5-2 蘇った仲間
ーー前回のあらすじーー
襲撃の目的が達成されたところを見届けたプロトンという名前の副隊長は、隊員たちが前線から撤退した後も一人、100エーカーの森で潜伏を続けていた。
ここ最近連絡を取ることを禁止されていたキヌタニと接触をするため、彼を探しに駄菓子屋へ行くが姿が見当たらない。
夜中の森を歩いて彼を探すが、代わりに見つけたものは磔にされていたスタークであった……。
彼は拘束を解かれると食事をするために駄菓子屋へと向かった。
その後をつけていたプロトンだったが運悪く彼に見つかってしまい、戦闘になったが追い込まれることなくスタークを無力化した。
彼が駄菓子屋の隠しボタンを操作すると、何と床が降下して地下の倉庫へと辿り着いたではないか!
そこの通信機で仲間と連絡を取ると、どういうわけか画面の向こうにはエリスがいて、撤退した仲間が行方不明になっていることを告げられた……。
前回はスタークが暴走していたせいで情報量が多くなっていたと思います……。
そして、そんな回がしばらく続くのです……。
今回もスタークと、そしてアイスが登場します!(ある意味アイスは一番登場率が高い!)
彼は何味のアイスを食べることになるのでしょうか?
今までの傾向から予測して、本編で確認してみてください!!
エリスとはお互いに何を言われているのか分からないままだったが、とりあえず数日後には帰るとだけ言い残して通信を切った。
キヌタニのことについて触れられなかったのは幸運だったな。
「早くあいつを探さないとな……。」
俺はエレベータを操作して再び地上へと帰還した。
しかし、幸運というものはそう連続して起こらないものだ。
「おい……ここの駄菓子屋、どうなって……やがるんだ……!!」
気絶させたはずのスタークがまだ意識を保っていて、俺が地下に降りるところまでばっちり見られていたらしい。
「駄菓子屋にアイスがねえのも……あのゴミ店主が消えたのも……てめえの、せいかよっ……!!」
おまけに謎の勘違いまでされてかなり面倒なことになった。
「……残念だがそれは間違いだ。駄菓子屋がこうなっていることも、キヌタニがいないのも……。むしろ君はキヌタニの居場所に心当たりがないのか?」
「知るかよっ……!あいつを最後に見た時は、全裸で鎖に繋がれて……ペットにされてたぜ……!!聞き分けのねえ、ペットだった……ってことか……?」
そう言われて俺はあいつがどういう状態だったかすぐには想像出来ずに困惑した。
「全裸で……ペット、だと??」
「ふん……!本当に頭のおかしい……連中ばっかりだぜ……!!それで……ここの地下には……アイスがあるんじゃ……ねえのか?」
そしてこの展開でアイスの所在を聞かれたものだから俺の困惑は更に深まった。
「アイス……欲しいのか?」
「……ローストビーフ味とエビフライ味をくれ。」
「……多分あるだろう、持って来よう。」
頭の混乱していた俺は、場に流されてスタークにアイスを提供した。
これが一番の間違いだった。
これ以降、俺は延々と彼にアイスを集られる羽目になってしまったのだから。
「くぅーっ!生き返るぜ!!やっぱりここは何が起きようと俺様にアイスを提供するためだけの場所なんだな!……さて、あのゴミ店主がいねえと俺はここでアイスが食えねえんだ。だからてめえには奴がここに戻ってくるまで、俺様へアイスを提供する役目を言い渡してやるよ、ありがたく思え!」
腹が膨れたスタークは満足してそんな無茶苦茶なことを言ってきた。
「いや、別に俺は……。」
「あ!?この俺様が下さったせっかくの仕事を断りやがるってのか?そんなことはこの世界の全てが許さねえ!!そういうわけだ、早く帰って寝るぞ!!」
彼は俺の濡れた制服を無理やり引っ張って、少し前までいた洞窟に向かった。
「あのジジイ帰ってねえのか。まあいい、いてもウゼえだけだからな!!……いや、何で俺はここに帰ってきちまったんだ!!これもあのバカ共が俺様の存在を妬んで監禁したせいだな!!」
洞窟に戻るや否や、スタークは独り言を喋るだけ喋ってから近くにあった柱時計を蹴り飛ばした。
時計はガタガタと大きく揺れて、再び元の位置で静止した。
「ちっ……俺様はこの近くの廃寺にいらっしゃるからな!アイスが欲しくなったら、ここまでてめえを呼びに来る。だからてめえはここから絶対に動くんじゃねえぞ!?」
スタークはちょっと不機嫌気味に俺のことを指差して、洞窟から出て行った。
廃寺と言われてすぐにはどこのことなのか分からなかったが、寺のような場所はこの森に一箇所しかないはず……。
だからきっとあそこだろうと目星はついた。
そして俺はもっと情報が必要だった。
だから住人たちがいつも多く集まる場所……それは駄菓子屋だろうと判断して、そこに盗聴器を仕掛けることに決めた。
まあ、スタークに洞窟から出るなと言われていたので、彼に見つからないよう十分ほど待ってから外に出て駄菓子屋へと舞い戻った。
荒れている店内から盗聴器セットを探し出すのは意外にも大変じゃなかった。
売り場が分かれていたから恐らく戦闘グッズと同じ場所だと目星をつけて、売り場の籠を漁っていたらすぐに発見できた。
集音器をエレベーターの操作ボタンが隠してあるマンホールの中に仕込んで、それから食べ物を少しだけ貰って駄菓子屋から退散し、食事をしてその日は洞窟で仮眠を取ることにした。
そして翌朝……まだ降り続いている雨の音を聞きながら、俺は駄菓子屋に動きがないか盗聴器の様子をずっと伺っていた。
柱時計の針が八時半を回った頃だった。
『俺は絶対にここから出て行かない!ヤムチャ、お前はどうしてそんなに弱気なんだよ……?』
そんな独り言が聞こえてきた。
声質から恐らくこれはシンタローだと予想が出来た。
昨日戦った時も思ったが、すごく逞しくなっていて……顔は見えなかったが立派になったな、と声を聞きながら感動していた。
『そのためにはもっと強くならなきゃ……何だこんな朝早くから。』
どうやら他の住人から通信が入ったらしい。
『もしもし……ああヤムチャか。……えっ!?ドーベル将軍が生きてる!?そんなバカな!えっ、あっ……すまん、取り乱した。……ああ……クソがあっ!!何で……何でだよ!!敵だけ生きてるなんておかしいじゃねえか!!……そうだな。今出来ることをやらないとな……。今日はミーシャと一緒にいるよ、ああ、またな。』
ヤムチャとの通信だったようだが、俺はこれを聞いて衝撃を受けた。
何かがおかしい……。
任務はちゃんと完了したはずなんだ。
なのに、どうして?
しかもだ!
ドーベル隊長が生きている……!
だが、どうやって連れ戻せばいいのか……。
彼を連れて帰らなければ色々な嘘がバレる……。
キヌタニや帰投したはずの仲間たちの行方も気になっていた中で、何も出来ることがない状況はもどかしくて仕方なかった。
結局、そこからは動きがないままただ時間が過ぎた。
『おかえり、キヌタニ……。』
夕暮れ時、「キヌタニ」と言う単語が聞こえてきて俺は少しびっくりした。
おかえり?ただいまじゃなく?
何かがおかしいと思いながら俺は彼らの会話を聞き続けた。
『でもこのまま放置していたら体が腐ってしまう……。寒いとは思うけど……彼をここに入れておいた方がいい。』
「まさか……?誰か死んだのか?」
もしかしたらキヌタニが……?
そんな嫌な予感を拭えないまま俺は盗聴を続けるしかなかった。
『ドーベル将軍が生きてたのは幸運と言うべきなのかしら……。どうしてこんなことをしたのか、聞き出してやらなきゃ……!!』
『そうだよね……少しくらい痛めつけても……それくらい、許されるよね?』
『それで、今はどこにいるのよ?』
『くじらんの家で眠ってるぜ……一体いつ目が醒めるんだかな……。』
『なら、よしだくんと会わせてあげましょう!!きっとよしだくんも冷静に……』
『それは俺も提案したんだけど……二人は繋がりがあるから……。』
『まあ、そうかもしれないけど……意識はないんでしょ?意思疎通も何もないじゃない。』
『無駄なリスクは負いたくねえんだ……。余計、だなんてことは言わねえよ。でも今じゃない、みんな分かってくれ……。』
ドーベル将軍の子供がこの森にいることは知っていた。
だが、彼は俺たちの正体を知らないはず……。
とりあえず、森を制圧した根拠として彼を連れ戻すか……?などと頭の中が整理できないまま、混乱気味にそんなことを俺は考えていた。
何も出来ていない自分に対してイライラして、とにかく何か成果が欲しかった……。
駄菓子屋から音が聞こえなくなったのを確かめて、俺は洞窟から出ようとした。
「おい、洞窟から出たくてウズウズしてるみてえだな。だが、俺がいいって言うまでは一歩も出るんじゃねえ、分かってるよな?」
洞窟の入口ではビニール傘を差して、反対の手には警棒を構えたスタークが立っていた。
「まだだ……まだだぞ……よし、出てきやがれ!」
これは……まるで犬の調教のようだったな。
すごく癪だったが、逆らっても面倒だったので黙って大人しく出てきた。
だが、それも彼は気に食わなかったらしい。
「ああ!?何黙って出てきやがる!犬なら『ワン!』とか言うだろ!?」
「あのなあ、俺は別にお前に従う義務はないんだぞ?」
「はあ?俺様に逆らう人間がまだこの次元に存在したとはな!」
スタークはこちらに向かって警棒を振りかぶってきた!
それはそんな使い方をする武器じゃない!と思いながら、横に素早く避けて警棒を蹴り飛ばした!
「ぐっ、駄犬がよ……!!もういい!さっさと行くぞ!!」
スタークは怒りからかビニール傘を地面に叩きつけて破壊し、ずぶ濡れになりながら駄菓子屋へと走っていった。
彼にアイスを渡す義務など無かったのだが、渡さなくてもやっぱり面倒なことになるだけだろうと思った俺はついて行くしかなかった。
駄菓子屋に着いてからもアイスをくれとスタークがせがんでうるさかったので、パエリア味とトリプルチョコレート味のアイスを渡した。
それから俺はアイス売り場のワゴンに白い布がかけられていたのをずっと気にしていて、それを調べることにした。
店の電気を点けて覆われていた布を取ると、衝撃的なものが目に入ってきた。
「きっ、きぬ……キヌタニ……!?」
仲間の遺体が冷やされていたんだ。
しかも全身傷だらけで服も着てなかった。
こんなアイス売り場のワゴンなんかに……。
「どうして……どうしてこんなことに!!」
「ああもう!俺様がアイスを召し上がっている時くらい静かに出来ねえのか!……って、ゴミ店主じゃねえか!!どうしてこんな場所で冷やされてやがんだよ!?おい、そんなところで寝てねえで早くアイスを補充しろや!!」
スタークは力任せにワゴンを蹴り飛ばしたが、もちろんキヌタニが目覚めてくることはなかった。
「何だよ、自分を売り物と間違えてここに入っちまったのか!?てめえのような汚ねえ存在が売れるわけねえだろうが!!」
乱暴にもスタークはキヌタニのことを無理やりアイス売り場から引きずり出して顔を蹴り飛ばした!
「止めてくれ!!もうこれ以上……!」
そこまで言葉が出た時には、もうスタークのことを殴り飛ばしていた。
「がっ!!……は?」
スタークは殴られたことが予想外過ぎたのか、しばらくポカーンとしていた。
「はぁ!?お、俺様を殴り飛ばしやがったのか!?て、てめえ!この世界に存在する全ての生物から、てめえの祖先から末代までが存在したという記憶を消してやる!!」
スタークは迷うことなく武器売り場のロケットランチャーを構えた!!
これは昨晩と同じだ!!
絶対に撃ってくるとオーラで分かった!!
こんな狭い店内であんなものをぶっ放されたらさすがに無事じゃ済まなかった!!
だが……。
「ん?……おい、どうやって発射するんだ!?使い方が分からねえ!!」
恐らくだが弾薬がセットされていなかったために、発射出来ないと彼は勘違いしてくれたおかげで命拾いした。
「クソッ!不良品ばかり売りやがって!店主がゴミなら売り物もゴミだってか!?」
スタークはロケットランチャーを床に叩きつけた!
その武器がいくらするのか分かってるのか!?……という言葉を飲み込んで、その隙を見逃すことなく俺は彼に詰め寄って喉元にスタンガンを突きつけた!!
「があああっ……!!ぐっ……。」
今度はしっかりと気絶したのを確認してからキヌタニの方に集中した。
「本当に死んじまったのかよ……!!なあ、キヌタニ……。」
両手足は折れ曲がり、拷問の跡が残る彼の冷たくなった亡骸をずっと見つめ続けていた。
でも、冷たくなった彼は何も語ってくれなかった。
どれくらいの時間が経ったのだろうか?
明かりの煌煌と点いた駄菓子屋には掛け時計の秒針が進む音だけが響いていた。
どうすればいいのか……。
キヌタニが死んだことを正直に話すべきか?
しかし誰に殺されたんだ……?
盗聴していた住人たちの口ぶりからは、彼らに殺されたようには思えなかった。
俺たちの中に裏切り者がいるのか……?
「なあ、キヌタニ……教えてくれよ!!」
俺が彼の右手を握った時だった。
「はっ……すっ……ううっ……。」
キヌタニのお腹が動いたんだ!
「こっ、これは!!おい!!俺の声が聞こえるか!?」
「誰……なの?」
そして彼の瞼がゆっくりと開いた。
「もしかして……プロトン……?直接……会うの……何年ぶりかな……?」
「いつも通信では顔を合わせていたが、最後にお前の顔を見た時はまだ子供だったのにな……。なあ、教えてくれ!誰がお前にこんな酷いことを!!」
「酷いこと……それは……どれのこと……なのかな……?」
『どれのこと』……その言葉がすぐには理解できなかった。
「背中の傷……?顔のアザ……?指の刺し跡……?折られた肋骨……?どれが、いつ誰にやられたんだっけ……?」
信じたくなかった、もう誰にされたかも分からないくらい暴力を振るわれていたなんて……。
「じゃあ……お前を殺したのは……?」
「えっ……?殺した……?一体何を言って……?」
キヌタニは自分の置かれた状況が全く分かっていなかったようだった。
だから俺は少し質問を変えた。
「いや、殺したっていうのは少し変か。ここで寝てたより前、最後に誰から何をされたんだ?」
「確か……銃声や叫び声がする中、目隠しをされた状態で鞭打ちをされて……どこかへ連れられたんだ。その後はどこか狭い場所で……大きな衝撃を受けて……気を失ったみたい……。」
狭い場所……大きな衝撃……?
俺は昨日、戦車が暴走した時のことを思い出していた。
『僕だって!このくらい出来るのに!みんな、僕をバカにして!!僕がやってやるんだ!!!』
「待てよ……もしかして狭い場所って、ガタガタって大きな音がしてなかったか?」
「確か……そうだったかも……。」
つまり……どういうわけか・・の代わりにキヌタニが連れ去られたわけだ、と俺は予想した。
だが、今回の作戦に参加した仲間は全員キヌタニのことを知っているはずだ。
あいつと間違ってキヌタニを連れてくるなんてさすがに考えられない……。
結局、真相は分からないが俺は一つ、仮説を立てた。
恐らく……俺たちの中に裏切り者がいる。
襲撃中、無差別に森の住人たちを襲った奴がいると、報告してきた隊員がいた。
これは予想だが、作戦を妨害するべく身代わりとしてキヌタニを消そうとしたんだ。
事実、駄菓子屋の店主であるキヌタニが死んでしまったらこの森は終わってしまうだろうしな。
じゃあ裏切り者とは誰なのか?
隊長はおそらく違うだろう。
こう言っては何だが彼は地位に目が眩んでいる人間だ。
なら、この重要任務を忠実にこなすに違いない。
成功すれば更なる昇進も見込めるだろうしな。
それ以外だと駄菓子屋を制圧してキヌタニを連れ出した隊員は、黒幕の息の根がかかっている可能性がある……。
しかし、彼らもまた帰投しておらず行方不明だ。
行方不明だからこそ怪しいのかもしれないが、だとしても逃げるアテがあるとも思えない。
……もしかして、と思った。
「いやまさか……でも、消去法なら?」
俺は気絶しているスタークの方を見た。
「……ねえ、僕は……どうして……こんな目に遭うのかな……?」
キヌタニが今にも死にそうな声で言った。
「心配するな、お前は死なせない!……だが、お前のことを狙っている奴がいるようだ。キヌタニ、お前には仮死状態になってもらう。それで一旦は死んだことにしよう。」
俺は一度、仮死状態に入るための薬を取りに地下へ降りた。
地下へ降りると通信……留守電のようなものが残されていた。
ーーーーーーーーーー
ハロー、こちらエリスよ。
プロトン、貴方はまだそこに居るの?
相変わらずあなたの仲間は帰ってくる気配がないわ。
もう少し詳しい部隊の状況を教えてちょうだい!
それから……コルクなんだけどまだ意識が戻らないの。
もし彼女が帰ってこなかったら……多くの仲間が路頭に迷うわ。
その時は貴方のことが頼りになる。
だから……覚悟だけはしておいて欲しいの。
じゃあ、なるべく早い返事を待ってるわ!
ーーーーーーーーーー
本当に仲間がどこへ消えてしまったのか、気がかりだった。
それと同時に、その中に裏切り者が居ないことを祈っていた。
少しだけ何を話すか考えてから俺は通信を繋げた。
「……こちらプロトン、エリスを呼んでくれ。」
そう言うと30秒くらいでエリスがやって来た。
「待ってたわプロトン……ねえ、コルクは……まだ危険な状態だわ。彼女が死んだら……今まで私たちがやってきたことは……!」
「落ち着けエリス、今は信じよう。何も出来なくて歯痒いかもしれないが、耐える時だ。」
エリスを励ましたように言ったが、本当はほとんど自分に言い聞かせていた。
何も出来なかったのは俺も同じだったからな。
「それで、俺の部隊の方なんだが……仲間たちの行方はやっぱり分からない。心配だが探している余裕もないんだ、無事であることを祈るだけだな。」
「そうなのね……私も心配だからそちらの近くを探索する部隊を送るように手配するわ。」
「ここに来る時にも感じたんだが頻繁に野生動物が襲ってくる。十分注意するように言ってくれ。」
野生の人間にもな、とは言わなかった。
あんな危険生物がうじゃうじゃいるとは思いたくなかったからな。
「それからこれも重要な話なんだが……キヌタニが死んだ。」
その知らせを聞いたエリスは目の色が変わった。
「ねえ……一体何を……自分が何を言っているのか分かる?そんなこと……あるわけ、あっちゃいけないわ!!どうしてなのよ!!!」
「俺にも犯人や原因は分からない。だから予想で話させてくれ。俺たちの中に裏切り者がいるかもしれない。今回の作戦中にキヌタニは連れ去られて・・の代わりに始末されようとしていたようだ。だから俺たちの計画を邪魔しようとしている何者かが存在している可能性がある。」
「裏切り者……それは目星がついてるの?」
「それはまだ……だが、もう一つの可能性としてはこの森の住人、それも六年前はいなかった人物が裏切り者として潜伏している可能性もある。事実、何人か移住者が紛れ込んでいるようだ。」
この日盗聴していた中では、明らかに声の幼い少女に、医者と思しき『フジモン』と呼ばれている男、それからミーシャではない女性の声が聞こえてきた。
だが、この時点ではスタークの他にもまだ怪しい人間がいるということしか分かっていなかった。
「だったら、私は組織の内部を調査するわ!貴方は森の方で怪しい奴を炙り出して!!……ねえ、私が言うのも何だけどさ……プロトン、貴方大丈夫なの?何かまだ隠してるんじゃない??」
エリスにはもう勘づかれていたようだった。
「いや……そんなことはない。じゃあ、また何か分かったら連絡する。そちらも共有したいことがあったら通信を入れてくれ。」
だから俺は逃げるように通信を切った。
「……エリス、お前は……裏切り者じゃないよな?」
この時、心のどこかでエリスを疑っていた。
彼女の立ち位置なら裏切り者を送り込むことだってそう難しくはないだろうからな。
だとしても、確かめる術は無かったから俺は仮死状態の誘導薬を倉庫から出して地上へと戻った。
「待たせたな……おい、どうした!?」
「ううっ、痛い……痛いよ……!!」
キヌタニは静かに悲鳴をあげていた。
「どこだ?どこが痛いんだ!?」
「全部……全身だよ……!体も動かないし、何も出来ないよ……!」
キヌタニの目には涙が溢れていた。
あれだけ沢山の傷があったんだ、痛くて堪らないはずだった……。
「今すぐ鎮痛剤を取ってくる!」
俺は大急ぎで地下から追加の薬を準備して、何種類か注射もした。
「ねえ、プロトン……。」
薬が効いてきて落ち着いたキヌタニは喋り始めた。
「四ヶ月くらい前だったかな……?一人の女が突然この森にやって来て、僕のことを集中的に虐め始めたんだ。虐めはどんどんエスカレートしていって、みんなも僕によりきつく当たるようになったよ……。気が付いたら駄菓子屋の壁に鎖で繋がれて、最近は服も着せてもらえなくなって……。もう僕はこんな所にいたくないよ……今回はプロトンが助けてくれても……このままじゃそう遠くないうちに殺されちゃう……。」
一人の女……きっと俺がまだ声しか聞いたことのない女性のことだろうと思った。
「何とかして『帰りたいんだ』……お願いだよ、プロトン……。こんな地獄で、死ぬまで暮らせだなんて……絶対に……嫌だよ……。」
「分かった、出来る限りのことはやってみるさ。」
それだけ言って俺はキヌタニに全身麻酔をかけ、仮死状態へと誘導してから彼の体を冷たいアイス売り場へ戻した。
「悪いなキヌタニ……俺が何をしようがそれは無理だ。」
彼に言われた時からとっくに分かっていた。
キヌタニがここを出ても、もう彼の故郷には居場所なんてない、帰ることなんて出来ないことをな。
死んだと思っていたキヌタニは生きていたのでした!!
ですが前章で既に火葬された結末は変わらないので、だから何だと言われるかもしれませんが。
もうあのキヌタニが出てくることもないんだな!と喜んでいたそこの方!!
残念でした、もうしばらく彼は活躍(?)します!
現実問題として人間が冷凍保存されてそこから蘇生することはないでしょう。
凍らない程度の低温で安置されていたから彼は蘇ったのでしょうね。
間違っても読者の皆さんは真似をしないようにお願いします!
そんなことをコンビニの冷凍庫でやってもSNSに晒されて人生が詰むだけですからね!!