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四 長女と魔王


 コウモリがとまり、吸いこまれるように消えた黒革手袋の指先。

 かつては地下八十九階だった大穴の底へ飛び降りる漆黒の革コート姿。

 それは一軒家のような綿菓子の上に着地して大きくはずむ。

 さらに体操マットのようなゼリーを踏んで小さくはずむ。

 黒づくめに黒髪の美女が通路を見回すと、あちこちにクリスマスツリーと金銀のモールが転がっていた。

 下り階段の前には厚い鉄扉もあったが、隣の壁が崩れ落ちている。

 その下の階も光の爆撃による被害で、せっかく迷路に仕立てた壁もあちこち倒壊していた。

 階段を使わずとも、ところどころ空いている穴へ落ちれば下へ移動できる。


「次のレシピは……」


 つややかな黒髪の下、よどんだ瞳が閉じられると、落下地点へ巨大なプリンが生えてくる。

 静かに降りられたが、黒革のブーツは飛び散ったプリンまみれに。


「これはうっかり」


 手にはすでに新しい黒革ブーツ。

 ブーツをはきかえる黒革ズボンの美女の前へ、カラスが降り立つ。


「貴様はまたそのように、才能のムダづかいをしおって!」


「くすくす。お師匠様ほどではありません」


 ふたたび歩きはじめた黒髪の姫君をかこんで、彫像の猛獣が何十とせまっていた。

 色とりどりのキャンディーが素材で、七色も水玉模様もいる。


「あれほど魔法を鍛えるのに熱心だった貴様まで、なぜ今年は……」


「ずいぶんと念入りに、パーティの準備をなされていたのですね? こんなにたくさん、いろいろと……私もお供を呼びましょうか」


 かざした手の下から床が盛り上がる。


「お師匠様の発明した闇の魔法こそ、すべてに勝る究極の魔法。強大な想像力によって、無からすべてを創りだす奇跡」


 それは象よりも大きな寝そべる騎士像となり、足先から鋼鉄へ変わってゆく。

 カラスがカッカッと嘲笑した。


「愚か者め! 神にでもなったつもりか!? 人の想像力など、たかが知れている! 学び続けねばならんのだ! 闇の魔法は、自らの体験も織りこまねば創りきれぬ!」


 バサリと羽で指す。


「ずいぶんと大きな騎士像を作った経験があるようだが、貴様はそやつをどれだけ動かした経験がある?」


 キャンディーのライオンやカバが、ガタガタとにじりよっていた。


「私は今朝からアメ細工の動物像を一体ずつ、汗だくで振り回し続けていたのだ! そんなに巨大な騎士像など、せいぜい転がる……だけ……」


 巨大騎士が跳び上がり、空中四回転を決めて飛び蹴りでキャンディーゴリラの頭をわり砕く。


「少々、機械工学の研究もしておりました。お師匠様には内緒で」


 床から次々と立ち上がる巨大騎士型の機動兵器。


「えーなにそれー」


 かちわりアメのかけらが見る間に大量生産される。



 さらに十階ほど、数分とかからずに制圧された。

 最下層の百階は特に広大だった。

 赤く泡立つ……ストロベリーソーダの海に浮かぶ鋼鉄の城。

 城門の下で寝転ぶカラス。


「もーほっといてー。みんな勝手にやればー?」


「そうさせていただきます。しかし念のためにおうかがいしておきますが、お師匠様は城門の裏におられますよね?」


「そうだけど……それがなに?」


「少々、物理工学の研究もしておりましたので……動いたら危ないですよ?」


「な、なにを作ったの?」


「ハイメガ粒子砲」


 よどんだ瞳が閉じられ、粒子砲の設計図、製造工程、材質の分子構造のすべてが想像され、粒子を自在に組み換え、組み立て……巨人騎士たちの手に、巨大すぎるライフル銃が出現!

 ものの数秒で消し飛ぶ城門以外の鋼鉄城!


『邪神の長女』は粒子の再構成であらゆるもの創造する!!


 鋼鉄の城門がばったり倒れると、パーティスーツの三十路男がへたりこんでいた。


「まさか君の妄想癖がここまですさまじいとは……」


 一斉砲撃の高熱と爆風から身を守るべく、アイスクリームと雪だるまが山と積まれて焼け溶けていた。


「すぐれたお師匠様のおかげです。さあ、もう呪いは解いていただけませんか? プレゼントのリボンが決してほどけなくなる呪いを広めるなんて、どれだけおとなげのない……」


「やだよーだ。もう絶対やだよーだ」


 体育座りで頭を抱える三十路男。

 歴代最年少で学院長になった三十路男。


「それでは時間がありませんので、私も奥の手を」


「もうボクのことはほっといてよ! そんなに急いでいるなら、さっさと愛しい人とやらのところへ…………なんの研究をしていたの?」


 そこにいた姫君は黒いパーティドレス。

 赤と緑の大きなリボンでぐるぐる巻きにされていた。


「少々、服飾について。お師匠様へのプレゼントを包装するために」


 黒髪の下でほおが赤らむ。


 国中の呪いはすぐさま解かれた。

 めでたしめでたし。






 時を同じくして王城の地下千階。

 数名の大臣がしばられ、投獄されていた。

 彼らは学院へ手をまわし、今日だけ仕事を学院長へ集めさせていた。

 学院長の準備していたパーティへ、誰ひとり参加しないように仕向けていた。

 さびしがらせ、誰かに甘えたい気持ちにさせる工作だった。

 しかしあまりに深刻な事態となって、計画の指示を出した黒幕を白状しそうになっていた。

 その口には今、クリスマスケーキがつめこまれている。


『邪神の長女』は魔王も甘い夜も創造する!!






(『魔法平和帝国聖夜大決戦!!』 おわり)






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