようとした。
「住人がいない?じゃあ君はどこに住んでるんだい?」
「どこだっていいだろ、ほっとけ。」
「いやいや、僕だって一人で廃村に取り残されたらたまったものじゃないよ!?人助けだと思って教えてくれないかい!?」
……本当にしつこくて面倒なことになったと思った。
だが無視し続けてもどうせ後をつけてくると思った私は、彼を商品棚が滅茶苦茶に荒れていた駄菓子屋へ案内することにした。
「ここは村にある商店かい?無人の割には随分と色んな物が売っているじゃないか!……って、値段が日本円で書いてあるけど、他の通貨は使えないのかな?」
「……金なんて誰も払ってねえ、何でも好きに食っていけよ。それから、寝床は奥の引き戸を開けたところにある。」
それだけ言い残して私は駄菓子屋から出ていこうとした。
「いやいや、お代を払わないなんてとんでもないよ!!働いてでも返すとしよう!……で、具体的にはどうすればいいんだい?」
……鬱陶しさが我慢の限界に来ていた。
「いい加減にしやがれ!!ここにいりゃしばらくは生活に困らねえよ!!だからもう、これ以上俺に関わるな!!」
私が突然怒鳴ったのでフジモンは暫し唖然としていた。
「……えっ、あっ、も、申し訳ない!い、忙しかったのかな?引き止めて悪かったね!!もし会うことがあったら他の住人にもよろしく言っておいてくれたまえ!」
そんなものはいないとさっき言ったはずなのに……。
そう思いながら私は駄菓子屋を後にした。
僅かだとしても森の住人たちを信用していたスタークにとってその場所を離れることは出来なかったのでしょう……。
それにもし彼らと一緒に組織の基地へついて行ったとしても、暴動を起こしてコルクの実験台にされていたかもしれませんからね。
それでも結局、彼は一人になれなかったわけです。
良くも悪くもお節介なフジモンがやって来ました……。
2,3章ではフジモンがスタークの治療を懸命にしていました。
森の住人たちが死んで二人きりになってしまった世界で二人はどう関わっていくのでしょうか?
傍若無人なスタークと世話焼きなフジモン……何も起こらないはずもなく……。
どんな展開が待ち受けているのかニヤニヤしながら次回をお待ちください。