表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

終末ロボット

終末直前のロボット

作者: 今日の空

「独りにしないでよ…」




 私のおとうさんは最後の人間だった。

「おはよう。結」

造られてから最初に聞いた言葉。ふとした瞬間に思い出す、あの優しい微笑み。お気に入りの黄色い花柄のマグカップを片手に、本から顔をあげて私に話し掛ける姿。

おとうさんは最後の人間だったけど、寂しくはないと言っていた。私が居てくれるから…と。




「おとうさん、どうして私は他のロボット達のように力が強いとか、空を飛べるとか、速く動くとかが出来ないの?」

ある日、私は他のロボット達と比べて劣等感を感じておとうさんに聞いた。おとうさんは少し驚いたような顔で

「誰かに、なにか言われたのかい?」

と、尋ねる。私は首を振って、

「誰もそんな事言わないよ。人を傷つけるような言葉を言えないように、プログラムされているんでしょ?」

と、言うと

「よく知ってるね」

おとうさんは頭をグシャっと撫でて褒めてくれた。くすぐったい。

「本当に、おとうさんの身勝手な理由だよ」

「え?」

「結。人はね、独りではダメなんだ」

「でも、おとうさんは最後の人間でしょ? おとうさん以外の人間は地球にはいないもの。だから、他のロボット達に大切にされているんでしょ?」

「おとうさんはね、家族が欲しかったんだ」

「おとうさんには、お父さんやお母さんがいたんだよね?」

「そうだよ。血は繋がって無かったけれど良い両親だった。でもね、おとうさんは結婚をしてみたかった。子供が欲しかった。ロボット達は優しいけど、家族ではないから…」

「私はロボットだよ」

「結には穴だらけの初期プログラムしかしていないよ。確かに、結はロボットだけどね、今の結はロボットではなくて、自分で学んで考えて間違えたりもする。優しく賢い、おとうさんの娘だよ」

「よくわからない…」

「ははっ、結にはまだ難しいか」

そうだなぁ。と、おとうさんは考え込む。

「結は限り無く人間に近いロボットという意味さ」

「…ふぅん」

「ほら、ご飯にしようか」

結局、よくわからないままその話は終わってしまった。





「おとうさん、なんで私には痛覚があるの?」

私が木登りをして落ちた時、物凄い痛みに思わず聞くと、

「自分を大切にしてほしいからだよ」

と今まで見たことのない悲しそうな顔をして、珍しく怒られた。

「…ごめんなさい。もう、危ない事はしません」

痛覚があると、自分を大切にできる。というのはよくわからないけど、木登りはもうやらないことにした。痛いのは嫌だから。





「…ごめんね。結」

おとうさんは病気で、もう先は長くは無くなった時。

「結。お前は、人間に近いからきっと独りは辛いだろう…」

「でも、私はロボットだから大丈夫だよ」

おとうさんは緩く首を振って、お前は優しいから…。と呟く。

「わたしが死んだ後、結はどうする?」

「おとうさんの意思に従います」

「身勝手にお前を造ったんだ。終わりくらい、自分で決める権利はある」

「私は…」

「欲を言うと、娘には早死にして欲しくない」

言葉が出てこない。悲しさと寂しさと辛さの中に、温かい気持ちが広がる。気持ちなんてないくせに。


「娘を残すのが、こんなにも辛いなんて…」


掠れたおとうさんの声。ただただ、手を握ることしか出来ない私。ロボットのくせに、ロボットのくせに、ロボットのくせに、ロボットのくせに、ロボットのくせに……


 涙が出るのは何故だろう。


「大好きだよ。造ってくれてありがとう…」

「しあわせだったよ。結。結、結結結結…」

最後の人間の最後の言葉は、娘の名前だった…





 最後の人間が死んだ後、ロボットが中心の世界になった。

「人間の歴史博物館を作る。我々は彼らの為に産まれた(生産された)のだから、彼らの歴史を残すのだ」

と、あるロボットが言い出す。

「君は最後の人間が造った最後のロボットだ。君には歴史的価値がある。そこで、歴史博物館の管理者に抜擢された」

「…はぁ」

気の抜けた返事しか出てこない。泣き疲れて今は全てがどうでもいい。成り行きに身を任せて私は歴史博物館の管理者となった。




「我々は何のために動いて(起動して)いるのか」

「人間の為に、でした」

「そうだ。しかし、人間は絶滅した。では、改めて聞こう。我々は何のために動いているのか!」

「…」


「では、質問を替えよう。この先、我々は何のために動けばいいのか!」


「…わからない」

「…人間が大切にしていた物の為?」

「それだ!」

「人間が一番騒いで成し遂げられなかった事といえば、地球環境問題でしょうか」

「そうだな」

「我々ロボット達が多すぎるのが、原因でしたね」

「ならば、我々ロボットが減少すれば問題解決に貢献できるのでは?」

「緑化に貢献できるロボット等、優先順位を決めてロボットを減少させましょう」

「工業用ロボットや、情報処理ロボットはもう不必要だな」




 私の知らない所で、守地球法(粗大ゴミ処理)が決定された。

「あなたは歴史博物館の管理者であり、何よりも、歴史的価値のある保護すべきロボット。ですから、あなたは守地球法の非対象者です」

もう、おとうさんのいない生活に慣れてきた頃の話だ。

「ですが、あなたの意思によっては死ぬ(起動停止)事も可能だ。もし、地球の為に死にたいならば、こちらを浴びてください」

と言って渡されたのは、ロボットを融解させる液体だった。いわく、すぐに蒸留し気体になるので環境に害は出ないらしい。

「では、失礼します」




 守地球法によって知合いのロボット達は次々と、蒸留して消えていった。


「独りにしないでよ…」


あの液体の容器を握り締めた。

寂しくて、「人間は独りではダメなんだ」というおとうさんの言葉が身に染みて解る。

「私も、死にたい…」

でも、死ぬ勇気は無くて、誰も居なくなった世界で、誰も来ない博物館の管理者を続けた…




 …誰も来ないならば、呼べばいいじゃない。

暇で暇で、博物館の大量な本を読んでから気が付いた。


 おとうさんと暮らしていた家はかつてのままに残っている。私はおとうさんの部屋を漁ってあるものを探す。

「…あった!」

それは、研究者だったおとうさんの先祖が造ったいわゆるタイムマシーン。正確には、タイムトラベルマシーン。過去にいる人を呼び寄せる機械だ。


「これなら、人を呼べる」


けれども勿論、時空を越えるのには相応のデメリットがある。この機械は一人の人間につき、一度しか使えないこと。人間には時空を越える事は大きな負担になる。人にもよるが、二度使用した人は大抵よくて廃人、悪くて消滅。だから、往復一回の一度しか使えない。

 ふたつめは、遡る時間にもよるが、移動時間が掛かること。場合によっては往復一ヶ月以上掛かる。つまり、空白の時間ができてしまう。

 みっつめは、滞在時間に制限があること。最長一時間という、何とも短い限られた時間なのだ。


「それでも、知ってもらいたい。誰かと、話したい…!」




 最初に呼んだ子は恐怖心から訳がわからずに暴れた。だから、次からは心をコントロールする機械を使うことにした。本当は使用が禁止されていたが、混乱して下手に暴れてその子が怪我をするよりはマシだろう。




 次に呼んだ子は、とても落ち着いた少年だった。その少年は、別れ際に「またね!」と言って笑ったが、もう二度と合えないことを伝えられずに制限時間となった。

 私はそれから、猛勉強をするようになった。もう一度、合えるように…。デメリットが少しでも緩和されるように…。





 そうして、移動時間を短縮することが可能となった。初めて私が造った機械で人を呼んだ。その子は、前に呼んだ子にそっくりで、話を聞くと息子だったらしい。




 人間は絶滅した。ロボットも私だけだ。でも、まだ終末じゃない。私が止まるその日まで、地球が崩壊するその日まで。


 私は最後のロボットとして、沢山の子と話をしよう。そうして、彼らの生きた証を本として、歴史博物館ごと私が守り、伝えよう。


 終末はまだ来ない_

今日の空です。

お付き合い下さり、ありがとうございます!


結がタイムトラベルマシーンを使って

おとうさんを呼ばないのは、

おとうさんが既に一度使用しているからです。


あらすじにも記載しましたが、

この話は、

短編小説『終末のロボット』と関連しています。

是非そちらもご覧下さい。


精進します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ