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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第5章 終わらぬ悲劇の中で
145/162

0-17 伝わらない気持ち

ーー前回のあらすじーー


 チッダールタはその昔、とある街の路地裏で暮らしており常に野宿をする生活であった。

ある冬のこと、見知らぬ男から割のいい仕事の話を持ちかけられてその誘いに乗ったが恐らく騙されたのであろう、どことも知らない集落に連れて来られてしまったのだ。


 目が覚めたのが夜中だったこともあり、彼は食料や工具などを容易に盗んで集落の近くに拠点を構えたのであった。

さらに次の日には商店にも侵入して発電機やストーブまで盗んできたのだった。


 しばらく経った頃、彼は自分で肉を調達出来ないかと考えて野生動物を襲おうとするも、逆に襲い返されてツリーハウスから降りられなくなってしまった……。

そこへ何者かがやって来て、ツリーハウスに登って来るも間一髪で彼の存在は気がつかれずに済み、ついでに彼を襲っていた動物たちもまとめて退治してくれたようだ。


 これで一安心と思ったのも束の間、翌日には突然ツリーハウスが倒壊して彼は地上に放り出されてしまう。

そこをどうやら前の日にツリーハウスへ来た人物がやって来て助けてくれたらしい。


 気が付けばとある民家の中で傍には一人の青年がいた。

彼はツリーハウスを破壊したことを謝ると同時に、チッダールタが集落から様々な物を持ち出していたことについて尋問してきた。


 だが、説明出来る理由もなかったので黙秘を続けていると、他の住人たちもやって来てさらに色んな質問をされた。

答えられない質問が続く中で唯一、彼が話せたもの……それは『スターク』という自分の名前だった。


 小説TOPのあらすじには『スタークは気がつけばそこにいた。』という文言がありますが、こういう経緯だったわけです。


 そんなこと本編のどこに書いてあった?と疑問に思った方もいらっしゃったはずです。

書いてなかったのだから当然ですよね!!


 読者の皆さんは気が付けば○○になっていた状況になったことはありますか?

気が付けば一文無しとか、メタボとか、石油王とか……。


 作者は意識が無くなったわけではないのに、何故か気が付いたら入院になってました……。

お腹が(尋常じゃないほど)痛かっただけなのに……。


 そして何と、この前書きは病床で書いております……。(2023/11/19編集です)

絶食四日目です、さすがにお腹が空きました……。


 誰か御飯恵んでください……と言いたいところですが、私の枕元には『絶食中です(訳:エサを与えないでください!)』との張り紙があるため、打つ手なしです。

読者の皆さんは何か食べてるんだろうな……と思うと羨ましいですな。

それからしばらくの間は農具が置いてある狭い小屋に監禁された。


一日一食だけ、僅かな食事を毎日与えてもらったな。




厳しい環境かと思いきや、当時の私から天国だった。


何より雨風が凌げる場所にいられたからな。



 しかも何もせずとも少しだが食事が出てくる……数日間食事にありつけないこともあった私からすればとても有難いことだった。



それに食事を渡される時以外は他人と関わらなくて良い。




こんな恵まれた環境なら死ぬまでこのままでも良いと思えたよ。


だが、そんなことが永遠に続くわけもなかったな。




三週間くらいか……痺れを切らしてヤムチャは私のことを解放してきた。



「まさかここまで何も喋らねえとは……。もうてめえのことなんて知ったこっちゃねえ。だが、次にこの森から何かを盗んだら……問答無用で殺すからな?」



そう言った彼の表情はあまり怖くなかった。


怖い顔をしても効果がないと思ったからなのだろう。




もちろん、私には行く宛も無かったがもう彼らと関わるのも嫌だった。


だからまた以前と同じように森の近くでツリーハウスを作ろうとした。



だが今度は道具も何もなく、葉っぱや落ちている枝を集めた簡易的な寝床しか作れなかった。


木の太い枝の上で寝るわけだから寝返りを打つと落ちそうになってロクに寝れたものでもなかった。



 そのうち木に張り付いていたツタを使って自分の体を縛り上げることで木に固定するという対策を思いついたが、それでも安眠は出来なかったな。




食べ物にも困った。



野草も食べられなさそうなものばかり、空腹に耐えかねて毒キノコを食べてしまったこともある。


それで何回も痙攣や錯乱を経験したよ。



前と同じような場所に留まっていたんだ、ヤムチャに見つかるまでそう時間はかからなかった。


彼は遠くから密かにこちらの様子を見るが決して私に声をかけてこなかった。


私が毒キノコを食べて泡を吹いていても、猪の群れから逃げていてもただ見守るだけ……。



もちろん、私も関わって欲しくなかったから声をかけられなかった方が有り難かった。



そしてヤムチャの方も私の様子を度々見に来ていることがバレていると気がついていただろう。





そんな関係が二ヶ月は続いただろうか?



 もうすっかり暖かくなった頃、私の身体は飢えと毒キノコの影響でその生活に限界が来ていて、次に毒キノコを食べて強い症状が出たら死ぬ覚悟も出来ていた。


起き上がる気力もない中、地上から声がした。




「お腹空いてないか?好き嫌いがないならついて来い。」



声の主はよしだくんだったな。


きっと食べ物を用意してくれているのだろうと語感で分かった。




 私はこの時、彼に食べ物を貰って生き永らえる代わりにまたこの森と関わることになるのと、このままここで死ぬことを天秤にかけた。



 路地裏に居た時よりも酷い暮らしをしていたからとにかく、最後になってもいいからもう一度人間の食事がしたいと私は強く願った。


 そしてどうせ食べ物が貰えなかったとしても、もう近いうちに飢え死にするのだからここは彼の誘いに乗ることにした。



もしあの時、その選択をしていなかったら間違いなく私は今ここに居なかっただろう……。


どうして彼のことを信じようと思ったのか、それは今でも不思議だよ。


私はふらつきながらも必死に彼の後ろをついて行った。




よしだくんの後に付いていくと彼の家に通された。


家の中はこの時から既に試作品で溢れていたな……。



「みんなはお前と関わるべきじゃないと言っているが、どんどん衰弱しているって話を聞いたらじっとしているのも限界でな……。」



彼はリュックの中からお菓子や干し肉を取り出した。



「もし一緒に来てくれなかったらどうしようとは思ったが……付いてきてくれてよかった。さあ遠慮なんて無用だぞ、どんどん食べてくれ。」



そう言って彼も干し肉を頬張った。




大量の食べ物を前にした私は人との関わりなんてどうでも良くなった。


私は無我夢中で目の前の食料を片っ端から口に入れた。




 彼と二人で食事をした時、家族なんていたことがなかったのにどこか懐かしくて暖かい気持ちになったのを覚えているよ。



 どれくらいあったのかもよく覚えていないが、私はよしだくんが用意した食べ物をほとんど一人で全て平らげた。




「本当に飢えてたんだな……でもそれだけ食べられたのなら俺も安心だ。」



と、そこで玄関のドアが開いた。



「……よしだくんのことだからきっとこうしてるだろうなとは思ったぞ。」



ヤムチャが家の中に入ってきた。



「だが、俺だって見守るだけなのは心が痛んでたんだ。」



そして私たちのそばで腰を下ろした。



「てめえのことをずっと見張ってたが盗みを働くことはなかったみてえだな……あんな酷い生活をしていたにも関わらずよ。」




「……………。」




それは自分の判断でお前たちに言われたからじゃない。


本当はそう言いたかったが、やはり自分の口では説明出来そうもなかった。



「てめえがどうしてこの森のそばに住んでいるのかは知らねえし、まだてめえのことを信用したわけじゃねえ。だがよ、森の中で住むことくらいはいいんじゃねえかと思うぞ、お互いにな。」



「…………!」



本当に驚いたな。


泥棒の私を森に迎え入れようとするなんて……。



「俺は今、広い家に住んでるんだがそこをお前に明け渡そうかと思う。畑から遠いし、何より以前に一度新しく立て直したんだが、それでも家族の記憶がちらついちまうからな……。」



 後半は何のことが分からなかったが、とにかくどうして私にそこまでしてくれるのかこの時の私には理解出来なくて少し怖かった。



そしてその家に住むとしたらこの森と関わりが出来てしまう。


それがすごく面倒そうだと思ったのを覚えてるよ。




『とてもありがたい提案だけど、出来れば遠慮したい。』




 『ありがとう』の五文字も知らず、そんな意志を伝えることも出来なかった私は無言で頭を下げて家から出ようとした。



「は、腹が減ったらまた来てくれ!!また何か用意するからな!」


「今話した家は森のど真ん中にある。空けておくからその気になったらいつでも住んでいいからな。それから、店の……駄菓子屋の売り物は勝手に飲み食いしていいぞ、飢える前に遠慮せず活用してくれや!」



二人は私の背中に声をかけてきた。


私は振り返ってもう一度お辞儀をしてから家から出た。





そこからは逃げ帰るように全速力で拠点まで戻った。


食べたばかりで走ったから胃の中のものを戻しそうになった。




ねぐらまで戻ってきた私は彼らに言われたことの意味を時間をかけて考え直した。


空き家に住んでいい……それは森の住人として迎え入れてくれるということだっただろう。



それは……とてもありがた迷惑な話だ。


出来るだけ森の外で暮らしたいと思ったよ。



そして駄菓子屋……商店だと思っていた場所の売り物は勝手に使っていいと。


 ならば住む場所は今まで通り森の外、だが駄菓子屋の売り物を使って生活の基盤を整えることも出来そうだと思った私は、また夜を待って駄菓子屋へ行くことにした。



 また真っ暗な駄菓子屋へ忍び込み……昼間に堂々と行っても良かったのだが、店内に誰も居ない時の方が気持ち的に楽だった。


 そして私はまた同じような場所で同じように拠点を作り、夜になると駄菓子屋へ行くという生活を繰り返していた。




この生活がずっと続けばいいのにと思っていた。


ヤムチャの空けてくれた家に住むきっかけはそれから一週間ほど経った頃だ。



 変な時間に昼寝をしてしまったせいで起きるのが夜明けになって……その頃は夜に起きて朝に寝ていたからある意味昼夜逆転してしまったんだ。


まだ誰にも会わないだろうと思って私は駄菓子屋へ行くことにした。




この時の私は随分と気が抜けていた。


 何せ……駄菓子屋の引き戸が開いていることも、店の中からはクラシック音楽が流れていることも警戒してなかったんだからな。




「あれ?wwいつぞやのスタークじゃんww話だけは聞いてたけど、顔を見ないから実はもう死んじゃったのかと思ったぜwww」



シンタローがアイスの空いたカップと棒で謎のモニュメントを作っていた。


正直、面倒くさい奴に会ってしまったと思ったよ。



「そんなものを作るために朝から沢山アイス食べて……また売り物を補充しないといけないじゃん……。」



眠そうなキヌタニも近くにいた記憶があるがそんなことはあまり気にならなかった。


とにもかくにも、その日は諦めてすぐに帰ろうとした。



「えっ?どこ行くの?ww何か食べに来たんだろ?ww普段は夜中に来てるのに今日はこの時間に来た理由は知らないけどなww」


「えっ?夜中に……!?そういえば朝になると売り物がいくつか消えてるけど……それはお前のせいなんだね!!」



キヌタニは売り物の手錠を手に取ると私の手にかけようとしてきた。



「万引きは僕が捕まえるんだ!!……あれっ?」



私に近づいてきたキヌタニから一瞬でシンタローが手錠を奪い、彼の腕にかけてしまった。



「別にそれは構わねえんだってwwなあスターク、俺たちを避けてるみたいだがお前がそうしたいなら何も言うつもりはねえよ?他の住人も思ってることは同じだぜwwでもさ、一つだけ忠告するなら……昼夜逆転は健康に良くないぞ?ww★」



 そう言ってシンタローは作りかけのモニュメントを正拳突きでぶち壊すと、音楽の流れているラジカセを脇に抱えた。



「気が散っちゃったから俺は外で朝焼けの絵でも描いてくるかwwあ、今ならこの店主も抵抗出来ないから好きに飲み食いしてくれよ?」



そして店の外へ出ていった。



恐らく、私に気を遣ってくれたのだと思う……。


他の住人も無理に私と関わらないようにしてくれていたのだなと知ることになったよ。




「いや、売り物はちゃんとお金で買わないとダメなんだよ!?」



このキヌタニという奴以外はな。




……あの家に住んでも良いかもしれない。


この時、初めてそう思った。



私は駄菓子屋の食料を空き家に持っていこうとした。


が、店から出ようとしたところで足首をキヌタニに掴まれた!



「万引きなんて許さないんだからね!捕まえて懲らしめてやるんだ!!」



だが、足を前に出せば簡単に振りほどけるほど弱い抵抗だった……。


ついでだし、自分がこの森に住むことを彼に宣言しておこうと思った。




『今日からはヤムチャが空けてくれた家に住もうと思う、これからよろしく!』




そう言ったつもりだった。




「おい!俺様は今日からあの空き家に住んでやることにしたからな!とてもありがたく思え!!」




だが私にはこんな乱暴で傲慢な喋り方しか分からなかった。



「ひ、ひいぃぃっ!!!」



そしてそれを聞いたキヌタニは……店の床で震えながら白目を剥いていた。


不可解な反応だなと思いながら私は家へと向かった。




それからの私は昼間でも駄菓子屋へ行くようになった。


だが、出来るだけ人が少ない時にな。


店内にたくさん人がいるような時は一度出直したりしていた。




そしていつしかこのようなことを思うようになった。


どうして自分は少しずつそちら側に歩み寄っているのに向こうは距離を取り続けるのだろう?と。



 彼らはもちろん、私のためを思ってそうしてくれていたはずなのにいつの間にか理不尽な怒りを覚えるようになった。



私の喋り方も関係していただろう。


思っていたことが上手く表現出来ず、とても高圧的な口調になってしまう……。


だから皆、私のことを疎ましく思うようになっていった。




それでも、私を森から追い出そうとしなかったことは本当に感謝しているよ。


 どれだけお互いのことを遠ざけようとも、棘のある言葉を投げかけ合おうとも、それでもこのままこの森で暮らしていけるものだと思っていた。




そう、あの日までは……。

 どうしようもないダメ人間、スタークは……他人との関わり方を知らない可哀想な奴なのです。

今までこの小説では散々彼をゴミのように扱ってきましたが、これで読者の皆さんもスタークの見方が変わったのではないでしょうか?


 え?そんな見方が変わるほどそもそも今までの話に出てきてないって??

確かにそれは……そうかもしれません。


 結局、ダメ人間がダメである所以は本人以外の所にも原因があることが多いです。

張本人だけを責めてもどうせ何も変わらないのでしょう。


 だから作者のようなダメ人間を見ても、『ああこいつは可哀想な奴なんだな』と暖かい目で見守って欲しいです。

ついでにお金を恵んでくれると……それはダメですか。


 次回は、平たく言うと『もう一つの第一章』です。

次回までにもう一度、一章を読んでおくとすっと次のお話が理解出来るのかもしれません。


 何せ投稿から五年経っているわけですし、その時のストーリーをまだ覚えているなんて方の記憶力は尋常じゃありませんよ……覚えてる方はありがとうございます。

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