5-22 『みんなへ』
ーー前回のあらすじーー
エリスとプロトンが倉庫の片づけをしていると、いつ頃に100エーカーの森から脱出出来そうなのかを聞きに来たチッダールタとフジモン、そしてスタークがやって来た。
彼らが話し始めた矢先のことだった。
コルクが駄菓子屋にやって来る列車の音が聞こえてきたため、慌ててチッダールタは自分とフジモンの姿を神通力で消すことにした。
そのおかげで彼らの存在はコルクに気が付かれなかったものの、一人だけ取り残されたスタークを見てコルクは目つきが気に入らなかったのか彼を殺そうとした。
だが、エリスが体を張って抵抗した結果、コルクは何が彼女をそうさせるのか興味津々になりスタークから様々なことを聞き出そうとした。
エリスがチッダールタによって口止めされているスタークの代わりで質問に答えていたのだがプロトンがドーベル将軍の死について口を挟むと、彼女はいつもの切り替えの早さでスタークに興味を失くしてエリスと一緒に列車で倉庫から去っていくのであった……。
前回に列車の運転をしていたエリスは事故を起こさず、無事に基地まで帰れたのでしょうか?
電車を運転するゲームは世の中に存在しますが、リアルでやったら大変なことになりそうです……。
エリスのことなので信号は見落として、マスコンを切るのを忘れ、急ブレーキをかけてコルクに怒られるのが容易に想像できます……。
読者の皆さんは道路の信号機や標識を見落とさない方ですか?
標識まで全て見落とさないなんてかなりの難関だと思います……。
自信のある方は100エーカーの森の愉快な仲間たちが起こすアクションの微妙な違いにも目を向けてみてください!!
真っ暗なトンネルの中を俺たちは進んでいく。
「こんな真っ暗な場所に何かあるのかい……?今にも天井が崩れそうだよ??」
チッダールタの服に付いているイルミネーションの明かりを頼りに俺たちは進んでいた。
ここのトンネルはちゃんとコンクリートで舗装されているわけじゃないから、地震でも起きたら本当に崩落しかねないだろうな……。
「この辺りからオーラを感じる……ああ、これだ……!」
トンネルの入口から300mほど進んできた地点だ。
今までで一番大きいチッダールタの声だった。
彼の視線の先には、人工的に掘られた小さな横穴があった。
横幅の大きなフジモンでも一応通れそうな穴だ。
その穴の入口には紙の入ったジプロックが釘で壁に止められていた。
「お前の探していたものはこれだったのか?これは何だ?」
チッダールタはジプロックを開けて中の紙を取り出した。
「これは……手紙のようだな。二人とも、近くに来て一緒に読むんだ。」
「手紙って、誰に宛てられるんだい?」
俺とフジモンはチッダールタの両脇に近寄って暗い中、その手紙とやらに目を通した。
『愛すべきみんなへ』
俺が今やっていることは本当に正しいのか……それは分からない。
少なくとも運命の神様には間違ってるって言われてしまったしな。
だからこれを見つけるかどうか、それをみんなに委ねることにした。
前もって用意していたこの隠された抜け穴を見つけて辿ってくるなんて、可能性としてはかなり低いだろう……。
でももし、この手紙を読むことがあったなら……。
迷いなくこのトンネルの奥に向かって走り続けろ!
お前たちが一番欲しかったものはその先にあるんだ!
本心を言えば俺の口からみんなにこの事を言いたかった。
それがここへ流れ着いた俺の責任だとも思ったからな。
だがそれは叶わなかった……ちょっと悔しいよ。
……本当はみんなともっと生きていたかった。
でもお前たちとは結局住む世界が違ったんだ。
これ以上一緒にいることは許されなかった。
だけど、ここへ来てしまったことを後悔した瞬間なんて一度たりともない!
もし……今日死んだとしても、これまでの時間を決して俺は忘れない。
お前たちがこの手紙を見つけても、見つけなかったとしても、俺はみんなの幸せを心から願うよ。
こんなちっぽけな魂じゃ持ちきれないほどたくさんの思い出をありがとう。
これは……?
「ふむ、少なくとも一つ言えることがあるとするならば、この手紙は私たちに宛てられたものではないということだな。」
チッダールタはその手紙をジプロックの中に戻した。
「えっ……またそこに入れてしまうのかい?」
「手紙の差出人も言っていただろう。この手紙を見つけるかどうか……それは『みんな』に委ねるとな。だからその意志を私たちも尊重しようじゃないか。」
差出人が誰なのか、俺にも分からない。
だが、俺も同意見だ。
トンネルの奥……か。
どういうわけかこの差出人は俺が知っているのと同じ秘密を握っているように感じられた。
そしてその秘密を明かすかどうか運命に任せたと言うなら俺たちは関与するべきじゃない。
「そうだな、俺たちがこの手紙を持っていくのは違う気がする。だとしたら、見つけてもらうまでこの手紙はここに在るべきだ。」
「プロトン、お前は話の分かる奴だな。フジモンももう少し見習うんだ。」
「えっ??どういうことだい!?全然話が見えてこないよ!?」
「分からないならそれでもいい……さて、この横穴がどこに通じているのか気にならないか?」
チッダールタは俺たちの返事も待たずに穴の中へと入っていく。
「確かに、手紙には『この抜け穴を辿ってくる』って書いてあったな。ってことは、どこかに通じている……?」
「秘密の抜け穴かい、それは何だかワクワクするね……って、ちょっと狭すぎないかい?」
「それはお前が通ることを想定してなかったからだろう。少しは自分の体型に違和感を持て。」
その言い方は酷くないか……?
お腹がつかえながらも頑張って先に進もうとするフジモンに少しだけ同情した。
「まあ、ここまで来たんだ。俺もお供するぞ。」
俺もフジモンに続いて横穴に潜り込んだ。
横穴は20mも進むと徐々に広がってきて立ち上がって歩けるほどの大きさになった。
「一体どこまで続いてるんだ……?まだまだ先は長そうだぞ?」
「こんなにも長い通路、どうやって掘ったのだろうな?普通に掘っていたら何日とかかるぞ。」
「そもそも、こんな場所を掘っている途中で天井が崩れたらどうするつもりだったんだい!掘った人間は怖くなかったのかな!?」
フジモンがそんな物騒な事を言っているうちに道の終点へたどり着いた。
500mくらいは進んで来ただろうか、そんな道の終点は行き止まりになっていた。
「おいおい、通り抜けも何もないじゃないか。」
「いや……プロトン、この壁に手を当ててみろ。」
そう言われたので素直に俺は言われた通りにしてみた。
「これは……!風が来ている!!」
「つまり、この先にもまだ本当は道が続いているってことかい?」
「ただ、素手でこの壁を壊すのは厳しそうだな……。」
「ならここは俺に任せてくれ。二人とも下がるんだ。」
俺はピストルを抜いた。
そしてドンドン!!と二発立て続けに発砲した。
「ひっ!!ビックリしたじゃないか!!どうしてみんなそんな物騒な物を平気で使うんだい!?」
フジモンは後ろにひっくり返って尻餅をついていた。
そうか……普通ならこんなもの、絶対に使うことなんてないんだろうな。
やっぱり俺たちは普通じゃない……。
ピストルの発砲で驚くことが出来るフジモンが少し羨ましくなった。
「プロトン、どうしたんだ?発砲の反動で肩でも外れたか?」
おっと、一瞬だけ自分の世界に入ってしまっていたな。
「いや、大丈夫だ。それより、ちゃんと穴が空いたぞ。」
俺はピストルの弾が貫通した壁を指差した。
「では暗いが、その先を覗いてみよう……ここは!」
穴から壁の向こう側を見たチッダールタは驚きの表情に変わった。
「何があるっていうんだい!?……そうだったのか!!」
フジモンもびっくりしている。
俺も続いて向こう側の景色を見てみた。
暗いがぼんやりと墓石のようなものが見える……。
「ここは……共同墓地か?」
「間違いない、手紙の主はここから掘り進めて、最後にここで岩を積み上げて隠したのだろう。確かにこれでは抜け穴も見つからないわけだ。」
「まあ、そう簡単に見つけさせないようにしたかったのだろうね。それはそうと、そろそろ時間がやばいかもしれないな。」
フジモンは暗い中でもぼんやりと光る腕時計の針を見てそう言った。
「確かに、連日こうやって外に出ていたらみんなにもそろそろ怪しまれそうだ。」
「じゃあ、今日は戻るとしようか。」
俺が開けてしまった穴は塞がなくて大丈夫かと一瞬だけ思ったが、小さなものだから特に影響もないだろうとそのままにすることにした。
「あれと、これと……これは要らないかな。それにしても、駄菓子屋の商品棚にはここまで色々な薬は並んでなかったと思うんだけどね。」
フジモンは地下倉庫の一角で必要な薬を選別していた。
ミーシャの意識が戻ったと聞いて俺は嬉しいばかりだった。
だが、治療がまだ必要な状態が続くとなると喜んでばかりもいられない。
「店に置いてても誰も使わないと思って、キヌタニは並べてなかったんだろうな。」
「宇宙服がいつも店頭に並んでいたが、あれが売れるとキヌタニは思っていたんだな……。」
チッダールタは少し引き気味にそう言った。
「今になって言えることだが、俺は到底あいつに経営のセンスがあるとは思ってなかったよ……。仮にあったとして誰もお金を払わないんだから何の意味もなかったんだけどな。」
「ドイツなのに日本円を使おうなんて経営のセンス以前の問題さ!それはそうと……かなりお値段の張る薬だけど本当に持っていっていいのかい?」
「それでミーシャが助かるならいくらでも持っていけ。どうせここにあっても捨てるだけになるかもしれないしな。」
「そ、そんな!!世界には十分な医療を受けられずに苦しんでる人々がいるのにこんな高い薬をそう簡単に捨てるだn……、」
「用が済んだなら早く帰るぞ。みんなに怪しまれるからな。そしてスターク、お前はこの森から出ていく日まで自分がどうしたいのかをしっかり考えろ。その時の選択がお前の一生を左右するかもしれないんだからな……。」
最後の方はとても寂しそうに、チッダールタは言いながらフジモンとスタークを浮かせるとそのまま二人と一緒に移動してエレベーターに乗った。
「ではそのうちまた来るぞ。用があるなら、いや無かったとしてもお前からみんなにも会いに来てくれ。よしだくんのおかげで今はもうお前をみんなそんなに疑ってないからな。」
エレベーターは動き出し、三人の姿は見えなくなった。
エリスはもう彼らと会うなと言っていた。
だが、そんなこと……!!
…………。
この森を去る前にちゃんとお別れを言おう。
また会うことが許されるその日までのな。
そして、今度は普通の世界で再会するんだ。
いつか南極の星空をみんなで見に行く……。
人生の大きな目標が出来たな。
だとしたら、俺も立ち止まってなんかいられない。
どうにかしてこの森から抜け出す方法を見つけないとな。
もしかしたらフジモンやチッダールタ、エリスとは今後も連絡を取れるようにしておいたほうがいいかもしれない。
「外部とのコネクトは貴重だからな……。エリス、頼んだぞ。」
まだ俺は眠れそうにない。
売り物の補充も終わっているしやるべきこともない……。
今日は晴れているし、星空でも見に行こうかと思って歯を磨いてから地上へ上がった。
外は本当に寒い。
そして空には雲一つなく、満天の星空が広がっていた。
「まさか見上げる場所によって違った景色が見られるなんてな。」
俺は十歩だけ前に進んで、もう一度上を見上げた。
「変わるわけないか……。」
どこまで歩けば変わるんだろうか?
それを確かめる術を俺は持ち合わせていない。
「みんなに……会いたい。」
お別れの前にちゃんと話がしたい。
そうでもないと自分の中で踏ん切りがつかないだろうからな。
明日は一日中みんなと過ごす日にしよう。
それで基地と連絡を取りつつ早めにここを発つんだ。
だとすれば明日は忙しくなるだろう。
早めに寝ないとな……。
抜け穴を掘って手紙を残した人物が誰なのか……もう読者の皆さんはお分かりでしょうか?
いずれにせよ、どうして抜け穴の存在をあそこまで分かりにくくしたのかは個人的に謎です。
それから……フジモンのお腹がつかえてしまうようでは、通れない人物が他にもいる気がするのですが……手紙の差出人はきっとそこまで考えていなかったのでしょう。
すぐに家まで帰れるのだからプロトンは地下倉庫なんかに居ないで、家へ帰ればいいのにと思うのは作者だけでしょうか……?
読者の皆さんは何か思い当たる節がありますか?
親が鬱陶しい、仕事モードが途切れてしまう……様々な理由があるのかもしれません。
もし彼のことを心配に思うならエナジードリンクでも差し入れてあげてください!!