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白鬼

作者: 箱庭

 神だの仏だのを信じようとは思わない。別に世界は科学で証明できるとか、大それたことを言いたいわけではない。ただ、存外、世界にはありえないことが転がっているということだ。神様のせいだとか、妖怪のせいだとか、非科学的な次元の事でなくても、見えざる何かの手が働いていると一時は考えたこともあった。そんな考えもすぐに捨てた。異端的な考えは周りからの孤立を招き、それこそ、人間の繊細な感覚が織りなす「見えざる手」とでも言えるものが、感覚的に人外のものを排除する。案外、人間はシンプルだ。受け入れられないものを拒み、見えるもの、触れるものだけを受け入れる。そんな社会だ。いじめだの、うつ病だの、考えればなくなるわけもない。何度、「この世界に人外なるものがあれば」と望んだことか。受け入れがたい事実が現れた時、人はそれを受け入れようと他のことを考えなくなる。世界が見えざるモノの存在に気付いた時、人々は何を恐れ、何を信じ、何を切り捨てるのだろうか。




 上京して、早5年。故郷の友人の顔すらも忘れかけてきた。ただ、実家に帰りたくないがために、適当な大学に入学。当然、何に興味が出るわけでもなく、学校には行かない。単位を落とさないように楽単を取りつつ、バイトで使いもしないのに金をため、家でネットやテレビを見る日々。気づけば2chでバッシングしたり、世論に反抗してみたりと、ろくなことをしていなかった。突然地中から怪生物が出てきて、世界が滅亡したらなぁなんて考えたりもした。3年になり、周りが就活だとか騒ぎ始めるも興味がわかず、なぁなぁと生きる毎日。


 転機があったと言えばあった。大学3年の秋、親にいい加減に顔の一つも見せろと言われ、しぶしぶ実家に帰った。やることも無く、顔見せに二、三日でもいて帰ろうと思っていた。そのものは自室を整理していた時に見つけた。一枚のカードが挟まったノート。表には「2年1組 神崎 仁」。ペラペラとめくると、ヒーローの絵がたくさん描いてあった。そして、最後のページ。そこには大きく「大人になったら仮面ライダーになりたい」と書かれていた。思わずおかしくなった。こんな自分にも、素直に正義を思う日々があったことを考えると、少し恥ずかしくなった。あの頃の自分は、今の自分を見て何か思うだろうか。思わず、そのノートを東京に持ち帰ろうとする自分がそこにはいた。



 東京に帰った後、何を思ってか素直に勉強に励んだ。仮面ライダーなんてバカみたいなものになれないことは知っている。でも、何か一つ、あの頃の自分に誇れるものがほしかったのかもしれない。勉強に勉強を重ね、警察になろうと思った。もしかしたら、そこにあの頃求めた正義があるのかもしれない。まだ、自分の中に、無邪気なあの頃が残っていただけなのかもしれない。


  そして、今に至る。大学も無事卒業し、ため続けていたバイト代も無駄ではなかった。卒業後に、一年間みっちり勉強するためにバイト代を切り崩したが、痛手にはならなかった。大卒で警察官になるための試験、「Ⅰ類採用試験」。試験開始4時間前に起床。顔を洗い、朝食を済ませる。歯を磨き、前日に用意したスーツに着替える。ふと、鞄の中身が気になり、財布、免許証、案内書に筆記用具を確認し、安心する。鏡のほうを向きなおしてネクタイをきつく締めあげ、まぶしく磨かれた革靴を履く。体の調子は良好。長い時間を勉強に割いてきたためか、緊張や不安もない。玄関に立ち、なんとなく家のほうを振り向いて一礼した。試験会場までは1時間。時間に余裕はある。


  駅まで歩き、乗り換え案内に従って電車に乗る。珍しく遅延していない。電車に乗り込み、偶然空いていた椅子に座る。イアホンをつけ、お気に入りの音楽を聴きながら電車に揺られる。途中の駅で、お年寄りの方が乗ってくる。機嫌がよかったせいか、なんとなく席を譲ってあげたくなり、席を譲った。


「ありがとう」


 その言葉一つになんだか涙が出そうになった。今まで、心ある声なんてあまり聞いたことがない。人々は皆マスクをし、そのマスクを心にまでかけているようだった。知らず知らずのうちに、そのマスクは自分にもついていた。都会は冷たいとよく言っていたが、そんな自分が一番冷え切っていたのかもしれない。だからこそ、心の奥底に生暖かく響くものがあった。


 その後、車内で10分ほどたった後、別の路線に乗り換える。今日は気分がいい。少し歩きたくなった。会場の最寄り駅の一つ手前の駅で降り、地上に上がる。太陽がまぶしい。ここまで生の喜びを感じたのは初めてではないだろうか。ゆっくりと足を進める。ただ、何から何までがうれしかった。意味もなく、喜ばしかった。


 周りを見渡す。公園で朗らかに遊ぶ少年少女。明るく、透き通るような笑い声。いつもなら、うるさいと言ってしまいそうなものが、光輝いて見える。

 すると、目の前を一つのボールが通り過ぎる。転がるボール。黒いコンクリートの上を軽々と転がっていく。そして、目の前を通り過ぎるもう一つの影。黒い髪。小さな光。後方からなる大きな音。一瞬ですべてを察した。鈍い急ブレーキの音が後ろから近づく。音は大きくなる。足が地面を強く蹴る。少女の背に手が届く。聞こえてくる死の音。目の前で押し飛ばされる少女。だんだんと視界から遠くなる。体が宙を舞う。体は理解していないが、頭はハッキリと理解していた。


  これで良かった。これで、全部良かったんだ。結局、ここまでなんだ。よくよく思えば、なんて素晴らしい経験ができたのだろう。人間は皆、真っ暗な道を一人で歩いている。進む先が見えていないのに。他に何も見えていないのに。人生に正解はないって誰か言っていたけど、人生の道に失敗や成功はある。それに気づけたんだ。神様。こんなつまらない人間でしたが、ここまで生を与えていただき、ありがとうございます。最後に、最後に一つ。もし、聞いていたら教えてください。世界ってなんですか。自分が進んでいた道が正しいと思っていてもその果てが成功とは限らない。こんなにくだらなく、真っ黒な世界ってなんですか。あーぁ。意識が遠くなる。こんな世界なら、こんな世界なら………




 いらない





 そう、思うか………




 そう思うのか………



 理不尽だろ。辛いだろ。ならば、壊すしかない。世界にある見えない常識を壊すしかない。力をやろう。人のではない。人を捨てよ。そして壊せ。『カミノコ』として。



 空を黒が覆う。光を飲み込み、喰い尽くす。重い空。何も見えない。見えなくていい。触れタモノすべてヲコワスダケダカラ






 黒い部屋。その中で二人の男が話している。


「アレはどうでしょう。」


「さぁね。無事、『カミノコ』として召されるかは、それこそ神のみぞ知るだな。いずれにせよ、アレの意識がいつまで保たれるか... 明確な意思、そして屈せざる渇望。その狭間を保ちし者こそが成れる『カミノ子』。アレは強き意思を持ち合わせてはいるが、沸き立つ渇望に蓋をできていない。藪をつついて、邪が出たとでもいったところだろう。」


「ということは、あれは失敗作というところですか。あらら、自分を抑えきれていない。思いが体から溢れ出てきてしまっている。痛みは感じないでしょうけど、痛そうですね。」


「思いを追い求めるのが人間。思いを形にするのが神。そして、思いを具現化しようとするのが『カミノコ』。その思いが体から溢れてしまっている以上、形にできなかったのだろう。屍人の御霊だ。そこらへんに捨て置け。そのうち、あいつらが片づけに来る。」


「それにしても、よくこんな大それた計画ができたものですね。死体見つけて、思いを煽って。これでは、人の尊厳を崩してしまうのでは。」


「あと、五人だ。それだけでいい。アタリ、ハズレを考えれば別だが... しかし、ふるいにかける時間ももうない。鬼が出ようと、蛇が出ようと、思いを具現化せしものは皆『カミノコ』。神に近く、神ならざる存在。すべては『あの方』の御意思だ。尊重するほかあるまい。」


「そうですか...『あの方』も、もう長くはありませんからね。せめてそれまでにと...」





 漆黒の空。色のない雨。孤高に吠える黒。黒き気に覆われた男は、拳をふるう。地面をたたき、電柱をたたき、木をたたき。乱暴に、見えないが故に力の限りふるう。何にあたっているのか分からない。手にあたる感触は、時に固く、時に柔らかい。肌に感じるものは、時に冷たく、時に暖かい。壊す。壊ス。コワス。ただその言葉が頭をめぐる。その衝動は止まらない。誰にも。何にも。ふり下ろされる拳は、次第に意味を失っていった。



 雨の中を歩く二人の人。一人はすらりと背の高い男。黒いコートにジーンズ。一人は子供のような女。白のキャップに白のパーカー。男は重そうな鞄を持ち、女は細長い袋を持っている。二人は雨の中を傘もささずに歩く。激しい雨は、その二人を交わしていく。


「また鬼か...」


 男が口を開いた。


「うぇ。くっさーい!なんてひどいにおいですかね、コイツ。」


 女が顔をしかめながら言う。


「みなまで言うな。悪の権化に取り憑かれた、哀れな人の末路だ。ここまでやったからには、相当な思いだったんだろう。思いが己を飲み込み、黒く染め上げている。周りすら見えていないようだ。」


「早くやっちゃいましょうよ!私、こんなところに長居したくないですよ!」


「では、手早く済ませるか。」


 そう言うと、男は鞄の中から一枚の札と刃物を取り出した。指先を刃で切り、赤き血を札に付ける。札は長く伸びていき、一本の刀となる。


「鬼よ!」


 黒天を貫く声。


「我が声が聞こえるか。我が名は『凪』。今より、汝を常闇より開放せんとする者。そなたには、今何が見えておる。見えておらんのか。それとも、ただ見なければ楽だと思っているのか。」


「早くしてくださいよー。今日寒いんですから。」


 女が口を挟む。


「うるさい。少しはおとなしくしていろ。」


 男が女のほうを見た瞬間、鬼が男めがけて飛んでいく。黒く膨れ上がった拳を高く振り上げ、男に向かって振り下ろす。その間、0.3秒。男と鬼の距離、約10メートル。速すぎるがゆえに、風を切る音一つ聞こえない。拳はそのすべての力を受けて加速する。人の姿を思わせないその拳は、男もろとも地面にたたきつけられた。有り余る力が衝撃波となってあたりに広がる。見えるのは手を下した鬼と窪んだコンクリートのみ。


「あーぁ。死んじゃったかな?」


 女の声にひかれて、鬼がそちらを向く。肩で荒々と呼吸しながら、じっと声の方に顔を向ける。今にも襲い掛からんとするその姿。タイミングをうかがっているのか。しかし、女は動こうとはしない。依然として鬼のほうを見ている。


「結局さ。」


 女が口を開いた。


「結局、何がしたかったわけ?あたしは、どちらかというとアンタみたいな存在だから... いえ、存在だったから、気持ちが全部とは言わないけどわかるつもり。何かに裏切られたんでしょ。それも、偶然という何かに。それはぁ...許せないよね。私も、世の中の『偶然』って言葉は嫌いだよ。偶然でいい方向に向く人もいれば、悪い方向を向く人だっている。人生は偶然の連続だって言ってた人がいたけどさ、それってさ、もし偶然で人が死んでも、偶然のままでいいのかな?偶然何かがあって、偶然死んで、偶然鬼になって... その偶然がなければ生きていたかもしれないのに... 未来があったかもしれないのに...」


 グゥゥゥロゥアアアア—!


 曇天に鬼が叫ぶ。鬼の足に力が入る。女の言葉が鬼の心を突き動かしたのか。はたまた、ただの怒りの延長線上だったのか。鬼の体の黒い気がさらに膨張する。あたりがより暗くなる。鬼は鳴き叫ぶことを辞めない。鬼が咆哮をあげるたび、黒い気がより膨れ上がる。


 ついに、鬼は女にとびかかった。鬼は思ったのかもしれない。

 一番に壊すべきはあの女の声だ。自分を惑わせるあの声だ。別に死にたかったわけじゃないんだ。やっと世界が変わると思っていた。でも、それもたった一瞬で終わってしまった。こんな世界が悪いんだ。あの車が悪いんだ。あの少女が悪いんだ。だったら、あの女ごと、この虚無の中に葬り去ってやろう。あの、女を飲み込んでやる

と。


 そして、ようやく女に手が届きそうになった瞬間、突然、鬼の体が止まった。


「そうだな。人生は偶然の連続。吐き気がするほど汚い言葉だ。」


 男だ。男がとびかかろうとする鬼の足をつかんでいる。


「偶然なんて奇跡の言い換えみたいなもんだ。人間が生まれてくることを、天が与えた奇跡とか言うやつもいるが、それも偶然といえば偶然だ。偶然の千や二千、道端にいくらでも転がってる。でもな。お前の人生の選択は、それは偶然なのか?偶然で片づけてしまっていいのか?何を見つけて、何を感じて。お前が触れてきたことはすべては、ただの偶然なのか。違うだろ。」


 男が、鬼の足をつかんだまま立ち上がる。


「サヤ‼ お前もしっかり聞いておけ。人生は必然の連続だ。お前が偶然だと思って選んだ選択は、すべて必然だ。お前にしかなせない、お前だったからこそできた選択だ。お前も感じているだろ、自分の周りにある気を。それは、お前の思いの丈だ。あぁ。見てわかるさ。必死に考えたんだろ。必死に苦しんできたんだろ。でも、今のお前は、お前という一つの必然の上に成り立つ存在だ。お前でなきゃできない不可能を乗り越えた存在なんだ。だから、周りを否定するな。自分の選択を、必然を、尊重しろ‼」


 男はそう言って鬼を投げ飛ばした。


 鬼は地面にたたきつけられる。怒り狂ったのか、より大きくうなり声をあげる。

 ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ... なぜだ。オレは何かできると思ってやってきたんだ。ここまで来たんだ。もう、新しい自分になれると思ったんだ。これからがつらくても、小さいころの自分に後ろ指さされないようになれるはずだったんだ。それが... 許さない、許さない、許サナイ、ユルサナイ、ユルサナァァァイィィ。


 鬼はまた立ち上がり、男をにとびかかった。さっきとは比べ物にならないような速さで。だが、男は動じない。むしろ、笑っている。


「おぅ。そうか。悩んでるんだな。苦しいんだな。つらいんだな。じゃぁ、オレがそのつらさ、苦しさ、全部ひっくるめて、叩き切ってやる。さぁ、こっちにこい!『オレの子』よ!」


 男は、鞘から刀を引き抜く。透き通るように白く光り輝く刀身。どんな黒でも吸い込んでしまうような白。そして、刀身に向かって言葉を放つ。


「我ハ光ナルモノ。影ト対スルモノ。コノ刀ハ我ガ肉体。コノ刃ハ我ガ魂。我ガ魂ヲ以ッテ闇二染マリシモノニ康寧ヲ! 浄心邪枯(じょうしんじゃか)‼」


 刀から光があふれだす。男の懐に飛び込んでくる鬼を光が包み込む。暖かい。黒い気は見る見る消え去っていき、白い光の中に消えていく。光はそのまま点を目指して上っていき、雲の隙間に明かりを灯した。



 何分ぐらいたっただろうか。まぶしい光が解けていき、その中から二人の男が出てくる。仁という男がもう一人の男に倒れ掛かっている。息は細い。髪の毛も、目の色も真っ白になっている。さっきまで鬼だった人間には見えないが、生を感じさせる姿でもない。すると、仁は口を開いた。


「私...どうなった...ですか... ヒトではない...  鬼... 悪魔...」


 かすれそうな声のせいで、うまく言葉になっていない。だが、自分が何をしていたのかはうっすらと理解していたようだ。すると、もう一人の男も口を開いた。


「あなたは鬼でも悪魔でもない。見てくれ。周りは子供がいるような公園だが、だれも傷ついていない。壊したのは全部モノだけだ。あんたは、何もしてないよ。」


「ほん...と...に なら......よかっ...」


 鬼の男はもう動かない。この男は鬼になった。だが、それでも自分の道を違おうとはしなかった。最後まで自分の必然を守り通していた。男の体が透けていく。『カミノコ』になった者は、死とともにその存在自体が消える。誰の記憶からも。悲しいことだが、それが定めなのだろう。


「久々に浄化できたんですね。」


 女が話しかける。


「そうだな。いつもは、無心に殺してばかりだからか...変な気分だよ。」


「あの人、あれでよかったのかな」


「さぁな。でも、オレが理想とする『カミノコ』がいたら... なんでもない」


「最後まで言ってくださいよ!あと、助けてくれてありがとうございました。」


「心にもないことを言うな。らしくないだろ。らしくないって言ったら、オレが殴られてたとき…」


「うるせぇ!そういう時は、黙ってどういたしましてっていうんですよ!」




 いつの間にか、空が明るくなっている。鬼とはいえ、中はただの人。彼の心の空模様がそのまま映し出されたように晴れ渡った空。


「帰りになんか食って帰るか?」


「やった‼ んじゃ、焼き肉‼」


「昨日はラーメン、今日は焼肉か... なんか、重いなぁ」


「文句言わないでくださいよ。さ、早く行きましょ‼」


 


  黒い部屋の二人がまた口を開く。


「珍しく、浄化されてしまいましたね。」


「だな。『カミノコ』とは、如何に数奇な存在か…… 『カミノコ』になるには、溢れる思いをカタチに、そして器に留めなければならない。思いが溢れて体を飲み込むようなモノは鬼にしかなれん。人は思いを追うモノ。その思いは器には留められない。人が鬼にも『カミノコ』にもなれないのは、思いを具現化する力がないからだ。では、そこに力を加えてやれば……… 言うまでもないだろう。」


  「では、鬼とカミノコとの違いとはなんなのですか?」


「さぁな。私にもわからん。鬼とカミノコ。似て、異質なる存在。だが、一つ言えることがある。より人間らしいモノは鬼だ。カミノコはもはや人ではない。器も。中身も。」


 男は服のポケットからタバコを取り出すと、一本口にくわえた。


「火、いります?」


「知っているだろ。」


 男は指をタバコの先に近づける。すると指先から煙が上がり、たちまち一本の火柱が揺らめき始めた。火が移り、刻みの先が赤く光る。


「お見事です。さすが、本物のカミノコともなると違いますね。」


 下手に出ていた男が手を叩きながら言う。


「こんな皮肉なもの… 欲して手に入れたわけでもない。それなら、人としての思いの方が幾倍にも美しい。オレはそう思うのだがな。」


 黒い部屋をかすかに照らす、一筋の光が消える。





 天は人の上に人を作らず。人の下に点を作らず。天の上に人を作らず。天の下にのみ、人を作った。では、人とはなんなのだ。なんのために生まれ、なんのために死んでゆく。それは人にはわからない。鬼にも。そして、『カミノコ』でさえも。




 



















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