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生きることが嫌いな少女が生を謳歌するお話。  作者: 素振りをする素振り
生きることが嫌いな少女が仲間に出遭うお話。
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行ってきます、お世話になりました

 零さんについて外に出る。

 私の家はここから四十分くらい歩くのだが・・・。こんなにも暗いのに歩かせるなんて申し訳ない、そう思っていると彼は私を手招きする。

 方向を聞きたいのか?、と近寄ると腰に手を当て太ももの裏にも手を当て持ち上げられた。

「・・・私が何かしましたか?」

「何故そうなるんだ。家はどこら辺なんだ。こうした方が早い」

何が早いのか。この状況は何なのか。その全てを理解しないまま私は取り敢えずあそこの近くです、と伝える。そもそも零さんに土地勘があるのかすらわからない。

「わかった」そう口にすると風が私を素早く横切った。次の瞬間、私は、私たちは空にいた。

 間違いは無い、空にいるのだ。

 電柱よりも高い。図書館よりも高い。雲が近い。星が近い。月が近い。星が綺麗だ。

 そうか、とここでようやく理解する。どうやら零さんはジャンプをしたようだ。跳躍を。たった一回、膝を軽く曲げ伸ばし跳ねただけでこれ。死神の運動能力はとんでもない物のようだ。

「大丈夫か、酔ってないか」

「星がすごく綺麗です」

「質問に答えてくれ」

 まあ、そんな余裕があるならば酔ってはいないな、と笑う。

 高度が下がってきたあたりで器用に電柱の先端に足をつけると又も跳躍。それを繰り返し私の言った自宅近くまでほんの数分で到着した。

「よっ、と。身体痛いところとか無いか? 人を運んだのは初めてで」

「全然大丈夫です楽しかったです!」

 地に下ろしてもらうと私はすごかった!、と興奮のあまりその場で少し飛び跳ねる。

「練習すればお前もできるようになる」

 私が小さい子供のように喜んでいるのが嬉しいのか零さんは今度は優しく笑った。


 そこから少しだけ歩いて家の鍵を開ける。

 家には誰もいない。ここは親戚の家なのだが親戚は仕事で忙しく、夜遅くまで帰ってこないからだ。

「安心して入ってもらえれば。くつろいでもらっても構いませんよ」

「お邪魔します」

 零さんは誰もいない家に丁寧にお辞儀をした。ものすごく礼儀がなっている・・・。

 零さんをリビングに通すと私は部屋へ向かい大きな鞄を手に取る。実はこれに必要な物は全て入っている。

 といっても、私にとっても必要な物は他の人と比べて極端に少ないのだ。

 制服や普段の私服、気に入っている本達。そのくらいだ。

 親が海外で働いていることによって小さい頃から親戚の家にお世話になっているのだが、私は根本的に「甘える」と言うことが苦手で物を欲したことはほとんど無い。

 正直物よりも食べて幸せになれる食べ物の方が好きで、誕生日も、クリスマスも「ケーキ」を所望してきた。お小遣いは全額貯金してある。

 鞄に全てまとめている理由だが、掃除がとても面倒で一つの場所に固めている、ただそれだけだ。

 鞄を手に取りリビングへと降りる。

「零さん、準備終わりましたよ」

「んー」と適当な返事が返ってきた。何をしているかと思えば零さんはまじまじと何かを見ていた。

 テレビの前だと・・・、家族写真だろうか。

「どうかしましたか?」

 いつのまにか二つ入れていたお茶を片方、ずずずっと飲みながら尋ねる。うん、とても美味しい。

「・・・どこかで見た気がするんだが、まさかな」

 気のせいだろうか、寂しげな目をして零さんは笑う。そして私の荷物を見ると面白そうに笑った。

「それだけか! いや、お前らしいと言えばお前らしい!」

「今頃気づいたのですが、お世話になっている親戚の方々にはなんと説明しましょうか」

「記憶の改竄はできないがそれっぽい理由で周りを無理に納得させることは、上が得意なんだ」

「ホワイト企業なのにやることほんとにブラックですね~」

 なんて組織なんだ死神は。

 死神が存在しているなんて情報が世間に出ていないのに、こうやって認識している人間が複数人いる時点で情報管理はしっかりしているのかもしれない。

 漏らそう物ならば命が無い世界なのかもしれない。・・・その制度を利用して自殺するのもありかもしれない。

 なんてくだらない事を考えていると零さんが「さて、戻るか」とお茶を飲み干す。

「そうですね、お茶を片付けたら行くので玄関で待っていてくれませんか?」

「悪いな片付けしてもらって、ありがとう」

 零さんがリビングから出て行ったのを見送ってお茶を入れた急須、湯飲みを洗い水分を拭き取り元の位置に戻すとテレビの前の家族写真の前に立つ。

 家族写真。私の家族の写真。

 そこにはぎこちなく笑う私とお母さん、お父さんが写っている。本当は私の家族はあと一人、兄がいるらしいのだが私が生まれるよりも前に無くなったとか。

 兄と言っても血は繋がっていない。私と父は血が繋がっておらず、その息子さんが兄である。会ったことがなければ血も繋がっていないために兄という実感は全くないのだけれど。

 その写真を写真立てごと鞄に突っ込む。

 何故だろう、正月だって、誕生日だって、「おめでとう」そうメールが来てお金が銀行口座に振り込まれるだけの関係の親子だが手元に置いておきたいと思った。

 死神と契約をして、人間ではなくなってしまった私の人間らしさが、今までの私がそこにあるような気がして。

「お待たせしました! さあ、行きましょう!」

 零さんとともに玄関を出て鍵をかける。

 もうこの鍵はもう必要ない。

 図書館に住むだけであってここに立ち寄ることに問題は無い、そう零さんは言うが私にその気は無い。もうこことはお別れだ。

 勿論悲しさもあるがそれ以上に私の胸は高鳴っていた。

 今度写真を撮るときは、家族のように思える人と写真を撮るときは、ぎこちなくではなく、満面の笑みで私は笑えているだろうか。

「行ってきます、お世話になりました」

 深々と頭を下げて私は人間だった頃の家とお別れをした。

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