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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第5章 終わらぬ悲劇の中で
120/162

5-6 フジモンの異変

ーー前回のあらすじーー


 キヌタニが絶命した光景を見て発狂したフジモンを追いかけたくじらんは、彼が木に登って首吊り自殺をしようとしていたところで追いついた!


 だがあと少し間に合わず、彼の体は宙ぶらりんになってしまった……。

それでも諦めずに助けようとくじらんは心臓マッサージをしてどうにか彼の一命を取り留めた!


 しばらく安静にさせてシンタローとヤムチャと様子を見に行ってみると、意識を取り戻して冷静になった彼は毒物を用いて再び自殺をしようとしていたのだ!!


 そこへ医者のプライド全開なフジモンに喝を入れたのは正気に戻ったよしだくんであった。

フジモンのプライドが邪魔になった時は、自分が止めると言う約束を彼は果たしたのだった!



 余談ですが、フジモンの持っていた毒物は塩化カリウムです。

医療の現場では大事な薬品ですが、一気に注射すると心臓が本当に動かなくなり、過去には実際の医療事故もあります。


 もしかしたらフジモンはそういった薬品をまだまだ隠し持っているかもしれません……。

彼は一度、ヤムチャによる手荷物検査を受けるべきだと作者は思います。


ヤムチャ「あ?何だこりゃ……飲んでみるか!!ぐあっ……。」


……などと言うオチが容易に想像できますからね!!

そして全員、そこにあった光景を見て言葉を失った。




「タッキー……くーちゃん……!?」



血まみれのタッキーがいつからか家の前に居たみたい。



そんなタッキーが咥えていたのは20発以上も被弾したくーちゃんだった……!





「……ぁ……ぅ……。」



「く……くーちゃん!!!どうしてこんなことになってやがる!!」



もう虫の息になっていて……誰がこんなことを!!



「タッキー!くーちゃんを離すんだ!すぐに手術を始める!みんな、お手伝いを頼むよ!!ヤムチャ君、くーちゃんを家の中に!よしだくんは水を用意してくれたまえ!シンタロー君とくじらん君は僕の助手を頼む!」



フジモンはすぐに仕事モードに入ってみんなに指示を出した。


俺もシンタローも助手の経験はあるからすぐ準備が出来るはず!!



手術カバンと点滴、それから手袋!




「もう取りかかれそうだね!シンタロー君、麻酔の導入を頼むよ!!……僕にもまだ、助けられる命が……!!」



そう言いながら手袋をするフジモンの表情はかなり苦しそうだった。



 何十発と被弾しても平気なのはヤムチャやシンタローが化け物みたいなものだから……普通の人間じゃ耐えられないよ。


ミーシャだって……あんなことになってさ。




でもフジモンなら……。


俺はメスを持って鮮やかに切開をするフジモンの手捌きを見ながらそんなことを考えていた。



「随分と深くまで弾が入ってる……!早く止血しないと!よしだくん、O型の輸血バッグを持ってくるんだ!」


「分かった!!」




「一体誰がくーちゃんにこんなことを……!!まだ残党でも居やがったのか!?」


「でもくーちゃんは敵の襲撃とは全く関係ないはず……もしかしてまた別の人間か……?」




ヤムチャとシンタローはそんな会話をしているけど、正直手術以外のことを考えている余裕がない!



 フジモンはいつもの倍以上のスピードで施術を進めているんだ!

助手の俺も追いつくので精一杯だよ!



「これで七個目を摘出……あと何発あるんだい!!」



フジモンもさすがに冷静ではいられなくなってて、かなり逼迫してるみたい……。



「とにかく止血を急がないと!……うっ!!!」



突然、フジモンが苦しみだした!




「どうしたのフジモン!?」



「急に右半身が痺れて……さっきの後遺症かな……?」



フジモンは右手に持っていたペアンを突然落としてしまった!



「そんな……!!なら、俺がやる!!」



そのペアンをシンタローが拾い上げた!



「そんな無茶だ!!下手に切開したらどうなるかっ!!」


「でもこのままじゃ助からないんだろ!?だったらやってやるよ!!」


「俺もやるよ!フジモンの手術は何回も見てきたんだ!」



フジモンは無理だとばかりに困った顔をしていたけど、俺は譲るつもりなんてない!



「そうか……なら、僕が君たちに指示を出す。二人とも頼んだよ!まず、シンタロー君は盲腸付近の銃創を深さ2cm切開、くじらん君は横隔膜下の傷を縫合するんだ!」




もし失敗したらなんてことは考えないよ!



絶対に上手くいく!



「よしだくんとヤムチャ君も助手に回るんだ!」


「任せろ!」


「くーちゃん、あと少し頑張ってくれ!」





五人で力を合わせたら絶対に助けられるよね!



俺も一箇所縫合が終わった!




「……?くーちゃん??……脈がない。ヤムチャ君、場所を変わってくれたまえ!!心臓マッサージで蘇生させてみせる!!」



脈がないって……嘘だよね!?


フジモンは左手だけで心臓マッサージを始めた!




「くじらん君……手が、止まってるよ!次はっ、膵臓中央部の弾を、切開無しで摘出、出来るはずっ!!落ち着いてっ、やるんだ!!」



「う、うん……!!」



もう気が気じゃなかった。


まだまだ手術は終わりそうにもなくて……。




「くーちゃん、逝かないでくれ!お願いだっ!!」



ヤムチャも彼女の手を握って必死に呼び戻そうとしている。



「絶対に諦めない!フジモン、次はどこだ!?」


「次はっ、十二指腸付近の、弾を抜こう!腸間膜を、少し除けるんだ!」




フジモンがそう言ったところで、後ろ足を引きずったタッキーが家の中に入ってきた。



そして心臓マッサージを続けている彼の左手に顎を乗せて……首を振った。





『もう十分だよ、みんなありがとう。』



テレパシーとかじゃなく、本当にそう言われた気がした。




「そんな……嘘だろ!嘘だよなぁ!!」



ヤムチャは半端じゃなく取り乱している。




「くーちゃんまで……クソっ!何でだよ!!」



シンタローの涙が弾の摘出されてない傷口に落ちた。




「もし僕が最後まで動けていたら……結果は変わったんだろうか?とても厳しい手術だったけど……何としてでも救いたかった……。」



フジモンは静かにそう言った。


俺は医者じゃないけど、今回はとても厳しい状況だったことくらいは分かるよ。




「……フジモンのせいなんかじゃない。」



無意識に口から言葉が零れ落ちていた。




「みんなで最善を尽くしたんだ……ごめんね、くーちゃん。」



俺は彼女の顔にガーゼを掛けた。





「みんなは……この現実を受け入れられそうか?俺は無理だ……一人ならな。仲間と一緒じゃないととても乗り越えられそうもない。」



よしだくんはみんなの目を順番に見てそう言った。



「俺もだ……これだけの惨事が重なって、一人じゃ気が狂いそうになるよ。」



シンタローはもう泣いていなかった。



「……誰一人として犠牲を無駄にするわけにはいかねえ。お前ら、何が相手だろうと俺たちは決して負けねえ……いいな?」



ヤムチャは俺たちの顔を力強く見て……きっと泣きそうなのも堪えてそう言った。



 タッキーはヤムチャの顔をペロリと舐めた。

『力を貸すよ』と言わんばかりに。




「そうだよね、そうするしかない………ねえ、これからどうするの?」



「そうだな……もし敵が森の外にいるなら出来るだけ俺たちは森の中に留まっていた方がいいはずだ。みんなで固まってよしだくんの家に居るとしようぜ、全員だと流石に狭いがワガママも言ってられねえからよ。」



「いや、一人よりは全然心強いさ。みんながここに居てくれるならとてもありがたい。」


「だとしたらミーシャ君とエリス君、チッダールタを呼んでこないとね。」



「ついでにあのスタークとか言う奴も……待て、確かあいつは磔にされていたはず……誰かあいつの姿を見ていないか??」



そのシンタローの問いかけには誰も答えなかった。



そう言われれば磔にされたスタークがここ最近、どこにも見当たらなかったような……?




「おい……犯人が確定してるんじゃないのか……?」



よしだくんは深刻な顔をしている。



「そんな……彼があんなことを……!?」



フジモンは信じられないという風に言った。


でも……スタークならやりかねない。



理由は分からないしどうやって磔から抜け出したのかも謎だけど……。




「急いで三人をここに連れてくるぞ!後で俺はスタークを探してくるからな!!」



それだけ言い残すとヤムチャはとんでもない勢いで家を飛び出していった……。




「俺たちが手分けしていくよりもあいつが一人で回ったほうが早いだろうな……。」


「そうだよね……ねえ、フジモンが来た時みたいにみんなで洞窟の奥に隠れるのじゃダメかな?」



俺は思っていたことをみんなに伝えた。



「そうだな……チッダールタがあの調子じゃ洞窟の奥の深い穴を行き来するのは厳しいだろう……。隠れるだけならもってこいなのは間違いないんだが……。」



確かに、ミーシャやチッダールタが何十mもある穴を登り降りするのは無理だよね……。



「じゃあとりあえず、みんなそれぞれ自分の荷物を取りに行ったほうがいいんじゃない?寝袋とかも必要だと思うし……。」



「確かに、シンタローの家から家具を補充するのもいいだろう。」




……よしだくんもシンタローの家なら家具があるって認識なんだね。



「だとしても今はヤムチャを待つべきだろうな。」


「そうだタッキー、君も被弾しているんじゃないのか?足を見せてくれたまえ。」



フジモンはタッキーに近づいた。



「って、足だけじゃなく腰も撃たれているじゃないか!すぐに痛み止めを打つよ!無理せずしゃがむといい。」



フジモンはもう手の痺れが大丈夫そうなのか、再び手術の準備を始めたよ。





「うおおっ!!おい、まずは仙人を連れてきたぞ!」



って、ヤムチャは仙人を肩に担いでもう戻ってきたみたい。


仙人はヤムチャの肩から降ろされた。



そしてヤムチャはもう次の瞬間には居なくなっていた……。




「うう……少し酔ったぞ、おや……!?お前たち、こ、これは……!?」



仙人はくーちゃんの亡骸を見てとても動揺した。



「……お前の見ているものが真実だよ。なあ、仙人……お前はスタークが襲撃と関係ないって言ってたな。もし、関係があったら?お前はどうする?」



シンタローはちょっと仙人を睨みつけた。



そんなの……仙人だって聞かれても困るよ。



「どういうことだ……!?これはスタークの仕業なのか?」


「ここしばらく誰もあいつの姿を見ていない……それだけのことだ。気がつかなかったのはみんなの責任でもあるしな。」




「そんな、奴がこんなことをするなど……。」


「チッダールタ、まだ決まったわけじゃないよ!でも……そういう可能性もあるってことさ。」



フジモンが少しだけフォローしてくれた。




「はぁはぁ……ミーシャも連れてきたぜ!」



ミーシャもヤムチャの肩に担がれてやって来た。



「ちょっと……乱暴すぎっ!」



ミーシャは床に投げ飛ばされた。





「そんな緊急事態って……え。」



くーちゃんの姿を見たミーシャは動きが止まった。




「ああ、言葉通りに緊急事態『だった』よ……。」



ミーシャは地面を這ってゆっくりとくーちゃんに近づいた。




「あの時、私が追いかけていれば……。追いかけることができたら!!私の……私のせいだわ!!」



彼女は自分の左足を何回も殴りつけた。



「ミーシャ!!俺だってすぐにタッキーと一緒に追いかけていればこんなことには……!お前のせいなんかじゃない!!」




「…………てよ。」



ミーシャはボソリと呟いた。



「え?何だって……?」




「私を死者の奈落に突き落としてよ!!」




死者の奈落!?


一体何を言ってるの!?




「もうこの人生もこの命もたくさんよ!!家族がいなくなって、森は何度も襲われて、歩けなくなって、大切な人はどんどん死んでいく……。もう終わりにしたっていいじゃない!」



ミーシャは泣き叫びながら床に突っ伏した。




「じゃあ……楽になるか?俺が終わらせてもいいのか?」



シンタローは手に火炎瓶を持っていた。




「そうね……もう、誰かが死ぬのを見るのはごめんだわ。」



「悪いが……それは俺も同じだ。」



シンタローは火炎瓶をしまった。



「俺だって……お前が死ぬところなんて見たくないからな。」


「ねえミーシャ……みんなのために生きてよ。俺たちを悲しませないために……。」




ミーシャに俺たちの声は届くのかな……?



「……まだ、私の命にも意味はあるのね。でも……もう他人のことを考えるほど私は優しくなくなっちゃった。」



ミーシャは目を真っ赤に腫らして匍匐のまま家から出ようとしている。



「連れてってくれないなら自分で行くわ。じゃあ、さよなら……。」



彼女は振り返ることなくそう言った。


そして普通の人が歩くようなスピードで去ってしまった。





「……もう俺には追いかけられねえよ。」



シンタローはボソリと呟いた。





「ミーシャのためだからこそ……俺には追いかけられない。」



ミーシャが暴走していればシンタローが止められたかもしれないけど、今回は違う。



全てを諦めてしまったミーシャは……シンタローにも止められないかな。





「やっぱり、私には救えないのか……?」



仙人は俺の隣でボソリと呟いた。







それから俺たちは何も言わずにただ座り込んでいた。


どれくらい時間が経ったかな?



「……シンタロー、俺に行かせてくれ。いや、止められても行くけどな。」


「………。」



急によしだくんが決心したように立ち上がった。



「きっとお前よりもミーシャのことが分かってないからこそ、俺はあいつの決心を止めることも躊躇わないんだろうな。」



「……行きたきゃ行けよ。どんな結果になっても、俺はミーシャの行動を尊重するだけだ。」



「じゃあ……後悔するなよ?」



よしだくんは無表情のまま家から出ていった。




「……きっと、何か思うところがあるんだろうね。」



「彼は本来、考えなしに動くタイプではないからな。……後悔だけはするんじゃないぞ。」



フジモンの呟きに対して仙人はどこか遠い場所を見てそう言った。



……俺に出来ることもないし、ここはもうよしだくんにバトンタッチしようかな?

 まさか彼女が死ぬとは誰も思っていなかったのでは……?

ちなみに作者もくーちゃんが死んでしまうとは全く予想出来ませんでした。


 現実はそう理想通りのストーリーにはなってくれませんでしたね……。

だとしても残された仲間たちは抗い続けます。

その先に何が待ち受けているかも知らずに……。


 次回はよしだくんが覚悟を決めます!!

冷静な彼が腹を括った時……何が起きるのでしょうか?


読者の皆さんは物理的にお腹をロープで括ったまま次回まで耐えてください!!

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