二次元だ~!
結果から言うと学校は行かなかった。
私はもう完全な人間で無いから・・・、とか、学校で悪霊に出遭ったら怖いなあ、みたいなことでも無く単純に寝坊をした。起きたら昼だった。下にテレビでもあるようで番組名で軽快なリズムを刻む音が聞こえる。
昨日は色々とあった。疲れていたんだろう。
そして初めての場所でこれだけぐっすり眠れるほど、私はここが気に入ったらしい。
既に畳まれている零さんの布団の隣に自分の布団を畳み置くと部屋を出る。
螺旋階段を降り一階へ。
「おはよう、ねがいおねえちゃん!」
テレビを見ていた揺ちゃんが私が降りてきた音に気がついて元気に挨拶をしてくれる。私も「おはよう」と返す。
「零さんとかは? 揺ちゃん一人?」
「そうだよ~。今日は、ねがいおねえちゃんがくわわったことをほうこくしにいっているの。
あたしみたいなちいさいこをのぞいてでむくのがならわし、だからねがいおねえちゃんもしょうしゅうをかけられたら、こんどからはいくのよ」
「了解しました」
ご飯を食べたあの大きなテーブルにテレビが乗せられていて、揺ちゃんはテレビから一番遠い場所で見ている。良い子だ。
揺ちゃんの向かいに座り私もテレビを見る。
いつもは見られない昼の番組も結構面白い物だ。
「揺ちゃん、お腹すいてない? それとももうお昼は食べた?」
「じつはねがいおねえちゃんをまっていたの。おひるごはんをつくってくれるんじゃないかって」
えへへ、と揺ちゃんは笑う。
「あたしもつくったりしたいのだけど、しょうくんとかかがみくんがね。だめって。あぶないって」
過保護だ。
「なら私が何か作るよ。食べたいものは?」
「ねがいおねえちゃんつくれるのね!!!」
「勿論。毎日コンビニ飯とはいかないからね」
「ならなら、あたしオムライスがたべたいわ! ふわっふわの!」
「定番だね~! 良いよ!」
揺ちゃんの笑顔のために、私は厨房へ。
「・・・厨房どこ?」
この図書館は見た目だけは図書館だが実際は大きなシェアハウスと化していた。
利用者は入れない、本来本などを入れておくための場所は本が増えないことによって空きスペースと化し、その場所を好き勝手改築されている。
111~333、と書かれている部屋が厨房にされていた。
部屋の名前はきっと本の種類のことだろう。古典は100の数字のシリーズ、みたいな。
「さあ、できたよ召し上がれ!」
うわぁぁぁ!!!、と揺ちゃんは私の出したオムライスを輝く瞳で見つめている。
「すごいわ! とってもじょうずなのね! ごはんはこうたいでつくっているけれど、ねがいおねえちゃんのひがとてもたのしみになるわ!」
揺ちゃんからの褒め言葉に頬が緩む。
ねがいおねえちゃんのも貸して!、と私のオムライスをたぐり寄せるとケチャップで「だいすき」と揺ちゃんは飾りをつけてくれた。
「ありがとう、私も揺ちゃんのこと、好きだよ」
「えへへ。あたしたち、りょうおもいね」
可愛い妹ができた気分だ。
揺ちゃんと昼食(私からした朝食)を済ませ、出払っていた人たちが帰ってくるまで私たちはテレビを見ながら談笑をして過ごした。
日が沈みかけた頃、みんなが疲れた顔で帰ってきた。
「起きたか、願」
「今起きたみたいな言い方やめようか?」
疲れていても零さんは零さんだ。
「座ったら。もう。動けない。今のうちに。行こうか」
「そうね。はやいうちにすませましょう」
零さんにパンチを決めていた私は作業をいったん中断し、いきましょう!、と呼びかけてくれる揺ちゃん達について行く。
「いつもはなにかひがいがでてからでないとあくりょうのそんざいにきづけないのだけれど、きょうはちがうわ。うえから「ここにでるかのうせいがある」といわれているところよ。
せいきをすうことでつよくなるのがあくりょうだから、うまれたばかりのあくりょうはたおしやすくて、はじめてのねがいおねえちゃんむきよ」
「簡単。だから。ぼくたちの。見てて」
「しっかり学ばせてもらいます」
じゃあ、いくわよ!、と揺ちゃんはぐっと踏み込むと大きく跳躍する。
それに少くんも続く。
お姫様抱っこをしようとする零さんに「今日は良い」と断りを入れると私もぐっと踏み込む。
昼間、テレビを見ながら教えてもらったのだ。コツを。
「いけっ・・・!」
私がぼそっと呟き足を伸ばすと同時、私は空にいた。
ビュンッと跳躍すると私たち契約者はそれなりの長さ、宙にいられると揺ちゃんに聞いた。人間よりも重力の影響を受けにくいのが理由だとか。
ふわふわと浮いたまま私は「そうよ! すごいわ!」と笑っている揺ちゃん達について行く。
「よくやった。筋が良い」といつの間にか後ろにいた零さんも私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
ここに来て褒められることが増えた気がする。
・・・とても嬉しい。
電柱を足場に跳躍を続け、私たちは大きなトンネルの前に降り立った。
「ここよ。くらいからすこしこわいわね。ようじをすませてはやくかえりましょう」
当たり前だけれど揺ちゃんはこの仕事に慣れているようだ。頼れる小さな先輩だ。
揺ちゃんを先頭にトンネルに足を踏み入れる。
車通りは一切無いがオレンジ色の明かりがポツポツとついていて、どこからか水の落ちるぽたっ、ぽたっ、と言う音が聞こえる。簡潔に言って不気味だ。何か出そう。そう、幽霊とか。
「や、やっぱり身体とか透けているの? 襲ってくる?」
「げんせにとどまれるくらいのせいきがあるのだからほとんどのれいはすけていないわ。でもね、ちょっとあのひとたちきょうぼうなの。ぜったいにおそってくるわ」
「ちょっとの。レベルじゃあ。ないよ」
「引き返したいです」
「あら、こわいのはにがて?」
「死ぬのよりも苦手だね」
「ねがいおねえちゃんかわいいのね!」
「こいつが可愛いなんて眼科に行ってこい」
「零さんは黙っていてください」
さあ、お出ましだよ。
少くんの気を引き締めたような声に私は身構える。
前方から人がやってくるのが目に映る。
黒い靄をまとっている人型の何か、と表現した方が良いのかもしれないけれど。
「おしごとのじかんよ。おわったら、おかしちょうだいな」
少さんの身体が淡い青色の光に包まれたかと思うと光は形を変える。
大きなハンマーの形になると揺ちゃんがしっかりとそれを握る。
「・・・二次元だ~!」
「空気読め願」