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時間を取り戻せるなら  作者: Maika:)
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第2章 馴れ合うつもりは無い

「ごちそうさま」


あれから稜と清光は朝御飯を食べ、学校の支度をしていた。優子の機嫌は直っているが、少し不機嫌だった。


「行ってきます」


「清光ちゃん。送ってあげて?」


「うん、分かった」


「気をつけてね?はい、これ」


「ありがとう」


稜は優子の手作り弁当を受け取った。いつも梨紗が作ってくれるから、優子は作らない筈だった。


「今日はお弁当?」


「何言ってるの?いつも作ってるじゃない」


「待って。いつも梨紗が作ってくれるから、いらないって」


「梨紗って誰?」


「僕の、彼女。前に連れてきただろ?」


「あら、彼女いるなら紹介しなさいよ。ほら、いってらっしゃい」


優子は稜と清光の背中を押し、家から出した。でも、稜には何か気になる事があった。


「………」


「おい、稜。どうしたんだ?」


「いや、なんで梨紗の事知らねぇのかなって。ご飯だって食べに来てたのによ」


「多分、俺と稜が交わったから、時間の歪みが出たんだと思う。しかも稜の彼女の梨紗は今、安定の手の中だ。梨紗と関わりがある奴は、契約者たち以外記憶は無い」


「簡単に言えば、梨紗は産まれてない事になってる」


「簡単に言えばな」


「はぁ………。ますます学校に行くのが嫌になった。ちょっと付き合ってくれないか?」


「何処に行くんだ?」


「少し気を紛らわせたい」


「ん。まあ、稜は俺の新しい主だからな。付いていくよ」


「悪いな」


稜は少し困ったような表情で清光を見つめ、ため息一つして歩き出した。







「稜………」


あれから梨紗は、薄暗い牢屋のような部屋に閉じ込められていた。小さな窓には出られないように鉄格子がしてある。


「梨紗ちゃん。ご飯だよ」


梨紗がぼーっと窓を見つめていると、安定がおぼんを持って入って来たのだ。シチューの香りが部屋に漂っているが、梨紗は振り向こうともしない。


「稜は、無事なんですか?」


「あの後、僕の手下達を送り込んだけど稜くんの気配はあるし、生きてるでしょ」


「話が違う………。私が言う事を聞けば、稜にはなにもしないって約束したじゃないですか!」


「君達はおとりだよ。僕のお友達を呼ぶ為のね」


「おとり………?」


「まんまと引っかかった。やっと、清光に会える。沖田くんとずっと一緒に居た清光を、やっと殺せる。だから、君達は必要なんだ」


「や…っ………!」


安定はおぼんを床に置き、梨紗に近付いた。だが、触ろうとした瞬間、梨紗が安定の綺麗な白い肌を引っ掻いてしまったのだ。


「痛いなー。大丈夫だよ?君は、僕の言う事を聞いてればいいんだから」


「………!」


「さようなら、梨紗ちゃん」


安定は懐から黒い首輪を取り出し、梨紗に付けた。すると安定の右手にはめられていた水晶のブレスレットから糸のような鎖が現れ、梨紗の首輪に繋がり、消えてしまった。


「………安定………様……」


梨紗の綺麗な瞳から光が消え、真っ黒な闇の瞳へ変わったのだ。


「いい子、僕の新しい主」


安定はそう言って、梨紗に口付けしてそのままベッドへ押し倒した。






「はぁ………」


稜は学校に行かず、行きつけのカフェでいつものホワイトモカを頼んで、大きな湖がある公園で飲んでいた。


「ため息ばっかりだな」


清光もホワイトモカを飲んでいたが、苦手なのか、ゆっくりとストローを噛んでいる。


「当たり前だろ。梨紗が居ない学校に行ってもなぁ。まあ、蓮衣が居るからいいんだけどさ」


「蓮衣?」


「僕の親友。小さい時から僕と梨紗と蓮衣は一緒なんだ」


「稜って友達居たんだな」


「うっせぇ。お前こそ居るのかよ」


「居るさ。安定だって友達だった」


「だった、か」


「悲しい話は辞めよう。あのさ、稜。これ、苦すぎる」


「え、これで?」


「初めて飲んだ」


「まあ、沖田総司が居た時代にあるわけがないからな」


清光とたわいもない話をしていると、急に人気が無いのに気づいた。先程までランニングをしてるおじさん、ベンチで話をしていたおばあちゃん達が、居ないのだ。


「稜」


「あぁ、何か来る」


稜が鎖骨にある黒い薔薇を触ると柄が現れ始め、刀が姿を現した。その瞬間、階段の上から槍が降ってきたのだ。


「物騒なの持ってやがる」


「あらやだ、当たらなかったわ」


稜と清光が地面に刺さった槍を引き抜くと、飛んで来た方から野太い声が聞こえた。顔を上げた稜はその姿を見て、少し吃驚してしまった。そいつはフリルの付いたゴスロリ衣装を身にまとっていたが、完璧に男だった。


「失礼ですけど、女性ですか?」


「いや、稜。どう見ても男だろ」


「きー!うるさいわね!私は女よ!ねえ、御手杵(おてぎね)!」


女装した奴は、隣に居た背の高い男に話しかけた。もう、そいつも男かも分からない。


「はい。可愛らしい女性ですよ」


「まあ、嬉しい」


「あの、僕達あんたらに構ってる暇無いんだよ!」


苛立った稜は、飛んできた槍を投げ返した。しかし御手杵と呼ばれた男…?は2本の指で、自分より背丈のある槍を受け取ったのだ。


「私達は幻の書物を探してるの。持ってないかしら?」


「は?」


「持ち主を選ぶ幻の書物だと?あれは100年前から見つかっていない!」


「そんなのどうだっていいわ。持って無いのなら、殺すだけ」


「御意」


「稜!危ない!」


女装した奴は赤いピンヒールを脱ぎ捨て、稜に投げた。しかし稜はピンヒールしか見ておらず、女装した奴が近づいてきている事に気づくのが遅かった。


「く………っ!」


稜は女装した奴の攻撃を何とか受け止めたが、体格が大きい相手から受けた衝撃は強かった。


「坊や。肘がガクガクしてるわよ」


「うるせぇ。僕は坊やじゃねぇ!」


「!」


子供扱いされて少し苛立った稜は、軸足がブレないように左足で、相手の顎を蹴り飛ばした。女装した奴は傍にあった樹木まで飛んで行き、口角からは血が溢れ出ている。


「ふぅ………。見た目の割には力があるな」


「俺の主に………!」


「お前の相手は俺だ、御手杵」


御手杵が空いている稜の背中に向けて槍を突き刺そうとしたが、清光が槍を掴み、御手杵ごと投げ飛ばした。そしてふと、御手杵の右手にあるブレスレットが目に入った。


「それは?」


「お前なんかに話すかよ!」


「言え」


清光は刃先を御手杵の首元へ当てた。御手杵は喉を鳴らし、怯えた声で


「や、安定様…に」


「安定?大和守安定か?」


「どういう事だ………」


「お、お願い………。私達を見逃して………」


「もう少し、安定の情報をよこせ」


「そ、そういえば………新しい主が出来たって喜んでたわ」


「何か嫌な予感がする」


「安定は何でもするやつだ。梨紗が危ない」


「全部話したわ。見逃してちょうだい」


「ごめんけど、それは出来ない」


「!」


稜が刀を振りかざすと、相手の首輪が真っ二つに割れ、清光は御手杵の手首ごと切り付けた。


「ああああ!!」


御手杵は手首を押さえながら、叫び始めた。だが、手首からは鮮血は出ず、蛍のような光が空へ舞い上がっているのだ。


「お前はもう一度、過去をやり直してこい」


「清光………ありがとう。………ごめん………また………な」


御手杵の瞳から光が現れ始めた頃、四肢が同じように光り、そして御手杵は姿を消してしまった。


「さて、あとは」


「待て、稜」


稜が相手の首元に刃先を当てようとすると、清光が稜の刃先を握りしめたのだ。清光を一瞥した稜だったが、清光が階段の上を睨んでいるのが分かり、目線を向けた。


「男共の争いは醜いもんだな」


階段の上に居たのは、稜と同じ制服を身にまとっている女だった。しかも隣には小学生くらいの小さな男の子が居る。


「誰だ、お前ら」


「え、前田くん?」


清光が小さな男の子を見て驚いていた。前田と呼ばれた男の子も、少し驚いているようだ。


「………清光?………君も幻の書物を探してるの?」


「違う。そんなのはどうでもいい。俺はただ、安定を探してるだけだ」


「………まだ探してるの?………刀剣達皆、探すのはよそうってなっただろう?」


「同じ沖田くんの刀だ。裏切りたくない」


「話はそこまでだ。前田、行くぞ」


「………御意」


名も名乗ろうとしない女は、稜を一瞥して歩き出してしまった。前田は何か言いたそうな表情だったが、女の背中を追うように走り出した。


「誰なんだ?」


「前田藤四郎。織田信長に使えていた、前田利家の刀だ」


「どいつもこいつも、幻の書物ってなんなんだよ」


「持ち主を選ぶ書物だ。選ばれた奴は、一つだけ、願いを叶えられる。そしたら、幻の書物は別の世界へ飛んで行くんだ」


「皆、願いを叶えたいから、探してるのか?」


「なんでも叶うからな。お金持ちにだってなれる、世界征服だって。俺がまだ、沖田くんと一緒にいる時だってあった。………あの時は、俺だって欲しかった」


「今は?」


「要らない。物に頼って安定を助けたくない」


「清光は良い奴だな。で、こいつどうする?」


稜はため息を付きながら、さっきの女装男を睨みつけた。女装男は腰を抜かして、気を失っていた。


「大丈夫。御手杵との契約が切れたから、こいつはもう、ただの人間に戻ってる。御手杵と居た時間は夢だったって処理されるはずだ」


「こいつも大変だな。はぁ、そろそろ学校にでも行くか、蓮衣が心配してるだろうし」


稜が鎖骨にある黒い薔薇に刃先を当てると、光り始めて吸い込まれた。







「すみません。遅れました」


稜はあれから清光と別れ、遅れて学校に着いた。教室に入った途端、先生含めてクラス全員が驚いている。如月蓮衣以外。


「珍しいな、成瀬が遅刻なんて」


「忘れ物しちゃって」


「まあいい、早く座りなさい」


稜は自分の席に向かい、鞄を横にかける。隣には蓮衣が居て、相変わらずパソコンを触っている。蓮衣とは小さい時から親友で、梨紗と3人でよく、遊んでいた。


「おはよ、稜。どうしたの、今日。低血圧だから?」


タイピングする度に結んでいる前髪が動く蓮衣は、クラスからいぬっころとも呼ばれていた。なんか、確かに可愛らしい。


「聞いてる?」


「あ、ごめん。実は、梨紗を迎えに行ってて遅れたんだ」


流石に、刀を持った奴と戦っていたなんて言えなかった。まあ、オカルトや不思議な事が大好きな蓮衣は食い付いてくるだろう。


「え?梨紗?誰?」


「は?何言ってんだよ。幼馴染の梨紗だよ」


「そんな子知らないよ。稜の彼女?」


「成瀬!お前、彼女居たのか!」


稜の目の前の席にいた男子が、稜と肩を組んで羨ましそうに話していた。だが、稜にはどうでも良かった。何故、幼馴染の蓮衣が梨紗の事を知らないのか。


「なあ、南田梨紗って知ってるよな?」


「誰?成瀬の彼女?うーん。そんな名前の子、この学校に居たか?」


「学校全員の女子の名前覚えてるの?」


「まあな。何時でも遊べるように」


「おい!成瀬!田中!如月!うるさいぞ!」


稜が梨紗の事を考えている時に、2人のおかげで稜まで怒られてしまったが、稜は、梨紗の事が気になって仕方が無かった。そして机に伏せて考えている内に、稜は夢の中へ入ってしまったのだ。




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