表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇異怪会 自選集  作者: 水無月 雨音
1/4

壱 喚び声

 ★この短編集は私の体験をベースに読み物として脚色を多少加えてあります。

 ★作中に出て来る登場人物、地域等は全て仮称です。

 ★この短編集はPCとケータイからの見え方が違います。

 ★ケータイ専用の改行を多めに入れてあります。

 ★ケータイで空改行無しで見る場合は縦書きをご利用下さい。


 これはまだ、私が幼少の頃の話。

 私の父方の実家はO市の山奥にある。未だに自然が豊富な場所で、実家の側には川が流れ、夜は虫の声とその沢を流れる渓流の音が煩くて、眠れないほど静かな所だ。

 父親の家系はかなり長寿の家系らしく、曾祖母は103歳という長寿で大往生した。

 私のアルバムにはその曾祖母に抱かれた三才の七五三の写真がある。

 その曾祖母が亡くなり、恐らく三回忌の法要で、その実家に泊まった時だった。

 私の寝た部屋は、普段、祖母が寝ている大きな部屋で、私の足の方向には、障子で仕切られた仏間があった。

 私は祖母と母親と並び、川の字に寝る事になった。

 いつも、夜中に目が覚める眠りの浅い子供で、その日もふと、意識が覚醒した。いつもなら、意識が覚醒しても、目を開けるほど、ハッキリと目が覚めるわけじゃない。

 だが、その日は違っていた。


 よんでる?


 誰かに呼ばれている気がしたのだ。だが、まだ、起きる気になれなかった。




 アマネ――




 やっぱり、よんでる……


 私はそう思い、目を開け、体を起こした。

 私の視界に飛び込んでくるのは、暗いの部屋と、障子。だが、障子の向こうが微かに明るい。


 あ、ロウソクがついてる。


 私はそう思い、嬉しくなった。

 私はロウソクの火を見詰めるのが好きな子供だった。ロウソクが燃え尽きるまでジーっと見つめているらしい。

 私は布団から抜け出し、布団の上を四つん這いになり進んでいく。

 その障子が音も立てずにスーッとゆっくり開く。

 私は止まり、その不思議な光景をポケーッと見ていた。

 私の前方に仏壇が現れる。


 あれ?


 ロウソクに火が点いていると思っていた私は、小首を傾げた。ロウソクは点いていない。

 仏壇の中央で紫色に燃える位牌があるだけだった。


 紫色に光ってる……


 その紫色の位牌を認識した瞬間、背筋がゾゾゾっと、粟立った。




 ――アマネ




 喉がひゅうっとなる。位牌からその声が聞こえてきていた。


 いやだっ! こわいっ!


 だが、声も出せない。

 紫色の炎は徐々に大きくなり、渦を巻き始める。




 アマネ、こっちゃ、おいで……




 私の体は徐々に仏間に引っ張られて行く。

 私は咄嗟に寝転び、布団を掴んだが、布団毎、引っ張られて行く。もちろん、私はジタバタもがいた。


 行かない! そっちに行かない! 行きたくない!


 私は必死に声を上げようと口を開き、息を吐いても声が出ない。喉がひゅうひゅうと鳴るだけだった。

 幼い身体を乗せた布団は、既に半分、仏間に入っていた。

 私は咄嗟に目の前にある障子の桟を掴んだ。




 ガタンっ!




 物凄い音が立ち、母親と祖母が飛び起きた。

 母親は私を見て、首を傾げていた。

「なにやってんだい、アマネ」

 私はその声を聞いた途端、大声を張り上げて泣き出した。

「おかぁーさぁんっ! おばぁーちゃんっ!」

 祖母と母親の話だと、その後、私は執拗に障子を閉めるように頼み、祖母の布団に潜り込み、祖母にしがみついて、寝たようだ。






 今、思えば、あの声は曾祖母の声だった。生前、曾祖母は私を異様に可愛がったらしい。あまりにも幼過ぎて覚えていない。

 だが、その時、曾祖母はまだ、彼岸の人になりきれなかったのかもしれない。もしくは、私を彼岸に連れていこうとしたのかも知れない。

 私はしばらく、仏間の障子の前で寝るのを頑なに拒んだという。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ