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生きることが嫌いな少女が生を謳歌するお話。  作者: 素振りをする素振り
生きることが嫌いな少女が仲間に出遭うお話。
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黙っておく

 目が覚めたらそこは異世界だった。

 古き日本が舞台なのか私が横になっているのは畳、視界には障子や灯火が写る。

「はじめして、険と魔法の世界・・・」

「いや、なんでだよ、おはよう」

「おはようございます」

 頭上からの声に挨拶を返す。

 今頃気づいたが私は畳にそのまま横になっているのではなく、零さんに膝枕をされている。

 ・・・逆じゃあ無いか?

「ここは・・・」

 身体を起こしながら室内を見回すが一切見覚えが無い。あの図書館にはこんな部屋まで? 無駄すぎる、なんだこの部屋。使い道が無い。センスは良い。

「良い「せんす」やろ? 有り難うさん」

 障子を開け一人の女性が嬉しそうに笑いながら入ってくる。

 着物を着崩した綺麗で艶っぽい女性。背も高めで170センチはあるのではないだろうか。

「わざわざ有り難うございます、司之守様」

 姿勢を正し零さんが深々とお辞儀をする。私もそれに倣う。

「良い良い、可愛い我が子達に会う口実じゃよ」

 ふっふっふ、と笑う。司之守様、と呼ばれた女性は私の前にしゃなりと座ると目を見つめそっと手を取る。

「初めまして、染都願。儂は司之守、と呼ばれておる。お主ら死神の指揮官、お母さんじゃよ。お母さん、と呼んでもらってかまへんよ」

 明らかに人間では無い琥珀色に輝く瞳に見つめられ、「凄い人だ」と直感が身体を強ばらせる。

 しかしこの瞳の色、どこかで・・・。

「間違いだったら申し訳ありません・・・。私、貴方をどこかで・・・」

 過去にこの人の他にこんな綺麗で妖艶でどこか不気味な人に遭遇する物なのか。だとしたら恐ろしい世の中だ。

 ふぅん、と薄く笑うと司之守様は私の頭を優しく撫でた。

「会っておるかもしれぬし、会っておらぬかもしれぬ。

 会っておったら、それはお主が忘れておるのだろう。今は良い。思い出さずとも。気が向いたら、その記憶が戻ったら、語り合えぬ事もあるかもしれんの?」

 私の忘れている事。

 記憶に無い事。

 私は幼少期の記憶が無い。

 人間誰しも幼きときのことなど覚えていない、と考えていたが、失って、封じ込めて、無かったことに、している記憶があるのかもしれない。

 その記憶は忘れてしまって、封じ込めてしまって良い物なのだろうか。

 その記憶は、何なのだろう。

 私にとって。

 都合悪い物なのだろうか。

 そう、

 例えば、

 誰かが、

 死に至ったとか。

「お兄ちゃん・・・」

「くらえっ」

「ぐへっ!」

 突然零さんに頭を叩かれた。突っ込みにしては勢いがあり過ぎる、これは間違いなく暴力だ。私が何をしたというんだ。理不尽な世の中だ。

「無理に思い出さなくて良い。大切なのはこれからであって、過去のことでは無い」

「・・・そうだね。何より、思い出そうとしても思い出せなかった!」

「阿呆で良かったな」

 楽しそうで何よりじゃ、と司之守様が笑う。

「自分が死ぬ事、死神という存在を知ること、悪霊と戦う羽目になったこと、これらから参ってしまう物もおるんじゃが、お主は大丈夫そうよな。良い良い」

 今日はもう遅い、いつまでもここ本社にはおれぬじゃろう、お帰り、と司之守様が障子を開ける。私がいた場所はどうやら神社のお社のような場所だったようだ。

 長い階段、連なる鳥居が姿を現した。

 有り難いことに揃えておいてあった靴を履くと「お世話になりました」と頭を下げる。

 ここまで来れば私だって状況がわかる。

 意識を手放した私をボスにあたる司之守様のところへ零さんが運んでくれたのだろう。大事があってはならない、と。

「毎日でも来ておくれや~。儂暇なんじゃよ」

「あははっ、ボスも大変ですね」

 では、と足を動かそうとした時、ふと思い出した疑問をぶつける。

「そうだ、私、悪霊を切ったときに感覚がありました。本当は無いらしいのですけれど、私には確かにありました。人間を切ったような感覚が」

「そうじゃのう・・・。例えば、じゃがお主が悪霊に、霊に近いのかもしれぬなぁ?」

「司之守様」

「おぉ怖い怖い。そう睨むな」

「睨んでいませんよ」

 私からは零さんの顔が見れなかった。しかし、さあ、行こうか、と振り向いた零さんは笑顔だった。いつも通り。


 二段飛ばして落ちそうになった恐怖からか一段一段ゆっくり下っている願を見ながら背後の司之守に言葉を投げる。

「やめてくださいね、先ほどのような発言は」

「わかっておるよ。しかし、そう長くは持たぬぞ? あの子は察しが良いし、何よりこの世界に入ってしまったが最後、お主があの子と触れ合い記憶が戻ったように、あの子もどのくらい、かはわからぬが戻るじゃろうな」

「俺は良いんです。でもあの子は、あの子に、あんな事を思い出させるのは酷すぎる」

「そうじゃの、儂もそう思う。じゃから黙っておく」


「あの子がもう、死んでおることはな」

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