妹と美少女
帰りも例のごとく零さんに担がれものの数分で図書館前に降り立った。私はこの空を飛ぶ感覚をもの凄く気に入り、明日にでも教えてくれ、と頼むと適任がきっといる、となんだか楽しげな、明かりが先ほどよりも煌めいているように見える図書館を指さした。
「覚悟しろよ、愉快なやつしかいないからな」
「覚悟します」
口角を上げながら私は図書館の扉をぐっと開いた。
「ぐえっふ!!!!!」
顔面に本が直撃した。これが愉快の意味なのだろうか。不愉快の間違いでは無いだろうか。
帰りたい。家に帰りたい。まだ鍵は持っている。そうだ引き返そう。
「ご、ごめんなさいおにいちゃん! わるぎはなかったの! そうよね? ね?」
本を顔からどけると小学生くらいだろうか、小さな女の子が私の服の袖をつまみながら今にも泣きそうな顔で奥にいる高校生くらいの、とても綺麗な顔の女の子に「ほらあなたもあやまって!」と目配せをしている。
「大丈夫だよ、顔面が相当に痛いだけだから。悪気があってもなくても私は構わないよ。痛いことに変わりは無いからね」
「ほ、ほんとうにごめんなさい!!!」
「願、あんまりいじめないであげて」
零さんがついに泣き始めた女の子の頭をなでながら困ったように笑う。
私も膝を曲げて屈み、女の子に視線を合わせると「ごめんね、冗談だよ」と笑うと女の子も目に涙を浮かべながらも「ありがとう」と笑った。
「ついでに、私はお姉ちゃんであってお兄ちゃんではないよ」
「ごめんなさいいいいい」
少しいじめすぎた。かもしれない。
「改めて、この子は花蕩揺」
零さんが頭をなでると女の子、揺ちゃんは嬉しそうにその手にすり寄る。
猫みたいでとても可愛い。
「さっきはごめんなさい、おねえちゃん。
あたし、はなとうゆらぎ。ほんとうは5ねんせいなんだけど、がっこうにはいってないの。
いじめられてたときにしょうくんとはじめまして、して、それからはいっていないの」
えへへ、わるいこでしょ、と揺ちゃんは笑う。
こんなにも可愛くて愛嬌のある子が虐められていたのか・・・。逆に、こんなにも可愛くて愛嬌があるから虐めの対象になったのかもしれない。虐める側に常識を求めてはいけない、が私の持論だ。
「よろしくね、揺ちゃん。学校に行っていないのは悪いことじゃあ無いよ。わざわざ虐められに行くなんて阿呆のすることだよ。
ついでにあらかじめ言っておくね、私は君のことを絶対に虐めないよ」
「やさしいのねおねえちゃんは」
「そうそう名前。私は染都願。願ちゃんとかで良いよ」
「いいおなまえね。ねがいおねえちゃん」
零さんがしていたように私も揺ちゃんの頭をなでる。
こんな素敵な子と暮らせるなんてストレスなしで生きていけそうだ。一年限定だけれど。
そう思うと余計に悲しい。揺ちゃんは死神と出会ったことによって寿命を延ばせるが、場合によってはこの年で死んでいたのか。まだ楽しいことも辛いことも、全然経験していないというのに。
まあ。大人の人から見れば私もそうなのだろうけれど。
「ごめんなさい。君に。当てる。つもり。では」
揺ちゃんもふもふタイムの私に先ほど本をぶつけてきた犯人と思われる顔の綺麗な・・・。
「あれ? 女の子じゃ無い・・・?」
「ぼく。は。男。です」
単語ぶつ切りで小声で彼女改め彼は俯きながら答える。
男の子にしては肌が白くてまつげが長くて華奢で、美少女と言う言葉がしっくりくる風貌だ。髪が長いわけでは無いが女の子に見えてしまう。
「こいつはあまり話さないけれど良い奴だ。仲良くしてやってくれ」
「そうよ、しょうはね、とてもやさしいの」
「そんな。こと。言われると。照れる」
照れた顔もとても可愛いというか。綺麗。全てが綺麗。
私が自己紹介をすると彼も「美戸。少」と答えてくれる。
コミュニケーションがとれない訳では無いけれど口数は少ない、そんな感じか。
「とりあえず、にもつをおいてきたらどうかしら。おもそうではないけど、じゃまでしょ?」
「部屋。は。101。零。と。二人で。使って」
101か。零さんの予想はあたりか。
ん? 零さんと一緒の部屋?
「しにがみさんとけいやくしゃさんはおなじへやなの。
なかよしになれるでしょ?」
なるほど、実際はただの部屋不足だろう。少くんが「合ってるけど違っている」みたいな顔をしているし。