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100エーカーの森の悲劇  作者: カンナビノイド¢39
第4章 悲劇の寸法線
104/162

4-15 毒は薬にもなる、特効薬は……?

ーー前回のあらすじーー


 電波塔のそばで駄菓子にがっつく野生のおじさんを囲みながら森の住人たちは彼のことや襲撃のことについて議論をしていた。


そこで明らかになったことは二つ。


・人は20年以上孤独でいると言葉が喋れなくなる。

・おじさんは襲撃を企てている組織の一員であった。


 そして復讐の機会が訪れると知った彼は森の住人たちと戦うことを決意する。

フジモンは一度反対したが、それでも最終的には全会一致で彼を仲間に加えることになった。


 また、特筆するべきこととして前回はミーシャのツッコミが非常に冴え渡っていた。

何なら自らが昼過ぎまで寝ているグータラ女であることにも気が付く始末……。


 さて、彼女はちゃんと遅刻せずにみんなと集合することが出来たのか?

気になる結果は本編で!!


↓↓↓↓↓↓

翌日……。





昼頃にシンタローから呼び出され、ヤムチャを連れて電波塔へとやって来た。



「よしこれで全員揃っ………てないんだよな……。」



ため息をつくよしだくんがまず私の視界に入ってきた。



そして次に視界に入ってきたのは……。



「オレ、ハラ、イッパイ、カンシャ、カンシャ、アリ、アリガトウ!!」


「よーしよし、お礼が言えて偉いな〜www」



小屋で飼われている野生人の禿げ頭をシンタローが撫でている不可解な場面だった。


あれほど危険視していたのに一体どうやってこんなに早く懐柔したというのだ……?



「おい、あのおじさん随分と溶け込んでるじゃねえか!洞窟に幽閉された俺とは大違いだな!」



体中を拘束されて私に担がれているヤムチャはそっぽを向いてしまった。



「じゃあヤムチャも……服を脱いでここに入る?」



くじらんは意地悪な笑みを浮かべ、小屋を指差して言う。






「ハァハァ………ごめん、遅れたぁーーー!!」



と、そこへ寝癖だらけのミーシャが走り込んできた。



「ミーシャww髪型爆発してるけどwここに来る途中で手榴弾の爆発にでも巻き込まれたか?ww」


「違うわよ!くーちゃんが寝てた私の髪で遊んでたの!!全く、起きたら昼になってるしアイスも食べ損ねたわ!!」



つまり、いつも通りということだな。



「それでここに呼び出したということは、このおじさんのことで何か進展でもあったのかな?」



私は話を切り出した。



「ああ、話が早くて助かるよ。じゃあ、昨晩分かったことを二人に共有しよう。」






私とヤムチャはよしだくんから、おじさんは25年以上もこの密林を彷徨っていたらしいということ。


 そして脅迫状を送りつけてきた謎の組織は人殺しをやっていて、このおじさんも元はその一員だったということを聞いた。



「……何だか頭の中がグチャグチャなんだが……じゃあ何だ、このおっさんが組織の一員だから脅迫状を送りつけた犯人ってことでいいのか?」



「ねえヤムチャww言葉を忘れてる人間がこんな脅迫状作れるわけないだろwwwお前こそ洞窟に閉じ込められてその頭で考えることを忘れたんじゃないの?wwww」



シンタローはヤムチャを指差して爆笑する。




「ヤムチャ、彼は被害者だ。組織に裏切られてこの密林を長い間彷徨っていたんだ。……そして俺達とともに戦うと言っている。」



「オレ、タオス!!ミンナ、タオス!!」


「倒すってどうすんだ……?機関銃の弾を避けられるからって………。」


「あら、戦えるわよ?私を窮地に追い込んだぐらいなんですもの。ぜひ協力してもらいましょ?」


「今度は敵を窮地に追い込んでもらわないとなーwww」




「いやいや!これは俺達の戦いで………!」



ヤムチャは頑なにおじさんの戦闘参加を認めようとしない。



「ヤムチャ、このおじさんが仲間に加わることで私達に何か不利益があるとでも言うのか?」




「ああもう知らねえよ!!勝手にしやがれ!!!」



 ロープでぐるぐる巻きにされているヤムチャは、器用に私の腕からすり抜けてどこかへ転がっていってしまった。





「あれ、ヤムチャ……何か気に食わないことでもあったのかな?」


「さあ?同族嫌悪じゃないかしら??」



 珍しく言葉の意味が分かってそうなミーシャの発言を燃料とするかのように、ヤムチャは加速して遠ざかっていった。



「さすがに同族嫌悪ではないと思うのだが………ちょっと追いかけてくるから待っていてくれ。」



私は爆速で転がっていくヤムチャを急いで追いかけた。








 ヤムチャはミーシャの家の壁の前で停止していた。

壁には心なしか少しヒビが入っている気がする。



「おいヤムチャ、老いぼれをこんな遠くまで急いで来させるんじゃない。ただでさえ短い余命が余計短くなるぞ。」


「うるせえな、追いかけてくれなんて頼んでねえ。」



ヤムチャは私に背を向けたままそう言い放った。



「お前がいないと会議も出来ないだろ。早く戻るぞ。」



私はヤムチャを神通力で浮かせようとした。





「あいつら………何だか上手くやってるじゃねえか。あのおっさんもいつの間にか味方になってるし………俺なんて要らねえんじゃねえか。」



相変わらずこちらを向かずにヤムチャはぼやいた。



……やれやれ森のリーダーが随分と小さいことを気にしていたものだ。


さて、何と声をかけようか。





「ヤムチャ、確かにみんな上手いことやっていると思う。だがな……それも全部、今までお前がリーダーとして積み上げてきたものじゃないか?」



「俺が積み上げてきたもの………何なんだよそれ?」




「お前がずっとこの森を引っ張ってきたから、それぞれみんなもリーダーの素質のようなものを少しずつ引き継いでいるのではないかな?お前たちが過ごしてきた時間の大半を私は知らないが……それでもあの洞窟で出会ってから、今までの中でそれを私は感じることができるよ。」



「俺から引き継いだ素質………でもそれじゃあ俺は本当にお役御免じゃねえか………。」



ヤムチャはさらに拗ねて家の壁にぶつかり続けている。



確かに今の言い方だとヤムチャは用済みだな……。



そうするとどういう言い方をするべきか……。




「さっきからドンドンうるさいよ、なにしてるのーー!?おばさんが昼寝出来ないって……あっ、気持ち悪いおじさんだー!」



騒音が気になったのか、くーちゃんが家の中から飛び出してきた。



「くーちゃん!……うるさいって………俺はここでも必要とされてねえのか……。」



ヤムチャはついに動くことを止めてしまった。



そこにくーちゃんが近づいて来た。


ヤムチャとの距離が3mを切ると警報が鳴ってしまう。



私は冷や汗をかきながら二人を見守る。




「ねーねー、おねえちゃんからきいたんだけどおじさんって本当はとってもつよいの?」




「とっても、強い……?」


「なんかね、たった一人でわるいヒトたちを次々にたおしちゃうってきいたよ!」




「あ、ああ……まあな……。」


「ほんとなんだ!おねえちゃんがね、『変態ロリコンだけどヤムチャはいつも頼りになるリーダーなのよねー。』っていってたよ、あしたもがんばってね!」



 くーちゃんは初対面からヤムチャのことを怖がっていたようだがミーシャから話を聞いて恐怖心がかなり薄くなったのだろう、ヤムチャ(変態ロリコン)に対して普通に笑いかけている。




「頑張って……?お、お……うおおっー!!俺はっ、くーちゃんのために頑張るぞー!!!」



ヤムチャは突然雄叫びを上げて電波塔の方へと音速で戻っていった。





『毒は薬にもなる、逆も然り』とは言ったものだが……。




「???とつぜんどうしたんだろう?おじいちゃん、なんかしってる?」



くーちゃんは無垢な表情をこちらに向けてきた。



「そうだな………今のヤムチャにとってはくーちゃんが特効薬だったということかな。」



「とっこうやく??よくわからないや。」




「んがーぁ………くごぉーー…………。」



騒音が無くなったからか、家の中からエリスの豪快な鼾が聞こえてきた。



「おばさんまたねちゃったみたい………最近ずっとねてるんだよね……。」



そういえばここのところ全然エリスの姿を見てなかったな……。


まあ、ぐうたらな生活を送っているだけなら誰かに危害を加えることもないだろう。




「それじゃあ私は行くからエリスのことを頼んだぞ。」



 子供がニートな大人の面倒を見るという、自分でも正直意味がよく分からない発言をして私はヤムチャを追いかけた。








私が戻る頃には電波塔の横で既に作戦会議が繰り広げられていた。





「正直どの方角から攻めてくるかなんて分からねえ。下手すりゃ森を包囲して全方位から攻めてくる可能性だってある。だからおっさんには森の中心で待機して敵が来た方向に行ってもらったほうがいいんじゃねえか?」


「でもどうやって知らせる?森の外周に張り巡らせた監視カメラを俺がシェルターから見ても、ポケベルで連絡もできないし………。」




「オレ、ハナ、ビンカン!ミミ、ビンカン!テキ、ワカル!!」


「ず、随分逞しいわね……キヌタニも密林に10年位放り出したら少しは戦力になるのかしら?」


「いやいやwwそれ、1日も経たずに死んじゃうからww」





「あっ、仙人!ヤムチャなんだけど戻ってきたらもうやる気に満ち溢れていて……何があったの?」



「そ、そうだな……特効薬を飲んだらああなった、とでも言っておこうか。」



まさかくーちゃんと接触したなんて言えないからな。




「おーい仙人、遅えぞ!!……そういえば仙人は明日どうするんだ?よしだくんとくーちゃんとシェルターにいるか?」



「いや、私は姿を消して偵察しよう。西側を見張っておくぞ。シンタローは南側の門に寄ったほうがいいかもな。」


「じゃあお言葉に甘えてそうするかwww」




その後も着々と細かい調整を進めていった。







「もう話し合うこともないだろう……もう日が暮れる。今日は早めにご飯を食べて休まないか?」



「そうね、さすがに今夜は早く寝ないと朝早くなんて起きられないわ。」


「んじゃ、集会所に行くか。……あ、よしだくん。例のものはもう出来てるか?」



「ああ、完璧だ。後でみんなに渡すぞ……そういえばチッダールタも明日は例のアレを頼むぞ。」



よしだくんに言われて思い出したぞ。


私は明日、最初にアレを準備しなければならなかったな。



「任せておけ、しっかりやっておくぞ。」




『例のアレ』とは何か、それは明日のお楽しみだ。 











ふあぁ〜…………あら、空が暗いわぁ…………。



ということはそろそろご飯の時間かしらね〜?





「あ、おばさん起きたー?ごはん冷めちゃうから食べなよー?」


「んあー……うん、食べる食べる〜……。」



 少し前に容疑者扱いされてからずっと体を縛られて、自分じゃ何も出来ないからご飯もくーちゃんに食べさせてもらってるの。




「はい、あーん。」


「あーんっ、モグモグ………。」



 小さな女の子にお世話してもらうなんて変な感じだけど、裏を返せば自分では何もしなくていいってことだから毎日がとても楽なのよね〜。




「美味しい〜、ずっと毎日ぐうたらして生きていけたら最高だわ〜。」


「おばさん、そんなんじゃナマケモノになっちゃうよ〜?」





「ムシャムシャ……私はとっくにナマケモノよ?」



もうおばさんって呼ばれるのにも慣れちゃった。


悪意があるわけじゃないし可愛いものよ。



「じゃあこんどからはナマケモノってよんだほうがいいの?」


「いや、それはさすがに止めて欲しいかな…?」



ナマケモノはちょっと悪意を感じるわ……。




「あら、ナマケモノ起きてたの?今日は早いわねー。」



ミーシャがお風呂から出てきたようね……て言うか!




「ナマケモノ呼ばわりはやめて!さすがに傷つくわよ!!」


「あら、意外ね。そこらへんは気にしないと思ってたのに、エリスおばさん?」



そういうミーシャはニヤけている……こいつにおばさんって言われるのは少し腹が立つわね!!



「おばさんもやめて!!……それで、今は何時なの?」


「と、時計そこにあるんだから自分でそれくらい見なさいって……八時前よ。」



 ありゃ、いつもなら昼寝から目覚めると十時とかになってたりもするんだけど、確かに今日は早く目覚めたのね……とっくに夜だけど。




「そういえば今日はお風呂に入るのが早いのね。」


「あら、エリスのくせによく気づいたわね。明日に備えてさっさと寝ようと思って。」



わ、私のくせにって何よ!それで……。



「明日って何があるの?みんなここのところ毎日忙しそうだけど………。」


「エリスおばさん……知らないの?」



くーちゃんがこちらを蔑んだような目で見てる……ねえなんで!?やめて!!



「はぁ……もう呆れを通り越して虚無だわ。まあ、ずっと寝てばっかじゃ時間の感覚も狂うかもね。……明日は襲撃当日よ?あんたも朝早くに叩き起こされて自分の家のシェルターに放り込まれるんだからね!」






えっ?


襲撃当日………??





「えええええ!!!??」



大絶叫してしまったわ……いやいや!



「まだこの生活始めて一週間くらいの感覚なんだけど!!もう二週間経ったの!?」


「そうよ?だから明日の襲撃を乗り切ってあんたの無罪が証明されれば晴れてその状態から解放されるのよ、喜びなさい?」




「はっ!!そうか、やっと解放なのね………。」




この森に来てからはこっちの生活の方が当たり前になっちゃってたからすっかり忘れてたわ。



……いや、当たり前になってるのも意味分からないけど!!



「じゃあくーちゃんと私はお風呂入ったし寝るわ。お腹一杯になっただろうしエリスも寝たら?」


「おばさんおやすみ〜。」



それだけ言うと二人は電気を消して布団に潜ってしまった。



 ……みんな襲撃を大きなイベントみたいに言ってるけど、私は戦うどころかサポートもするわけじゃないしピンと来ないのよね。



まあ、私も寝るかぁ……。





…………。



…………………。




…………………………。



ダメだわ、さすがに起きたばかりで眠れない。


ちょっとだけ、目を開けてじっとしてようかしら。



解放されるって言われた時、もちろん安心感はあったけど実は少し不安に思っちゃった。



何もしなくていい生活が終わりを告げるってことだったから。



心の底からニート精神が染み付いてる自分が何だか嫌だわ……。





……大学にいた頃も、こんな生活だったかしらね。



下僕たちをこき使って自分は何もしない……。



この森に来てから環境は変わったけど私自身は何も変わっちゃいないのね。





……決めたわ。



私は……襲撃が終わったらスタークと一緒にこの森から出ていく。



 この森は全然嫌いじゃないけどスタークはみんなのことを嫌がっているし、ここには彼の居場所がないように感じる。



私だってこの森に住んだら死ぬまでダラダラと人生を無駄にする気がする。



すぐに出ていくのは無理かもしれないけど彼を説得して……人間らしい生活のスタートを切るの。




こんなこと考えるなんて……大学で何もしてなかったのが嘘みたいだわ。




さあ、一気に考えることが増えちゃったわね。


眠くなるまではこの計画を頭の中でしっかりと立てようかしら……。

 襲撃を目前にして遂にヤムチャが完全復活を遂げました!!

彼は敵を全員倒すことが出来るのでしょうか??


よしだくんの作った例のものとは?


チッダールタが明日用意しなければならないアレとは?


この二つは戦いをどう左右するのか?



 さらにはここまでキヌタニを虐めるくらいしか目立った動きがなかったエリスが、満を持してアクションを起こそうとしています!!


 果たして彼女はスタークと共に100エーカーの森から脱出出来るのか!?

そもそも襲撃を彼らは生き延びることが出来るのか?


 次回から遂に襲撃当日です!!

……まあ、次回まではまだ嵐の前の静けさを味わえるでしょう!


この小説もとうとう全体における序章が終わり本編へと突入します!


 まだ序章だったの……?と呆れた方、ごめんなさい。

ここからが本番なので今までが茶番だったのは許してください。

ちなみに茶番はまだまだ続きます()

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