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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第5章 終わらぬ悲劇の中で
139/162

5-25 プロトンの愉快な一日 その3

ーー前回のあらすじーー


 よしだ君の家に戻って来たプロトンたちは全員が起きていることを確認してみんなでアイスを食べることにした。

もちろん、だれがどの味にあたるのかはじゃんけんで決めた。


 結果、地雷を踏んだのは鷹の爪が唐辛子と知らなかったミーシャと自分で持ってきたアイスのパッケージを読まなかったプロトンであった。


 そして偶然にもヤムチャの不正がバレて、ミーシャが齧っていた鷹の爪味のアイスはほぼ全て彼の口に流し込まれたのであった。

さらによしだくんもカルーアがお酒だと知らなかったことで酔い潰れてしまった。


 幼い頃より森の住人たちはこんな目に遭っていたのだろうが、それでも懲りずにアイスを食べるとは……バカなのか、鬼のメンタルなのか……そう思わずにはいられない作者であった。



 よしだくんはしばらくしたら頭が痛いと言いながら起きてくるでしょう。

ヤムチャも森の環状線を50周くらいする頃には辛さが落ち着いて戻って来るでしょう。


 こんなことは100エーカーの森なら日常茶飯事です。

なのであまり気にせず、本編でシンタローとプロトンが木こりをする様子をご覧ください。

襲撃の時に起きた森林火災の爪痕はまだまだ残っていた。


半分くらい炭になって今にも倒れそうな木や、熱さで干からびたシダがそこかしこにあった。



そして俺とシンタローは薪として使えそうな木に斧を振るい続けていた。




「ふう……木こりなんて久しぶりだな。」


「昔はお前もみんなとやっていたよな、今はもうしていないのか?」



「そうだな、今はもうすることもなくなった。あの頃が懐かしいよ……なあシンタロー、もしあの頃に戻ることが出来るならお前は戻りたいか?」



俺は手を止めて彼にこう聞いてみた。


シンタローは少しだけ考えて、俺の方に向き直ってからこう答えた。





「今と昔、どちらが幸せだったかと聞かれればもちろん昔だ。それでも……この森で過ごしてきた日々だって俺にとってはすごく大切なものだ。それが無くなるくらいだったら過去になんか戻れなくてもいい。」



これはシンタローらしい答えなのかもしれない。


自分たちの置かれている現状を認めながらも決して逃げようとしない。


俺なんかよりもよっぽど強いな、彼は。




「ここだけが俺たちの居場所。それはいつまでも変わらないし、何に襲われても俺は出ていくつもりはない。だけどな……。」



シンタローは自分が手に持っている斧に視線を落とした。




「もし目の前の木を切り倒しながらずっと先へ進んで行けば、もっと安心して暮らせる場所に辿り着けたりするのかよ?」



「安心して暮らせる場所……か。」



「ここから移住するなんて言い出したヤムチャに対して喝を入れたこともあったよ。でもな、こんなことが何度も続く未来はもう……。大切な人たちが消えていく……そんな悲惨な過去は受け入れる、それでもせめて未来は……その先に待っている未来は明るいものであって欲しいんだ。」




何と言ってあげればよいのか俺には全く分からない。



彼らの意思が尊重される未来なんてあるんだろうか?




「明るい未来……そうであるといいよな。」



心の底から願う。


ここが完全に閉ざされた世界になったとしても、幸せな人生を送ることは諦めないで欲しい。



俺も……またいつかお前たちに会える日まで、絶対に諦めない!




「なあプロトン、お前は俺たちの家族が生きているのかどうか絶対に答えないって言ってたな。俺は思うんだ、事件に巻き込んだ側の人間であるお前が今こうしてここに立っている。もしかしたら俺たち以外の全ての人間がお前と同じ立場だったんじゃないかって……ただの願望だ。でもそう思ってもいいんだよな?」




きっとシンタローは自分の家族がどこかで生きているとそう信じたいのだろう。



もう二度と会えなくても、生きていればそれでもいいと思っているかもしれない。



そしてその願望を否定する必要性はどこにもない。




「そう思うのは自由だ。お前がどう思っていようとそれが間違ってるなんて言うつもりはない。」



でも、真実は絶対に伝えられない。


その先にあるのは……破滅の未来だろうから。




「じゃあ俺はそうであって欲しい世界を信じることにするよ。随分と話し込んじゃったな、木こりはこんなもんでいいだろう。次は薪割りの準備だな。」


「そうか、木を切り倒して終わりじゃなかったな。じゃあ、もうひと頑張りするとしよう。」



俺たちはそこから薪を割り続けた。






そして、薪を持って森に戻ってきて、休憩がてらシンタローの家にやって来た。


今までに作ってきた色々な作品を見せたいと言われたんだ。


彼の家に入った瞬間、天井から降ってきたタライが俺の頭を直撃してとても痛かった……。





「彫刻とかもあるしそっちのほうが作成にかかった時間は長いんだが、それよりも見てもらいたいのは絵画の方なんだ。」



 精巧に作られたガラスや木の彫刻がいくつもあったが、一体何がモチーフになっているのかはよく分からなかった。



 そして絵画の方なんだが……まず目についたのはくじらんが空へと舞い上がって、その様子をヤムチャとミーシャが地上から見ているものであった。




「これは……どういう絵なんだ?」



「くじらんはな、以前引きこもりになって極端なボール体型になってしまったんだ。そして、ひょんなことからこの事件が起きた。あいつは自分の体脂肪を吹き出しながら空へと飛んで行った……そして地上に返ってくる頃には今のような体型になってたんだ。」




……情報量が多くてシンタローの説明がいまいちよく理解出来なかった。




「えっと……それはお前が考えたストーリーなのか?」


「いや、実際に起きたことなんだ。つい、数か月前のことだしな。」



その言葉を聞いて俺の困惑は更に深まった。



「空へ飛んでいくって相当だぞ?ちょっと太ったくらいじゃそんなことにはならないだろ……。」


「当時のあいつは歩くんじゃなくて転がって移動していたよ。それくらいあの事件のショックが大きくて太ってしまったんだ。」




そうだったのか……これも俺たちのせいなんだな。


さらにシンタローが続けた。



「あいつが空からここに戻ってきたのは奇跡だったよ。おかげであいつは今、俺たちと同じように人間らしい生活が出来ているんだ。」


「そんなことがあっただなんて……。」



「この六年間、本当に色々なことがあったよ。それを俺はずっと絵にしてきた。」


「じゃあこの絵には全部実際に起きた出来事が描かれているのか。これは……?」




 甲冑を着たよしだくん、ビルの解体現場で作業でもしているかのような装備をしたくじらん、それからウェットスーツを着たエリスが描かれた絵が目に止まった。



「これはエリスって奴がこの森へやって来た時に森の中を案内していたんだが、ヤムチャがRPGみたいな謎の設定を唐突に思いついたのかみんなに防具を着せたらしいんだ。エリス……一体どこへ行っちまったんだよ。」



そんな熱烈な歓迎まであいつは受けていたんだな。


……ところで装備がウェットスーツなのはおかしくないだろうか?




「この絵だけ見るととても楽しそうだな。」


「実際この時は結構楽しかったよ……俺はどういうわけかあまり記憶がないんだが。」


「えっ?酒でも飲みすぎたのか?」


「いや、そういうわけじゃないんだが……。でも俺たちらしい無茶苦茶な歓迎の仕方だったな。」



彼ららしい、か。


何となく想像がついてしまう……。





次に気になったのは眼帯をしたシンタローと、もう一人の男が決闘をしている絵だった。



「これは……お前と、もう一人は?」


「この森には昔、魔術師がいたんだ。彼、ジョージは一年近く住んでいたよ。」




ジョージ……?



まさか……!?


確かにこの絵も彼によく似ている!!



でも魔術なんてそんな非常識なものは使えなかったはず!




「一年近く住んでいて、その後はどうしたんだ?」


「……殺されたよ、突然森に現れた三人組によってな。」



そう言うシンタローはとても悔しそうな顔をしていた。



「殺された!?しかも突然現れたって……。」


「あいつらは旅の途中だと言っていた。だがきっと、最初からジョージの命を狙っていたと思う。俺はあいつを救ってやれなかった、今でも心残りだよ。」




……そうだったのか。


それを聞いただけでも彼を殺した犯人は簡単に想像がつく。


きっと彼がここに居たと言う情報が……恐らくキヌタニ経由で伝わってしまったんだろうな。


そしてその事実は組織にとって非常に不都合なものだった……。




ジョージ、お前は……あれから、この場所で生きていたんだな。




そしてきっとあれも……彼の仕業なのだろう。



「大切な人が消えるって言ってたが、そんな経験もしていたんだな……。」



「とても辛かったよ、それから俺たちは強くなるって決めたんだ。大切な人を今度こそ守れるように、ってな。そんな過去の経験が全部、今の俺たちの在り方に繋がっている。色んな昔の出来事を絵に描いて、それを忘れないようにしたいんだ。」




この絵たちにはそんな意味があったなんて……!


きっとこれはどんな悲しい出来事でも受け入れて前へと進んでいく覚悟の表れなんだろう。




「その出来事を俺に見て欲しかったのか……。」



「お前がいない間にもこの森では歴史が紡がれていた。たくさんの人がいなくなって、俺たちだけになってからも時計の針は変わらずに動いていた。それを知って欲しかったんだ。」


「分かった。しかとこの胸に刻んだぞ。」



「でもこの絵に描かれてないことだって、まだまだ話したいことはたくさんあるんだ。晩飯の時にでも話させてくれないか?」


「もちろん、いくらでも聞いてやるさ。」



俺だってお前たちがどうやって生きてきたのかもっと知りたいよ。


会えなかった時間の空白をその思い出話で満たしたい。



「なら、晩飯の準備を手伝いに行くか。ミーシャもあの調子じゃ介助がいるしな。」


「そうだな、今はどこでみんな晩御飯を食べてるんだ?」


「いつも集会所に来て料理をするんだ。今日も……いや、今日は集会所じゃないかもな。」



「??どういうことだ?」


「まあ、俺の方から今日は特殊形式での晩飯を提案してみるよ。とりあえず集会所に行くぞ。」



まだ彼の言っている意味が分からないまま、俺とシンタローはひとまず集会所に向かった。

 シンタローの描いた三枚の絵はどれが何章の何話にあたるものか覚えていますか?

ちなみに作者も何話かまでは覚えていません……。


 実際に起きた出来事を絵にしたと彼は言っていましたが、空へと舞い上がったボールのことをヤムチャとミーシャはそんな冷静に見ていたわけではなかったでしょうし、シンタローとジョージは決闘などしていなかったはず……。


 『一部着色を含みます』と絵の右下あたりに書いておかないと詐欺になりそうです。

読者の皆さんもCMやプロモーションで出てくるそのような小さい注意書きには目を光らせましょう!


 ちなみにこの小説のtopにあるあらすじの一番下には、一応『更新がいつされるか分からない』という趣旨の文言があります。

なので突然更新が止まっても不思議ではありません、怒らないでください。


 次回でプロトンのお話は終わります。

100エーカーの森で一日過ごした彼が出した結論は……?

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