5-12 秘策のお供にはアイスを
ーー前回のあらすじーー
ついに勇気を出したプロトンは森の住人たちと六年ぶりに再会を果たした。
そして……ヤムチャやシンタローも彼のことを徐々に思い出した。
プロトンは襲撃の目的がヤムチャを殺害することだったと暴露し、彼には生きていることを悟られないために家から出るなと忠告した。
そしてヤムチャから六年前に住人たちが失踪した時、何があったのかと聞かれると少し迷ったように『自分は事件を起こした側』だと白状したのだった……。
彼のことを信用するのか、しないのか……彼らは悩み、それぞれ考え込むのであった。
六年間も行方不明になっていた人間が突然目の前に現れたらそりゃ驚きですよね。
とりあえず、どうやって生活していたのかはとても気になるところです。
作者は幼稚園での知り合いが卒園と同時に居なくなりました。
そして五年後……学習塾で再開しました。
今までどうしてたのかと聞いたら、どうやら隣の小学校に在籍していただけのようでした……。
行方不明になっていたものだと思っていたのでとても驚きましたね……!
クソっ………。
俺は臆病者だ!
みんなの顔を見ると自分の心が罪悪感で一杯になってしまった。
あれ以上、彼らの前で立っていることに耐えられなかったんだ!
そして逃げるようにその場を離れた……。
「何故あんな余計なことを言ってしまったんだ!あの日、俺は事件に巻き込んだ側だって……。」
真実を教えてやろうと、悪い意味で彼らに対する情けが出てしまった。
そんなことを告げられても彼らは安心も納得もしなかっただろう。
むしろ俺に対する不信感が膨れ上がったはずだ。
『もっと強くなっていつかお前をボコボコにしてやるからな!』
昔、ヤムチャにそう言われたことがある。
「もしかしたら、本当にボコボコにされるかもな……いや、それじゃ済まなそうだが。」
気がつけば駄菓子屋まで戻ってきていた。
そのまま俺はエレベーターを操作して地下へと戻った。
地下ではまだスタークとエリスが爆睡していた。
そして入電もあった。
『プロトン、エリス。明後日の夜にそちらへ向かうわ。だからその時は二人とも地下に居ること。あ、プロトンは私がそっちに行ってから色々と白状したんじゃ遅いからね?あくまで隠し事を通す気なら覚悟してなさい??』
「こりゃあもう、後には引けないな……。」
と、その時、また通信機器が鳴った!
「うおおっ!?は、はい、こちらはプロトン。」
『プロトン!!ちょっと聞いてよ!』
相手は『本物』のエリスだった。
『さっきコルクを問い詰めたわ。彼女ってば、私に内緒で私の偽物を送り込んでいたらしいわよ!!だから、その偽物は怪しいように見えて実は裏切り者でも何でもないってこと!……残念だけど裏切り者探しは振り出しに戻ってしまったわ。』
彼女は威勢よく、俺が既に知っていた情報を伝えてきた。
だが、裏切り者の捜索が振り出しに戻ったことは彼女に言われて気がついた。
『ねえ、他に怪しい人間は居ないの?』
そう言われて俺はスタークの方を見た。
「怪しい……かも分からないが可能性が否定出来ない奴が居る……んだが、違う気もする……。」
『今回は随分と自信がないじゃない。で、どんな奴なの?』
「そうだな……あ、性格はコルクに似てるかもしれないな。」
『コルクに似て……どういうこと??』
「基本的に人の話は聞かないし、とにかく自分勝手な奴なんだ。既に接触はしているが正直もうこれ以上は相手にしたくない……。」
『相手にしたくないは相当ね……。でも頑張ってもらわないとこのままじゃマズイわ。コルクが直接そっちへ行くなんて言うくらいだからかなり深刻なんでしょ?彼女が行けば全部解決してくれそうな気もするけど。』
来て欲しくなんかない!!……なんて言えるはずもない。
「そうだといいんだがな……。何にせよ、俺は引き続き裏切り者を炙り出すつもりだ。」
『お願いするわよ。……ねえ、貴方大丈夫なの?』
「何だ?風邪ならもうすっかり治ったさ。」
『誤魔化さないで。コルクが直接そっちに向かう……。それは貴方をアテにしてないってことだと思うの。違うかしら?』
やれやれ、コルクのことを随分と良く分かってらっしゃる……。
『もし隠し事をしてるなら早く吐いてしまいなさい?……そうじゃないことを祈るけどね。』
「安心しろエリス、お前が心配してるようなことにはならないよ。」
『……ちゃんと生きて戻りなさいよ?じゃあ、これで。』
エリスは急に通信を切断してきた。
最後の方は微かにコルクの声が聞こえてきた気がする。
彼女が近づいてきたから、エリスは慌てて通信を切ったのだろうか?
……はぁ、いずれにせよ、もう俺に出来ることはドーベル隊長の居場所を掴むことくらいだろうか。
そもそもまだ生かされているのかも怪しいけどな。
もしかしたら森の住人たちによって殺されているかもしれない……。
『ドーベル将軍が生きてたのは幸運と言うべきなのかしら……。どうしてこんなことをしたのか、聞き出してやらなきゃ……!!』
『そうだよね……少しくらい痛めつけても……それくらい、許されるよね?』
『それで、今はどこにいるのよ?』
『くじらんの家で眠ってるぜ……一体いつ目が醒めるんだかな……。』
居るとしたらくじらんの家だろうか?
夜中に潜入してみようか?
と思ったのも束の間……。
「くじらんの家ってどこなんだ……?」
潜入先がどこにあるか分からないんじゃ、どうしようもないことに気がついた。
「ヤムチャはここに住むとか言っていたが……駄菓子屋がないとみんな困るだろ?」
手持ち無沙汰な俺は駄菓子屋の売り物を少し補充してあげようと思い、まずは大量のアイスを抱えて地上へと向かった。
……結局、色々と売り物を移動させていたら夜になってしまった……!!
この作業……大変すぎないか!?
こんなことをキヌタニは毎日一人でやっていたなんて……。
しかも、森の住人たちからはバレないようにって難易度が高すぎるぞ!?
とにもかくにも、また彼らが来ても困らないように商品を一通り揃えておいた。
……そう簡単に彼らが来るとも思えないが、本当に出来ることがなかったんだ。
さて……休憩がてら俺もアイスを食うか。
100エーカーの森じゃあ、アイスは定番のおやつだからな!
……キヌタニも『みんなアイスばかり食べてるけどどうしてお腹を壊さないのかな……?』なんて報告をしてきたことがあった。
俺も昔はよくあいつらからアイスを集られたもんだ。
何せみんな子供でお金を持ってなかったからな。
……いや、彼らは今でも持ってないそうだが。
また、あんな日々が戻ってくればいいのに。
あのちびっ子たちに囲まれてみんなでアイスを食べる……。
店番を手伝っていたキヌタニもこっそり呼んで、アイスの味決めじゃんけんをしていたっけな。
……もう、誰も俺とはアイスを食べてくれないのだろう。
……!?
誰か来た!!
「おや、言った通りここに居たんだね。いや、君が嘘をついているようには見えなかったから、本当に居るとは思ったよ。」
現れたのはフジモンと呼ばれている医者だった。
彼は俺のことを警戒もせずに駄菓子屋の中に入ってきた。
「何だお前か……いや、その言い方は失礼だな。俺に何か用か?」
「用というよりは……お願いがある。」
彼は俺の顔だけを見つめて、真顔で言った。
そして頭を下げてきた!
「どうか……僕をここから連れ出してくれたまえ!!」
連れ出すって……どういう意味だ??
いや……分かったぞ。
三ヶ月ほど前に正体不明の飛翔体がこの森に墜落したとの報告があって、コルクは実際に様子を見に行ったんだったか。
で、飛翔体の正体は宇宙船の脱出ポッドで、そこに乗り込んでいたのはモンゴルの名医だったとか何とか……。
もちろん、宇宙からの飛翔体だから全世界でニュースになったが行方不明になったと、そういう報道しかどこの国でもされなかったはずだ。
まさかこんな場所まで救出のような干渉はしてこないだろうからな。
つまり彼がその名医、フジモンだったのか。
「まあ……お前がここに来てしまったのは100%事故だしな。その気になれば脱出させてやることは可能かもしれないが……。」
「本当かい!?なら、早く出発しよう!」
彼は駄菓子屋の外に向かって歩き出した。
……えっと、どこへ行くんだよ??
「いや……密林の中を歩いていくつもりか?」
「うん?違うって??じゃあ君はどうやってここまで来たって言うんだい??」
正論だが喋り方がムカつくな……!!
「もっと安全に行ける方法があるにはあるが……今すぐには無理だな。俺の上司が許可を出してくれないと……。」
「じゃあ、許可が出たら呼んでくれたまえ?無事にここから抜け出せる日を心待ちにしているよ。」
そう言って彼は今度こそ駄菓子屋から出て行こうとした。
「やれやれ、抜け駆けとはさすがに感心しないぞ?」
どこからか声がした。
「ち、チッダールタ!?来てたのかい!?」
すると、俺の目の前で徐々に一人の老人が姿を現した!
な、何が起きている……!?
これは……超常現象か!?
「フジモン……帰りが遅いとみんなが心配するぞ。気になってお前を探しに出たら駄菓子屋に居たとは……。まあ、それは置いといてだ。……その脱出の話、私も混ぜてくれはしないか?」
チッダールタと呼ばれたこの老人……一体何を言っている!?
いや、それ以前に何者なんだ!?
「チッダールタ?君はこの森の出身じゃなかったと聞いているけど、どうして脱出なんか……?」
「フジモン、私は……自らの意志でこの森に居続けた。だが、今になってそれを深く後悔している。これは最後のチャンスになるかもしれない。私ももう一度、外の世界に触れたいんだ。」
正直、彼が何を言っているのかはやっぱり分からない。
この森に居続けたというのもいつからなのか……。
だが、心を抉られるような彼の後悔がひしひしと俺の脳にも流れ込んできた。
不思議だが、先程の彼は姿を消していたようにも見えた。
……それにどうして、着ている服に重たそうなイルミネーションを付けているんだ?
正体は全く持って謎だが、フジモンとも面識自体はあるようだし、話を聞いてみるくらいはいいのかもしれない。
「プロトン……私はお前がこの森にとって敵なのか味方なのか、見当がつかない。だが……お前がこの森から脱出する術を知っている、それだけは確信しているよ。もしお前に人の心があるなら……この哀れな人生を送ってきた老人を救ってはくれまいか?」
彼は俺に近づいて額に指を置いてきた。
「!!!!!これはっ!?」
俺の脳に彼が送った人生の一端、ほんの一部だがそれが流れ込んできた!!
どこかで見たことある光景……そして悲しい物語……。
気がつけば両目から涙が溢れていた。
「どうして……?お前が見たものは一体……?」
彼を……彼の人生の後悔を救ってやりたい。
少しでも幸せを感じられる結末を……不思議と素直にそう思える。
「この長くて空虚な人生は言葉じゃ表せない。今ここで息絶えたとしても、何も感想など出てこないだろう。せめて、最期に果てる時はほんの僅かでも『いい人生だった』と……そう言いたいんだ。」
「分かった……。俺に出来ることはやってみるさ。」
こんな悲しい記憶を見せられて断るわけにも行くまい。
もちろん、タダというわけにはいかないけどな。
こちらにもやらなければならないことがある。
「代わりにドーベル隊長の居場所を教えてくれ。安心しろ、連れ去ろうなんて考えていないさ。」
「連れ去ろうとしていても教えるよ。それが条件だというならね。」
フジモンは一切の迷いなく即答してきた。
「森の中心、十字路の一角にある家にいる。今から会いに行くかい?」
「そこまではしなくても平気だ。だが、俺の上司は隊長が生きてるのかをずっと疑ってきていてな……。この際、二人には話しておこう。俺の上司が明後日の夜、この森にやって来る。」
「何と……!?まさか、また襲撃でも起こすつもりか!?」
「そんなことはしないさ。ただ……その上司にヤムチャが生きてると知れたら、それこそとんでもない規模の襲撃が来るだろうな。そうなれば、ここからの脱出なんて許可されなくなるだろう。」
「つまり僕たちにヤムチャの存在を隠し通せと、そう言いたいのかい?」
脅しているようだが、その作戦が上手く行かなければ脱出が出来ないのも事実だからな……。
「協力してくれ……俺はこの森を守りたいんだ。」
「仕方ないね、僕からもヤムチャを説得してみせるよ。」
「いや、ヤムチャたちには言わないでくれ。彼が聞いたら……俺の上司を襲撃して殺そうとするのが目に浮かぶからな……。」
コルクが死ぬならそれでもいい……そう思ったが、果たしてヤムチャでもコルクを殺すことは出来るのだろうか?
あのコルクを侮るのは危険すぎる。
正直、暗殺なんて不可能だろう。
ならば穏便に済ませるしかない。
「フジモン、これはここにいる三人だけの秘密にしよう。それで、具体的にはどうするんだ?」
おっと、それを聞くのか??
まだ何も考えていないんだよ……。
「なあ、明日の夜にまたここへ来てくれないか?作戦はその時に話そうと思う。お前たちも長いことここにいたら仲間に怪しまれるだろう?」
「はっ!!そ、それもそうだね!チッダールタ、急いで戻るとしよう!」
彼らは大急ぎで……チッダールタの方は浮遊して去っていった。
何なんだあのおじいちゃんは……!?
本当に意味不明だが、少なくとも彼の悲しい人生とあの不思議な力に何かしらの関係があることは、さっき彼の記憶が流れてきた時に理解出来た。
……考えても分からないし、ドーベル隊長が生きていると分かっただけでも儲けものだ。
あの二人がまた何かやらかしていると面倒だし早めに地下へ降りるとしよう。
地下に降りると二人は眠っているわけでもないのに随分と静かだった。
「ねえ、スターク……私ね、この森から出たら医者を目指そうと思う。フジモンを見ていて思ったのよ、もっと誰かのためになることがしたいって。」
「お、おう……?」
「この森に居てもきっと一生を何もせずに終えるんだと思う。これ以上人生を無駄にしたくない!」
「そうか……は?」
「ねえ、ずっと謝らなきゃって思ってた。あなたと出会った時、私ったらあんなはしたない真似をして……引いたわよね!変な女だって思ったわよね!!」
「謝って済む問題じゃ……いや、過去形にしてるんじゃねえ……!てめえは今でも変だろ!!」
「スターク、唐突にこんなことを言われたら困惑するだろうとは思う。だけど、それでも言わせて!……私と一緒にこの森から脱出しませんか?」
「あ……?お、お断りだ!」
「え……?どうして!?」
「いや、そもそもな……さっきから何の話をしているんだ??あと、今日のてめえは何か変……いや、いつも変だが、だから、何だかいつもよりまともで変……ああ、もういい!!調子が狂うから寝るぜ!!」
スタークはさっきまで寝ていただろうから全く眠くないだろうが、エリスに背を向けて眠り始めた。
「そんな、大事な話の途中なのに……。」
「……俺は自分の知ってるエリスが見れて安心したけどな。」
ここで俺は口を挟んだ。
「って、プロトン!!いつから居たの!?えっと……さっきのは冗談よ?私には任務を遂行する役目が……。」
「でもお前は偽物なんだろ?暗示の解けた今、お前がここで出来ることは何だ?」
「そっ、それは……。」
エリスは言葉に詰まってしまった。
「別にさっきの発言が本心でもいいんじゃないのか?一般人として彼と一緒に生きていくことだって出来るはずだ。」
俺としては励ましのつもりだった。
「プロトン……私はね、知りすぎてしまっているの。この計画のこと、この森のこと……そんな私をコルクは自分の目が届かない所に放り出すわけがない。」
……そういうことか、確かにコルクならその辺りはしっかりとしているだろうな。
「どうにかならないのかしらね。……こんなはずじゃなかったのに。」
エリスは倉庫の天井を見上げた。
彼女の目には何が映っているんだろうか?
……だが、もしかしたら彼女のこともあの二人に便乗させて脱出させられるかもしれない。
ヤムチャが死んだとなれば計画は一段落つくことになる。
エリスをこちらに残しておく意味もないし組織に引き留めておくほどの重大な事実もない、いや正確にはなくなる、だな。
「エリス、それならいい話がある。」
「いい話?何かしら、ここに居ながら医師免許が取れるとかそういうこと?」
「それは無理だと思うが……先ほど、フジモンとチッダールタにこの森から脱出させて欲しいと懇願された。その条件としてヤムチャの存在を隠す手伝いを頼むことにしたんだ。エリス、お前もこの話に乗らないか?どうやらコルクが明後日の夜、こちらに来るそうだ。」
「あの二人が!?……確かにあの二人はこの森の出身ではないけれど!まさかそんなことを考えていたなんて!!」
「これはお前にとって、またとないチャンスかもしれないんだぞ?今回を逃せばもうここから出られなくなるかも……。」
「そうね、しかもフジモンが一緒なら今後の進路相談にも乗ってくれそうだし都合はとてもいい。でもね……。」
エリスはスタークの方を見た。
「彼がどう思ってるのか、本心が聞けてないの。私は彼と一緒に居ることを最優先に考えたい。」
分からない……。
どうしてスタークにこだわるのか。
こんな得体も知れない人間に……。
素直に聞いたら答えてくれるだろうか?
「エリス……どうしてそこまでスタークに関わろうとするんだ?どこにもメリットなんてないような気がするんだが??」
「そうね……もし可能だったならば、『時空を超えて追いかけるほど好き』だから……かしらね?」
……どうやら教えるつもりはないってことだな。
まあそれでもいい。
「コルクに頼む時までにはちゃんと決めておけよ?」
俺はそう言い残して寝ることにした。
「何が正しいのか……ここからはもう今の私自身で判断しなくちゃならない……。」
そんな彼女の呟きを聞きながら、俺は眠りの海に沈んでいった……。
そして次の日……俺は森の地図を描いてエリスの話を聞きながら作戦を立てていた。
「なるほどな……以前森の中を歩いていても思ったが、この六年で建物の配置が相当変わっているんだな、まるで別の集落だ……。」
「私は六年前を知らないけど、シンタローなんてあっという間に家を一軒建てちゃうものね。あれは間違いなく天才よ?」
コルクのことだからどう行動してくるか全くもって予想がつかない。
もしかしたら全ての家を一軒ずつ回って戸棚の中まで隈なくヤムチャを探すかもしれないし、あるいは滞在時間十分ですぐに帰っていくかもしれない……。
だとすると、想定するべきなのはヤムチャが居る痕跡を片っ端から探してくるケースだろう。
「ヤムチャをどこに隠すかだよな……。そもそも『隠す』ならあいつ自身の協力がないとほとんど不可能なんだが。」
「貴方が上手いことコルクを誘導しようとしたって彼女はその手に乗らないでしょうね……。これは難問よ?」
「だが、こちらには協力者がまだ二人いるんだ。誘導するなら俺がコルクをじゃなくて彼らがヤムチャを、ってことになりそうだ。」
「ふあーあ……昼間っから見るテレビは最高だぜ。アイスも食べ放題だなんて、死ぬまでここに居てやってもいいんだぞ?」
スタークは倉庫の隅っこに寝転がってテレビを見ている。
彼を見ていると何だか気が散ってきた。
「なあ、エリス……一度休憩を挟んで俺とアイスでも食べないか?」
「どうしたのよ急に?いや、全然構わないけど。」
そう言われたので俺は冷凍庫からアイスを四個だけ取ってきた。
梅干し味、デミグラスソース味、ミートソース味、卵豆腐味……四種類のアイスを挟んで俺とエリスは向かい合った。
「……どうしたのよ?食べないの?」
「よし、じゃあ今からアイスの味を賭けてじゃんけんをしよう。」
「……は?いや、私はどれでもいいわよ。」
「最初はグー……じゃんけん……、」
「ちょっ、ちょっと!?」
「ポン!!」
俺の掛け声に合わせてエリスが慌てて出したのはグー、俺が出したのはパーだった。
「よしっ!!じゃあミートソース味は頂きだ!」
「うっ……ちょっとそれ、欲しかったかも……。」
そうそう!!
その反応が見たかったんだよ!!
「なら、私はデミグラスソースでいいわ……。」
「いやー、それも捨て難かったなー!」
「な、何よ!最初に選んでるんだからいいじゃない!」
エリスはちょっと不満そうな顔をしている。
「次は負けないわよ……!最初はグー、じゃんけん……ポン!」
俺の手はチョキ、対する彼女はグーだった。
「よしよし、じゃあここは梅干し一択よ!」
「うげっ……卵豆腐かよ……。」
何でこんな味のアイスがあるんだ……。
俺は渋々と卵豆腐味のアイスを手元に引き寄せた。
「さて、どっちから食べたものか……。やっぱり好きな物は最後に残しておいた方がいいよな?」
「あら、私だったら好物から食べちゃうわよ?」
エリスはもうデミグラスソース味のアイスの蓋を開けている。
「いや、俺はこのミートソース味を最後まで取っておくぞ!」
俺は卵豆腐味のアイスに齧りついた!!
「はぁはぁ……酷い目に遭った……!!」
卵豆腐味のアイスを食べ終えた俺は口の中がここ数年で一番不快になっていた……。
「どうしてそんな味のアイスを持ってきちゃったのよ……?って、うわっ!酸っぱっ!!!!」
梅干し味のアイスを食べ始めたエリスは叫んで口をすぼめた!
「くっ……ふふっ、あっはっはっは!!!」
俺は堪らず大笑いしてしまった!
こんな顔見せられたら、耐えられないな!!
「ちょっ、な、何笑ってるのよ!?」
「くはは……いやー、昔を思い出すな。……昔はこうやってアイスの味を巡るじゃんけん大会が行われたもんだ。」
駄菓子屋のアイス売り場には最低でも必ず一つ、地雷の味が存在していたからな……。
毎回誰かは悲鳴をあげていたよ。
「何よ、貴方はそれがやりたかったわけ?」
「まあ……そうだな。こっちに来たら昔のことがとても懐かしく感じたんだ。こんな茶番に付き合わせて悪かったな。」
「いや、まあ……ちょっと楽しかったし?ちょっとだけね??悪く思ったのならこの梅干し味のアイスを代わりに食べなさい?」
「いや、それは断る。」
「えっ……冗談でしょ??」
結局、エリスは幾度となく悲鳴をあげながら梅干し味のアイスを完食した……。
卵豆腐のアイスって恐ろしいな……読者の皆さんはそう思ったでしょうか?
多分……おぞましい味がしますね。
そもそも豆腐を凍らせたら高野豆腐になっちゃうんじゃないの?
そう思った作者はGo〇gleで調べて初めて豆腐と卵豆腐が別物であると知りました……。
つまり、卵豆腐を凍らせても高野豆腐にはならないと言うことですね!!
読者の皆さんはご存じでしたか??
エリスの性格なら間違いなく好物を最初に食べて、苦手なものは……そもそも食べないでしょう。
どうやら最後はプロトンに無理やり口へ押し込まれたのでしょうね……。
それはさておき、嫌いな物を人の口に押し込む人間はヤバいので関わらないでおきましょう。
そのうちエスカレートして毒キノコや生きた虫を口に突っ込まれることがあるので……。