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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第5章 終わらぬ悲劇の中で
133/162

5-19 最後の課題

ーー前回のあらすじーー


 よしだくんは駄菓子屋へと赴き、話を聞きたいとプロトンに伝えると彼は快く出迎えてくれた。

売り物のアイスが補充されているものだから彼は随分と驚いていた。


 まずよしだくんは襲撃の目的を聞き出そうとした。

プロトンは目的そのものを教えてくれなかったものの、ヒントを何点か与えてくれた。


 六年前に大半の住人が失踪した事件と襲撃の目的は関係があり、戦闘をせずとも襲撃を起こした目的は達成が可能であったとプロトンは言っていた。


 次にコルクのことについて……彼女はプロトンの上司であり、襲撃の指示役でもあった。

そして彼女は研究者としてタイムマシンの研究をしているようだが、それとは別にメインの研究テーマがあってそれは秘密だと教えてはくれなかった。


 そしてプロトンが森に滞在する理由は住人たちに助言をするため……だがよしだくんはどうも納得が行かなかったようだ。

 何でもかんでも悟られるわけにはいかないと思ったプロトンは早々とこの話題について切り上げるのであった。



 余談ですがこの日、よしだくんが選んだアイスはハーブティー味です。

本当はリコリスが恋しかったのですがどこにも見当たらなかったようです……。


 一方のプロトンはこの前の出来事を踏まえて、卵豆腐味のアイスを決して地上に持って来なかったそうです……。

どうしてそんなものを仕入れてしまったのか……きっと彼も困惑していたことでしょう。

「組織の中にはコルクを弾圧しようとしていた有志たちのリーダーがいた……彼はコルクより下の地位、それでも組織の中では相当な上にいた。根本的な考え方の違いから彼は元々コルクと仲が悪かったんだ。」



「つまり、彼を嵌めて没落させたと?」



「まあ……そうと言えばそうだ。だが、君が思っているよりもかなりエグイやり方だぞ……?」


「それでもいいんだ、続きを聞かせてくれ。」



「随分と迷いがないな。いいだろう……まず手始めにコルクは彼の部下を何人か毒殺した……。そしてその事件を自分側につけと買収していた仲間に捜査させて彼に罪をなすり付けた……。ここまではまあ、普通と言ってはあれだが予想が出来そうな範囲だろ?」



いくら予想が出来るとは言っても、博士はかなり腐ったことをしたものだな……。


まあ、黙って続きを聞こう。




「本当に恐ろしかったのはここからだった。彼女はそのリーダーだった彼を自分の研究の実験台にしたんだ、それも組織の仲間たちを出来るだけ集めた場でね。その結果……彼は一瞬にしてこの世界から消滅した……。」



 一体コルクという人間の研究はどんなものなのか……知りたいと同時に、知ることを本能的に拒否してしまいそうな気もする。



「早い話が彼は見せしめにされ、同じ末路を辿りたくないと思った彼らはコルクに歯向かえなくなったわけだ。この一連の作戦を当時の隊長が考案してコルクが実行に移した……。」




博士……あなたはどうしてそこまで権力に拘ってしまったんですか?


そうでもしないと研究が出来なかったんですか?




「もしかしたら……元々そういう人だったのか?」



思わず声に出してしまっていた。



「そりゃ今の話を聞けば隊長の印象がぐっと悪くなるのは分かるさ。だが……。」



プロトンはそこまで言って一度考え込んだ。



「その時の事情を君に話せないのがとてもむず痒いな。その時の彼の目的は、権力が欲しかったわけじゃないと思う……いや断言しよう。間違いなく権力よりも大切なもののために動いていた。」


「どういうことだ??」



「彼の本当の目的は……コルクの研究を守ることだったんだ。これは隊長から話を直接聞かされたことがあるから間違いない。」



コルクの研究……それが分からないからあまり感情が揺り動かされない……。




「分からない……博士は一体……。」


「突然こんな事言われても具体的な内容が分からないんじゃ混乱するだけだよな。そんなところに悪いが、この話にはまだ続きがあるぞ。」



彼はさらに話を続けた。



「その騒動以来、隊長はコルク直属の研究員となったんだ。そして度々、手を汚すようなことも任されていた。とにかく、彼女へ忠実に尽くしていた彼はみるみるうちに昇進していった……。」



この話を聞いて俺は、やっぱり博士は権力が欲しかったんじゃないのか?と思ってしまった。



「俺と出会うため前にはもう、自分の研究を辞めていたそうだ。コルクの研究のサポート一筋だったってわけだな。」



自分の研究も放り出していたならなおさらだ。


あれほどに研究熱心だった彼はそれすらも捨てて権力を求めたということだろうか……?



「どうして博士はそんな奴のことを忠実に聞き続けたんだ……?」




「そう疑問に思うのも無理はないよな。じゃあ……これは俺と隊長が初めて言葉を交わした時の話だ。この時、俺はコルクの実験を手伝いに来ていた。」





『君がプロトン君……なかなかに強そうだな。』


「あなたがドーベル博士か、噂はかねがね聞いているよ。」


『それは恥ずかしい限りだ……。でも噂と言えば、私なんかよりも昔この研究所に居た天才神童の話を知っているかい?』




「とまあ、突然君の話をしてきたんだよ。」



「お、俺の話か……!?」



驚きのあまり口調がおかしくなってしまった。


どうせこの時期には俺のことなんて忘れ去られたものだと思っていたからな。




「そこからは延々と君の話を聞かされた。どれだけ優秀だったかとか、初めての発明品は何だったとか……。あれは正真正銘の親バカだったよ。」



「お、おい、やめてくれ……。」



恥ずかしくてついつい口を挟んでしまった。



「まあ何にせよ、彼は君のことばかり話していたよ。それに戦車の中に彼が居た時も言っていたが、彼は君が研究所に戻ってきてもちゃんとした待遇で迎えてあげようとしていたんだ。」



そういえば、そんなことも言っていたな……。



「それに、いつ帰ってきてもいいように彼は君専用の設備も整えていた。……本当はすぐにでも帰ってきて欲しかったんだと、俺にも分かったよ。」




博士……?本当なのか??


そう尋ねようと思っても答えてくれる彼はもういない……。



でも……まだ納得行かないことがある!



「博士は襲撃の時に戦車でこの森を破壊していただろう!それに……襲撃なんて起こさなくても俺のことを迎えに来ることくらい出来たんじゃないのか?」




「うん、言いたいことはよく分かるぞ。実はな……この襲撃が上手く行ったら彼はさらに昇進出来たらしい。それも、もちろん君のためだよ。……って言うと君が原因みたいだが、そういうことじゃないぞ!それから、森を破壊していた理由は俺の想像でしかないんだが……君に帰ってきて欲しかったからじゃないかな?」




俺に帰ってきて欲しかったから……?


意味が分からないぞ??



「やっぱりさ、君もここで何年間も生活してきてそれなりに住み心地もいいわけだろ?そうなるとなかなか離れ難いんじゃないかと、隊長は作戦前にそれを心配していたんだ。だからここを出来るだけ滅茶苦茶にして住めなくしたら自分のところに戻ってきてくれるんじゃないかって思ったんじゃないかな……?」



そんなこと言われたって……納得出来るものか!


俺は立ち上がった!



「分からない!!そんなの実際に博士の口から聞かなきゃ分からないじゃないか!!でも……、」 



そこまで言って再び椅子に座った。



「もうそれも叶わない……。結局は、本当にお前の言う通りだったらいいのになと言う幻想のままで終わってしまうんだ……。」



「命を取り留めたとは言え、記憶喪失じゃ当分はどうにもならないからな……。」




………………。




……………?




記憶喪失??



彼は何を言っている?




「プロトン、お前は博士がどうなったのか知らないのか?」


「いや、昨夜会ってきたよ……記憶がないこと以外は元気そうだったな。」





…………………。




……………えっ!?



いや、何かの間違いだろう!?




「いやいや、俺は戦車が爆発した場面に立ち会って、彼の最期の言葉も聞いている!!」


「俺も彼が生きていると知って驚いたさ……ってどうして君がそれを知らないんだ!?」




どういうことだ!?



本当に博士が生きているって言うのか!?




「話が読めない!!だとしたら博士はどこにいるって言うんだ!?」


「昨夜はくじらんの家に居た……って、どこへ行くんだ!?」



そこに居るんだな!?


俺は彼のことも無視してくじらんの家に走り出した!!







何がどうなっている!?


キヌタニはあの時死んだはず!!


だとしたら一緒に居た博士も……!!



俺は全速力で駄菓子屋からくじらんの家まで駆け抜けた!



「くっ……はっ……はっ……博士……!!」




そして家の中に飛び込んだ!!


一階から人の気配がしないと思った俺は二階への階段を駆け上がる!



本当に居るのか!?


俺は寝室のドアを開けた。





……………。



いない……。


二階にも博士の姿は見当たらなかった。



部屋の中に変わったところは何もない。




「ちょっ……はあ……はあ……い、いない……?」



プロトンもすぐに追いついてきた。


彼が寝ていたであろう敷布団はもぬけの殻だ。



勉強なんてしないくじらんの家のデスクワークには……何か紙が置いてある。


俺はその紙を確認した。




その紙の一番上には『よしだくんへ』と書かれていた。



「フジモンがどこかに連れ出したのかもな。待ってくれば戻って来るんじゃないか?」




いや、違う……!



俺は紙に書かれてある内容を斜め読みしながらプロトンの方を向いた。



「北東の崖だ!」



俺はその手紙を握りしめて崖へと走り出した!!




「おい!今度は何だってんだ!!」



プロトンはそう言うがお構い無しだ!!


とにかく急げ!!







どうして……!


どうして今なんだよ!!




博士……!


きっと……呼び止められる!!




今度は俺があなたを救う番だ!





崖と戦車の残骸が見えてきた!





博士……!?


遠目でも分かる!



彼は刃物を持って……首から大量に血を流している!




「くっ……止血しても間に合うか!?」



気がつけばプロトンは俺に追いついて来ていた!




!!!



博士がこっちに気がついた!?



彼の顔はかなり白くなっている!




「はかせーーっ!!一体何をしてるんですか!!」



俺は血で服が汚れるのも構わず駆け寄った!





「来てしまったのか……でも、この世界で最期の瞬間に映るものが、君の顔なら……。」



彼はそう言い残して目を閉じた。




「この出血量……!残念だが、もう……。」



プロトンもどこか呆然として立ち尽くしていた。





そして……博士が目を開けることは二度となかった。





「いや、いいんだ……。」



驚くほどに冷静な自分がいた。




「プロトン、一緒にこの手紙を読んでくれないか?」



 彼に読ませるのもどこか違う気がするが、これを一人で読むのはさすがに正気じゃいられないかもしれない。




「いいんだな?……分かった。」



彼も血の海に入ってきて手紙に視線を落とした。







『よしだくんへ』



今まで記憶喪失になっていたけど、先程ようやく記憶が戻ったんだ。



私は一体……何をしていたのだろう?



この森を滅茶苦茶にして、大勢の仲間を犠牲にして……。



今になって自分がした事の重大さに気がついてしまったんだ。



もう、こんな私が生きていることが許せなくて堪らないよ。



だからこの前死ぬはずだった場所でこの醜い命を終わらせることにするよ。




君をこの森に預けてからも私は君のことばかり考えていた。



今日は何を食べているかな?



森の住人たちとは仲良くやっているだろうか?



もしかして恋をしたりしているのかな?




それだけじゃない。



帰ってきたらどんな研究がしたいかな?



君を悪く言いそうな奴はいないかな?



こっちに帰って来てからのことを考えていたんだ。



こんな言い方をすると重いと思われてしまうかな?



この数年間僕はずっと君のことを中心に動いていた。



今回の作戦も、君のため……そう思っていた。




でも私は……間違っていたみたいだ。



この森を襲撃したことも、戦闘部隊の隊長になったことも、過去に仲間を裏切ったことも……。



一体いつから私は進むべき道を間違えてしまったんだろう?



いつかまた君の隣で研究が出来ればそれでいいと思っていたのに。



これほどに手を汚さなくとも君を守る方法がもしかしたらあったのかもしれないな……。




私はたくさんの後悔を積み重ねてしまった。



だとしても、人生の終わりまで絶対に後悔したくなかったことが二つある。



一つは君をこの森に預けたこと。



もう一つは捨て子だった君を路地裏で拾ったこと。



 もし君と出会わなければ……私は全く違う人生を歩んで、全く違う人と出会い、もしかしたら違う形の幸せもあったかもしれない。




だけどこれでよかった。



君が幸せでいてくれるなら。



今の君が幸せそうだから。



 私は君のために人生のレールを敷いていたつもりだったけど、いつの間にか君は自分でそのレールを敷けるようになっていたんだね。



もう私のお守りも必要ないのだなと、少し寂しいよ。




私と約束して欲しい。



まず、人を傷つけないこと。



これがどれほど醜いことか私は理解出来ていなかったんだ。



もしそのことを知っていれば、こんな残酷なことをせずに済んだかもしれない。



そして、幸せになるんだ。



どれだけ苦しんでも、



どれだけ世界の理不尽を嘆いても、



人生の終わりに幸せだったとどうか思えるように……。



君の存在は私の人生、ドーベルの意味そのものだ。



君さえ良ければ、私の人生を無駄にしないでもらえるかな?



素直で優しい君ならきっといいよと言ってくれるんだろう。



だから最後は……君に甘えるとしようかな?



それでは……良き人生を。








何だろう……。



彼の人生は自分のためじゃなく、俺のためにあったのだろうか?


そう思うとすごく辛い。


俺を拾わなければ彼は自分のための人生を送れたかもしれないんだからな。




でも……、



俺を拾ったことを彼が後悔したくないと言っていたんだ。


だとしたら、俺もそのことに罪悪感を感じるのは違うだろう。




だから、せめて足掻こう。


このどん底から幸せを掴むために。




「なあ、よしだくん……。」



プロトンがポツリと呟いた。



「誰かを守りたいと思うのは……君たちも俺も、そして彼も……同じだったのかもしれないな。」



誰かを守りたい……か。



「そうだな……。みんな同じ気持ちで戦っていたのに……。」



どうして傷つけ合うことになってしまったんだろう?



「プロトン、俺はこの森を守りたい。今度は助け合って何かを守らないか?」



「助け合って、か。どうして最初からそれが出来なかったんだろうな……。」





もう研究所に戻ることもないだろう。


だから俺はこの森で足掻こう。


そして、みんなと幸せになる。



きっとこれは博士が俺に出した、とても難しい最後の課題なんだろうから。

 ドーベル将軍が記憶喪失になっていたのは事故での外傷かもしくは、犯してしまった罪から自分を守るためだったのか……。


 いずれにしろ、彼は自らの行いから逃げることは出来ませんでした。

人間の心を捨てて生きるよりも人間のまま死ぬことを選んだのです。


 もし彼が生きることを選んだとしたら、よしだくんはどう思ったでしょうか?

プロトンから彼の話を聞いて、それでも袂を分かつことは出来たのか……。


 きっと彼は大好きな博士のもとについて行ってしまったでしょう。

それが恨めしい敵の組織だとしても……。


 よしだくんは100エーカーの森で生きていく覚悟を決めました。

さて、シンタローもミーシャと最期の会話をする準備が出来たでしょうか?


 次回、彼はミーシャの人生の終わりを目にすることになります。

その光景を見た時、彼はどうするのでしょうか?


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