即答
「おかえり~。だから無理だと言ったろう?」
気配も足音も一切出すことはなく、さも当然と言わんばかりに、空気のように彼は私の後ろに立っていた。
全身を包む真っ黒いローブがいつの間にか役目を終え帰ってしまった太陽に変わり世界を包む暗闇に溶けている。
「死ぬことはできない、絶対にだ。
熊に襲われたって無傷、それどころか森から出してくれたね。優しい。
首を吊ろうとしても人にすぐ見つかるか、その縄が切れるか、そんなところだろうね」
彼は腰まである長い髪と目にかかる前髪が風でなびくのが鬱陶しそうな顔をしながらもどこか楽しそうだ。
「君が自殺志願者なのは知っている。その理由も。
君は本当に極端だね。「生きるのが好きではない」それならば「普通」で良いじゃあないか。
生きることに意味を見いだしている人間なんて逆に少ない。そこを君は「好きではないから嫌い」ときた。
さては君、頭を柔らかくして解くクイズとか苦手だろう?」
「いいえ、その手のクイズは得意ですよ。なあなあな、適当な、曖昧な、そんな正解はないので。
真実はいつも一つ!」
「似てないなぁ・・・」
あきれ顔をされてしまった。まあ、私も今のは相当にひどいクオリティだったと自覚している。申し訳ない。言うべき時だと思ってつい・・・。
「そこで、だ。俺は君に取引を持ちかけに来た」
ようやく本題、と彼は切り出す。
「俺の手伝いをしてくれないかな?それをしてくれれば、約束をしよう。
「一年後に必ず殺してやる」」
「やります」
即答だった。