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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第5章 終わらぬ悲劇の中で
118/162

5-4 キヌタニの最期

ーー前回のあらすじーー


12月の冷たい雨に打たれ続けたことでプロトンは風邪を引いてしまった。


 熱にうなされ続ける中、どういうわけか基地に居るはずのエリスが100エーカーの森に居るところを彼は目撃した!!


 彼女のことを疑いながらも、思考が朦朧として体調が悪かった彼は見かねたエリスに帰投命令を出されてしまった!

キヌタニの母親に付き添われ彼は駄菓子屋の地下倉庫から家に帰宅することになったのだ。


 病状が回復し、考える時間を与えられた彼はスタークとエリスの正体について考えていた。

エリスが裏切者なのか確かめるべく、プロトンは昼間にエリスとの接触を試みた結果、彼女がどういうわけか二人いると言う結論に至った。


 100エーカーの森に戻った彼は熱にうなされていたスタークを発見した。

そんな彼をプロトンは尋問したが、重要な情報は何一つとして得られないのであった。



 病人に対して尋問をするのは何だか気が引けますね。

弱っている人間に対して情が湧いてしまいそうです。


 でも弱ってるからこそ虐めたくなると言う方もいらっしゃるのではないでしょうか?

読者の皆さんはどちらですかね?


 ちなみに作者は弱っているうちに恩を売っておいて相手を飼い慣らしたいタイプです!

それでいつも飴を舐めさせて、元気になったと思ったらいつの間にか逃亡されています……。

そして次の日の朝のことだ。



スタークはまだうなされていたが、別に死んだりはしないだろうとそのまま放置しておいた。





『今日でようやく遺体の回収も終わりそうだね……。俺たちはあれだけたくさんの人を……。』


『くじらん……俺たちはこの襲撃において被害者だ。間違っても自分を犯罪者だなんて思うな。』



『分かってるけど……ちょっと自分が怖くなっちゃった。いざとなったら人を斬り刻むことを楽しめるもう一人の自分がいたんだ。』



『この森においては必要な才能だぞ?……嫌なことだよな。余裕があれば火葬に使う燃料の薪も準備しちまおう。まだ罪悪感に浸ってる場合じゃねえぞ?』







「………………。」



 仲間の遺体を基地に帰してやれなかったことが悔しかったが、彼らに『こちらで引き取る』なんて言い出せるわけもなかった。



 まだ何か情報が得られないかと引き続き粘っていたが、そこからしばらくはほとんど何も聞こえてこなかったな。






そして夕方、奇妙なことが起きた。




『俺は……お前を守ってやれなかった。』



ヤムチャが駄菓子屋に居たのだろう。


彼の独り言が聞こえてきた。



『……ザザッ……ザッ……。』



それだけじゃなく、不自然すぎるノイズが盗聴を邪魔してきたんだ。




『うぐっ!!!!あ、頭がっ……!!』



そしてヤムチャが苦しみだすような声が聞き取れた。



『ザザザー!ザッ……。』



ノイズはどんどん大きくなり、駄菓子屋の状況は全くもって把握出来なくなってしまった。




「うーん……故障か?新しいやつを設置し直さないとな。」






『何だ……?なっ!!おいどうした!ヤムチャ、ヤムチャ!!』



そんなシンタローの声が聞こえると同時にノイズが急に消えた。


あれは本当に故障なのか?と疑問に感じたが、念のため夜のうちに交換しておこうと思った。






そして日が暮れて晩ご飯時……この日は駄菓子屋から全く声が聞こえなくて違和感を覚えた。




「みんなどうしたんだ……?駄菓子屋に居ないことなんてなかったのにな。」



俺の横ではスタークが眠りについていた。


どうやら風邪が峠を超えて疲れが出ていたのだろう。



「さて……流石にここから出るのは危険だし……待ってみるか。」



俺は外の様子が気になりながらも大事をとって洞窟の中で待機することにした。



 日が暮れて一時間位経ったのだろうか、駄菓子屋からはエリスの偽物とヤムチャと思しき声が聞こえてきた。




『アイス売り場の中を見ろ!キヌタニはこんな酷い死に方を……。』



『うわぁ、グロい……でも何だかお似合いだわ。』



このタイミングでまた唐突なノイズが入ってきた!


しかも夕方より全然大きいノイズだった!




『何……っ!頭……いっ!!』



そしてエリスが苦しんでいる様子が辛うじて聞こえてきた。



『……いっ!?な………よ!?おい………す!……も………にめ………ける………の!?』




「うおおおっ!?!?」



 さらには地震でも起きたかのようにノイズが爆音になったので、俺は頭につけていたヘッドホンを放り投げてしまった!



「な、な、何なんだ!?」



ヘッドホンからはしばらく爆音が暴発し続け、様子を窺うどころではなくなってしまった。






その後、ノイズは少しずつ落ち着いて、今度はフジモンの声も聞こえて来た。




『考えるのは後だ、アイス売り場のワゴンごと運び出すぞ!』


『わわ、分かったよ!い、一体どうなってるんだい!?』




「んん?アイス売り場のワゴンごと運び出す……?キヌタニに何をするつもりだ!?」



俺は洞窟の入口まで来て、足を止めた。




「今行くわけには……どうすれば……!」



そう独り言を呟くだけで俺は何も出来なかったんだ。





しばらくして、再びヤムチャの声が聞こえてきた。



『せっかく綺麗にしてもらったのに体が腐ったら嫌だよな、また電源を繋がねえと……。』




「綺麗にしてもらった……?何のことだ?」




『こんなに長い間放っておいて済まねえ……。でも明日はみんなも来るからよ!……ちゃんと見送ってやらぁ。』



「見送る?……!!まさか、あいつのことを埋める気か!?」



低温状態から長いこと解かれてしまっては、仮死状態じゃ済まず本当に死んでしまう!


だから、どうにかして彼を回収するしかなかった。






住人たちが寝静まったであろう時間を待って俺は駄菓子屋へと向かった。



駄菓子屋は売り物が飛び交ったような荒れ方をしていた。


缶ジュースは中身が噴き出し、瓶に入っていたであろう薬のカプセルは至る所に飛び散っていた。




「あのノイズと何か関係があるのか?」



俺はキヌタニの体をワゴンの外に出し、暖めながら薬を使って覚醒させた。


どういうわけか彼の傷跡は薄くなっていた。



もしかしたら、ヤムチャの『綺麗にしてもらった』という言葉と関係があったのかもしれない。






「うっ……プロ……トン……。あれから……何日経ったの?」



覚醒した彼は目を薄っすらと開いてそう呟いた。



「四日だな。それよりキヌタニ、よく聞け。明日お前は森の住人たちによって土葬される。仮死状態になっていても長いこと地中に埋められたら終わりだ。だから明日、俺が隙を見てお前のことを掘り出して蘇生させたら基地へ連れて帰る。次に目が覚めたら基地に居るはずだ。」






「そうなんだ……。ねえ、今日……なのかな?僕の死体の前でヤムチャが後悔していたみたいなんだ。その様子を僕は俯瞰で見ていたんだよ。悔しがってくれて、悲しんでくれて本当は少し嬉しかったはずなのに、嫌な感情で自分が満たされたんだ。……気がついたら目の前が真っ暗になっていたよ。それから夜にはあの女が現れて……許せなかった……!僕は……あいつのことを殺したかった……。そう思ったらもう止まらなくて……プロトン……。もちろん、僕は帰りたいよ。帰りたいけど……でも、やっぱりもういいかな。このまま眠りにつくことが出来たなら、これ以上苦しむこともないんだから。生きてることって、僕にとってはみんなが思うよりもずっと苦しいんだ……。」





ゆっくりだが、確かに彼ははっきりと……俺の方を見て涙を流すこともなくそう訴えた。




……何と言うべきだったのか今でも分からない。



だが、何を言ったとしてもきっと彼は……。




「死ぬことを選ぶんじゃない……!俺に……お前を見殺しにさせないでくれよ……。」



彼の綺麗になった顔に手を添えた。


まだ彼の体は暖かかった。



「僕の苦しみがプロトンに分かるのかな?でもね、そうであってもなくても、僕は……自分に生きて欲しいって言ってくれる人がいて、本当に嬉しかったよ……。」



「必ずお前を助ける……。そして、生きてて良かったって……言わせてやるよ。」



「それは……かなり大変だと思うよ……?うっ……ちょっと、痛みが出てきたから……眠りたいな……早く……。」



本当はまだまだ話し足りなかったが、彼が辛そうにしていたので麻酔をかけることにした。


程なくして麻酔が効いてきたのか、彼は目を閉じた。



「本当に……辛かったなあ……。」



意識が無くなった彼の表情は見ていてこちらが泣きたくなるような、とても辛そうなものだった。



もっと、気にかけてやればよかった。


連絡が禁止される前からキヌタニは酷い目に遭っていた。


だったら、彼のことを救う手立てもきっとあったのだろう。





「何が……何が世界の役に立つ計画だよ……。こんなの誰も幸せになんかなりゃしない!!」



もう、自分が自分で抑えられなかった。



「こんな計画なんて要らない!!俺がぶっ壊してやる!!」



そう叫びながら俺は商品棚を蹴り壊した!



「コルク……お前なんか助からなければいい!!……仲間は俺が責任取って面倒を見る!早く……早く死んでしまえーっ!!!」



それから俺は住人たちに気づかれることも構わずに暴れ続けた……。



一時間は駄菓子屋を壊し続けただろうか?


俺は気がつくと洞窟に帰ってきていた。




「まだ……終わりじゃない。絶対に……救うんだ、この地獄から。」



俺は横になり、眠ろうとしたが結局夜が明けるまでまどろんでいた。






…………。



………………?



そして今朝は体にまとわりつく奇妙な感覚で目が覚めた。



「……ちっ、ロープが思ったより短けえな!使えねえ野郎だ!!」



どういうわけかスタークは自力で拘束を解き、代わりに俺のことをロープで縛ろうとしていた。




「……何か……何なんだ……?」



まだまだ眠かった俺は状況を把握するのにかなりの時間がかかった。



「おい、どうして俺様を拘束するのにこんな短いロープを使いやがった!!ナイフで切ったら使い物にならなくなっただろうが!!」



 ちなみに、彼を縛ったのにロープは一本しか使っておらず、使い物にならなくなったのは彼が変な切り方をしたせいだ。



しかし……どうやって拘束を解いたのか……全く持って謎だ。


それはともかくとして、かなり面倒なことになったと思った。




「よくも俺様を縛ろうなんて浅はかな考えに至ったな!だからてめえは俺様の1000倍……とりあえず1000年くらい縛られてろや!」



計算が全然合ってないのはもうスルーした。



「まあ落ち着け……いい加減、頭に風穴が開くぞ?」



俺は立ち上がってピストルを彼に向けて構えた。




「てめえマジで……頭おかしいな!俺様を撃てるとでも?弾が跳ね返っててめえが死ぬだけだ!!」


「……やってみるか?」


「ガタガタ言ってねえで早く撃てや!!」



そう言われたらもう俺も撃つしかなかった!


バーン!!という音とともに俺は彼の右腕を狙撃した!




「ぐあーーっ!!う、嘘だろ……!て、てめえ……この俺様を撃つなんて……!!こんなの……精神異常者に、違いねえっ!!」



スタークは右腕を押さえて崩れ落ちた。





「撃たれて落ち着いたか?……ん?」




『まさか………生き返ったとか!?』



 盗聴器を交換するのを忘れていたが、突然ヤムチャの声が聞こえてきたので壊れていたわけではなかったようだ。




『ガソリンと着火剤と……花は冬だから摘んでくるのも厳しいな、何か棺の中を飾ってやれるものはねえか?』




「ガソリンに着火剤だって……?おい待てよ!まさかあいつのことを焼くつもりか!?」



まさか火葬にするなんて思ってもなかった。




『……こんなことを言うべきではないかもしれない。だが言わせてくれ。キヌタニの体には死後硬直がある。』



どうすればいいのか慌てていたら今度は聞き慣れない老人の声が聞こえてきた。



「誰だ……?もしかして裏切り者……?」



そんなことを考えている場合ではなかったが、俺はそっちに意識がとられた。


そうこうしているうちに駄菓子屋へ住人たちが勢揃いしたようで様々な声が聞こえてきた。




「まずい……あれじゃあ近寄れない!!」




「てめえは……何の話を、してやがる……!!」



腕を撃たれたスタークは何とか立ち上がってきた……!


そして……どういうわけか、彼の傷は少しだが塞がっていた!!




「駄菓子屋から出てきた!!」



 しかしそれに驚いたのはほんの僅かな時間で、俺は双眼鏡で駄菓子屋からぞろぞろと出てくる住人たちを目撃した!



そしてそのうち二人は棺を担いでいた。





「あの中にキヌタニが……。あいつは生きてるんだぞ!!」



「ああ!?生きてるなら何で仕事をしねえんだ!売り物を補充しねえ店主ならあのまま死んだほうがいいぜ!!」



突然スタークが口を挟んできた。



「黙っててくれ!!」


「それが俺様に対する態度か!?」



俺がピストルを持ってることを気にもしないで彼は俺に詰め寄ってきた!




「お前に構ってる暇なんてないんだよ!!」


「俺様以上に優先される事柄なんてこの世界にあってたまるか!!」



スタークは俺に掴みかかってきた!




「くっそ、このっ!」



俺は堪らずピストルをもう一発撃った!



「があっ……!!」



弾はスタークの肩を掠めて、彼は後ろにひっくり返った!



急いで俺は彼らを目で追った!


彼らは東の方へとどんどん歩いていた。



「いや、崖の方向に向かったってことは、墓地に埋めるのか……?」




「くっ……一度ならず二度までも……!!許さねえ……!」



とりあえず彼は起き上がれなくなっていたので放っておくことにした。




だが、俺の見立ては甘すぎた。



「……ん、あんな場所に仲間の遺体を集めてたんだな。……えっ、棺をそこに置くのか??」



続いてヤムチャは辺り一面にガソリンを撒き始めた。



「おいおい……まさかっ……!!!」



俺は迷わず洞窟から飛び出していた。


それと同時にヤムチャが火の付いたマッチを遠くから棺へ放り投げた。




ボォォォォ!!と轟音を上げて、棺は大きな炎に包まれた。





「そんな……。」





『このまま眠りについても、これ以上苦しむこともないんだから。』



キヌタニに昨夜言われた言葉が頭の中で甦ってきた。




「お前は死ぬことを望んでいた……。その通りになったが……キヌタニ、お前は幸せだったか?」



そう問いかけてみても俺の心の中で彼は首を縦に振ってくれなかった。




「何だ何だ……?うるせぇ音鳴らしてるのはどこのどいつだ!?……って、何だよあれは……!?」



 こちらにゆっくりと歩いてきたスタークに言われて彼の視線を追い、焼かれている棺をよくよく見ると……キヌタニが起き上がっていた。



彼はそのまま、しばらく静止していた。






「……それでも、このまま生き続けるより良かった……そう思うしかないんだな。」



俺がそう言い終わるとキヌタニは棺の中に倒れた。



そしてスタークはやはり撃たれた傷口が少しずつ治っているように見えた……。






で、今に至ると。



仕方なく俺たちは駄菓子屋へ来たわけだが、いつ見つかるか分かったもんじゃない。




「スターク!特別待遇だ、地下に降りてこい!アイス食べ放題だ!!」


「食べ放題だと!?……って、相変わらず口の聞き方がなってねえな!!……だが、食べ放題か。いいぜ、その話乗ってやる!」



腹が立つほどやかましいスタークと一緒に俺はエレベーターで地下へと降りた。






「おいおい……まさか駄菓子屋の地下がこんなことになってただなんてよ……この俺でも流石に想定外だぞ……?」



 エレベーターから降りた時、この地下倉庫を目の当たりにしたスタークは普段通りの過剰すぎる自己評価で、だがいつもより小さな声でそう呟いた。




「まあ……あの駄菓子屋の風景からこんな倉庫は連想出来ないよな。……ほら、あの一番右奥と隣の冷凍庫がアイスの保管庫だ。」


「よぉーし、全部食い尽くしてやるぜ!」



スタークは一目散にアイスの保管庫へ突撃した。





さて、ここからどうしたものか……。



 キヌタニが本当に死んでしまった以上、今回の作戦が上手く行ったと誤魔化すのが難しくなることは確定だろう。



一番手っ取り早いのは俺の手でコルクを始末することだが……そんなことが可能なのだろうか?





お願いだから今回の致命傷で死んでくれ……。



いや、祈るよりも時間を有効に使おう。



まずは偽物であろうエリスの行方を追わなければ……。

キヌタニは最期の瞬間までこの世界を呪って朽ち果てました……。


 彼はどんな心情で炎越しに仲間たちを見ていたのか、その気持ちを分かってくれる人間はきっと存在しないのでしょう。


 読者の皆さんがプロトンの立場だったら、後悔なく彼のことを見送ることが出来たでしょうか?

これで良かった……本当にそう思えたでしょうか?


 キヌタニを救えなかったこと、それを作者は2023年の今でも少し後悔しています。

一体どうすれば彼の命を繋ぎ留められたのか、それは分かりません。



 次回は再び森の住人たちの視点に戻ります。

走り去ってしまったくーちゃんとフジモンはどこへ行ってしまったのか?


 彼らは絶望を乗り越えられるのか……。

読者の皆さんも森の住人たちと一緒に絶望してみてください!!

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