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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第4章 悲劇の寸法線
113/162

4-24 絶望の森 後編

ーー前回のあらすじーー


 破壊された戦車の中でドーベル将軍は奇跡的に生き永らえていたのだった!!

数日後には意識も取り戻したのだが……それと引き換えに記憶を失ってしまっていた。


 チッダールタは力を使い果たし、その人生を終えようとしていた……。

だが彼には心残りがあるらしくまだ死にたくないと願い、フジモンもその頼みに全力で応えていた。


 遺体の回収が終わったヤムチャは気まぐれで駄菓子屋を訪れた。

そんな彼の意識には……キヌタニの怨念が襲いかかって来たのだ!!


 運良くシンタローに助けられた彼はキヌタニの葬式を開くことを決め、それをみんなにも伝えた。

全会一致で賛成されるかと思いきや……エリスはそれに断固反対だとか。


 果たしてキヌタニは自分の葬式が開かれる時まで住人たちの足手まといとなってしまうのか?

さあ、4章の最終話の始まりです!!

この日は移動の介助こそ俺がしたがミーシャが晩御飯を作ってくれたぞ!



いくら足が使い物にならねえからって料理の腕は確かだからな……当分はこれで行こうと思う。


くーちゃんも迎えに行って、みんなで久々にミーシャの手料理を食べられることになった。





そして、みんなで『いただきます』を言おうとした時、集会所のドアが開いたんだ。




「みんないる?仙人が目を覚ましたわよ!」



エリスの後ろには点滴台に掴まって立っている仙人がいた。


点滴台には何だかよく分からんポンプやらバッグやらがたくさんぶら下がっていた。



「チッダールタ!その状態で動いちゃだめだよ!!」


「済まないな、集会所からいい匂いがしてつい来てしまった。」




「仙人、よしだくんの家にいたのに……すごい嗅覚だね。」


「とりあえずそこのベッドで横になるんだ。点滴を外すよ。」



くじらんはこんな状況でも仙人の鼻の良さに感心していたな。



 何はともあれ、フジモンの処置で仙人も元通り……とはいかねえが死なずに済んだわけだ。

まあ服のイルミネーションの光り方も普段通りだったから大丈夫だろ……そこで判断するなって?



「仙人はもう平気なのか?」


「今はただのおじいちゃんってくらいに戻ったぞ。神通力を使って浮遊するのは厳しいがな。」


「呼びかけに応じなくなった時は本当に心配したぞ!……お前まで死ぬんじゃねえかってな。」



「実際、一時期は本当にこのまま終わるのかと思ったがな。だがそこは神通力の出番で体内の生命エネルギーを少しずつ増幅していったんだ。本当に少しずつだからかなり時間はかかったが。……しかし、ドーベル将軍のことは残念だったな。よしだくんの様子はどうなんだ?」



「カウンセリングをしているけど、僕の声も聞こえてないような感じなんだ……。このままだとちょっと心配だから何か手を打たないと……ってそうか、チッダールタは知らないのか。ドーベル将軍は生きてるんだよ?記憶喪失だけどね。」




「なっ!?生きていたのか……!なら、よしだくんをドーベル将軍と会わせてあげればよいのではないかな?」


「最初に私もそう提案したわよ。でも、ダメだって。」



エリスはそう言ってそっぽを向いちまった。



「それから仙人、これは悪い知らせなんだが……やっぱりキヌタニは死んじまってた。ドーベル将軍と同じ場所で見つかったよ。」



「き、キヌタニが……そうか。死んでしまったのか。」



さっきのドーベル将軍が生きていると知った時とは打って変わって仙人は冷静になっていた。




「だから明日はキヌタニの葬式をする予定なんだ。仙人も参加する?」


「もちろんだ、他に予定もないしな。」





「え……?キヌタニ、死んじゃったの?」



くーちゃんの驚いたような声が不自然なほどに集会所に響き渡った。


そう、くーちゃんがいる前で俺たちはうっかりこの話をしていたんだ。



「あっ……そうなのよ。ちょっと、ね……。」


「そうなんだ、おもしろかったのにな……。」



くーちゃんはショックを受けていると言うよりはオモチャを失くしたような口調で言った。



まあ、あまりショックを受けられてもそれはそれで困るんだがよ。



「だから、明日はみんな頼んだぞ。間違っても派手な服装で来るなよ?」



そんなこんなでこの日は解散にする、予定だった。





「何度でも言うわ、私は行かないからね!」



エリスは意地でもキヌタニの葬式に出たくねえみたいだった。





ここで俺は一つ、上手くいくかも分からねえ荒療治を思いついた。



「エリス……じゃあ葬式には出なくていいから今から俺について来いや。」



「えっ、こんな夜から何よ?まあ、仙人も元気になって余裕もあるからいいけど。」




よし、かかったな!なんて心の内では笑いながら俺はエリスを夜の駄菓子屋に連れて行った。







駄菓子屋には相変わらず異様な空気が漂っていた。




「アイス売り場の中を見ろ!キヌタニはこんな酷い死に方を……。」



正直、もうこんなキヌタニの姿は見たくなかった。




「うわぁ、グロい……でも何だかお似合いだわ。」





ーーお似合いだって?お前がそうしたんだよ、エリス!ーー



夕方と同じで頭の中に声が響いてきた。



「何これっ!頭が……痛いっ!!」



俺の隣でエリスが頭を抱えていた。





ーー僕のこと、死んでも何とも思ってないんだよね?あれだけ僕のことを虐めても可哀想だなんてこれぽっちも感じなかったお前なら当然かな?ーー




ガタン!



駄菓子屋の奥で何かが落ちる音がした!



「ひいっ!?な、何の音よ!?おいキヌカス!死んでもなお他人に迷惑かけるつもりなの!?」



エリスは痛みでしゃがみこみながらそう怒鳴った!





ーー迷惑だって?お前が一番迷惑だったよ!!お前さえいなければ……あの時、滝壺でお前を殺せていれば!!僕はこんなことにならなかったんだ!!!!ーー




次の瞬間、商品棚から雪崩のように売り物が飛び出してきた!



「ぎゃあああっ!!ヤムチャ!!これドッキリにしてはタチが悪すぎるわよ!!」



もちろん、これはドッキリなんかじゃなかった。



「知らねえよ!!」



不覚にも怖くなった俺はエリスを置いて逃走した!!


背後では商品棚がひっくり返った大きな音がした!



「ちょっと……助け……、」



エリスが息絶え絶えになったのが感じ取れたが、無視して集会所まで全力疾走して戻ってきた。







 集会所まで戻ってくるとまだ誰も家に帰っておらず、食器の片付けとミーシャの足のリハビリの最中だった。



「ヤムチャ早かったな。って、エリスはどうした?」



一応、夕方に俺が経験した怪奇現象のことはシンタローだけにしか話してなかった。



「さあな、キヌタニに虐められてるんじゃねえか?」



「うんヤムチャ、死人にいじめられるなんてありえないよね?」



 当たり前のことをくじらんがツッコんで来たが今回ばかりは事実なんだよな……と思いながらそれは言わないことにした。



「まあエリスのことは気にするな。それよりフジモン、ミーシャのこともそうだがキヌタニのことをお願いできるか?」



「そうか、それもやらなくちゃいけないね。くじらん君、今僕がやったようにミーシャ君のことお願いできるかな?」


「うん、俺に任せてフジモンは行って来なよ。」




「仙人、家まで送るか?」


「いや、今夜はもう少しお前たちと一緒にいたい気分なんだ。私はここでミーシャのリハビリを見学するとしよう。」



「うわあ……何か言い方が嫌だわ。」



ミーシャは仙人に文句を垂れていたが、俺とフジモンは再び駄菓子屋に向かうことにした。








 駄菓子屋の空気はもうこの時が最悪だったな。

入口に近づくことすら躊躇っちまった。




「な、何だか……廃病院みたいな空気を感じるんだが大丈夫かい………?」



 医者だとしてもどうして廃病院の空気を知っているんだこいつは……何て思ったがそんな考えはすぐに頭の中から追い払った。



「大丈夫かは知らねえが夕方からずっとこんな感じでな。キヌタニの遺体を運び出したらすぐにここを離れるぞ!」



俺たちは両側から駄菓子屋の入り口を覗き込んだ。



「えっ!?え、エリス君!?」


「何か……俺の予想を超えて酷い目に遭ってやがったな。」



 エリスの周囲には弾薬やら胃薬やら駄菓子屋の売り物が散乱していて、どういうわけかエリス自身は手足を鉄条網で縛られてアイス売り場の上でぐったりとしていた。




「考えるのは後だ、アイス売り場のワゴンごと運び出すぞ!」


「わわ、分かったよ!い、一体どうなってるんだい!?」






 混乱しているフジモンと一緒に、キヌタニの遺体が入ったワゴンとその上に乗っていたエリスを異様な空気が消えるくらい遠くまで運んできた。





「随分と駄菓子屋が荒らされていたじゃないか、あれはエリス君の仕業なのかい?」



「あーー……そういうことにしておいてくれや。」



本当のことを言うとフジモンがパニックになっちまいそうだったから誤魔化しておいた。




「とにかく時間が惜しいから、店主の遺体を明るいところへ持っていきたいな。」


「近いのはエリスの家だな。ワゴンごと動かすのは重いがキヌタニが腐っても困るからよ。俺がこのまま持っていくからお前は先にエリスの家に行って準備しててくれ。」



と言うわけでエリスの家でキヌタニの手術をすることにした。





 フジモンの手際は相変わらず見事なもので、2時間もかからずに骨折は治せないまでも、キヌタニの体の傷跡は見えなくなった。



が、途中で一つアクシデント……は大げさだがちょっとしたハプニングがあってだな。





「おいおい!エリスが拷問されてるがこれは一体何なんだ!?」


「エリスおばさん!なんでいじめられてるの!?」



 集会所から帰ってきたシンタローとくーちゃんが家の前に放置されていたエリスを見て驚いちまったようだ。



「ああ……エリスに構ってる余裕がなくてな、気になるなら鉄条網は外しておいてやれ。言っておくが俺とフジモンは無関係だぞ?」



 そう言われた二人は目が「?」になっていたが嘘はついてねえし、本当のことを言うとホラーすぎるからな、黙ってるしかなかったんだぞ。



「まあ……外しておくか。手術室には入らないほうがいいんだよな。」


「もう少しかかりそうだからな。くーちゃんを頼むぞ。」



「分かった……じゃあ俺はくーちゃんと風呂にでも入るか。」


「わーい!にーちゃんとおふろはじめてだね!!」





これはさすがに前言撤回だった。




「いや、シンタロー。それは俺の仕事だ。お前はフジモンの助手を頼む。」



俺はパリコレモデルのように歩いて、その場で一回転しシンタローに詰め寄った。




↓ちなみに当時の俺の思考はこんな感じだった。





別にくーちゃんと風呂に入りたいわけじゃねえ。だがこのあたりで風呂に入っておいた方が明日の葬式をスムーズに進められるという結果が相対性理論からは導かれる。というかシンタローみてえな一見無害そうなタイプが潜在的には一番危険で犯罪の温床になっちまうからシンタローとくーちゃんが一緒に風呂に入るなんていかがわしい以外の何物でもねえぞ!!それにもし、くーちゃんとシンタローが仲睦まじくなるなんてことになったらこの森の、いや世界の空間の安定性が崩れて宇宙が大爆発しちまうかもしれねえ!そんなことになってたまるか、俺はくーちゃんとこの世界を守ってやるぜ!





「おい、ヤムチャ。」


「ん、何だ?この世界は俺が守るぞ?」



「……いいから主治医のところに戻れ。」




俺は真顔のシンタローに回れ右をさせられ、フジモンのところ(手術室)に蹴り戻された。



「うおっ!?し、シンタロー!てめえは世界を滅ぼすつもりか!?」



そう言った瞬間、俺とフジモンがいる部屋のドアが勢いよく閉まった。




「ヤムチャ君?世界がどうとか……一体何の話をしていたんだい??」


「ああ……俺はまだ入院してろってことらしいぞ。」




「うん?本当に何の話だい??」





……何てことがあったが、無事に手術は終わったわけだ。



で、キヌタニを駄菓子屋に戻して、エリスをベッドに投げ込んで今日の朝のことだ。






俺は葬式の準備をすべく、みんなより早めに駄菓子屋へ向かった。


駄菓子屋の空気はまだ淀んでいたが、頭痛がするとかキヌタニの声が聞こえてくることはなかった。




だが一つだけおかしなことに俺は気がついた。



 商品棚がメチャクチャになっていたのは前の夜からだったが、アイス売り場のワゴンが横倒しになっていやがった。



どうして倒れてやがる?そう思いながらキヌタニの様子を見た俺は亜然とした。




 アイス売り場の中のキヌタニは苦悶の表情を浮かべていたんだ。

昨日までは眠ったように安らかな表情だったのによ。




「まさか……生き返ったとか!?」



俺は恐る恐るキヌタニの体に触れてみたが奴の体はアイスのように冷たかった。



 さすがにそんなことはねえだろうと思いながら、表情が変わったのは奴の幽霊の仕業なんだろうかと考えていた。





俺は奴の体にバスタオルを巻いて棺に移した。



「体を腐らせねえためとはいえ、寒かっただろうな……。」



俺はキヌタニの表情を手で直しながらそう言った。





で、回想は終わりで今に至るってわけだ。





「ガソリンと着火剤と……花は冬だから摘んでくるのも厳しいな、何か棺の中を飾ってやれるものはねえか?」



俺は駄菓子屋の中で売り物を探し回り、ドロップ缶を見つけた。



 一瞬考え込んだが冬だから溶けないだろうし、これでいいだろうと思って棺の中にキャンディをばら撒いた。






「ヤムチャ、もう来ていたのか。」



その途中で杖を使って歩いてきた仙人に話しかけられた。


 いつもはスパンコールにイルミネーションをつけた服を着ていたが、今日ばかりは普通の黒い服を着ている……そんな服も持ってたんだな。




「仙人……随分と早いじゃねえか。」



「ああ、私もキヌタニの顔をしっかりと見ておきたくてな。」




仙人は棺に近づいて、そしてこう言った。




「……ヤムチャ、キヌタニが死んだのはいつのことなんだ?」



「いつって……襲撃の時だが?」




「……こんなことを言うべきではないかもしれない。だが言わせてくれ。キヌタニの体には死後硬直がある。」



仙人はキヌタニの僅かに丸まった手を見て、更に続けた。



「私の見立てでは死後数時間しか経ってないように見えるぞ?昨晩、キヌタニの遺体を綺麗にしたと聞いたが……。」



俺の頭の中にとても嫌な思考が浮かんだ。





キヌタニは昨夜、息を吹き返した。


だが手足は折れて、アイス売り場から出ることが出来ずにそのまま凍死した……。




そんなシナリオを思いついた俺に仙人は言った。



「悪かったヤムチャ、やはり言わないほうが良かったな。これは私たちだけの秘密にしよう。……それから硬直した体を見せたら、医者のフジモンは間違いなく勘付くだろうな。棺の蓋は顔だけ見せて閉じておこう。」



「……ああ。」





もう、愕然とした。



助けられたはずの仲間を自らの手で……。




そしてそれを隠蔽するなんてよ。



だが俺は森のリーダーだ、立ち止まっていることは許されねえ。




「よく気づいてくれたな、悪いだなんて思わねえでくれよ。もしここで黙ってられたらフジモンにそれを見抜かれてみんな大騒ぎになっちまってただろうからな……。よし、そろそろみんなも集まるだろ。仙人、駄菓子屋に車椅子があったから無理せずに座っておけ。」



「気を使わせてすまないな、ここは素直に甘えるとしよう。」



俺たちはみんなを待つことにしたぞ。








「これで全員……いや、エリスはどうしたんだ?」



 皆がぞろぞろと集まって、地味な色の服に身を包んだ仲間たちの中にエリスの姿がないことに俺は気がついた。



「それがね……『葬式なんて行ったら呪われるわよ、絶対嫌だから!』って朝からベッドに籠もりきりらしいのよ。」



車椅子に座っているミーシャはため息をついた。




「エリスおばさん、ほんとうにこわがってたけど……しんぱいだな。」


「昨夜は何か酷い目にあったようだが、それと関係あるのか?」



シンタローは昨日の鉄条網を巻かれたエリスの姿を思い出したらしい。



「まあ、どうだろうな?今は気にすることじゃねえ。……じゃあみんな、キヌタニの顔を見れるのは今日が最後だぞ?よく目に焼き付けておけ。」



俺がそう仕切るとみんなはキヌタニの棺を取り囲んだ。





「まさか見慣れたこの顔が見れなくなる日が来るなんてな……。」



シンタローは冷たくなったキヌタニの額を撫でた。





「ずっと一緒にこの森で暮らしていくものだと思ってた……人生って何があるか分からないけど……悔しいわよ!」



ミーシャは棺の縁を強く握る。





「ねえキヌタニ、いつも駄菓子屋に転がって入ってきた俺にポテチを渡してくれたこと覚えてる?当たり前のように受け取ってたけどずっと感謝してるよ、これまでも……これからもね……。」



くじらんは目に涙を浮かべてキヌタニの顔を覗き込む。





「なあキヌタニ、お前が俺たちのことをどう思ってたかなんて知らねえよ?それでも俺は、俺たちは……お前のことを替えの効かねえ仲間だと思ってるんだぜ!!死んだって何も変わらねえ!それを忘れるなよ!!」



俺は……笑えているだろうか?



とにかくみんなに悟られまいと振る舞っているが……。




そして、ボロがでる前に葬式を終わらせてしまいたい。



あいつの魂を鎮めるために葬式をしようとしたはずなのにこれじゃあ意味がねえよな。




「じゃあみんな、火葬場まで行くぞ。」



俺とくじらんで棺を担ぎ、遺体置き場になっている場所までみんなで歩いた。



 一応、くーちゃんはここでシンタローに目隠しをさせられて残酷な風景を見せないようにしっかり配慮したぞ!







遺体置き場はかなり異臭がしてこのまま放置したらさすがにヤバいと本能的に分かった。



「なんかへんなにおいするけどここはどこなの?」



「ここはね、亡くなった人を天国に送る場所なの。だからちょっと普通の場所とは違うのよ。」



動揺しているくーちゃんをミーシャが諭してくれた。




「くじらん、ここに棺を置くぞ。」



遺体置き場のど真ん中に棺を置いてフジモンと二人でガソリンを撒いた。




「さあみんな、天に祈りを捧げんだぞ。キヌタニがちゃんと旅立てるようにな。」





キヌタニ………すまねえ。



心の中で呟いて俺は着火した。





ボォォォォ!!と轟音を上げて大きな火の手が上がった。


それを確認して俺もみんなと同じように目を閉じて合掌した。





どのくらいそうしていただろうか?



炎の勢いは収まるところを知らず、12月なのに暑いと感じるな。





その炎の燃える音に混じって違う音が聞こえてきたような気がした。




 目を開けてあたりを見渡すと、みんなもどこか落ち着かない様子だったからどうやら俺の幻聴ではなさそうだが………。





「ひいっ!?な、何あれ!?」



突然に、声を上げたのはくじらんだ。



彼は燃え盛る炎の中を指差して、みんなもその方向を見た。






俺たちは見ちまった。



キヌタニの入っていた棺からは『何か』が飛び出ている。




いや、何かなんて言い方は逃げだ、あれは明らかにキヌタニの上半身だ。




「ぅぁ………ぁ…………ぁ……!」




手足も動かせず体を起こすことが精一杯だったキヌタニは焼かれながら呻いている。




炎越しだから本当かどうかなんて誰にも分からねえ。




でも俺には……あいつが呻きながら俺たちのことを睨んでいる、そう見えちまう!





「う、嘘………だろ………冗談……だよな。」



シンタローはその場で座り込んでしまった。




「ねえ、あれは何なの……?も、もしかして幽霊……いや、きっと幽霊よ!幽霊の仕業なんだわ!幽霊であって……!!」



お化けの類が大の苦手なミーシャですら、笑いながら涙を流してそう叫んでいる。




「そんな残酷な……二度死んでなお、こんな仕打ちとは……。神なんて存在するわけもない……!」




仙人はこの光景を見て体を震わせている。







「ゆ  る  さ  な  い」






微かな声と口の動きからキヌタニがそう言っていると感じ取れた。




そして彼は仰向けに倒れて炎の海に沈んだ……。






「あ……あ………!な、なんてことだーーぁっ!!僕が……僕が死亡確認を怠ったから!!僕のせいだー!!うあああー!!!!」



フジモンは生き返ったのかもしれないキヌタニを見て叫び、錯乱して何処かへ走り去って行った。



 キヌタニの遺体を戦車の残骸から引っ張り出した時、ドーベル将軍が生きてることに驚いてキヌタニのことをそっちのけにしちまったんだ。



 もしあのタイミングでフジモンがきっちりと奴の体を調べていれば……いや、これはフジモンのせいなんかじゃねえ!!



色んな事が重なった結果だった……だとしても!!!




それからずっとアイス売り場の中で……!!




今考えるとそれこそ本当に許されねえことを……しちまった!



俺もエリスも駄菓子屋であんな体験をさせられたが、当然の報いだったな……。





「ねえ、みんな!?そんなにおどろいてどうしたの!?」



目隠しをされて状況が全く理解できないくーちゃんは困惑していた。



「くーちゃん、ダメだ!」



周囲の様子を確認しようと目隠しを取ろうとしたくーちゃんを仙人が止めようとした。



だが少しだけ遅かった。




「えっ……ああ……いやだ!!いやだっ!!!!!ママ……!!やだぁーーっ!!!!」



くーちゃんは怯えるようにその場から逃げていった。

 


遺体の山が燃やされているのなんて見たら無理もねえよ。




残された俺たちはその場で呆然とすることしか出来なかった。 







そして、しばらく考え込んでいたのかもしれない仙人が口を開いた。




「……お前たち。平常心を保てなどと無理なことは言わんよ。だが、やるべきことを見失ってはいけないぞ。立ち止まっている場合ではないはずだ。」



そう言われてみんな顔を上げた。




「そうだよな。まずは……フジモンとくーちゃんを見つけないとな。くーちゃんを連れ戻すためにタッキーに声をかけてくる!」



シンタローはそう言い残して走り去った。




「じゃあ俺はフジモンを探してくるよ、こっちの方向だったよね?」



続いてくじらんもフジモンの走り去った方向に向かった。





そうして俺とミーシャと仙人が残された。





「私は、何も出来ないのね……。こんな足じゃ……!!」



ミーシャは自分の脚を引っぱたいた。



「ミーシャ、フジモンも言っているだろう。すぐに良くなるとな、だからお前のやるべきことはリハビリをして早く歩け……、」


「歩けるようになんてならないわよ!!!」



仙人の言う事を遮ってミーシャは叫んだ!!




「あいつやっぱりヤブ医者よ!!確かにもう傷跡も薄くなったし痛くもない。でも!もう違うの!!私にくっついているのは自分の脚じゃない別物の何か……この前夢を見たわ。自分の脚が化け物になって……みんなを喰らい尽くすの!一度壊れたものはもう元に戻らないのよ!!!」




最後の方はほぼ悲鳴だった……。




そこまで言われて仙人も返す言葉もなしというように下を向いてしまった。







死人は帰ってこねえ、この襲撃もなかったことにはできねえ。



今だってみんなボロボロだ……。




「もう全部滅茶苦茶だ……。どうすりゃいいんだよ……?」



そんな言葉が自然と口からこぼれ出た。







100エーカーの森はもう崩壊寸前だ。




森のリーダーだなんて関係ねえ。




完全に、俺も心が折れちまったよ。




もう今までの日常は絶対に帰ってくることがないんだからな……。




どれだけ求めようとももう手に入らない。









それでもいつかは立ち直ってみんなを引っ張っていかなきゃならない。




でも今は、せめて今だけは……、




何も考えることなくこの炎をただ見つめていたいんだ。






               第4章  悲劇の寸法線

                            END

 どん底にいると思われた森の住人たちに待っていたのはさらなる悲劇……。

彼らが立ち直ることは可能なのでしょうか?


 しかし、この小説のタイトルは100エーカーの森の「悲劇」です。

こんなもので悲劇とか大仰なことを申し上げるつもりはないですよ??



ところで皆さん、誰か忘れていませんか?


そう野生人のおじさんは森に帰ってきませんでした。



 一体どこで何をしているのやら………。

そのうちどこかでまた会えることでしょう。



5章で物語は一区切りがつきます。


それぞれの思惑が一斉に動き出し、物語がとてつもないスピードで突き進みます。



(※風呂敷を全部回収することは出来ないですが……(汗))



フジモンやエリスは100エーカーの森から抜け出せるのか??


錯乱してしまったよしだくんと記憶喪失のドーベル博士は再会することができるのか?


ミーシャは再び自分の足で歩けるようになるのか?


そして混沌とした100エーカーの森でゴミ扱いされてきたゴミ人間、スタークの運命は?



次々と明らかになる事実に彼らは振り回され、絶望の底で己の定めを嘆く……。



さあ、第一部は次章がクライマックスです!悲劇と向き合う覚悟があるならまたお会いしましょう!

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