4-21 伍、終戦
ーー前回のあらすじーー
目の前の敵を全て斬り伏せたヤムチャはただ一人、その場に立っていた。
襲撃を乗り切ったと思った彼の前に、一つの飛翔体が飛んできた。
それは彼の上を通過したかと思えば、ヤムチャの家を一瞬で木っ端微塵にしてしまったではないか!
彼がその飛翔体が飛んできた方向へ走って行くと、待ち構えていたものは何と戦車であった!
そして驚くことに、敵の隊長はよしだくんの育ての親、ドーベル博士であると明らかになった。
彼はよしだくんを自分のもとに連れ戻そうと提案したがよしだくんはそれを断固拒否した!
意外にもあっさり彼は引き下がり、そのうちまた来ると言い残して帰投しようとしたのだが……。
突然、どういうわけか戦車の中に居たキヌタニが暴れ出し、戦車は暴走して崖から転落した!
これで本当に襲撃は鎮圧されたと思ったら、戦車の弾薬に火が燃え移り大爆発が起きてしまった。
彼らは無事なのだろうか??
こんな森のために戦車を一台投入するなんて彼らは大金持ちなんでしょうか??
一体この襲撃で何億の損失を出したんでしょう……。
会社の事業とかで失敗しても数億の損害が出ることはありますし、そういう意味では大事ではないかもしれませんが……。
むしろこれだけの戦死者を出したことの方が大損害ですね……。
一体どれほどの命が失われたのか考えながら本編を読んでください……。
……………。
うっ…………。
そうか、私は……。
目を開けて周囲の様子を見る……。
さっきまでいたのと全く変わらぬ駄菓子屋だ。
変わったことと言えば、敵の姿が無くなっていることだろう。
そして……キヌタニもいない、か。
ミーシャはまだ目を覚ましていない、死んではいないようで一安心といったところか。
しかしやけに静かだな、襲撃はもう終わったのか?
危険かもしれないが外の様子を見に行くか。
私は残り少ない力を振り絞って姿を消し、外の様子を偵察しに出かけた。
「くっそ!これどうやったら外れるんだ!!あのクソジジイ、俺をこんな目に遭わせておいて生きてられると思うなよ!!」
森の中央ではスタークが相変わらずの活きの良さで磔になっていた。
結局敵にも味方にも無視されていたのだな。
そしてそのそばにはタッキーがいた。
「(タッキー、聞こえるか?私だ。姿を消しているがここにいる。)」
『ええ、気配で分かります。目を覚ましたようですね。』
「(敵は?襲撃は終わったのか??)」
『ついさっき、駄菓子屋にいた敵も撤収しました。それ以外の場所からも逃げて行ったようです。』
「あーー!!何だよこの馬は!俺のそばに気安く寄るんじゃねえ!!動物は嫌いなんだよ!!!俺はスターク様だぞ!!」
『彼は気性が本当に荒いですね……。』
敵がいないと聞いて私は姿を現した。
「やれやれ、お前はこんな状況でも相変わらずだな。呆れを通り越して次の呆れに行き着くぞ。」
「うおっ!?突然出てくるんじゃねえよ!!気色の悪いジジイだな!!」
『そういえば敵が撤収する直前に北東の方角から大きな爆発音が聞こえました。何が起きたのかは分かりませんが様子を見に行ったほうがいいでしょう。』
「敵がいるかもしれないなら身を隠すくらい当たり前だろ、これだからスタークは。(何があったと言うんだ……。それは確かめに行ったほうが良さそうだな。)」
私とタッキーは北東の方角に進み始めた。
「おい待てや!俺を解放しやがれ!!」
「用事が全て済んだらちゃんと解放してやるかもしれないな。だが今はそれどころではないんだ。」
スタークは一向に吠えることを止めないだろうが、それは私の知ったことではないな。
東三叉路の辺りまで来た私は衝撃を受けた。
「ミーシャの家が……これは酷い。」
爆撃でもされたかのように屋根も壁もボロボロで家の中もめちゃくちゃだ。
『激しい戦闘でもあったんでしょうか……みんなが心配です。……そして僕の勘違いでなければこの辺りにヤムチャの家があったはずなのですが……。』
そう言われればそうだな。
ミーシャの家の有様に衝撃を受けて気を取られていたが……確かにヤムチャの家が見当たらない。
『あっ!!ヤムチャと……よしだくん!?……です!!崖の方に!』
タッキーに言われて私はそちらの方角に目を凝らした。
確かに二人、よしだくんとヤムチャが地面に倒れていた。
「二人とも無事か!?」
私はよろよろと駆け寄り、二人の脈をとった。
「……気を失っているだけのようだが、ヤムチャは火傷の度合いが少し酷いな……。体力が苦しいが神通力で手当しよう。」
くっ……力の加減を間違えれば私も気を失いかねないな……それくらい限界が近い……。
『チッダールタ……大丈夫ですか?表情が歪んでいますよ……。』
「私のことなんて気にするな、彼を救う方が大事だからな。」
ヤムチャが命を落とすくらいなら私が身代わりになるさ、お前たちには死んで欲しくない!
「うっ……まだ頭がクラクラする……。」
「くじらん、しっかりしろ……くっ……!!」
そんな時、西側からお互いの体を庇いながら歩いて来るくじらんとシンタローが見えた。
「シンタロー、くじらん!!お前たち、無事だったか!」
『本当に良かった!怪我はしていませんか!?』
「うん……気絶させられたみたいだけど、本当にそれだけで……何か今、二人分の声がした気がするんだけど……シンタロー何か言った?」
「こんな時まで冗談言わねえよ……。いや、じゃあ誰が……。」
二人は顔を見合わせている。
……まあ、当たり前だな。
『すみません……ついごく自然に話しかけてしまいました。僕です、タッキーです。チッダールタの力で皆さんと意思疎通がとれるようになりました。』
「「…………………。」」
二人は変わらずお互いの顔を見合っている。
「驚くな、とは無理があるな。だが本当にタッキーが喋っているんだぞ。」
「……ああ、そうなんだな。いや、もう驚く元気もない……。」
「うん、この森で起きることだと思えば普通だよね……。」
二人はあっさり納得するとその場に座り込んだ。
『もっとびっくりされるかと思っていましたが……それくらいみんな消耗しているようですね。』
「二人とも、襲撃は終わった。もう安心して休むといい。……私もさすがにしんどいぞ。」
そろそろヤムチャの治療も終わりでいいだろう。
私は力を使うのを止めて地面に寝転んだ。
「そういえばヤムチャとよしだくん……倒れてるけど怪我してたの?」
「ああ……ついさっきここに倒れているのを発見してな。よしだくんは目立った怪我をしてなかったが、ヤムチャの方は火傷が酷くてな、死にはしないと思うが少し加療をしていたんだ。もしかしたらよしだくんをヤムチャが庇ったのかもな。」
「そうか……でも何故よしだくんがここに……?シェルターの中にいるはずじゃ?」
全然気がつかなかったが、確かにそう言われればそうだな。
「まあ、よしだくんのことだ。何か理由があったんだろう。……さて、崖の方で爆発があったようだが……ちょっと私はもう動けそうにない。気になるから行きたいんだがお前たち、まだ歩けそうなら様子を見てきてくれないか……?」
『僕はよしだくんとヤムチャの様子を見ています。シンタロー、くじらん……疲れているとは思いますがお願いできますか?』
「ああ、それくらいならまだ平気だ。」
「意識も結構はっきりしてきたし……ほら、仙人も!」
二人は立ち上がって両側から私の肩を担いだ。
「お前たち……?」
「ほら、一緒に行こうよ?俺たちは平気だから。」
「お前だって俺たちの仲間だろ?……置いてなんか行かねえよ。」
……まさかそんなことを言ってもらえるとはな。
「そうか、じゃあ一緒に行くとしよう。」
お前たちとはどこか距離を置いて関わってきたが、それでも……。
いつの間にか私もこの森の一員になっていたのだな。
仲間にしてくれて本当にありがとう……。
「見えてきたな……爆発したっていうのはあれか?」
「激しく燃えてるけど………何だろう……?」
シンタローとくじらんに両脇を抱えられながら爆発の元凶と対面する。
謎の金属らしき塊が崖の下に鎮座していた。
「明らかに人工物だが……これが何なのかまでは分からないな……。」
周囲の木々は燃え、少し危険な状態だ。
「安全な範囲でもう少し近寄ろう……危険物ならば処理を考えた方がいいだろうからな。」
「ああ、分かった。」
私達三人はさらに燃え盛る何かへ近づいた。
「何だか……ごついね。それに大きい。」
「ふむ……何かの兵器かもしれんな。もしかしてヤムチャがこれを破壊したのか……?」
「だとしたら……あいつやばいな……w」
シンタローの笑い声、とても久しぶりに聞いた気がするぞ。
「はかせーっ!!はかっ、せっ……!!」
と、声がしたから振り返ってみると、私たちの背後からフラフラながらも走ってくるよしだくんが近づいてきた。
『よしだくん、止まってください!!それ以上は危険です!!』
さらにタッキーも後から走ってきた!
「嫌だっ、こんなの俺は認めない!」
よしだくんは私たちより前に出て炎の中に飛び込もうとした!!
「ちょっ、よしだくん!!何考えてるの!!」
『くじらんの言う通りです!そんなとこに飛び込んだら死んでしまいます!!』
間一髪でくじらんが片手でよしだくんの腕を掴み、タッキーも彼の服の裾を咥えて引き止める!
「俺を止めないでくれ!!この中に博士がっ!博士がいるんだよぉっー!!!」
聞いたこともないような叫びをよしだくんがあげた。
博士……?どういうことなんだ??
「聞こえる……。よしだくんの……声が。」
その時、炎の中から拡声器を通したような音声が聞こえてきた。
私を含め全員びっくりして少し飛び退いた。
「博士っ!今助けます!絶対に……!!」
「ダメだってばっ!!死んじゃうよ!!!」
「はは……そんな…………必死な声…………君の幼い頃を………思い、出す…………。」
「そうですよっ!必死ですよ!!博士を見殺しなんて絶対にしない!!」
『よしだくん!!お願いだから行かないでください!!』
「まだ、私を……助けようと……して、くれるか……。君は……仲間想いに……育ったんだね。」
「僕はっ!博士を助けたい!!それだけです!!!だから、そこから今………!!!!」
「いいや、よしだくん……お前はすごく仲間想いだよ。おい、博士とやら……この5年間でよしだくんは100エーカーの森の生活をとても豊かにしてくれた。よしだくんのいない生活なんて俺たちにはもう考えられないくらいだよ。」
「森の、お仲間から………そんな言葉が…………聞けるとは…………5年前、君を………ここに連れて来て………本当によかった……………。」
「まずい………木が上から!みんな下がれ!!」
私は何本もの燃えている高木が私たちの目の前に降り注いでくることに気がついた!
「だから…………君は………名前も、なかった………捨て子だった君は………100エーカーの、森の………よしだくん………として………達者で…………やるんだ………。」
声の聞こえてくる炎の上に高木が落ちてきた。
「これ以上ここにいたら私たちまで危険だ!みんな逃げるぞ!」
「絶対に嫌だっ!!博士ーっ!!!」
いつ炎に巻かれるかも分からない状況だがよしだくんは逃げようともしない。
「命を粗末にするんじゃねえー!!!!」
背後から突然、ヤムチャが叫びながらこっちに突っ込んできて、よしだくんと私を担ぎ上げた!!
『シンタロー、くじらん!僕の背中に!!!』
「うん!!」
タッキーとヤムチャは二人ずつを抱えて全速力でその場から撤退した!
「博士ーっ!!離してくれ!!離せーっ!!!!」
よしだくんはヤムチャの肩の上で暴れ回る。
「くっ……よしだくん!絶対に俺はてめえのこと離さねえぞ!!もうこれ以上仲間を失うのは……ごめんだ!キヌタニ……くそおおっー!!!」
……ジョージが殺された場所も炎に包まれた廃寺だったな。
……シンタローの話を思い返せば、残酷なことにその光景があたかも目の前で再現されているように感じられる。
また、仲間の大切な人を救えなかったのか……。
私はどうしてこうも無力なんだ!?
この神通力は何のためにある!?
どうにかして救えないのか!?
どうにも……ならないのか……?
「私は……何のためにここにいるんだ……?」
そう呟いた私の唇に冷たいものが触れた。
雪だ。
……今年はまだ雪が降ってなかったな。
空が、泣いている。
世界が、泣いている。
「雪が……降ったか。」
ヤムチャはそう言うと立ち止まった。
もうとっくに私たちは集会所のそばまで来ていた。
「そうだね、雪だ……。」
くじらんも空を見上げた。
そのまま私たちは誰も口を開くことなく、いつまでも初雪の降る空を見つめていた。
薄灰色の空がこの森を覆っている。
時刻は午前10時を回ったところだ。
私たちの戦いはわずか1時間半で幕を閉じた。
これで彼らの戦いは終わりです。
甚大な損害を受けながらも敵を撃退した彼らが守ったものは……何なんだろうと考えてしまいます。
4章は残すところ3話です。
戦いを終えた森の住人たちの動向に注目してください。
ちょうどいい切れ目じゃん、章の区切りにしないのか、ですって?
彼らにはまだやることがあるんです。
4章は最後の最後まで何かが起きます!(珍しく保証します!!)
どんな結末であれ最後まで見届けてください!!