5-7 偽物の家族
ーー前回のあらすじーー
どんな事実にも向き合うと決めたよしだくんと森の住人たちの視界に飛び込んできたのは大量に被弾して瀕死な状態のくーちゃんであった!!
彼らは必死に彼女を蘇生させようと試みたが、その努力も空しく彼女の命は散ってしまった……。
その事実を受け入れられなかったミーシャは絶望して一人、どこかへと去って行った。
全員がお手上げだという中でよしだくんだけはミーシャを説得しに彼女を追いかけた……。
ご機嫌斜めでどこかへ行ってしまう人は大抵しばらく放っておけばいつかは戻って来ます。
でもたまに二度と姿を現さない人もいるんだとか……。
もしそんな経緯でいなくなってしまった人がいるのであれば、それも何かの縁なのでしょう。
だからどれだけの読者の方がこの小説に愛想を尽かして二度と読んでくれなくなっても……作者は微塵も気にしません。(血涙)
それもある種の巡り合わせだと思うので、もっと素敵な作品を探しに行かれてください。(???)
シンタローがああ言ってたならそれが正しいし、従うべきなんだろう。
だが、俺はその悲しい結末をただ見届けるだけなんて嫌なんだ!
……森のみんなは過去に家族を失っている。
だが、俺にはそもそも家族なんて居なかった。
そして、だからこそ俺にとってミーシャはやっと巡り合った家族なんだ。
これはきっと俺にしか分からない感覚だ!
ヤムチャにとってミーシャは大切な仲間……。
シンタローにとっては大切な幼馴染……。
でもそれは家族っていう関係じゃないはずなんだ。
まだ走れば追いつけるはず……!!
博士に続いてミーシャまで居なくなるなんて……!!
……!!
見つけた!!
彼女は崖のそばから地下に続く穴に飛び込もうとしていた!
「待ってくれミーシャ!!」
俺の声に反応して驚いたようにミーシャは振り返った。
「よ、よしだくん……!?こ、来ないでっ!!」
それだけ叫ぶと彼女は方向転換して両手と右足だけで器用に崖を登り始めた!
「あ、危ないだろっ!落ちたらどうするんだ!!」
「落ちても……死ぬだけよっ!!」
俺が登ったらそれこそ落ちて死んでしまうかもしれない。
だから俺は回り道を探そうとした。
「シンタローですら、追ってこなかったのに……まさかあなたが、追ってくるなんて……!」
そうしているうちにもミーシャはどんどん崖を登っていく。
「ミーシャ……どうやら俺は我儘な弟らしい。お前が自分で決めたことでも認めたくないって思ってるんだからな。」
「本当に……いつからそんな子に、なっちゃったのかしらっ!?」
彼女はもう崖を半分くらいまで登っていた。
「俺はこの森に来た夜、初めてみんなでご飯を食べたその日から、家族ってこういうものなんだろうかって思ってたよ。とても暖かいなってそう思った。だから……その家族を失うなんて絶対に嫌なんだ!ミーシャ、お前は俺にとって本当の姉のような……いや、姉そのものだ!」
最後まで考えることなく言葉が口からスラスラと出てきた。
だってこれは俺の本心なのだから。
「うん、そうなんだね……そっかあ……。」
崖を登り終えたミーシャは優しい口調で空を見上げて、気の抜けたような口調でそう言った。
「私ね……よしだくんに『お姉ちゃん』って言ってもらえた時、とても嬉しかったのよ。……もし本当に弟がいたらこんな感じだろうな、ってね。甘えん坊の一人っ子だったのに何だかお姉ちゃんになった気分だった……。」
俺を見下ろす彼女の眼差しは……どこか手が届かない物を見ているようだ。
「でもね……あなたのことを本当の弟だと思ったことは一度もないわ。くーちゃんもそうよ、とても可愛い妹のような存在だけど、決して本当の妹なんかじゃない……。そして、弟妹になって欲しいと思ったこともないの。」
……あ。
背後から殴られたような感覚だった。
口にこそ出さなかったが、俺たちはずっと姉弟だと思っていたのに……。
「ずっと……俺は……勘違いを。」
「そんなにショックだったの……?でもはっきりと言わせて。あなたと私は家族じゃない。だって……私の本当の家族はたった一つ、もうどこにも存在しないけど……家族が誰も居なくなってもそれだけは絶対に変わらないの。」
『あなたと私は家族じゃない。』
その言葉が俺の腕を、脚を呪いのように縛り上げる……。
「そう、だったんだな……。」
俺はその場で崩れ落ちた。
「よしだくんが本当の弟だったら良かったのになんて思ったことはない……でもね、あなたがこの森に来てくれて本当に良かったと心の底から思っているわ!みんなもそうかもしれないけど、私だって……とても感謝してるのよ?それは決して忘れないでちょうだい!!」
ミーシャは崖から身を乗り出した。
「やめてくれ……。」
俺とミーシャは結局、最後まで赤の他人だった。
赤の他人に彼女の決意を止める権利なんてない。
手足が……動かない……。
「あなたのお姉ちゃんになれなくて本当にごめんね……!」
そう言ってミーシャは崖から自由落下した。
「やめろぉぉぉぉっ!!!」
そう叫んだのは俺じゃない。
俺の背後から突っ走ってきたシンタローだった。
「うわぁぁぁぁ!!」
彼は彼女の落下地点にヘッドスライディングで飛び込んだ!
シンタロー……下敷きになるつもりか!?
そう思えた時間はほんの一瞬だった。
………!!!
「ぐっ………!めっちゃ痛え!!」
シンタローの両手はミーシャの頭の下敷きになっていた。
そしてミーシャの頭からも血が出ていた。
「っ…………ぁっ………シン………タロー………?」
ミーシャは薄っすらと目を開けて掠れ声でそう言い、再び目を閉じた。
「ミーシャ……お前がしっかりと考えて決めたことならどんなことでも……尊重してやろうって思ってた……けど、ダメだった!!我慢出来ずに追いかけて……こうやって来ちまったよ……!!」
シンタローは倒れ込んだまま、涙を流してそう叫んだ。
だが、その声に反応してミーシャが目を開けることはなかった。
「シンタロー!急いで俺の家に運ぼう!!まだ助けられるかもしれない!!」
「ああ……!!やっぱりただ待ってるだけなんて耐えられなかったよ……。」
俺はミーシャを抱えて、シンタローとともに自分の家へと急いだ。
……やっぱりお前には敵わないな、シンタロー。
家に戻るとくじらんがフジモンの指示でタッキーの治療をしていた。
「戻ってきたかい……ミーシャ君は……?」
「フジモン、まだ息がある。助けられるかもしれない!」
そう言って俺が彼女を床に寝かせると彼は複雑な表情をしていた。
「医者の僕がこんな事を言うのもおかしな話だけど……助けていいのかい……?嫌だと言われても助けるけどね。」
フジモンはミーシャの容態を確認しながらシンタローにそう聞いた。
「ミーシャは助かることを望んでないかもしれない。だけど俺は……生きていて欲しい。フジモン、ミーシャを助けてくれ!!」
シンタローはフジモンに頭を下げた。
「僕の右手も今ならちゃんと動きそうだ……って、シンタロー君!?その手はどうしたんだい!?」
先程ミーシャの下敷きになって酷く変形したシンタローの手を見てフジモンは驚愕した。
「俺のことは平気だ!早くミーシャを……!!」
「分かったよ!よしだくん、助手を頼む!くじらん君はその箇所の縫合が終わったらこちらに合流してくれたまえ!……済まないねタッキー、痛み止めが切れる前には何とかするよ!」
そう言われたタッキーは『気にするな』とばかりに首を縦に振った。
そしてミーシャはどうにか一命を取り留めた。
「後は目が覚めてくれれば……それはそうとヤムチャ君、エリス君を探してるんだろうけど随分と遅くないかい?」
「確かに、エリスを探しているだけならいくら何でも時間がかかり過ぎだ。ポケベルで呼び出してみてはどうかな?」
今日は随分と存在感が薄いチッダールタがそう提案した。
「そうだね、そうしようか。」
くじらんがポケベルのボタンを押そうとしたその時、家の中に爆風が飛び込んできた!
「ゼェゼェ……え、エリスが……エリスがどこにもいねえ!」
気がつけば息を切らしたヤムチャが家の入口に立っていた。
「えっ?エリス君なら自分の家に閉じ籠もってるんじゃないのかい!?」
「いや……もぬけの殻だ……!争った痕はないが……連れ去られてねえことを祈るばかりだな……。」
「ポケベルはどうだ?繋がらないのか?」
「全くだ……。スターク……ついに尻尾を出しやがったか!!」
ヤムチャは泣く子も空を飛ぶくらいの恐ろしい形相をしていた。
「スタークがエリスを……感覚としては逆な気がするが……だが、だとしたらどうして……?」
「仙人が疑問に感じるくれえなら俺たちにはもっと謎だぞ……。」
「いや……待ってくれ。スタークが連れ去った前提は正しいのか?」
俺は考えていたことを口に出してみた。
「よしだくん、それはどういう意味なの?」
「多分チッダールタも俺と同じことを考えていると思ったんだが……どうだ?」
「ふむ……そうだな。お前たち、普段エリスとスタークが出会った時の行動を思い返してくれ。」
「出会った時の行動か……エリスがスタークを追い回してやがる……。」
「つまりはもしスターク君がこの件に絡んでいるとしたら、エリス君は自らの意志で彼を追いかけて姿を消したということかい?」
ヤムチャとフジモンが俺の言いたいことを代弁してくれた。
「つまり、エリスはスタークを見つけて追い回し……そのまま森の外まで行ってしまった……。」
「スタークのことだからどこに逃げるかなんて分かったもんじゃないからな。でもそれだとエリスは森の外に……!?」
シンタローがそう言うと場の空気が凍りついた!
「そういう可能性もある、ってだけだがそれが事実だったとしたら……スタークの奴、無駄に足が速えからエリスは森の外で撒かれてるだろ……かなりマズイぞ!タッキーに探してもらうしかねえ!」
「ダメだよヤムチャ!タッキーも酷い怪我をしてるんだ!とてもじゃないけど行かせられないよ!」
くじらんは思い出したかのようにフジモンとタッキーの手術を再開した。
「見当もつかねえままに森の外を探すわけにもいかねえし……!!どうすりゃいいんだ!!」
「ヤムチャ、一旦落ち着くんだ。くーちゃんがこんなことになって衝撃なのは分かる。だが、森の外に彼女を殺害した犯人がいるかもしれない……もう少し状況を整理して動こう。」
チッダールタがパニックになったヤムチャを諌めた。
「す、すまねえ……そうだな。だがスターク以外にもそんな危険な奴がいるとするならそれもそれで恐ろしい話だぜ……。」
状況を整理すると言っても、次の一手をどうするべきなのか俺にはすぐに思いつかなかった。
「とりあえず、よしだくんの防犯カメラは見ておいた方がいいんじゃないのか?」
「シンタローの言う通りだな。カメラは交代で監視するとしよう。……しかし、それ以外に出来ることがないなんて歯痒いな。」
「みんな集まってここで生活するなら色々と必要なものがあるのではないかな?出来るなら日が暮れる前に準備したほうがいいと思うぞ?」
仙人がそう提案してくれた。
衰弱しているとはいえ、やっぱりここぞという時には頼りになるな。
「なら、みんなで寝れるように寝袋が要るよね。食料は……干し肉のストックが残ってるかな?」
「干し肉ならまだまだあるはずだ。……こんな時のためにたくさん作っておいて良かったぜ。」
「荷物を取りに行くなら複数人で行った方がいいだろう……何が起きてもいいようにな。」
「決まりだな……。まずは食料を確保するぞ。次に寝袋とか日用品だな。家具は重くて運ぶのにも時間がかかるだろうし余裕があったらでいいだろ。まあ、フジモンと仙人はミーシャの様子を見ているとして残りの四人で取り掛かるとするか。」
ヤムチャの言葉を皮切りに俺たち四人は立ち上がった。
どんな現実も受け入れてみせる。
みんながここに居てくれるから。
彼らと一緒なら絶対に大丈夫だ。
そして俺はもう察していた。
わざわざ食料として駄菓子屋じゃなく、集会所から干し肉を持って来ようとしている理由……。
ここにいない仲間……キヌタニはもうこの世にはいないんだってことをな。
高さ15m(森の崖はそのくらいの高さです)から降って来た人間の頭に手が下敷きになったら、どれくらいの力がその手にはかかるんでしょうか……?
シンタローの手じゃなかったら本当は木っ端微塵になってそうです……。
彼のことなのでいつものように傷はいつの間にか治っているのでしょう。
現実の世界でも実に色々なものが上から降ってきます。
雷とか雨とか雪とか、飛行機の部品とかですね。
神奈川県の某タワーマンション群では高層階から食器が降って来るとの噂が……ヒエッ!('Д')
ちなみに作者は最近自分の足に使いかけのアイロンを落として悲しい思いをしました。
この話を後書きでするのは三度目のような気がしますが……。
空から女の子は降って来ません、あまりに有名なネタなので絶対誰かしら突っ込んでくると思って言っておきます!
それを待つくらいなら流れ星が降って来るのを待って、そのお願いをした方が早いと思います。
それで降って来るかは……作者の知ったことではありません。