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眠り王子─スウィーツ帝国の逆襲─  作者: 倉永さな
《第一話・出逢い編》

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十*戸惑い

 結局、琳子はトーストを半分も食べられなかった。さすがに参っているようだ。


「私、とりあえずこのまま帰ります」


 スウェットは外に出ても問題なさそうなデザインだったので、借りることにはなるがこのまま着ていくと琳子は言い張った。


「ダメだ」


 ダメと言っているのは樹。悠太は琳子の気持ちを考えて、別にこのままでいいのではと提案はしてくれた。

 樹は納得がいってないようで、かたくなにダメだと言い張った。


「帰って家のことをしたいんです」


 普段は土曜日にやっているのだが、桃花の結納だったので部屋の片付けや洗濯は日曜日にやろうとしていた。洗濯をしないと、月曜日から着ていく服がない。


「戻るのか?」

「はい。あそこは私の部屋ですから」


 樹は途端に渋い表情になった。


「……ダメだ」

「樹、わがままを言って琳子さんを困らせるなよ」


 樹は頭をかきむしると、ひどく情けない表情になった。


「嫌だ。琳子が俺のそばから離れるなんて、そんなの耐えられない!」

「気持ちは分かるけど、琳子さんの部屋はあそこなんだから……」

「…………。あああ、こんなことなら昨日、我慢するんじゃなかった!」


 樹は突然立ち上がり、琳子の隣へと移動してきた。驚いたのは琳子。のけぞり、あわてて後退した。


「今すぐおまえがほしい!」

「やっ、やめてくださいっ!」


 手首を掴まれそうになり、琳子は反射的に樹に蹴りを入れた。それは予想外にクリティカルヒットだった。


「ぐはっ」

「私に近寄らないでっ」

「いい蹴りだ……。ますますベッドの中で乱したくなる」

「ちっ、痴漢っ!」

「昨日の男と一緒にするな。俺はあいつと違って、愛があふれている!」

「樹……。残念ながら、琳子さんからすれば、どっちも一緒だから」

「一緒にするなっ! 俺は無理矢理やったりしないっ」

「今の状況だと、どう見ても無理矢理だよね」

「俺のゴールデンフィンガーで三分で天国!」

「テクニック自慢もそこまでだ!」

「琳子は絶対、感度が高いと思うんだよな」

「それは同意する」

「セックスの相性もよさそうだよな」

「うん。男の喜ばせ方も本能で知っている」


 琳子を無視して、本人がいる前で樹と悠太はとんでもない会話を始めてしまった。琳子は真っ赤になって顔をそらす。


「白い肌が羞恥で赤くなってるのとか、反応がかわいすぎるだろう!」

「胸元に赤い花を咲かせてみたいですね」


 なんと返せばいいのかまったく分からない琳子はいたたまれない気持ちになってきた。一刻も早く、ここから自分の部屋に戻りたい。


「あの……早く、帰らせてください」


 琳子のつぶやきに、樹と悠太は思い出し、二人同時に琳子を見た。


「そうだ! ねーちゃんに服を借りよう!」

「悠太の姉貴?」

「ちょっと失礼」


 悠太は断りの言葉と同時に、琳子に抱きついた。


「やっ!」

「身長はねーちゃんよりあるけど、身体は細いから入ると思うよ」

「抱きついてサイズを測るなっ!」


 樹は琳子を抱きしめている悠太の頭をはたき、琳子を解放させてくれた。


「痛いなぁ。だって、サイズを聞くのは失礼かなと思って」

「いきなり抱きつくほうが失礼だろう!」

「でも、サイズは分かったよ?」

「どうして抱きついて、自分の姉と比較がすぐにできるんだ」

「ボクとねーちゃんは仲がいいからね!」

「……シスコン」


 悠太は樹の罵倒を無視して立ち上がり、スマホでどこかにかけた。


「すぐに服を持ってきてくれるって」

「それはよかった」


 それほど待つことなく、インターフォンが鳴り響く。


「思ったより早いな」

「ボクたちがここに女の子を連れてきたのが初めてだから、驚いてるみたいだよ」


 琳子はてっきり、二人は遊んでいるからここに女性を引っ張り込んでいるとばかり思っていた。どうやら違うらしい。


「悠太が服を持ってきてなんていうから、驚いちゃった」


 悠太によく似た、茶色い髪の女性がドアからひょっこりっと顔を出した。


「どうもお久しぶりです」


 樹はしぶしぶといった様子で悠太の姉に挨拶をしていた。


「樹くん、悠太をいい加減、返してくれない?」

「遠慮します」

「もー、悠太の独占、反対っ!」

「悠良さんもブラコンだな」

「仲がいい姉弟でうらやましいでしょっ!」

「兄弟がいない俺にはうらやましい限りだ」


 悠太の姉の悠良の視線がふと、琳子に向いた。


「で、この子が?」

「あの……白雪琳子と申します」


 琳子は立ち上がり、お辞儀をした。悠良の伺うような視線に琳子は身の置き場のなさを感じていた。


「悠太が見つけてきたの?」

「見つけたっていうか、同じ会社の人」

「なるほど。いい子じゃない」


 悠良の言葉に悠太と樹は同時に笑みを浮かべた。


「だろっ?」

「さすがねーちゃん。琳子さんのよさにすぐに気がつくとは!」

「だけど……あなたも不幸ね。こんな馬鹿男二人に付け回されて」

「悠良さん、なんですか、それっ!」

「まあ、諦めることね。樹くんはそれこそ、気に入ったら死んでも手を離そうとしないから。悠太もおっそろしいほどしつこいからね」


 その言葉は、琳子にとっては死刑宣告にも近いものだった。

 琳子が拒否を続ければ、二人はそのうち諦めてくれるだろうと思っていたのだが、どうやらその考えは甘かったようだ。

 それならば、二人に嫌われるようなことをすればいい。

 ……と思うのだが、意識して嫌われる行動をとろうとしたところで、簡単にいかないことに気がついた。人間というのは、無意識のうちに相手に好かれようとする生き物らしい。


「買ったのはいいんだけど、見栄を張ってサイズをひとつ下にしたら入らなくって困っていた服があったから持って来たの。あたしより細いって言うから、たぶん、入ると思うわ。新品だけど、捨てるのは忍びないから」


 そう言って渡されたのは、真っ赤なタイトなワンピース。スカート丈も結構短くて、かなり躊躇する。


「わっ、私……」


 そんな派手な服を着たことがない琳子は、戸惑った。


「マンションまで、送っていくんでしょう?」

「もちろん」


 琳子が戸惑っている理由が分かった悠良は笑みを浮かべた。


「このケダモノ二人には目に毒かもしれないけど、そこはこいつらが我慢するだけだから、大丈夫」


 そこが一番、重要な部分だと琳子は思いつつも、ワンピースを受け取った。


「琳子を帰したくないんだけど……仕方がないな」


 樹もようやく諦めてくれたらしい。というよりも、悠良の持ってきた赤いワンピースを着た琳子を見たいというところが正直な気持ちだろう。

 琳子は樹の部屋に戻り、服を着替えた。サイズは驚くほどぴったりだったが、少しばかり胸の辺りが淋しいのは気のせいにしておいた。

 借りていたスウェットを洗濯して返すためにかばんに詰めた。

 そして、意を決して部屋の外に出た。


「おおお、予想以上に似合っている!」


 待機していた二人は琳子を見て、大喜び。悠良はもう帰ったようだ。


「このままデートに連れて行きたい!」

「遠慮します」


 悠良にもらったせっかくのワンピースだが、もう着ることはないだろうと琳子は思った。


「荷物はこれ?」


 琳子が持っているかばんに視線を向けた悠太は首をかしげた。


「ここに来るとき、かばんってそんなに大きかった?」

「借りたスウェットを洗濯して返そうと思って」

「なんだって? なんというもったいないことを! そのまま置いていけ! 琳子の匂いがしみついているのに!」

「ヘンタイっ!」


 置いていけという樹を振り切り、琳子はかばんを抱えてエレベーターへと向かう。

 樹と悠太はあわてて琳子を追いかけた。

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