4-22 絶望の森 前編
ーー前回のあらすじーー
静けさを取り戻した100エーカーの森で目覚めたチッダールタは森の様子を見て回った。
スタークは相変わらず元気に吠えていて、タッキーはそれに呆れていた。
ミーシャの家の近くではよしだくんとヤムチャが倒れていた。
ヤムチャは火傷を負っていて、チッダールタは彼に治療を施した。
そうこうしているうちにシンタローとくじらんもやって来て、北東で起きた爆発音の原因を確かめに行くこととなった。
崖下には金属の塊が鎮座していてそれが何なのかを確かめようとしたが、突然よしだくんが駆け寄って来て火の手が上がっている場所へ突っ込もうとしたので、全員が慌てて止めた。
するとその塊からドーベル将軍の声が聞こえて来て、最初こそ驚いていたもののしばしの間よしだくんとの会話を見守っていた。
遂に戦車が火のついた高木の下敷きとなって一同がいる場所も危険になった時、ヤムチャが駆けつけて彼らは何とかその場から脱出することに成功した……。
襲撃は……双方の陣営に多くの犠牲を生みながら終焉を迎えた……。
人々は何のために争い続けるのでしょう?
名声、権力……理由は様々でしょうが。
争いが起きる時、本当にそれで得られるものが失うものよりも大きいのか……。
権威のある方には考えて頂きたいものです。
でも考えた上でどうしても欲しいものがあるとするならば……。
もう誰にも止められないでしょう。
作者もどうにかして読者の皆さんを混沌へと陥れたいので、もう止められません。
大人しく、カオスな世界に堕ちてください!!(満面の笑み)
悪夢のような襲撃から数えて7日目……。
襲撃がこの森に残した爪痕は大きすぎる………。
森のリーダーとしてこのヤムチャがどうにかしてみんなを引っ張っていかなきゃならねえ……。
さて、この1週間の出来事をどうやって振り返るべきか分かんねえぞ………。
まあ、時系列順が一番確実だろうな。
じゃあまずは襲撃当日の午後だ。
よしだくんは俺の肩の上で1時間以上暴れ続けていたが、次第に元気がなくなってついには抜け殻みたいになっちまった。
「一人にするのも心配だが……また暴れ回られても困るな……。それに育ての親が襲撃の親玉となれば放置しとくのもよ……。」
「ならエリスの家のシェルターにでも入れておけばよいのではないか?何もないし外から鍵がかかるから閉じ込めておくには都合が良いのではないかな?」
チッダールタに言われて俺もそう思ったぜ。
「そうか、フジモンとエリスを外に出してやらねえとな。あんな狭いところにずっと大人二人を押し込んでるのも可哀想だからよ。」
『そういえば駄菓子屋にミーシャさんを置いてきたままではないですか?応急処置をしたとはいえ、大怪我をしているようですしフジモンに見てもらった方がいいのでは?』
「えっ、ミーシャ大怪我してるの!?」
「ああ、あれは間違いなく大怪我だ。……応急処置をしたのは敵の医療班の人間だけどな。」
仙人にそう言われて俺は大層驚いちまった。
「敵がミーシャの応急処置だぁ!?俺らを殺しに来たはずの奴らがそんなことするなんておかしいだろうが!!」
「いや、でも俺らも敵から『命を取るつもりはない』って言われたんだ………。」
「俺なんて崖から落ちたところを助けられたしね、落ちてたら死んでたよ……。気絶はさせられたみたいだけど気が付いたら洞窟の中にいて……安全な場所に運ばれたんだと思うけど………。」
シンタローとくじらんまで訳分からねえことを!って思ったな。
「これじゃあいよいよ敵が何をしたかったのか分からねえ……。だが隊長……ドーベル博士は『目的は既に達成された』って言ってたな……つまりは俺たちに危害を加えることなんてどうでも良かったってことかよ!だがっ……!!」
俺はその先を口に出すことがすごく嫌だった。
「キヌタニ…………!!あいつは……!博士と一緒であの戦車の中に………!!!」
そう言うと3人と1頭に衝撃が走った。
「えっ……き、キヌタニが………!?」
「どういうことだよ!!駄菓子屋で拘束されてたはずだろ!?」
「済まない、私のせいだ……。駄菓子屋で気絶させられて、その隙を突かれたのだろう……。」
タッキーは何も言ってなかったが、と言うか今後喋ることはなかったが動揺していたようだ。
「て言うか仙人はミーシャと駄菓子屋にいたんじゃねえのか!?気絶させられたならその間にミーシャも……!!!」
シンタローのそんな発言を聞いて俺の背中も恐怖に包まれた。
「いや、先ほど目が醒めて敵がいなくなったことを確認したがミーシャはちゃんといたぞ?」
「な、何だ……でもキヌタニが……だから良くはないよね。」
「いずれにせよ、治療が必要そうなら駄菓子屋に向かった方がいいんじゃねえのか?」
「そうだね、まずはみんなでミーシャの様子を見てこようか。お互いが生きてるってことをこの目で確認しないと安心できないし。」
そういうわけでみんなして駄菓子屋に直行したら仙人の言う通り、ミーシャは一人、脚に大量の包帯を巻かれて眠っていた。
それを確認した俺たちはエリスの家に行き、フジモンとエリスをシェルターから出すのと交代でよしだくんを放り込んできた。
そしてミーシャが大怪我しているからフジモンに診てほしいと伝えると、本当に心配だったのかエリスまでついてきた。
「どうしてこんなことに………!!ねえ、ミーシャ!死んじゃイヤよ!!!」
珍しくスターク以外の他人の心配をしていたエリスは目を閉じたままのミーシャの体を揺さぶった。
「エリス君落ち着いて!死ぬような傷じゃない!だけどこれは酷いな……骨までやられてるから本格的に手術が必要かもしれない……。」
「私も手伝うわ!!何をすればいいの!?」
本当にエリスは別人みたいになってたな……。
手術の助手を申し出るなんて今までのあいつにゃ考えられなかったのによ……。
「でもエリス君…さっきから頭痛がするって言ってたじゃないか、そんな状態で出来るのかい?」
「私のことは気にしないで!早く準備して!!」
もうエリスの方が執刀医なんじゃねえの……?
って思うくらいに頼もしかったな。
「俺たちも何かした方が良いか?」
「じゃあ綺麗な水とそれからガーゼや消毒薬を集めておいてくれ。僕はよしだくんの家から道具を取ってくるよ!!」
フジモンは重そうな体を揺らしながらよしだくんの家へと走っていった。
5分後………。
ふとよぎった俺の嫌な予感は的中しちまった………。
「やややヤムチャ君!よしだくんの家に行くまでに大量の遺体が転がってたんだけどあれはどういうことだい!!!」
………まあ、正常な人間の反応だよな。
むしろよくよしだくんの家まで行って戻ってこれたもんだ……。
「フジモン………それだけ激しい戦闘があったんだ………。医者のお前にとって大量の死者が出てるなんて見てられない光景だったかもしれねえが……あれが現実だ。」
「シンタロー君………分かったよ。医者は死人を生き返らせることはできない。なら、目の前の怪我人を救うだけさ。」
この時のフジモンは驚くほど切り替えが早くて冷静だった。
………こいつのことを信用してないミーシャにも見せてやりたかったぜ。
「フジモン早く始めるわよ!」
「よし、準備は出来てるね。じゃあ他のみんなは駄菓子屋から出て行って欲しい。この手術、かなり厳しいものになりそうで集中したいんだ………。ああ、さっきはスルーしちゃったけどくーちゃんを迎えに行ってあげたらどうかな?まあ、家の外の光景はとても見せられないけど……。」
「分かった………ミーシャのこと頼んだよ!」
俺たち4人と1頭は駄菓子屋を後にした。
駄菓子屋を出た俺たちはよしだくんの家にくーちゃんを迎えに向かった。
そして雪の降る寒空の下を歩きながら話していた。
「駄菓子屋に居なかった……じゃあ本当にキヌタニは………。」
シンタローが思い出したかのように口を開いた。
「くそっ……何でだよ!!キヌタニを連れ去った理由が分からねえ!!!」
「しかし、博士は『目的は既に達成された』と言っていたのだろう?もしかしたら………キヌタニが今回の襲撃と関係あるのではないか?」
仙人にそう言われて俺は未来から来たキヌタニのことを思い出した。
「以前キヌタニは未来でこの森が焦土になっちまったって………言ってやがった。そんな運命を変えるためにあいつはこの時代に来て、そして殺された。そしてこの時代のキヌタニも………あいつは何か俺たちも知らない情報を持ってたのか?」
「確かに。その情報を私たちに知らせまいとヴェルト・マスリニアはキヌタニを消すために今回の襲撃を実行した………。そして未来から来たキヌタニも恐らく奴らに………。」
俺の発言に加えて仙人の補足が合わさった時、その場の全員が納得の行く表情をした。
「それは正しいとして……でもさ、」
次にくじらんが口を開いた。
「運命を変えようとしたキヌタニが奴らに殺されたってことは……やっぱりこの森は焦土になっちゃうってこと……?」
そして全員が凍りついた。
「確かにそうなってしまうな……そしてこの森を滅ぼす、という言い方をするが……犯人はヴェルト・マスリニア、になるのかな?」
「そうなるだろうが……じゃあ何でこの森はこんなに攻撃を受けるんだ?」
「確かに根本的な原因自体は何も分からねえんだよな……。これからどうするべきなのかも……クッソ、分からねえことだらけだ!!」
そう言いながら拳を前に突き出したらガシャン!と何かが壊れちまった。
目の前を見たらよしだくんの家にもう到着していて、玄関のドアが粉砕されていた。
「あー…………やっちまった。」
と、家の奥にあるシェルターの扉が少しだけ開いた。
「あっ……おじさん!!」
その隙間からくーちゃんが外の様子を覗いていた。
「タッキー!!みんなも!!」
くーちゃんはシェルターから飛び出してきた。
「わあああーーーん!!!ひとりでこわかったよぉー!!!」
そしてシンタローの胸に飛びついた。
………正面にいたのは俺なんだがなぁ………。
ビビビビー!!
俺とくーちゃんが3m以内に接近してブザーが鳴っちまったんだ………。
これどうにか出来ねえのかってイラついたな……。
「う、うるさいっ!ヤムチャ、体借りるよ!!」
くじらんが突然俺の体をまさぐり始めて、さらには背中に正拳突きを食らった!!
「ぐほっ!!!なな、な、なにしやがる!!……あっ?」
唐突なことに驚きこそしたがブザーの警報は止まってやがった。
「ほう、ブザー自体を破壊したのか。まあ、今は必要ないだろう。………と、くーちゃん。少しだけ顔を借りるぞ。」
「お、おじいちゃん?何するの!?」
仙人はどこからかハチマキを取り出してくーちゃんに目隠しをした。
「外の光景は少し刺激が強いのでな………。少し視界を遮らせてもらうよ。さて、建物の中で落ち着きたいところだが……集会所にでも行こうか。」
俺たちは血糊でベチャベチャになった道を進んで集会所に向かった。
集会所も銃撃戦でかなり荒れていたな。
きっとミーシャはそこで戦っていたんだろうぜ。
それでも屋根は無事で壁も何箇所か銃弾の跡があるくれえで、ガラスこそ割られていたが建物としての体裁はまだ整ってたぞ。
集会所に着いた途端に仙人とくじらんは体力の限界だったのか休みたいと言い出してな、別に止める理由もねえし、フジモンが集会所で寝泊まりしてた頃のベッドで眠ってもらった。
くーちゃんにはミーシャとよしだくんの所在を聞かれたが、とりあえず少し怪我したからフジモンに診てもらってるという嘘をついておいたぞ。
その後、くーちゃんはタッキーとじゃれて遊んでいて、俺とシンタローは今後のことについて少しだけ話をした。
「ずっと平和に暮らしてきたのによ……。移住も考えなきゃならねえのか………?」
「移住って……どこにだよ?そんな場所あるとは思えないけどな。」
「そうだよな…………。いっそのこと穴でも掘って地下で生活するか………?」
「そんな、どうして俺たちがそんなここを譲るような真似をしなくちゃならないんだよ!侵略者なら追い返せばいいだろう?」
「確かに向こうの被害は甚大なはずだ。だがな、こっちも仲間を一人失ってるんだ。ミーシャも大怪我してるしよ……。悔しいがもし相手の目的が俺ら全員の抹殺だったら……この程度じゃ済まなかったろうよ。」
「…………………。」
「現実を見ろ、どれほど受け入れ難くてもだ。そうでもしなきゃ俺たちの未来はないんだぞ?」
シンタローが黙っちまったからこの話は止めにして、とりあえずあの遺体の山をどうするかということに話題を逸した。
とてつもない数だから地下にある死者の奈落も使えないだろうし、どこか一箇所に集めて埋めるしかなさそうだなということになったぞ。
フジモンが空から降ってきたクレーターはそれに丁度いいだろうということでそこに遺体は集めることにした。
そのくらいで俺もシンタローも疲労してたから一度別れて休むことにした。
シンタローは自宅に帰ればよかったが俺は家が無くなっちまったからな、よしだくんの様子を覗くついでにエリスの家で休むことにしたぞ。
くーちゃんはシンタローに、不本意ながら任せることにしたぜ………。
「博士……どうして……………博士……。」
エリスの家のシェルターからはそんな呟きが延々と聞こえてきた。
もちろん心配だったが声をかけられそうな状態でもなかったな。
俺が寝て起きたら少しはよしだくんも落ち着いてくれることを祈って眠ることにした。
俺が目を覚ますともう空は暗くなり始めて、雪は雨に変わってやがった。
この雨は三日三晩降り続いて密林の火災を鎮火させた。
あのまま燃え広がってたら大変なことになってただろうな………。
俺は再びよしだくんの様子をシェルターの外から窺った。
「俺は……ここにいる意味があるんだろうか……。あの時、俺が博士と一緒に行けば……。」
よしだくんの考えが良くない方向に行っちまってるのは分かったが俺にはどうしょうもねえと思ってそっとしておいた。
次に気がかりに思ったのはミーシャだ。
フジモンの手術が上手く行ったかどうか……邪魔しちゃダメだと分かってても気になった俺は駄菓子屋に行くことにした。
駄菓子屋には既にくーちゃんとシンタローが訪れていた。
「おねえちゃん………こんなのひどいよ。」
手術を終えたミーシャを見てくーちゃんはショックを受けていた。
「ヤムチャ君も来たかい……出来る限りのことはしたよ。……右足は刺されていただけだからすぐに良くなる。でも左足は……銃弾で予想以上に骨が砕かれていてね。もう今まで通りには動かないかもしれない。可能性はゼロじゃないから可能な限りのリハビリの協力は惜しまないよ?でも……本人にはすぐに良くなるって言っておいてくれないかな……?」
フジモンは本当に悔しそうな表情をしていた。
きっと今までは完璧に色んな手術をこなしてきたんだろうな。
「分かったぞ。みんな、ミーシャの足はすぐに良くなる。いいな?」
俺はその場にいた全員に口止めをした。
「でも気が付かれないかしら?自分の体のことだもの、悟られるのも時間の問題だと思うけど。」
そこにエリスが横槍を入れてきやがった。
「その時はその時だよ。それまでは………お願いだ。」
辛そうなフジモンの顔を見て誰も反論出来なくなっちまった。
「俺も協力する……とりあえず二人とも手術ご苦労だったな。それでヤムチャ、よしだくんの様子はどうだ……?」
シンタローにそう聞かれて俺は少し言葉に困っちまった。
「そうだな……やっぱりショックがでかすぎると言うか、しばらくはそっとしておいてやったほうがいいだろうな……。」
「よしだくんもけがしてるんだよね?どこにいったの?」
そして先ほどくーちゃんについた嘘がツケとなって自分に返ってきちまった。
「心のケガかな……今はみんなと会いたくないんだってさ。だから今は一人で休んでるよ。」
「うーん……しんぱいだけどおみまいもダメ……だよね。」
シンタローのフォローで何とかここでは誤魔化すことができたぞ。
「とりあえず今後のことをみんなで色々話さなきゃならねえ……。集会所からくじらんと仙人を連れてくるからここで待っててくれや。」
俺は集会所に二人を起こしに行ったが、仙人にはまだ動けそうにないと言われちまったからくじらんだけを駄菓子屋に連れてきた。
店主のいなくなった駄菓子屋は少し前から品揃えがかなり悪くなっていたが、残っていたもので晩飯にして、くーちゃんが寝てから……だからかなり夜遅くでその頃にはミーシャも目を覚ましていたが、お互いに把握していることを共有したぞ。
・よしだくんの育ての親が今回の襲撃の親玉で、戦死しただろうということ
・それを目撃したよしだくんは結果として精神的にかなり不安定であるということ
・キヌタニが敵に捕まり、命を落としたであろうこと
・キヌタニを捕えることが敵の目的だった可能性が高いということ
・くじらんやシンタローは敵に命を取るような真似はしないと言われた一方、ミーシャは本気で殺されかけたということ
・野生人のおじさんの行方が分からないこと
こんなところだろうな。
ドーベル将軍のこともキヌタニのことも………知らなかったミーシャたちは本当に衝撃を受けていた……無理もねえ。
「そ、そう言われれば駄菓子屋に店主がいないじゃないか!」
とかフジモンは叫んでいたが、何であいつはそれにずっと気が付かなかったんだろうな……。
それから……よしだくんに対する不信も高まったな。
俺はよしだくんのこと信じたいけどよ……。
だが明らかになった事実を突きつけられたらな……。
シンタローもエリスもよしだくんを尋問すべきだって言っててよ……。
ミーシャやフジモン、くじらんはそれに反対してたが、俺は一度しっかりとよしだくんを問いただす必要があると思うぜ、それが可能な精神状態かというのは別問題としてな。
後はキヌタニと敵との関係についても話題に上がったな。
未来と現在のキヌタニは二人とも死んじまった、この森の未来と敵のことを知っていたはずのキヌタニから情報を聞き出すことはもう出来ねえ………。
だが、フジモンは一つ仮説を示してくれたぞ。
「キ……えっと、店主は駄菓子屋の品物をどこから仕入れているのか……誰にも教えたことがないって言ってた。それは知られたら何か不都合なことでもあったからなんじゃないかなと思うんだ。」
「不都合なことって何なの?」
「仕入先では人殺しが平然と行われている……そんなことが分かったら君たちはどう思う?駄菓子屋では何も買いたくならなくなるんじゃないかい……。」
だがフジモンは重要なことを見落としていたな。
「いや、そもそも私たちは駄菓子屋で何か買ってるわけじゃないし。それに仕入先なんてどうでもいいわよ、無いと生活に困るんだから。」
ミーシャがつかさずフジモンにツッコんだ。
まあ、これには俺も同意だな。
お金を払うわけでもねえし、駄菓子屋のアイスが無い生活なんて想像出来ねえからな……。
これからどうやってアイス無しで生活すればいいんだか……。
それは置いといてだ。
「そうかい………店主はそれを気にしていて黙っていたと思ったんだけどな。話を続けると、ある日相手方と仕入れ関連のことでトラブルになった。話し合いじゃ解決できず、とうとう武力衝突に至った。……どうかな?」
どう、と言われてもなぁ……ってみんなも考えていたと思うぞ。
「色々言いたいことはあるんだが……まずこんな大掛かりな襲撃を仕掛けてくるのかよ、わざわざこの数人で暮らしてる森のために??」
最初にシンタローが疑問をぶつけてきた。
「野生人のおじさんも言っていただろう、ヴェルト・マスリニアは人殺しをしているとね。それに、君たちはアイスだけじゃなく様々なものを駄菓子屋から買っていくだろう?重火器や弾薬が飛ぶように売れるならそれだけで売上はかなりの……、」
「いや、私達お金払ってないから売上は永遠にゼロのままよ?」
それは言わないでおけと心の中では思ったが手遅れだったな。
「うっ……そう言われれば!なら逆に品物は売れるのにお金が入らないから取引先に借金を……?」
これ以上、喋らせるとみんな混乱しそうだったからもうストップをかけたぞ。
「フジモン、もういいぞ。脅迫状についてあいつが何も分かってなさそうだったのも説明がつかねえし、結局そのあたりの詳しいことを今の状態で突き止めるのは難しいだろうな……。だが、キヌタニだけが何らかの情報を握っていたとしたら駄菓子屋とは何かしら関係があるだろうよ、もしかしたら仕入先も無関係じゃねえかもな。」
参考にはなったけどよ……。
フジモン、さすがに空想が膨らみ過ぎだと思ったな。
名付けてフジモンファンタジーとでも言えばいいのかよ??
それから、ミーシャが死にかけた話も俺も含めてみんなよく知らなかったから驚いたな……。
ミーシャと一騎打ちでそんなに窮地にまで追い込んぢまうとは……。
しかも瞬間移動する銃を持っていたとか意味不明だぞ……?
さらにはヴェルト・マスリニアにスカウトされたとは………随分と大胆なことをしやがる!
でも本当はミーシャのことは殺さなくていい……そんなことを敵の女が言ってたらしいから、やはり敵の目的は俺たちに危害を加えることじゃなかったのかもしれねえ……。
そしてミーシャはその女の『また戦いましょ?』という言葉が頭から離れねえらしい。
また命の危険にさらされると思えば無理もねえことだな、もう二度と来ねえことを祈るばかりだぜ。
野生人のおじさんに関しては戦闘の途中で敵を追いかけたきり戻ってこなくなっちまった。
仮にも……って言い方もおかしいが一緒に戦った仲間だ、心配くらいしたっていいだろ?
まあ、そのうち戻ってくるだろうということで数日は待つことにしたぞ。
さて、以上がそれまでのことで次はこれからのことを話し合った。
まずはエリスとフジモンの処遇だが、結局二人は襲撃と関係あるのか分からなかったんだよな。
だが、当面は普通に生活してもらって構わないだろうということで、出来るだけ一人にならないように、ということだけ指摘しておいたぞ。
それからよしだくんは当面、彼の家のシェルターに閉じ込めておくことにしたぞ。
さすがにエリスも自分の家のシェルターに他人が監禁されていたら落ち着かねえだろうからな。
定期的にフジモンがカウンセリングをするらしいな、『精神科は僕の専門外だ、でも目の前に苦しんでる患者がいるなら最善を尽くすよ。』なんてカッコつけやがってよ。
あと、俺もミーシャも家が崩壊しちまったし、フジモンやエリスを一人にしないためにもどこでみんなが暮らすか調整する必要があったんだな。
俺はよしだくんの家で彼の様子を見つつ居候することにしたぞ。
フジモンはこの森で最も信頼されているであろうくじらんの家に身を寄せることにした。
エリスは自分の家でくーちゃんとミーシャと同居することにさせた。
……家の中の照明が全部ピンク色で精神衛生上良くねえことは承知だがな、もうそれは我慢して欲しいところだぜ。
ミーシャもしばらくは歩けねえだろうから誰かが付き添ってくれてた方が安心だしな、何かあったらシンタローも駆けつけるようにしておいたぞ。
くーちゃんには戦場の跡を見せたくないから家の外には出ないように言っておいた。
敵の目的がキヌタニならもう襲撃はないだろうから今後は森の復旧に集中する方針でまとまってその日はお開きになった。
俺はよしだくんをエリスの家から連れ出して彼の家のシェルターに入れてから眠りについた。
移動している間のよしだくんはうわ言のように『今日は何の勉強をしますか……?』とか呟いてて現実逃避をしているようだったな、無理もねえよ。
俺は何も出来ることがないまま彼をシェルターに放り込み、ついでに冷蔵庫にあったお茶も一緒に放り込んでやった。
ミーシャは大怪我をして、よしだくんは発狂、キヌタニは……。
絶望に叩き落された森の住人たちが明るい日常を取り戻すことは出来るんでしょうか?
キヌタニが仕出しをしていたかは不明ですがしていなかったとしたら、もう駄菓子屋には食料がほとんど残っていないかもしれません。
ミーシャがこんな状態だと一体誰が料理を……???
襲撃の爪痕がどうこうよりも、食糧危機に陥って全員餓死する方が早いかもしれません。
あ、でも3章で大量の猪を討伐して干し肉も大量に作ったはずなので当分はそれで何とかなる?
アイスばっかり食べて体調を崩さない彼らなら平気でしょう……。
今回は対して事件も起きなかったものの残り2話はタダじゃ帰しませんよ?
それ相応の覚悟を持って100エーカーの森に足を踏み入れてください!