5-24 プロトンの愉快な一日 その2
ーー前回のあらすじーー
森の住人たちと今日一日は一緒に過ごすことを決めたプロトンは晴れた気持ちでアイスの山を片手に住人たちのもとに向かった。
彼らを前にして提案した一つ目のお誘いは一緒に狩りへ行くことだった。
ヤムチャはその誘いに乗り、くじらんも一緒に行くと言うので三人で密林へと出かけた。
ヤムチャの狩りを見た二人はこんなの真似できないと困惑するのであったが、全員で力を合わせて獲物を仕留めることに成功したのであった。
人間も動物も狩りをする時はチームプレーが大事なんですね。
ドロケイ(ケイドロ)も一人の泥棒を複数の鬼が捕まえる方が効率がいいと思うのですが、学校でそれをやっていたらいじめだと咎められそうですよね……。
実際やられる方は堪ったものではないと思います。
ところで世の中には一人ドロケイと言うものがあってですね……。
最初は警察で泥棒を空想で創り出し、逮捕します。
檻の中に入れたら役割を交代し、空想の警察の目を盗んで脱獄します。
これを繰り返して飽きて止めた時にやっていた役職の負けです。
つまり、泥棒と警察のどちらが上かを決めるゲームです。
読者の皆さんも駅の構内などでやってみてください。
そのうち通報されて本物の警察がやって来て、『警察の真似事をしてるんじゃない!』とリアルお巡りさんに追いかけられるかもしれませんが……それは作者の知ったことではありません。
その後も狩りをしつつ、エリスがいないかどうか呼びかけてみたが当然、基地に居るであろう彼女が発見されることはなかった。
昼前によしだくんの家へ戻ると、さすがにミーシャとフジモンも起きていた。
「しかし、予備の薬があったことを忘れていたなんてフジモンもうっかりしているな。」
「全くよ……本当にヤブ医者なんだから……!!」
「め、名医だって薬の投与くらい忘れるよ!!」
いや、薬の投与を忘れるのはマズいだろ……。
ミーシャはフジモンによる追加の処置をされていて、容態もかなり落ち着いているみたいだ。
「ただいま……ミーシャ、すごく久しぶりだな。」
目を覚ましたと聞いて、本当はすぐにでも駆けつけたかった……!!
まだ彼女は生きている……。
気がつけば視界が滲んでいた。
「あら、帰って来てたの……って、何で泣いてるの!?いや、そもそもあんたは誰!?」
当然だが、ミーシャは俺のことを見てとても驚いている。
「お前が覚えているかどうかは知らねえが、こいつは昔、森にいた住人の一人、プロトンだ。」
「俺はお前のことを覚えているぞ。よくシンタローと二人で遊んでたよな……。」
まだ俺の記憶の中ではみんな子供のままなんだ。
いつの間にかみんな大人になってしまって……。
数年分の時間を失ったような気持ちになる。
「住人って……!?そんな急に言われても……全然思い出せないわ。」
「俺もすぐには彼のことを思い出せなかったよ。だがな、俺もお前もプロトンとはそれなりに交流があったんだ。俺たちが駄菓子屋でアイスをよく大人に集っていたのを覚えてるか?」
「えっと……あっ!アイス買ってくれてたお兄ちゃん……?」
そういうミーシャの顔つきは本当に俺のことを覚えているのか、怪しいものだ。
確かにアイスを買ってあげたことは多々あったが……。
「そうそう、そしてこいつの買うアイスには何かしらこの世の終わりみたいな味が会ったんだよな……。」
「この世の終わり……あっ!!」
ミーシャは何かを思い出したらしい。
「そうよ!じゃんけんで負けた暁にはみんな駄菓子屋から逃走しようと……プロトン!思い出したわよ!!……いたたっ!!」
「ミーシャ君、急に動くのはまだダメだよ!!」
驚きのあまり立ちあがったミーシャは頭を抱えてしゃがんだ。
「ううっ……あの頃はよくも変なアイスばっかり買ってくれたわね……。」
「なあミーシャ……もっと他に驚くことがあるんじゃねえか?」
シンタローが痺れを切らしたのか、口を挟んできた。
「驚くこと……って、その制服……痛いっ!」
ミーシャはようやく俺が敵の人間であることを理解したらしい。
そしてまた立ち上がって頭を抱えた……。
「もちろんそれもそうだが……もう一つ驚くことがないか?」
「もう一つ……?えっと……何かしら?」
どうして俺の方からこんなことを聞いてるんだ……?
「まあ……分からないなら今はいいだろう?それより、さっき持ってきたアイスをみんなで食べようじゃないか。」
「確かにもう昼前だしな。せっかくだし頂くとしよう。」
よしだくんは冷凍庫からアイスのたくさん入った袋を取り出した。
「お前たちが狩りに行っている間に何個か食べてしまったが、まだ一人一個くらいはあるだろう。」
部屋の隅で座っているチッダールタが声をかけてきた。
「じゃあ、とりあえす何味が残っているのか確認してみるか。」
みんなでアイスを袋から取り出した。
別に俺もみんなの好みまで考えてアイスを用意したわけじゃないから、何を入れたかまでは気にしなかったし覚えてなかった。
……もちろん卵豆腐味は入ってないぞ。
残っていたアイスはバリバリ君の、
・ブラックコーヒー味
・天然水味
・カルーアミルク味
それからガーデンダッシュの、
・鷹の爪味
・水菜味
・じゃがバター味
・タコス味
・塩焼きそば味
だった……。
「なあ、流石にこれはラインナップが酷すぎないか?」
最初にそう言ったのはヤムチャだった。
だがまあ……俺も同感だな。
「うーん、満遍なく色んな味を入れてたんだけどな。」
「さっき少し食べた時はあまり惹かれない味を避けていたからな、ここに残ってるのは既にある意味余り物だ……。」
少し遠慮がちによしだくんは言ってきた。
「まあいいじゃないか。なら、選ぶ順番を決めるとするか?」
俺がそう言うとみんな自然とアイスを取り囲むように集まってきた。
「よしお前ら!どのアイスにあたっても恨みっこ無しだぞ!!」
「ふふっ、僕はじゃんけんの必勝法を知っているのさ!!人は基本みんなグーを出すことが多いんだ!!」
フジモンは得意げに眼鏡をずり上げた。
そこまで言っちゃったらダメじゃないのか?……とは言わずに黙っておいた。
「なら、行くぞ!最初はグー、じゃんけん……ポン!」
アイスを取り囲む手は当然だが、チョキがたくさん並んでいた。
そんな中に二つだけ、パーがあった……。
「えっ!?な、何でだい!?みんなグーを出すものだと思ったのに!!」
一人はフジモン……あんなことを言われたらそりゃ誰だってチョキを出すだろ……。
「ちょっとフジモン!話が違うんだけど!?」
もう一人はくじらん……どうやら彼の話を普通に信じ込んでいたらしい……。
「脱落者は二人か……まだ油断出来ねえな!」
「そうね!後二人くらい蹴落とさなきゃ!!」
……まさかアイスの争奪戦でここまで盛り上がるとは思わなかったぞ。
「じゃあ、まずは上の順位から決めていくか。」
「そうだな、まだ気が抜けない……!!」
よしだくんもかなり気合いが入っている。
「第二回戦だな。最初はグー、じゃんけん……ポン!」
今回はグーが二つとチョキが四つだった。
「ガハハハ!!やっぱり俺が最強だぜ!」
一人はヤムチャ……まさかとは思うが、人並み外れた動体視力でみんなの手を見てから後出ししたわけじゃないよな?
「やれやれ、勝ってしまったか。年寄りの勘というのも悪くないな。」
もう一人はチッダールタ……じゃんけんに勝つ神通力なんてないとは思うが、何だか胡散臭い……。
……だがアイス一つで、ここまで疑い深くなる俺も大概だな。
「さてと……頂点を決めるとすっか!!」
「ふむ……なら最後は目隠しをして決着をつけないか?」
「……あ?目隠しなんてしたら勝ち負けが分からねえじゃねえか。」
「安心しろ、審判ならここにたくさんいるだろう。」
そう言ってチッダールタは自分の目元にどこからか取り出したハチマキを巻いた。
「さあ、お前も同じようにするんだ。」
「ぐぅ……わ、分かったぞ。」
ヤムチャも渋々と自分の目を懐から取り出したハチマキで覆った。
「安心しろ、勝ち負けは俺たち六人でしっかりと見てるからな。」
ここで俺の中に新たな疑念が生まれた。
恐らくチッダールタは俺と同様、ヤムチャが後出しをしていると疑っているのだろう。
そして、チッダールタも実は人の心を読むことで二戦とも勝ったんじゃないのかと思うんだ。
だが、そうだとしてこの不正を止める術がない……。
「なら最後の一戦行くわよ!最初はグー、じゃんけん……ポン!」
二人はお互いにパーを出した。
……と言うことは、チッダールタは不正をしてないのか?
「今回は二人ともパーだからあいこよ!さあ、あいこで……しょ!」
ヤムチャはグー。
チッダールタは……チョキだった。
「勝負あり!グー対チョキでヤムチャの勝ちよ!」
これで一番と二番が決まった。
「なら俺はタコスを貰うぜ……くーっ!やっぱりアイスは最高だな!!」
ヤムチャはガーデンダッシュの蓋を開けてスプーンも使わずにアイスにかぶりついた!
「ふむ……なら私は天然水味のバリバリ君を貰うとしよう。きっと淡白な中にも粋な味わいがあるのだろうな、ガリガリ……ほう。」
チッダールタは天然水味のバリバリ君を一齧りするとしばし硬直した。
「これは……ただの氷だな。これをアイスとは言わないぞ。」
表情を変えないまま、彼はそう呟いた。
「何だよそれ……でも地雷じゃなくて良かったんじゃないのか?まあ、アイスが溶ける前に三番目を決めるか。」
シンタローがそう言ったので俺たち四人は手を構えた。
「じゃあ行くぞ、最初はグー、じゃんけん……ポン!」
今回はパーが三人、チョキが一人。
「よしよし、良いところで抜けられたわ!うーん、気になるのはいくつかあるんだけどこの鷹の爪って何かしら?面白そうだからこれにするわ!」
「……………。」
ミーシャがそう言うと全員黙ってしまった。
これは……明らかな地雷が勝手に一つ消えたのか?
「うん?急に静かになっちゃったけどどうしたのよ?」
「……いや、ミーシャはそれなんだな。じゃあ次に勝った奴が四番目か。」
俺とよしだくん、シンタローは少し落ち着かない感じに構えた。
「ぎゃーっ!!!な、な、何よこれーっ!!」
アイスを食べ始めたミーシャが悲鳴を上げた!!
そりゃあ鷹の爪だからな……。
どうして世の中にはこんなアイスが存在するんだ?
そして何故俺もこんなアイスを持ってきてしまったんだ……。
「ミーシャ……それは鷹の爪が唐辛子だってことを知らなかったお前の負けだぞ。」
よしだくんはどこか安堵したようにそう言い放った。
「よし、じゃあ気を取り直してやるか!」
地雷が一つ減ったとは言っても正直、そろそろ抜けたいところだな!
「最初はグー!じゃんけん……ポン!!」
俺とシンタローはグー、よしだくんはチョキだった。
「うっ……六番目確定か……。」
よしだくんは苦い顔をしていた。
「なら、俺とプロトンで決着をつけようじゃねえか!」
「望むところだ!最初はグー、じゃんけん……ポン!!!」
シンタローはパー、俺は……グーだ。
「よぉし!!なら、じゃがバターは貰っていくぜ!」
「マジか……うーん、塩焼きそばはあまり惹かれないな。だとしたら一番安牌そうなブラックコーヒー味にするか。」
「そうなると次は俺か。水菜は論外として……カルーアミルクって何だかおしゃれな名前だな、これにしよう!」
「ひーん!!辛すぎるわよ!!誰よ、こんなアイス開発したの!!」
ミーシャはアイスを食べながら唇止めを真っ赤にして泣いている……。
可哀想だがさすがに代わって食べてやろうとは思えないな……。
「うん、じゃがバターは美味い!四番目で当たりが残ってたのはラッキーだったな。」
「さて俺はっと、バリバリ……んん!?」
俺はバリバリ君を一口齧った途端、口の中に異変を覚えた。
舌の上がとてつもなく苦くなった!!
「うっ!?こ、これは……!?」
ただでさえ濃いエスプレッソをさらに濃縮還元してその粉を舌に撒かれたような苦さだ!!
「どうしたって言うんだ?……あー、『本物の大人専用、激苦アイス』だってよ。」
ヤムチャは俺が開けたパッケージに書かれていたキャッチコピーを読んだ。
「まあ……コーヒーと鷹の爪の二人は頑張って食べきるんだな。さて、俺も……うん、何だか不思議な味だな?だが不味くはなくて良かった!」
よしだくんのアイスはハズレでもなかったらしい。
「さてと……そろそろ決着をつけなきゃね。」
「くじらん君、悪いけど手加減はしないよ!僕は自分が正しいと思う戦法で行くからね!」
「いいか二人とも!これで全てが決まる!んじゃあ、最初はグー、じゃんけん……ポン!」
くじらんはチョキを出した。
そしてフジモンは……やっぱりパーだった。
「そ、そんな!!どうしてみんなグーを出さないんだい!?」
そりゃあ……な。
「悪いけど、同じ手に二度はかからないよ!それじゃあ、俺はこの塩焼きそば味を貰っていくね……うん!これは大当たりだよ!!七番目で当たりが引けるなんてとてもラッキーだね!!」
アイスを食べ始めたくじらんは満面の笑みを浮かべている。
「僕は水菜かい……仕方ないね、名医の僕がこれを食べるなんて不本意だけど……あれ?……うん、別に不味くないよ?少し味の薄い抹茶だと思えば全然いけるね!」
……おい、結局地雷は鷹の爪とブラックコーヒーだったのかよ!!
自分で持ってきたアイスで地雷を踏むなんて……しかも五番目でな。
「あと半分くらいか、一気に食べきっちまおう……ん???」
みんなのアイスの置かれているテーブルに視線を落とすと、俺はあることに気がついた。
「なあみんな、このヤムチャがつけていたハチマキ……テーブルの木目が透けて見えるぞ。」
テーブルに置かれていたハチマキはその向こう側が見えるようになっていた。
「本当だ……だとしたらヤムチャは前が見えてたってことか?」
シンタローがそう言うと突然ヤムチャの額から汗がダラダラと滴り落ちてきた!
「ヤムチャ……お前は動体視力がいいから、もしかするとみんなの手を見て一瞬だけ後出しをしていたのではないのかな?」
「なな、何を馬鹿なこと言ってやがるんだ!!そ、そんなこと出来るわけねえだろ!!」
チッダールタに言われてヤムチャは気が動転しているのがみんなから丸分かりだ。
だが、これは確認しておかなくちゃならない。
「でも、チッダールタと二人の時は最初あいこだったよな?あれはどういうことだ?」
「んまあ……その方が盛り上がるかと思ってよ……って、ち、違うんだぞ!!」
ヤムチャの髪は汗でぐっしょり濡れている……。
「うん……今のは肯定の返事よね?と言うわけで、はい。」
ミーシャは一割くらいしか減っていない、自分のアイスを差し出した。
「おい……自分の分はちゃんと自分で食べ切る……キヌタニの母親に習っただろ?」
「でもこれはさすがにずるいよね。」
「……そうだな、さすがにこれは罰ゲームが必要だ。」
くじらんとシンタローも加勢してきた。
「なるほどな。ならば、アイスもいい具合に溶けてきて流し込むには今が持ってこいのようだ……はっ!!」
「何だ?あがががっ……!?」
チッダールタの着ている服のイルミネーションが橙色に光ると、ヤムチャの口が見る見るうちに開いていく!
「よし、今ならヤムチャは身動きがとれないぞ。今のうちにやってしまうんだ。」
「任せなさい!!ほらほら、行くわよー……♪」
「がっ……が……おわあああーー!!!」
溶けた激辛アイスを一気に口へ流し込まれたヤムチャは、すぐさま全身が真っ赤になって口を開けたまま悲鳴を上げた!
「はーい、これで全部よ!」
「では、神通力を解除しy……、」
「うおああー!!!だずげでぐれーぇ!!」
ヤムチャは口を閉じた瞬間から叫びながら走り回り、暴走戦車のごとくとてつもない勢いで家の外に吹き飛んでいった……。
あのアイス、どれだけ辛いんだ……!?
「まあ、ヤムチャも辛さに対しては人相応の反応を示すのね。……あら、よしだくん?」
「……zzzz〜。」
いつの間にかよしだくんは顔を真っ赤にして爆睡していた。
「いつもは昼寝なんてしないのに、突然寝ちゃってどうしたんだろう?ねえ……何だかお酒の匂いがしない?」
「え?そ、そう言われれば薄っすらと……。」
嗅覚に意識を集中させると、少しだが空気中にアルコールが漂っているなと気がつくことが出来た。
そしてみんなも同じように気が付いたらしい。
……あ。
「そういえば『カルーア』って……ああ、やっぱりだ。」
俺はよしだくんの食べていたバリバリ君が入っていた袋の匂いを嗅いでみた。
案の定、アルコールの匂いが空気中よりも強かった。
「もしかしてお酒だったのか?どうしてアイスにお酒が入ってるんだよ……。」
シンタローも困惑しながらその袋に鼻を近づけた。
「ま、まあ……そのうち起きてくるんじゃない?それよりも、鹿の肉を持って帰ってきたんでしょ?ヤムチャが帰ってきたら捌かせておくわ。ところで、料理に使う薪がもうないみたいなのよ。」
「じゃあ午後は木こりをしないとな。」
「なら、俺も手伝うぞ。」
俺はシンタローの手伝いに名乗りを上げた。
「じゃあ俺はヤムチャの手伝いをしておくよ。」
「鹿の解体はくじらんたちに任せて俺たちは出かけるとするか。」
「そうだな、たくさん薪を用意するとしよう。」
俺とシンタローは薪を調達しに密林へと出かけた。
本当にプロトンは明らかに地雷だと分かるような味のアイスを持ってきますね……。
自らが仕掛けた地雷に引っかかっているので悲しいものです。
一つ思ったのですが、ただの水を凍らせて天然水味のアイスとして売り出せばボロ儲け出来そうではないですか?
かき氷にもみぞれ味がありますからきっとそれも許されるはず……!
『天然水のまろやかな味わい』とでもパッケージには書いておきましょう……。
次回は(多分)シンタローとプロトンが薪を割るだけのお話です。
彼らには腹も割って話し合ってもらいましょう。