君のことが大好きで、憎いよ
また後で、そう挨拶し、建物真ん中で渦を巻く階段を上り二階へ。
自習室は全部で七つ。
奥から701,601と扉に番号が振ってある。
01いるか? 7、とか6,で良いじゃあ無いか。
「建設当初は左右の壁両面に自習室を作るつもりだったかが費用の問題上、片方になったから01だ」
大人の悲しい問題が発生したのか・・・。
「よく知ってますね」
「生きていた頃の記憶が微妙に残っていてな。俺が生きていた頃からこの図書館はあったから知っている」
「えっ、死神って死神として生まれるのでは無く、死後の人間なんですか?」
101の部屋を開けながら質問をぶつける。
部屋は思ったよりも広い。奥に勉強用に机。そして人一人通れるくらいの間隔を開けて布団が二枚敷いてある。
多分仮眠用に布団一枚分、物を置いたりするように布団一枚分、で設計されているのだろう。
「そうだ、人間は死後、天国行きか地獄行きか、その他か、に割り振られる」
椅子は勉強用の机に付属している物しかないため、零さんは布団の上で胡座をかく。まるで家のようだ。いや、家なんだけれど。
「ランダムですか?」
「そこらへんはわからない。まあ、噂によれば天国行きは徳を積みに積んだ人。地獄行きは悪行を積みに積んだ人。その他の大部分が転生、一部が世に言うあの世の管理のお手伝い、だ」
「一部引いちゃいましたか」
「引いちゃったわけだよ」
「零さんも人間の頃があるならば、もしかしたら、私たちどこかで会っているかもしれませんね」
「・・・かもしれないな」
零さんは私の家で見せたようなどこか含みを持たせてふふっと笑った。
私たちは荷物を置いて、他の住民の方々への挨拶のために部屋を出る。
と、扉を開けたところでさっそくお姉さんに遭遇した。
「おっ、ナイスタイミング~。丁度ご飯もできたことだし呼ぼうと思ってたんだよ~」
くせっ毛なのかお姉さんの髪の毛はふわっふわだ。言葉もふわっふわだ。雰囲気もふわっふわだ。
「ご飯の時にみんな集まるから~、自己紹介とかはそのときにまとめて~」
わかりました、と頷きお姉さんについて行く。
階段を降り一階の奥へ。
一階奥は区切られていない大きなテーブルが鎮座している自習室だったような。
「そうだよ~。大きなテーブルだから、みんなで一緒にご飯が食べられるでしょ~」
みんなでご飯を食べるのか・・・。アットホームな職場・・・。
テーブルにはお姉さんと私、零さんを除く全ての住民が集まっているようだった。
料理が置いてあるのに座られていない席は三つしか無いからだ。
さあ、座って~、と促され揺ちゃんの隣の椅子に腰掛ける。その隣に零さん。お姉さんは高校生くらいのツインテールの女の子と眼鏡をかけた大学生くらいの男性の間に座った。
「それじゃあ、まずは、いただきます」
「いただきます」
みんなに会わせて私も「いただきます」。
ご飯食べながらで良いから聞いてね、と眼鏡さんが仕切る。いただきます、の号令をかけていたのもあの人だし、あの眼鏡さんがリーダーなのだろうか。
「見ての通り、新入りさんが入ったから僕から時計回りに、自己紹介をよろしくね」
みんな食べながら頷く。この自己紹介タイムになれているご様子だ。
「まずは僕から。僕は真那智鏡。一応この第四地区の死神、契約者達をまとめている。ここでは二番目に死神の手伝い業務をしているから、いろいろ聞いてね」
二番目? 一番は。
「いちばんはあたしなの!」
鮭をもぐもぐしながら揺ちゃんが手を上げる。
「古い人がリーダーをする感じなんだけど、流石に揺ちゃんに任せるのは・・・」
そうですね、と私もはははと笑う。
「そしてぼくが手伝っている死神がこのお姉さん」
「は~い、ご紹介に預かりました~!」
味噌汁を飲む手を止めお姉さんが手を上げる。
「私は舞端詩央だよ~。鏡くんの死神で、悩み相談とかしてね~。お姉さんがバチッと解決しちゃうよ~!」
零さん以上に死神らしくない死神だ。愉快で明るくて素敵な女性。
この流れで私を含めた一通りの人物、計十二名が自己紹介を終え、泊まり込みで仕事をする職員用だったのだろう、利用者は入れない書庫の方にあるお風呂を借り、私は布団に潜っていた。
今日一日どっと疲れた。
まず朝。電車の時間を間違えた。そして自殺をしようと思った。
夕方。図書館にやってきて、その時の印象では不審者、零さんに出遭った。熊にも出遭った。
夜。空を飛んだ。仲間ができた。
「一年分くらいの楽しさ、驚き、嬉しさを手に入れたね、間違いなく」
「お前の一年馬鹿みたいにつまらないな」
「うるさい」
卓上電気を地面に置き(これでは地面電気だ)零さんは本を読みながら私のことを茶化してくる。
こんな関係になれた異性も初めてだ。
「あーしまった、記憶から強引に消していたのに「異性」という単語を思い出したせいでキスのことまで思い出してきた・・・」
「なんだもう一回してほしいとか?」
「耳になんか詰まってません? 言葉を変な風に受け取る装置みたいな物が」
「耳掃除でもしてくれると?」
「確信しました、詰まってますね」
あはは、と笑うと気が抜けたのか一気に眠気が襲ってきた。
零さんは私が寝ても良いように部屋の電気をつけないで卓上電気をつけてくれている。ではその厚意に、厚意のある行為に甘えてしまおう。
明日は揺ちゃんが一緒が任務に同行させてくれるとか。とても楽しみだ。
・・・いや、明日は金曜日。まだ学校がある。
私は存外、ここでのこれからに胸をはせているらしい。学校のことを忘れてしまうくらいに。
楽しくて、素晴らしい、一年を期待している。
「おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
この人達との一年を。
「・・・寝たな」
俺はすやすやと寝息を立てる願を確認すると本を閉じ電気を消す。
まさか会うことができるとは。
話でしか聞いたことの無い子だった。
あいつは嬉しそうだった。
幸せそうだった。
俺と違ってこの子を愛しているようだった。
生きていたときのことなんて多くを覚えていない。
けれど何故これは覚えているんだろう。
写真を見て思い出してしまったんだろう。
こんな気持ちになるならば思い出したくなかった。
だから俺は
「君のことが大好きで、憎いよ。染都願」
「俺の可愛い妹」